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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

傷を抱え、共に生きる~『こわれゆく世界の中で』

こわれゆく世界の中で


 BREAKING AND ENTERING


 ロンドンの再開発プロジェクトを請け負う建築家のウィル(ジュード・ロウ)は、
キングス・クロス地区に新しいオフィスを構えるが、2度も強盗に入られてしまう。
私生活では10年来の同棲相手リヴ(ロビン・ライト・ペン)と、その娘ビーとの関係
息苦しさを感じていた。
 
 アンソニー・ミンゲラが故郷に戻り、現代の大都市ロンドンを舞台に人々が抱え
る様々な問題、とりわけ大人の男と女の、複雑な心の葛藤を描いた作品。彼の代表
『イングリッシュ・ペイシェント』コールド・マウンテンのような大作感はない
が、登場人物の心情を丹念に掬い取った繊細な作品となっている。主演は監督が
「制作上のパートナーのような関係」だと言うジュード・ロウ。白髪交じりのかつらを
着けても少年のような部分が見え隠れする、なんとも魅力的な主人公を等身大で演
じている。音楽はお馴染み、ガブリエル・ヤレド淡い金色の光が包み込むような
映像
も美しい。

こわれゆく世界の中で2

 特筆すべきは、ウィルを巡る二人の女性、リヴアミラ(ジュリエット・ビノシュ)。
二人は共に問題を抱えた子のであり、子どものためなら何でもしようとする、
い女性
。リヴの娘ビーは先天的な生き難さを抱えており、ウィルは「二人(リヴとビー)
の輪の中に入れない、そこは檻のようだ」
と言う。ビーがウィルの子でないことを気に
かけ、全て一人で抱え込もうとするリヴ。そんな状況から、逃げ場を求めるウィル
の心情もわかる。彼が惹かれたのはボスニア難民のアミラ。壊れたものを繕う仕立
て屋
であり、サラエボの生き地獄から生還した、何があっても生き延びようとする
強さを持つ女性。経済的に豊かではあるけれど、無機質で硬い雰囲気のリヴ、貧し
くとも色彩豊かで生命力を感じさせるアミラ。


 彼女たちを演じる二人の女優が素晴らしい。苦しさを内に秘め、眼差しで語ろう
とするロビン・ライト・ペン。なんて雄弁な表情を持つ女優なんだろう!逞しさの
中に、孤独と辛い過去を隠すジュリエット・ビノシュ。「私がどんなに孤独だったか!」
静と動、寒色と暖色、娘と息子。対極にキャラクター造形された二人の女性に、見事
な演技力でを与えたロビンとジュリエットに感嘆する。ウィルの同僚サンディを
演じたマーティン・フリーマン、その野性でウィルの心に揺さぶりをかける娼婦の
ヴェラ・ファーミガも印象的。マーティンは監督曰く「英国のフィリップ・シーモア・
ホフマン」
、ヴェラ・ファーミガはケイト・ブランシェットに外見だけでなく、演技
のアプローチも似ているらしい。

 自身も移民の子だと言うアンソニー・ミンゲラは、先進国における大都市と移民
の問題
も控えめに提示する。古い街を再開発するように、人間関係も一度壊して、
また再生できるのか
。主人公たちの選んだ選択には賛否両論あるだろう。雨が降る
と痛む古傷のように、人生には常に苦味がつきまとう。誰かと生きていくことを選
ぶならば
、それは引き受けなければならない手形のようなものなのかもしれない。

『こわれゆく世界の中で』監督・製作・脚本:アンソニー・ミンゲラ
  主演:ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン
                            2006・UK、USA)
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2007-11-19 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 12
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『こわれゆく世界の中で』
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2007-11-19 12:23 : Sweet*Days**
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2006年/イギリス・アメリカ/119分/ PG-12 オフィシャル・サイト http://www.movies.co.jp/breakingandentering/ 監督であり、脚本家でもあるアンソニー・ミンゲラ。 挙げてみると彼の作品は結構観てますね。マット・ディロンがスーツ着てた「最高の恋人」(1993)...
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2007-11-20 00:29 : Have a movie-break !
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『こわれゆく世界の中で』 Breaking and Entering
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2007-11-22 21:22 : かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
こわれゆく世界の中で
 『愛をこわす―― それは、真実の愛へと至る、唯一の方法。』  コチラの「こわれゆく世界の中で」は、2人の対照的な女性の間で揺れ動く男性をジュード・ロウが演じるPG-12指定のラブ・サスペンスです。  「ベオウルフ 呪われし勇者」でも、書いたけどこの映画でも
2007-12-04 21:10 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
アンソニー・ミンゲラ監督の「こわれゆく世界の中で」を観た!
アンソニー・ミンゲラの作品は、先日知人の薦めで「イングリッシュ・ペイシェント」を観ましたが、はっきり言ってとらえどころのない映画でした。サハラ砂漠の映像は美しく見事でしたが、ジュリエット・ビノシュは期待していたのに、ちょっと脇役のような扱いでした。
2007-12-11 12:56 : とんとん・にっき
こわれゆく世界の中で:映画
今回紹介する映画は、ジュード・ロウ主演作品の「こわれゆく世界の中で」です。 こわれゆく世界の中でのストーリーロンドンのキングス・クロス再開発地区。そのプロジェクトを担う建築家ウィル(ジュード・ロウ)は、ドキュメンタリー映像作家で美しい恋人のリヴ(ロビン・
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原題:Breaking and Entering 最初は毎日待ちわびて、いつしか月になり、そして年で数えるようになる・・・あの「コールドマウンテン」のこと確かに素晴らしい映画だった、この映画も情熱的・・ ロンドンはキングス・クロス、犯罪多発地区のこの地で都市再開発
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勇気をもらった作品
真紅さんTBとめっせーじありがとうございました。この作品って、ミンゲラ監督は様々なメッセージを様々なところで語っていると思う。見返すたびに何か更に新しいものが見えてくる、
矛盾した世界に住む、矛盾する二つのものを抱えて生きる矛盾した存在である私たちに、とても勇気あるメッセージを込めてミンゲラ監督はこの作品を描いたと思う。力強さを感じたわ。リヴが最後に自分の殻を破って、彼に本音をぶつける。これが、いいたかったのかなって思うわ。しかし真紅さんの、いい映画を貪欲にみられ、それを一つ一つ丁寧に言葉にしていってる。感心しています。これからも宜しくお願いしますね、
2007-11-19 15:53 : シュエット URL : 編集
シュエットさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
確かに、最後にリヴが爆発してくれたことでやっと安心できた部分はありますね。
あのままだと、夫婦(?)を続けて行くことはできないですよね、自分の感情、本音をぶつけないと。
この映画は、人生に紆余曲折ある人のほうが身に沁みるかもしれないですね。
凄く若い人には、ちょっとわからないかもしれないな、と思いました。
(なんて書くとすごいおばさんみたい・・あーヤダヤダ、笑)

いい映画はたくさんあってなかなか追いつきませんが、自分の感じたことや考えたことは書き残していきたいな、と思っています。
自分が書いたあとで、他の方のレビューを読ませていただいてまた思うところもあったり。。それが楽しいですね。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします!ではでは~。
2007-11-19 19:39 : 真紅 URL : 編集
こんばんは。いつもTBとコメントありがとうございます。
いろんな作品を観たけれど、ここでのジュードは、
たとえ白髪まじりの髪でも、少年のような雰囲気を感じるのですよね。
ちょっと複雑な立場だからこそ、余計にそう感じるのかしら。

原題が2つの意味を含むように、
いくつものメッセージが何重かの比喩で表現されていて、
流石、脚本家だけあって、作品の構成や言葉を大事にする監督さんだと改めて思いました。

あの、存在感のある刑事は、『コールドマウンテン』では、ルビーの父親ではなく、
二コール・キッドマンに言い寄る(?)、イヤなヤツでした。
いつもいい人を演じない太ったオジサンが、
『ベオウルフ』の主演と聞いて、かなりビックリ仰天でした。
2007-11-19 23:07 : 悠雅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは~
コメントとTBをありがとうございました。
ミンゲラ監督の作品を演じるには、やはり力のある役者さんたちが必要なんだなぁ、と納得しちゃいましたよ。
登場人物が過去の作品より身近になっていて、より一層繊細な心の内を描いているので、『コールドマウンテン』よりは好きな作品でした。
TBさせて頂きました♪
2007-11-20 00:38 : fizz♪ URL : 編集
悠雅さま、こんにちは~。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
私はジュード、好きなんですけど出演作は実はあまり観ていないんです。
でも、男前プラス演技も確かな素晴らしい俳優さんですよね~。

アンソニー・ミンゲラって脚本家出身なのですよね。
コメンタリで悠雅さまオススメの『愛しい人が眠るまで』の話が沢山出てきましたね。
監督自身も思い入れのある作品なのだな・・とわかり、ますます観たくなりました。

お父さんじゃなかったのですね。。ニコールに言い寄る嫌な奴、忘れてます(笑)。
『ベオウルフ』アメリカで大ヒットスタートのようですね。
予告は何回か観たのですが、ちょっと不思議な映像でした。
ではでは、またお伺いします~。
2007-11-20 08:55 : 真紅 URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは。こちらこそコメント&TBをありがとうございます~。
ミンゲラ監督だったら、俳優さんみんな一緒に仕事したいですよね。
今回のキャストも力のある方ばかりで、見応えありました。
『コールドマウンテン』は正統派美男美女の悲恋でしたが、こちらは現代ものでしたから身近に感じられましたね。
でも、どちらのジュードも好きだわ、素敵だわ~♪
ではでは、またお伺いしますね~。
2007-11-20 08:59 : 真紅 URL : 編集
あの刑事が・・・
あの“いい寄りオヤジ”だったとは!
悠雅さま、貴重な情報、横レスですがありがとうございます!
大好きな「愛しい人が眠るまで」も話題に盛られているようで
とっても嬉しい!

真紅さん、ジュードの「スターリングラード」はもう記事になさってますか?
未見でしたらviva jiji、強くお薦めしたいわ。
異色なジュードとしては「ロード・トゥ・パーディション」の
奇妙な趣味のカメラマン役が必見!(笑)

拙宅記事読んでいただきましてありがとうございました。
またオジャマさせてくださいね。♪
2007-11-20 18:33 : viva jiji URL : 編集
viva jijiさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
『スターリングラード』は先月かな?記事にいたしましたですよ。
↓↓ こちらでございます。
http://thinkingdays.blog42.fc2.com/blog-entry-319.html

あのジュードもよかったですわ~。
そうそう、『ロード・トゥ~』も未見なんです!
サム・メンデスなのに・・。早く観たいと思いつつ、です。
ジュードって、きっと観る度に「一番カッコイイ!」と思うのかもです(笑)。
ではでは、私もまたお伺いしますね~。
2007-11-20 21:39 : 真紅 URL : 編集
らしい
TBありがとう。
単なる不倫映画とはまったく異なりましたね。
ミンデラ監督らしい、カメラです。
2007-11-22 03:05 : kimion20002000 URL : 編集
kimion20002000さま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
そうなんですよね、考えてみればこれは「不倫」モノなのですが、安っぽい映画では全くないですね。
映像がきれいでした。
ではでは、またお伺いします。
2007-11-26 09:42 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんわ
 今日DVD鑑賞しました~(遅!)とてもいい映画だったし、好きな脚本です、最近の日米の浮気バレタら即離婚みたいな(そういうのってほんとの愛情じゃないと思うし)内容じゃなくてさすがイギリス映画?でしょうか?ミンゲラ監督が素晴らしいんでしょうね、
 とても歯がゆい感じで見てました、女性にとって子供はやはり1番な存在なんでしょうが、そんな彼女たちを好きになってしまうジュードが・・・優しいのかな?最後のリブへの浮気 告白シーンには泣けましたし、リブと共にアミラたちの法廷に出るシーンも泣けました、最後のリブが本音をぶつけるシーンも良かった~、ウィルはほんとうの愛が見つかったかな?
 変かもですが、サンディ役の人タイプです(たぶんこの映画限定)もちろんジュードも良かった(この映画では特に)女性たちも良かったですね。
2008-10-09 19:03 : イニスJr URL : 編集
イニスJrさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
この映画ご覧になったのですね。。アンソニー・ミンゲラの作品。
彼の新作をもう観られないと思うと悲しいです。
とても映像が美しい作品でした。あと、ジュードもね。。
そうですね、考えてみれば、ジュードが演じた男性は「ワケあり」の女性に惹かれる傾向がありますね(笑)。
女性にとって、子どもが一番じゃないと子育てできないと思いますよ。
男性はどうなんでしょうね? 仕事なのかな・・・。
ほんとうの愛って、何だろう? 考えさせる映画ですね。
しかしアンソニー・ミンゲラ。。本当に惜しいです。
サンディ役の人、素敵ですよね~、この映画では(爆)。
英国では有名な舞台俳優さんらしく、三谷幸喜さんの『笑いの大学』だったかな? 
主演されて日本公演にも来てはったと思いますよ。
私もDVD鑑賞だったのですが、映画館で観たかった・・と思いました。
ではでは、またです~。
2008-10-09 23:31 : 真紅 URL : 編集
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