小さな宝石~『愛されるために、ここにいる』

JE NE SUIS PAS LA POUR ETRE AIME
父の跡を継ぎ、裁判所の執行官を勤めるジャン・クロード(パトリック・シェネ)は
バツイチの50歳。医者から運動を勧められ、事務所の向かいのタンゴ教室に通い始
める。そこで出会ったのは、彼の母が子守をしていた女性、フランソワーズ(アン・
コンシニュイ)。互いに好意を持つ二人だが、フランソワーズには同棲中の婚約者
がいた。
フランスで「小さな宝石」と称えられ、半年以上のロングランヒットを記録したとい
う本作。派手さは全くないけれど、独特の抑制された間を保った粋な小品。頭髪は
薄く、眉間に深い皺の刻まれた「仏版ビル・ナイ」といった風情のパトリック・シェネ
と、『灯台守の恋』のアン・コンシニュイとの、オーバー40な大人の恋物語。可憐と
言っても過言でないと思うほどかわいらしいアン・コンシニュイは、プロフィール
によると1963年生まれ!驚きの若さと美しさ。

タンゴを聴けば、台所で踊っていたウィンとファイを思い出してしまうのだけれ
ど・・・。なんと官能的なダンスなのだろう。これは好きな人とじゃなきゃ絶対、踊り
たくない! フランソワーズが、しつこく言い寄ってくる男とは二度と踊りたくな
い気持ちもよくわかる。
結婚間近なフランソワーズが、マリッジブルーであったことは間違いないと思う。
しかし、ダンス教室で一目見てジャン・クロードを思い出した彼女。幼い「ファンファン」
にとって、彼は「テニスの王子様」に見えていたのかもしれない。きっと憧れの人だった
のだろう。フランソワーズの姉や母の、結婚への介入ぶりは意外。フランスはもっと
個人主義なのだと思っていたから、家族を思って式を挙げるなんて驚き。
ジャン・クロードと老いた父とのエピソードがいい。老人施設に入所する老父を
毎週末訪れ、モノポリーの相手をする。去り際、車に乗りこむ前に必ず父の窓を見
上げる仕草、カーテンの影から彼を見送る父、父が隠して飾ったトロフィーを見つ
けても泣き崩れないジャン・クロードに、なんとも言えないリアリティを感じてし
まった。ウェットに流れない淡々とした演出が、親子の深い情や絆をより強く感じ
させてくれたと思う。
ジャン・クロードの父は誰よりも愛を求めていたのに、素直になれなかったのだ
ろう。求め方が間違っていたのかもしれない。執行官という辛い仕事が、長年に渡
って心をすり減らし、やさしさや嗜みというものを奪っていったのかもしれない。
犬連れの秘書と植物好きな息子、孤独な人が集ったような事務所で、それぞれが
大事な選択をする。素直になれなかった父を送り、素直になったジャン・クロード
がフランソワーズと踊る幕切れ。粋です。こんな映画がロングランヒットするフラ
ンスって、いいですね。大人な国なのかな。

(『愛されるために、ここにいる』監督・脚本:ステファン・ブリゼ/
主演:パトリック・シェネ、アン・コンシニュイ/2005・仏)
- 関連記事
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trackback
解説: 愛を知らない中年男性が、ひとりの女性と出会ったことで人生の輝きを取り戻していくラブストーリー。本国フランスでは、半年もの間ロングラン上映され大ヒットした話題作。くたびれた熟年男性を演じるのは『読書する女』のパトリック・シェネ。彼と恋に落ちる、若く笑
2007-11-13 21:30 :
サーカスな日々
タンゴのように美しく。大人の繊細な恋物語はフランス映画の真骨頂。50歳過ぎの執行官のジャン=クロードは、タンゴ教室に通い始め、フランソワーズという女性に出逢う。踊るシネマは大好きで、とりわけタンゴものは映画的に美しいから好き。サリー・ポッターの『タンゴ・レ
2007-11-13 21:42 :
かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
愛されるために、ここにいる (2005 フランス) JE NE SUIS PAS LA POUR ETRE AIME 監督: ステファン・ブリゼ 製作: ミレーナ・ポワロ ジル・サクト 脚本: ステファン・ブリゼ ジュリエ
2007-11-14 12:03 :
ちょっとお話
「Je ne suis pas là pour être aimé」2005 フランス2006年フランス映画祭上映作品フランス映画祭で前売りチケットを購入。しかし観に行けなかった作品で、公開されたら絶対!観たいと思っていた作品。いやマジで公開されて良かった。フランス映画祭の際、タイトルは
2007-11-15 00:56 :
ヨーロッパ映画を観よう!
映画館にて「愛されるために、ここにいる」
フランス発のラブストーリー。
おはなし:50歳を過ぎた初老のジャン・クロード(パトリック・シェネ)はある日思い切って事務所の向かいにあるタンゴ教室のドアを叩く。そこで結婚式で踊るためにレッスンを受けていたフランソ...
2007-11-17 20:17 :
ミチの雑記帳
ジャン=クロードは50才を過ぎようとしている初老の司法執行官。父親から引き継いだ仕事を息子にも引き継ごうとしている。妻とも別れ 息子との交流も上手くいかない。そればかりか老人ホームで一人余生を送る父親とも 気持ちがすれ違うばかり。
特に不自由の無い生活だ...
2007-11-25 19:21 :
Maria
原題:Je ne suis pas la pour etre aime
マリッジ・ブルーというにはあまりに純粋、老いらくの恋というにはあまりに切ない・・フランスで半年以上のロングランを記録した静かなタンゴの恋の物語・・
司法執行官のジャン=クロード・デルサール(パトリック・シ...
2008-02-11 12:39 :
茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~
『変わらない毎日。気づいたら一人ぼっち。 あの日、あのとき、君とタンゴに出会った。』
コチラの「愛されるために、ここにいる」は、本国フランスで「小さな宝石」と話題になり、ロングランヒットしたロマンティック・コメディです。
主人公は、50歳のジャン=...
2008-04-28 20:57 :
☆彡映画鑑賞日記☆彡
「愛されるために、ここにいる」(原題:Jenesuispaslàpourêtreaimé)は2005年公開のフランス映画です。人生に疲れた初老の男が、タンゴ教室で若い女性と出会い、互いに秘めた感情が高まっ...
2015-06-27 02:24 :
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男
TBありがとう。
しつこく言い寄っていたハゲ頭の親父もなんか可哀想で、幸あれ!と思ってしまいます(笑)
しつこく言い寄っていたハゲ頭の親父もなんか可哀想で、幸あれ!と思ってしまいます(笑)
真紅さん、こんばんは。
これ、すってきな大人映画でしたよねー。
タンゴな映画にはずれなし。
こういうのがロングランヒットするフランスがうらやましいです。
これ、すってきな大人映画でしたよねー。
タンゴな映画にはずれなし。
こういうのがロングランヒットするフランスがうらやましいです。
kimion20002000さま、こんにちは。こちらこそコメントとTBをありがとうございます。
そうですね、あのオヤジも見ようによっては可哀相かも!嫌がらせしたりして彼も寂しいのですね。。
素敵な映画でした~。ではでは♪
そうですね、あのオヤジも見ようによっては可哀相かも!嫌がらせしたりして彼も寂しいのですね。。
素敵な映画でした~。ではでは♪
かえるさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうそう、大人映画ですよ成人映画じゃなくて(笑)。R30指定ですね。
タンゴな映画に外れなし、うんうん、名言です!
フランスも普通の国になりつつある、なんて昨日新聞で読みましたが、やっぱ文化的には大人ですね~。
ではでは、後ほどお伺いします!
そうそう、大人映画ですよ成人映画じゃなくて(笑)。R30指定ですね。
タンゴな映画に外れなし、うんうん、名言です!
フランスも普通の国になりつつある、なんて昨日新聞で読みましたが、やっぱ文化的には大人ですね~。
ではでは、後ほどお伺いします!
お邪魔します~
<仏版ビル・ナイ>わ~~~うけます
そのとおりじゃないですか・・笑
でも彼って作品の年齢設定より年寄りくさい感じがしましたね。
↑そうそう、私もタンゴって好きな人としか踊れない気がします(実際踊ったことないけど)
生理的にカラダが受けつけない気がするし・・
笑 そういう本能的なものがあるから
恋もまた始まったりするのかな・・
大人の映画はやっぱりいいですよね。
<仏版ビル・ナイ>わ~~~うけます
そのとおりじゃないですか・・笑
でも彼って作品の年齢設定より年寄りくさい感じがしましたね。
↑そうそう、私もタンゴって好きな人としか踊れない気がします(実際踊ったことないけど)
生理的にカラダが受けつけない気がするし・・
笑 そういう本能的なものがあるから
恋もまた始まったりするのかな・・
大人の映画はやっぱりいいですよね。
2007-11-14 12:02 :
みみこ URL :
編集
みみこさま、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
そうそう、パトリック・シェネって実年齢はもっと上のようですね。
おじいちゃんでも恋するんですよね、香水買ったりして~、フフフ。
日本人には、タンゴってちょっと敷居が高い気がしますね、恥ずかしがりだから。。
でもだからこそ、映画で観ると憧れますわ~。うっとり♪
とっても大人な映画でした。秋にもピッタリな雰囲気でしたね。
ではでは、またお伺いします~。
そうそう、パトリック・シェネって実年齢はもっと上のようですね。
おじいちゃんでも恋するんですよね、香水買ったりして~、フフフ。
日本人には、タンゴってちょっと敷居が高い気がしますね、恥ずかしがりだから。。
でもだからこそ、映画で観ると憧れますわ~。うっとり♪
とっても大人な映画でした。秋にもピッタリな雰囲気でしたね。
ではでは、またお伺いします~。
真紅さん、こんばんは♪
こういう映画がヒットし「小さな宝石」って呼ばれるなんて、やはりかの国は大人なのでしょう。
恋愛に関しては特に日本人とは成熟度がかけ離れているような気がします。
日本でこんな熟年が恋愛なんて不潔~~ってなるのがオチですもんね。
父親がトロフィーを後生大事にしまってあるにもかかわらず、捨てたなんて言ってしまうところが切なかったです。
その父子関係がクロードとその息子にもリンクしていて重層的で良かったです。
こういう映画がヒットし「小さな宝石」って呼ばれるなんて、やはりかの国は大人なのでしょう。
恋愛に関しては特に日本人とは成熟度がかけ離れているような気がします。
日本でこんな熟年が恋愛なんて不潔~~ってなるのがオチですもんね。
父親がトロフィーを後生大事にしまってあるにもかかわらず、捨てたなんて言ってしまうところが切なかったです。
その父子関係がクロードとその息子にもリンクしていて重層的で良かったです。
ミチさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
そうですね、本当に大人な素敵な映画でしたね。
恋愛の成熟度・・・。うんうん、日本では恋愛は若者の特権、みたいな感じですもんね!
あのお父さんね、どうして素直になれないのかな。。ってちょっと観てて辛いものがありました。
クロードは、息子にもフランソワーズにも素直になっていくことでしょうね。
ではでは、またお伺いします~。
そうですね、本当に大人な素敵な映画でしたね。
恋愛の成熟度・・・。うんうん、日本では恋愛は若者の特権、みたいな感じですもんね!
あのお父さんね、どうして素直になれないのかな。。ってちょっと観てて辛いものがありました。
クロードは、息子にもフランソワーズにも素直になっていくことでしょうね。
ではでは、またお伺いします~。
真紅さんがupされた「灯台守の恋」を観たかったのですが 貸し出し中!
そこでやはりupしてらした「愛されるために、ここにいる」を見てみました。いま真紅さんの記事を観てやはり同じ様な事を感じているのだなぁ~と再認識。TBさせて下さいね。
そこでやはりupしてらした「愛されるために、ここにいる」を見てみました。いま真紅さんの記事を観てやはり同じ様な事を感じているのだなぁ~と再認識。TBさせて下さいね。
Mariaさま、コメント&TBをありがとうございます。
『灯台守の恋』棚に戻ってきたら是非ご覧になって下さいね、オススメいたしますよ~。
この映画も、大人な素敵な映画でしたね。
後ほど楽しみにお伺いします~。ではでは!
『灯台守の恋』棚に戻ってきたら是非ご覧になって下さいね、オススメいたしますよ~。
この映画も、大人な素敵な映画でしたね。
後ほど楽しみにお伺いします~。ではでは!