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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

我が世界の果て~『灯台守の恋』

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 L' EQUIPIER


 1963年6月、フランス・ブルターニュ地方の島。灯台守のイヴォン(フィリップ・
トレトン)
とその妻マベ(サンドリーヌ・ボネール)の元に、灯台守の代替要員として
アルジェリア戦争の帰還兵アントワーヌ(グレゴリ・デランジェール)がやってくる。
目と目が合ったとき、一瞬で恋に堕ちるアントワーヌとマベ。

「昔から君を知っている気がする」

 それは「どんなに時が経とうとも君を忘れない」という誓いの言葉でもある。決して
終わることの無い、生涯一度の恋。忘れられない恋をすることは、悲しみを抱えて
生き続けること
でもある。

 閉鎖的な島の男たちに「よそ者」と呼ばれ受け入れられずとも、微笑を絶やさない
アントワーヌ。いつも静かに微笑んでいる人は、きっと誰よりも多くの悲しみを
胸に抱えた人
なのだろう。そんなアントワーヌを敬遠しながらも、心惹かれる島
の人々
。彼の孤独や痛み、やさしさを一人理解しながら「(懐くのは)猫だけじゃな
い、みんなそうだ」と言うイヴォンの哀しみ。「みんな」とは誰でもないマベのこと、
イヴォンにはマベが世界の全てで、生きるよすがなのだから。

20071111214036.jpg

 イヴォンは、これからの人生でたとえどんなことがあっても、「地獄」で暮らそうと
マベを愛し抜く、と自分に誓っていたのだろう。それはイヴォンが自らに課した
十字架のようにも思える。教会に並ぶイヴォンの椅子は、彼がマベを思い続けた年月
であり、その重みにアントワーヌは圧倒される。

 一人娘カミーユ(アンヌ・コンシニュイ)溺愛したというイヴォン。彼は心底娘を
愛したのだと思う。それはマベが愛したものは全て自分も愛そうとした、不器用だ
けれど素朴で大きな包容力を持った、イヴォンの生き方。


 マベもまた、イヴォンを愛していた。それでも「ここではない何処か」へ行くことが
叶わなかった人生を諦観しながら、どこかやり場のない焦燥を抱えているマベ。

 あの夏の日から何十年の後、イヴォンとマベは逝き、灯台は自動化され、アコー
ディオンだけが残された。
アントワーヌは生涯マベへの思いを胸に抱き、その思い
一冊の本となる。自身も妻となり、娘の母となったカミーユは、両親ともう一人
「父」の思いを受け入れる。

 誰かの思いが、何十年もの歳月を経て、受け入れられるべきものに受け取られる
素晴らしさ。恋や人生は時に辛い、しけの海のように。しかし人間の様々な側面、
許されない恋、秘めた思い、あるいは裏切り--それらを受容できる人の人生は、
きっと心安らかなものに違いない。イヴォンの人生も、カミーユのこれからの人生
も、穏やかなものであったと信じたい。

 マベを演じたサンドリーヌ・ボネールは限りなく美しく、アントワーヌを演じた
グレゴリ・デランジェールはジェラルド・バトラーに似た面差しで、二人の思いが
ただの情事でなく、運命的な恋だと信じさせてくれる。風が吹きすさぶ荒れた海に
も、凪いだ海にも、そこにあなたがいると導いてくれる灯りがあれば、きっと生き
ていける。


 いい映画でした。泣いた。

20071111214130.jpg

『灯台守の恋』監督・脚本:フィリップ・リオレ/主演:サンドリーヌ・ボネール、
      フィリップ・トレトン、グレゴリ・デランジェール
/2004・仏)
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テーマ : 心に残る映画
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2007-11-11 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 16 : トラックバック : 11
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すんごい良かったので、異常に感想が長くなってしまいそうな予感・・・。風景、内容、どれも素晴らしかったです。
2009-08-03 20:01 : ポコアポコヤ 映画倉庫
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真紅さん、こんにちは~
コメントとTBをありがとうございました♪
>「どんなに時が経とうとも君を忘れない」という誓いの言葉
なんてロマンティックなんでしょう!
そしてなるほどですよ! さすが真紅さん、よく読み込んでいらっしゃるなぁ。
ついついその後の彼らについて祈りたい気持ちになりますよね。
イヴォンはきっと二人を許したいと思い、カミーユをとても愛して育てたし、マベも苦しかったでしょうがイヴォンに癒されることも多かった…なんて想像しちゃいます。
サンドリーヌが真珠のように美しかったです。
TBさせて頂きました。
2007-11-11 22:53 : fizz♪ URL : 編集
真紅さん、TBありがとうございました。
三人三差の人生が見事に絡まり、そして三人の心情が夫々に伝わってきて、夫々に涙してしまう。嵐の夜の灯台のイヴォンとアントワーヌ、男二人の姿には泣きました。イヴォンが椅子を作っているとき何を思って作っていたのか、そんなことを考えるとまた泣けてきて…。リオレ監督って普段の営みの中で人間を丁寧に描く監督。本作は3人の心の傷みを見事に描いた素晴らしい作品だと思います。
2007-11-11 23:57 : シュエット URL : 編集
お邪魔します~
色んな愛の形がありましたね。
大人の恋愛だと思いました
なによりも私はイヴォンの
生き方に魅力を感じました。
心の葛藤もあったことでしょうね・・・・。・
それを乗越えたのは誰よりもマベを愛していたということなんでしょうね。ウルウル・・
ドロドロ感のない恋愛劇って素敵ですね
2007-11-12 10:47 : みみこ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは~。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
でしょ、でしょ~、私ってロマンチストなんです(笑)。
三人(カミーユも入れると四人かな)とも、きっと穏やかに幸せに暮らしたと信じたいし、祈りたいような気持ちですね。
そうそう、イヴォンはね~、きっとマベを終生包み込むように愛したと思いますよ!
いいお父さんだったと思うし・・(涙)。
サンドリーヌさん、「岩場の宝石」って呼び名が本当にピッタリでしたね!
本当に、いい映画でした~、大満足です。
ではでは、またお伺いします~。
2007-11-12 12:58 : 真紅 URL : 編集
シュエットさま、こんにちは。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
そうなんです、三人が三人とも素敵な人たちで・・。
特に男同士の友情、灯台の場面は私も好きでした。
こういう静かに人間の内面を描く映画、好きです。リオレ監督は初見でしたが、『マドモワゼル』も観てみたいです。
私も、本当に素晴らしい作品だと思いました。思い出すとまた涙が・・・。
またお伺いしますね、ではでは。
2007-11-12 13:02 : 真紅 URL : 編集
みみこさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
大人の恋愛、そうですね。。
私も、マベとアントワーヌの思いも涙なのですが、やはりイヴォン!彼に一番惹かれました。
何も訊かず、誰も責めず、愛を与えることのできる人ですね。
マベも、イヴォンのことも愛していたと思うのですよ・・。ううう(泣)。
嫉妬や憎しみなど、負の感情が全面に出てこなくてね、素敵でした。
ではでは、また次もお伺いしますね~。
2007-11-12 13:06 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは♪
今夜は冷えますねぇ。ぷるぷるします^^;
コメントをいただき、ありがとうございました。
例の如くTBがだめだったようで申し訳ありません。
こちらからは行きましたでしょうか??
この作品、とっても良かったですよねえ。
イヴォンにすっかりやられた私ですが、役者さんたちみな素晴らしいですよね。
物静かだけれど情熱を秘めてる3人・・・
嵐のシーン、迫力があり、それぞれの胸の内の生きる中での葛藤のようにも感じました。
ああ、イヴォン~~(惚)←アホです~
2007-11-12 23:40 : 武田 URL : 編集
真紅さま
観たい映画のレヴューはなるべく読まない事にしているのですが レヴューを読んで この映画 観てみたくなりました。 観たら又コメントさせて下さいね。 
2007-11-13 07:53 : Maria URL : 編集
武田さま、こんにちは~。お忙しい中、ご訪問感謝です♪
コメント&TBもありがとうございます。
はい、これはもうとってもよかったですね~。
私も、イヴォンを思うと今も涙が滲みます。
もちろん、マベもアントワーヌもそれぞれに「秘めた」人たちでしたね。
嵐が彼らの葛藤である・・・、本当にその通りですね!
カミーユが見た故郷の海は凪いでいましたものね。。
イヴォン、本当に素敵でした~。私も惚れました♪
ではでは、またお伺いしますね。
2007-11-13 09:01 : 真紅 URL : 編集
Mariaさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
最近開き直ってネタバレ記事になっていまして、ごめんなさいね。
でもこの作品、本当にいいですから是非ご覧になって下さいませ!
きっと気に入られると思います。感想、楽しみにしておりますね。
ではでは、またお話しましょう~。
2007-11-13 09:03 : 真紅 URL : 編集
真紅さま
ご無沙汰しております。
フィリップ・リオレ監督は、わりと好きで、最新作が今年のフランス映画祭で上映されたので、観に行ったのですが、どうやら劇場公開はなさそうですね。
2007-11-14 19:24 : umikarahajimaru URL : 編集
こんばんは!
TB&コメントありがとうございました!
サンドリーヌ ファンでございます。
>「昔から君を知っている気がする」 ...
かなり前に観たので記憶は定かじゃありませんが、上の台詞なんとなくお覚えています。
二人の見つめ合う、密かな”恋”素敵でしたね。
2007-11-15 00:28 : margot2005 URL : 編集
umikarahajimaruさま、こんにちは。こちらこそご無沙汰しておりました!
コメント&TBをありがとうございます。
私はリオレ監督作は初見でした。この映画、とっても好きだったので、他の作品もなんとか観てみたいと思っています。
また寄らせていただきますね。ではでは!
2007-11-15 09:06 : 真紅 URL : 編集
margot2005さま、初めまして!コメント&TBをありがとうございます。
サンドリーヌさん、きれいですね~。
『親密すぎるうちあけ話』、観たい観たいと思いつつ未見なのですが、DVDのパッケージの彼女のアップも印象的ですよね。
また、ヨーロッパ映画を観たらお話させて下さい。
今後ともよろしくお願いいたします。ではでは~。
2007-11-15 09:07 : 真紅 URL : 編集
真紅さぁ~~~ん!!今、見終わったところです。近所の店のどこにも置いてなくて、宅配DVDで見たんだけれど、いやぁ~~~~もう、もうもう!!!!5つ☆ですっ!!!ほんとに良い映画紹介してくださって、感謝です!

風景萌え、内容最高、どれを取ってもドツボで、あ~~この感動度、お気に入り度、どうやってレビューにしたらいいだろう・・・って位です。
今年もう8ヶ月経ってますが、もしかしたら、これ1位かもしれません。

私はイヴォンももちろんのこと、3人全員に入り込んで見ちゃって、どの人の気持ちにもなれたし、この監督さんの描き方が抑えめな処もGoodで、あ~~ほんと何もかもが好みでした。興奮状態にて、すいません。
後日感想書いたら、TBさせてネ♪
2009-08-02 20:56 : latifa URL : 編集
latifaさん、こんにちは~~~。コメント&TBありがとう~~~。
わーーい、気に入られたみたいで私もうれしいです♪
で、なんと、年間一位とな?! それはすごい高評価ですね、うれしい~。
なんかこれね、自分の心の中で、ずっと大切にしたいタイプの映画じゃない?
そう、三人三様、みんないい人なんだよね。。だからこそ切ないっていうか。。
思い出すだけで涙が出てくる映画だわ。
風景もよかったよね。いっつも風が吹いてる感じの島が。

ところで、宅配DVDやってるんですね~。
映画好きな人ってみんな利用してる印象だわ。
私はね、ウチの母のツタヤディスカス係をしています。
私も、もう少しゆとりができたら、やりたいな~と思ってる。
後ほど大感動のレビュー、読みに伺います~。
2009-08-04 02:01 : 真紅 URL : 編集
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