復讐の後に~『サイボーグでも大丈夫』

I AM A CYBORG, BUT THAT'S OK
風変わりな精神病院を舞台に、自分をサイボーグだと信じる少女ヨングン(イム・ス
ジョン)と、他人のものは何でも盗む、アンチソーシャル(社会不適合)な青年イルスン
(チョン・ジフン)との間に繰り広げられる、ちょっとシュールなラブコメディ。
『JSA』、復讐三部作で世界に名を馳せた韓国の名匠、パク・チャヌク監督待望の新作
ということで、久々の韓国映画劇場鑑賞。作品のテーマカラーと思われるグリーンの
歯車に、ハングル文字が浮かび上がるオープニングにワクワクさせられる。
妄想系ラブコメディとして真っ先に思い浮かぶのは、「永遠の12歳」ことミシェル・
ゴンドリーの『恋愛睡眠のすすめ』。夢とリアルが逆転している妄想青年ステファンを
あくまでラブリーに描いたあの映画に対し、こちらは愛する肉親から引き離された
トラウマ故に、リアルで妄想している青年と少女をポップかつシュールに描く。

一見ファンタジーの形を取ってはいるもののそこはパク・チャヌク、暴力描写は
やっぱり抜かりない。目を背けたくなるようなヨングンの自殺未遂シーンに始まり、
憎きホワイトマンたちを蜂の巣状態にする「指先から散弾銃」な場面は圧巻。しかしそ
れらはあくまでディテールで、基本的には壊れ行くサイボーグ・ヨングンと、彼女
を自分なりの方法で救おうと奔走するイルスンの一生懸命な恋物語が展開する。
自分を機械だと思い込み、食事代わりに乾電池を舐め「充電」するヨングン。「ご飯
食べた?」が挨拶がわりの韓国で、食べないということは日本以上に大きな意味を
もつのだろうな、と想像する。ヨングンから同情心を盗んだイルスンが、彼なりの
方法でヨングンにご飯を食べさせる場面がいい。もっとも彼が盗んだのは「同情心」と
言うよりはむしろ「共感力」「共鳴力」という感じ。
主演のチョン・ジフン、イム・スジョンはともに初見。イム・スジョンはかなり
美しい容姿の持ち主らしいが、脱色眉毛にガリガリに痩せた身体、ウィッグバリバリ
のボサボサ頭に入れ歯までして女優根性を見せてくれた。一方、歌手の「ピ(Rain)」
として日本でも名の知れた存在であるチョン・ジフンも、身体能力の高さを感じさ
せるしなやかな身のこなしで、映画初主演とは思えない演技を披露してくれている。
脇役陣も「SK-Ⅱ」命のコプタンとか「申し訳なくて前向きに歩けない」キャラだとか
もう、爆笑モノ。しかし場内、笑っているのは私だけだったような・・。全体的に、
ちょっと引いている雰囲気があったような気がする。
一つ一つのエピソードは面白いし映像も凝っているのに、全体としてテンポが遅く、
間が悪い印象だったのが残念。これはシュールな世界を表現するために、故意にそう
したのだろうか? 今まで観たパク・チャヌク作品には強烈で過剰な物語性があった
けれど、その強烈さが薄れている分、説得力に欠けるような気がするだけだろうか?
ハングル文字が映し出される場面が多かったのに、意味がわからなくて残念に思う。
もう少し、工夫して字幕を挿入して欲しいかな・・。というのは韓国語学習挫折者の
ワガママでしょうか。
((『サイボーグでも大丈夫』監督・脚本:パク・チャヌク/
主演:チョン・ジフン、イム・スジョン/2006・韓国)
- 関連記事
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- 跳べ!~『クローズ ZERO』 (2007/11/07)
- 復讐の後に~『サイボーグでも大丈夫』 (2007/11/03)
- 境界を越える~『ブレイブワン』 (2007/11/02)
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trackback
映画「サイボーグでもいい」は、パク・チャヌク監督の、初めてのラブ・コメディ映画。復讐3作(復讐者に憐れみを、オールドボーイ、親切なクムジャさん)、JSAなどを作り、今までの作品は、重くて暗くてちょっと残酷?な映
2007-11-03 11:57 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
シュールさを乗り越える愛らしさ。自分がサイボーグだと信じるヨングンは、新世界精神クリニックに入院させられて、青年イルスンに出逢う。タランティーノ監督作やらタランティーノ出演作を観たばかりなんだけど、これまたタランティーノ繋がりだ。韓国の鬼才パク・チャヌク
2007-11-03 17:12 :
かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
人気ブログランキングの順位は?サイコなのにときめくの?
2007-11-04 15:27 :
ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!
二人が、かわいくってかわいくって仕方がなかった。見ているだけで幸せ。このどこまでもファンタジックな世界観は、彼ら二人が見ている世界なんだな。って、安心して、彼らに寄り添うことが出来た。復讐はもう終わったんだね。
2007-11-04 23:23 :
レザボアCATs
オフィシャルサイト
2006 韓国
監督:パク・チャヌク
出演:イム・スジョン/チョン・ジフン(Rain ピ) /チェ・ヒジン/イ・ヨンニョ
ストーリー:大好きな祖母が療養所に入れられて以来、どこかおかしくなったヨングン。自分のことをサイボーグだと信じる彼女は、新世
2008-01-19 21:58 :
SSKS*
こないだ観た「僕の彼女はサイボーグ」繋がりで観ようと思ってた作品。
主演は「サッド・ストーリー」のイム・スジョンと、
「スピード・レーサー」にも出てたRain(ピ)こと、チョン・ジフン。
2008-07-28 03:35 :
★☆ひらりん的映画ブログ☆★
あらすじ大好きな祖母が療養所に入れられて以来どこかおかしくなったヨングン。自分のことをサイボーグだと信じる彼女は精神クリニックに入院させられた。そんなヨングンに、同じ年頃の青年イルスンが目を留める。彼は、人のものならモノでも特徴でもなんでも盗むことがで...
2008-10-16 00:11 :
虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ
コメントの投稿
真紅さま~こんにちは!
いいなー、これご覧になられたのですね。
私は、まだ見てないのです~
この前、英語字幕を発見したんだけど、英語も元来苦手なので、・・・ぐすん。ハッキリ意味が解らなくて、結局、今の処40分まで見て、そのまんま。
映画館には行けそうもないので、ちゃんと日本語字幕で映画見れるのは、トホホ~いつになるやら。多分レンタル開始後だな~~。
もう真紅さまのレビュー読んじゃったけれど、映画見たら、再度読み直します^^
いいなー、これご覧になられたのですね。
私は、まだ見てないのです~
この前、英語字幕を発見したんだけど、英語も元来苦手なので、・・・ぐすん。ハッキリ意味が解らなくて、結局、今の処40分まで見て、そのまんま。
映画館には行けそうもないので、ちゃんと日本語字幕で映画見れるのは、トホホ~いつになるやら。多分レンタル開始後だな~~。
もう真紅さまのレビュー読んじゃったけれど、映画見たら、再度読み直します^^
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
はいー、観ました♪ ファーストディに観に行ったんですよ。
この映画、パク・チャヌクなのにシネコンとかでは上映していないのですね。
大阪でも単館です。まぁ、そんなに広く受け入れられる作品でもないのかもしれませんが、もったいないような気がします。
早くDVD化されるといいですね!気に入られるといいのですが。。
観られたら、またお話しましょうね。ではでは~。
はいー、観ました♪ ファーストディに観に行ったんですよ。
この映画、パク・チャヌクなのにシネコンとかでは上映していないのですね。
大阪でも単館です。まぁ、そんなに広く受け入れられる作品でもないのかもしれませんが、もったいないような気がします。
早くDVD化されるといいですね!気に入られるといいのですが。。
観られたら、またお話しましょうね。ではでは~。
真紅さん、こんにちは。
そうそう、ちょいとテンポや間が今ひとつでしたよね。
その点が残念ではありましたが、アイディアや世界観は気に入ました。
パンズ・ラビリンスを見た時に、ちょろっと本作のことも思い出しました。
こういうファンタジーの体現の仕方も映画的で大好きですー。
そうそう、ちょいとテンポや間が今ひとつでしたよね。
その点が残念ではありましたが、アイディアや世界観は気に入ました。
パンズ・ラビリンスを見た時に、ちょろっと本作のことも思い出しました。
こういうファンタジーの体現の仕方も映画的で大好きですー。
2007-11-03 17:42 :
かえる URL :
編集
かえるさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
アイデアや世界観はやっぱり独特のもので、さすがと思わされました。
『パンズ・ラビリンス』か~、これも言ってみれば「ダーク・ファンタジー」ですよね。
これからパク・チャヌクはファンタジー方面に向かうのか?興味津々です。
ではでは、またお伺いしますねー。
アイデアや世界観はやっぱり独特のもので、さすがと思わされました。
『パンズ・ラビリンス』か~、これも言ってみれば「ダーク・ファンタジー」ですよね。
これからパク・チャヌクはファンタジー方面に向かうのか?興味津々です。
ではでは、またお伺いしますねー。
真紅さま、こんばんは。
精神病院というものと、ラブストーリーというものを合体させて、その中で人に楽しませる、といアイディア自体があまり普通の人に相容れないものだったのかもしれませんね。
私は実は、カウンセリングやらユングの分析心理学を勉強したしたこともあり、彼らの妄想やファンタジーを、美しいものと捉えるパク・チャヌクの手法は、温かさとユーモアがあって、好きでした。ほとんど一度もだれることがなく、楽しめてしまったのですが、この辺りに興味や関心がないと、ちょっと辛いかもしれませんね
精神病院というものと、ラブストーリーというものを合体させて、その中で人に楽しませる、といアイディア自体があまり普通の人に相容れないものだったのかもしれませんね。
私は実は、カウンセリングやらユングの分析心理学を勉強したしたこともあり、彼らの妄想やファンタジーを、美しいものと捉えるパク・チャヌクの手法は、温かさとユーモアがあって、好きでした。ほとんど一度もだれることがなく、楽しめてしまったのですが、この辺りに興味や関心がないと、ちょっと辛いかもしれませんね

とらねこさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
設定で、ちょっと引く・・と言う方もいらっしゃるのかな? 私は全然そんなことなかったのですが。。
心理学を勉強されたのですか!素晴らしいですね~。
彼らはリアルで妄想しているわけで、あの世界はそこでだけ完結していますよね。
それを美しいと取るか、滑稽ととるか、馬鹿馬鹿しいと取るか、観る側で変わってくるわけで。。
私は面白く観ましたが、受け入れられない方もいるでしょうね。
独特のテイストの映画でした!
ではでは、またお伺いします~。
設定で、ちょっと引く・・と言う方もいらっしゃるのかな? 私は全然そんなことなかったのですが。。
心理学を勉強されたのですか!素晴らしいですね~。
彼らはリアルで妄想しているわけで、あの世界はそこでだけ完結していますよね。
それを美しいと取るか、滑稽ととるか、馬鹿馬鹿しいと取るか、観る側で変わってくるわけで。。
私は面白く観ましたが、受け入れられない方もいるでしょうね。
独特のテイストの映画でした!
ではでは、またお伺いします~。
見ました(^_^)/
しかし・・・・・・・・・・・・・・(x_x)
あんまりおもしろくなかった・・・・。
私もハングル文字が写るシーンでの字幕が少なかったな?もっと説明してくれ!って思った一人でしたよ。
しかし・・・・・・・・・・・・・・(x_x)
あんまりおもしろくなかった・・・・。
私もハングル文字が写るシーンでの字幕が少なかったな?もっと説明してくれ!って思った一人でしたよ。
latifaさま、こちらにもコメントありがとうございます♪
これって、もうDVDレンタルされているのですね。
テンポがね、な~んか今ひとつ乗れない感じでしたね。
パク・チャヌク、過渡期かな・・・。
ではでは、後ほどです~。
これって、もうDVDレンタルされているのですね。
テンポがね、な~んか今ひとつ乗れない感じでしたね。
パク・チャヌク、過渡期かな・・・。
ではでは、後ほどです~。