fc2ブログ
映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

終わりなき受難~『ブラックブック』

20071031131200.jpg


 ZWARTBOEK


 1944年9月。ナチス・ドイツ占領下のオランダで、隠遁生活を送るユダヤ人女性
ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)。家族を殺され一人生き延びたラヘルは、髪の色
と名前を変え、エリス・デ・フリースとしてハーグのレジスタンス活動に加わる。
ナチス将校ムンツェ(セバスチャン・コッホ)に近付くエリスを待ち受けていた過酷な
運命とは・・・。


『氷の微笑』ポール・ヴァーホーヴェンが、母国オランダを舞台に描いた実話に基づ
サスペンス大作。戦時下に生きる様々な立場の人間が持つ悪意と善意、敵味方を
超えた愛と真実の物語。144分の長尺だが、スピーディな展開と魅力的な登場人物
たちによって、間延びのない秀作となりえている。しかしこれは、やはり劇場で観
たかった。

20071031131255.jpg

 一番の見所は、主人公エリスを演じたカリス・ファン・ハウテンの熱演。光によっ
て微妙に変化する、ラピスラズリのような青い瞳、紅い唇が魅惑的。その美貌と脚線
美はもちろん、元歌手という役どころにぴったりな艶と湿り気のある声がいい。歌唱
場面は全て吹き替えなしで彼女が唄ったという。エロティックなシーンは敢えて抑え
気味のように感じられた。
 自らの美貌が一番の武器になり得ることを知っているエリスの、捨て身の言動
悲しくも魅力的に輝いている。「これ以上何を失う?」「(敵国ナチスの将校を)愛した
わ、それが何?」


 ムンツェとは敵・味方を超えて「一人で生き残った」辛さを分かち合う、同士の絆が生
まれたのだろう。小舟の中、つかの間の安息と知りつつ永遠を誓うムンツェ、「自由にな
るのが恐ろしい」
とつぶやくエリス。家族全員を喪っても「どうしても涙が出ないの」と
言った彼女が、ムンツェの最期を知らされて初めて泣く場面に胸を衝かれる。どんな
厳しい状況でも生きることを諦めない、朦朧とした意識の中でもチョコレートに手を
伸ばす、エリスの獰猛な生き方が私は好きだ。

 レジスタンスの中にも悪者はいたという真実は、どんでん返しのようでもいくつか
のヒントが散りばめられている。1956年10月から始まるこの長い長いエリスの物語、
様々な伏線が終盤にかけて効いてくる構造もいい。レジスタンスの人間だけではなく、
ユダヤ人を匿った者でもユダヤ人を蔑視した者はいたし、ナツスドイツに於いてさえ、
流血を拒む将校もいた。状況が変われば態度を一変させる集団心理もきちんと描かれ
ている。

 人間の持つ善意と悪意は表裏一体のコインのようなもの、ユートピアを夢見ても
現実はどこまでも厳しい。ラヘルの受難は尽きることがないのか、その後の物語にも
思いを馳せてしまうような、考えさせられるラストシーンだった。

『ブラックブック』監督・脚本:ポール・ヴァーホーヴェン
       主演:カリス・ファン・ハウテン、セバスチャン・コッホ
                    2006・オランダ、独、ベルギー)
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

2007-10-31 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 13
Pagetop
境界を越える~『ブレイブワン』 «  ホーム  » 冷戦下の善き羊飼い~『グッド・シェパード』
trackback

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
「ブラックブック」感想
「善き人のためのソナタ」⇒「暗い日曜日」に出演していた、ゼバスティアン・コッホが、主役男優として出演していました。うむ~悪人には見えない顔だ・・・。
2007-10-31 13:37 : ポコアポコヤ 映画倉庫
秘密の本
「あなたになら言える秘密のこと」「ブラックブック」
2007-10-31 14:40 : Akira's VOICE
ブラックブック
 『この愛は裏切りから始まる』 コチラの「ブラックブック」は、第二次世界大戦を背景に、オランダ映画界史上最高となる25億円の製作費をかけ、壮大なスケールで描かれたサスペンス・エンターテインメントで、3/24に公開となっていたのですが、観て来ちゃいましたぁ~....
2007-10-31 22:58 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
ブラックブック
苦しみは終わらないの・・・
2007-10-31 23:39 : 悠雅的生活
『ブラックブック』
監督:ポール・バーホーベン CAST:カリス・ファン・ハウテン 、セバスチャン・コッホ 他STORY:1944年、ナチス占領下のオランダ。ユダヤ人で歌手のラヘル(カリス・ファン・ハウンテン)は、逃亡途中で家族をドイツ兵によって殺されてしまう。逃げ切ったラヘルはオランダ
2007-11-01 16:29 : Sweet* Days**
ブラック・ブック
ヨーロッパ映画と戦争物,加えてサスペンスが大好きなのでDVDになってからだが,とても期待して観た一作。ナチス・ドイツを扱っているので,重い社会派の作品を予想したがこれは思ったよりも軽くあっさり味で,テンポの速いエンタメ色の強い,上質のサスペンスに仕上がって
2007-11-01 22:36 : 虎猫の気まぐれシネマ日記
ブラックブック
金髪完全主義者w陰毛を染めるシーンが可笑しかったwブラックブックposted with amazlet on 07.11.13Happinet(SB)(D) (2007/08/24)売り上げランキング: 1264おすすめ度の平均: 「1956年10月イ...
2007-11-15 18:38 : ぁの、アレ!床屋のぐるぐる回ってるヤツ!
ブラックブック
レンタルで鑑賞―【story】1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。若く美しいユダヤ人歌手ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、安全な地へ逃れる途中にナチスに両親と弟を殺されてしまう。彼女は名前をエリスと変えレジスタンスに身を投じ、レジスタンスの仲間ハン
2007-11-18 09:35 : ★YUKAの気ままな有閑日記★
映画『ブラックブック』
原題:Zwartboek/Black Book 観終えたあとにもう一度キブツ・シュタインのシーンを観返してしまった。聖地巡りの観光で訪れていたのは確かにあの色気と笑顔で逞しく生き抜いた彼女・・・ ユダヤ人女性歌手ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)はナチスドイツ占
2008-01-20 02:09 : 茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~
≪ブラックブック≫(WOWOW@2008/01/14@025)
ブラックブック   詳細@yahoo映画 第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダで、 家族をナチスに殺された若く美しいユダヤ人歌手の復しゅうを描いたサスペンス 主演の“カリス・ファン・ハウテン”はちょっと雰囲気が“キルスティン・ダンスト
2008-02-20 16:55 : ミーガと映画と… -Have a good movie-
『ブラックブック』
ブラックブック「氷の微笑」「ショーガール」「スターシップ・トゥルーパーズ」などの作品で知られるポール・ヴァーホーヴェン監督が母国オランダにて製作した戦争ドラマ。ドイツナチスの占領下に置かれたオランダで、ユダヤ人歌手のヒロインが非難途中に家族をナチス軍に...
2008-02-21 01:41 : cinema!cinema!~ミーハー映画・DVDレビュー
『ブラックブック』を観たぞ~!
『ブラックブック』を観ました第二次世界大戦ナチス・ドイツ占領下のオランダで、家族をナチスに殺された若く美しいユダヤ人歌手の復しゅうを描いたサスペンスドラマです>>『ブラックブック』関連原題:BLACKBOOKジャンル:サスペンス/戦争/ドラマ上映時間:144分製作国...
2008-03-14 23:31 : おきらく楽天 映画生活
『ブラックブック』\'06・蘭・独・英・ベルギー
あらすじ1944年、ナチス占領下のオランダ。美しいユダヤ人歌手のラヘルは、南部へ逃亡する途中ドイツ軍により家族を殺されてしまう。レジスタンスに救われたラヘルは、エリスと名を変え髪をブロンドに染め、レジスタンス運動に参加する。彼女は、その美貌を武器にスパイと...
2008-09-18 23:50 : 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

真紅さま~ご覧になられたのですねー!
で、そうそう!!私も最近甘い泥を見て、この映画のこと、思い出しちゃったのです。
で、キブツについて、暫し検索の旅~に出たりしてたんです。
結局、甘い泥については、まだ記事書けてないし、書かないかもしれませんが・・・。
だからと言って、面白くなかったのではなくて、かなり引きこまれて見ましたし、★でいうと4つ★以上です。
あの男の子、すごく美形だったわん~♪
そして母思いで、泣けたわ・・(ああいうのに、めっぽう弱いのです)
あれっ・・・甘い泥についてばかり書いちゃったかな?! 
2007-10-31 13:40 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
『甘い泥』やはりご覧になったのですね、さすが~。。
監督さんが「キブツについて本当のことを知ってほしい」と語っておられましたよね。
イスラエルって未知の国です。早く観たいな~。
母子の物語のようですよね、それはもう、感情移入しまくりですね(笑)。
私、『モンゴリアンピンポン』は録画損ねたんですよ。。残念!
と、私もアジアン映画のことばっかりレスしてしまいました。ハハハ。
ではでは、またお伺いします~。
2007-10-31 19:21 : 真紅 URL : 編集
こんばんは。いつもTBとコメントありがとうございます。

重たい社会派作品だと思って観に行ったら、
予想に反して、メッセージ性の強い娯楽作品だったことに驚きました。
展開の速さに置いてきぼりになるかと思えば、
それはそうでもなく、どんどん引っ張られる2時間あまり。
盛りだくさんの内容に、退屈している暇もなかったですね。
観た日の夜、目の前にセバスチャン・コッホの顔がちらついて、
ありゃりゃ…また惚れちまったか?と焦ったものでした(笑)
2007-10-31 23:47 : 悠雅 URL : 編集
 真紅さん、こんばんわ
 これは何の知識もなく、劇場で見ましたが、楽しめました。ヴァンホーベン監督は「氷の微笑」「ショーガール」としたたかで、強い女性をよく描きますね、「ブラックブック」のエリスも凄く逞しい女性でした~、見ていて面白かったんですが、何故か大満足まではできなかったです。題材に新鮮味がないのは、仕方ないですが、こちらより「上海の伯爵夫人」の方が好きかもです、(同じ戦争映画と見て)でも主役が光ってましたし、S・コッホもいい感じでした~
2007-11-01 00:46 : イニスJr URL : 編集
真紅さん、こんにちは~
数年ぶりに風邪で一週間も寝込んでしまいました。
さて、結局感想は書かないことにした作品でしたが、地球上の悲劇は続いているというラストが印象的でした。
エリスの強さは観ていて爽快感さえ感じましたよ。
2007-11-01 00:58 : fizz♪ URL : 編集
悠雅さま、こんにちは。こちらこそコメントとTBをありがとうございます。
この映画、『善き人のためのソナタ』のときに予告を観たんです。
観たい!と思わせる予告でしたよ、でも劇場には行けなかったのですが・・・。
長尺ですが、ずっと引き付けられて観ることができましたね。
こういう長くて面白い作品は、映画館で観たいですね~。
セバスチャン・コッホ、ナチス将校らしからぬいい人フェイスで素敵でした。
ではでは、またお伺いします~。
2007-11-01 17:04 : 真紅 URL : 編集
イニスJrさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
劇場でご覧になったのですね。これは楽しめたと思います、私も劇場で観たかった・・・。
監督は、きっと女性が大好きなんでしょうね(笑)。
エリスみたいな逞しいヒロイン、私も大好きです!
『上海の伯爵夫人』と、う~~~~んそれは難しい選択かも。。
レジスタンスにも悪者はいた、というのはあまりない視点だと思うのですが、悪役の彼にもう一つ深みがなかったかも、ですね。
あの時代のことを知っている監督が、どうしても撮りたい題材だったらしいですね。
オランダって行ったことがないのですが、憧れの国です。
ではでは、また遊びにいらして下さいね!
2007-11-01 17:10 : 真紅 URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ええ~、一週間も!もうすっかり具合はいいのですか?
秋は寒暖の差が大きいので、体調崩しやすいですよね、お大事になさって下さいね。
「苦しみは終わらないの?」っていうエリスのセリフが効いていましたね。
美しくて強い女性、大好きです~。
ゆっくり休んで、またお話しましょう。ではでは~。
2007-11-01 17:14 : 真紅 URL : 編集
真紅さまー TBさせていただきました。
なかなか面白い,というか,最後まで飽きずに手に汗を握って観れましたよ。
もっとダークでシリアスで重厚な作品かと思いきや・・・。エンタメ作品としても完成度は高かったですね。
仰る通り,戦時下で,いわば一種の開き直りのように,強くしたたかに生き抜くヒロインには魅力を感じました。・・・それに美しい人ですねぇ。
セバスチャン・コッホもよかったです。
2007-11-01 22:43 : なな URL : 編集
ななさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
私もとても面白く、飽きずに観ました。テンポがとってもよかったですね。
あの時代に、エリスのように強く生きられた女性もいたのですね。
本当に美しく、魅力的な女優さんでした。歌も上手だしー。
セバスチャン・コッホ、これからも活躍して欲しいですね!
ではでは、後ほどお伺いします~。
2007-11-02 12:01 : 真紅 URL : 編集
こちらにもお邪魔します。
私の住む地域では上映されなかったので、先日DVDを借りてみました。
もっとシリアスな戦争ドラマだと思ったのですが、サスペンスが効いていてハラハラさせられる面白い映画でした。
主演の方はお綺麗でしたね~
凛とした美しさに魅せられました。
2007-11-18 09:38 : 由香 URL : 編集
由香さま、こちらにもコメントとTBをありがとうございます。
この映画、意外に上映館が少なかったですよね。
私もちょっと足を伸ばせば観られたのですが、結局見逃してしまった一本でした。
でも、やっぱり映画館で観たかったですよね~。
こういう長めの映画は、劇場で観るのが一番ですね。
主演の女優さん、ホントに綺麗でした!
撮影後、セバスチャン・コッホと付き合っていたらしいのですが、、続いてるのかな?
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
2007-11-18 13:54 : 真紅 URL : 編集
Pagetop
« next  ホーム  prev »

What's New?

真紅

Author:真紅
 Cor Cordium 
★劇場鑑賞した映画の感想はインスタにアップしています@ruby_red66

Archives

Search this site

Thank You!