終わりなき受難~『ブラックブック』
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 ZWARTBOEK


 1944年9月。ナチス・ドイツ占領下のオランダで、隠遁生活を送るユダヤ人女性
ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)。家族を殺され一人生き延びたラヘルは、髪の色
と名前を変え、エリス・デ・フリースとしてハーグのレジスタンス活動に加わる。
ナチス将校ムンツェ(セバスチャン・コッホ)に近付くエリスを待ち受けていた過酷な
運命とは・・・。


『氷の微笑』ポール・ヴァーホーヴェンが、母国オランダを舞台に描いた実話に基づ
サスペンス大作。戦時下に生きる様々な立場の人間が持つ悪意と善意、敵味方を
超えた愛と真実の物語。144分の長尺だが、スピーディな展開と魅力的な登場人物
たちによって、間延びのない秀作となりえている。しかしこれは、やはり劇場で観
たかった。

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 一番の見所は、主人公エリスを演じたカリス・ファン・ハウテンの熱演。光によっ
て微妙に変化する、ラピスラズリのような青い瞳、紅い唇が魅惑的。その美貌と脚線
美はもちろん、元歌手という役どころにぴったりな艶と湿り気のある声がいい。歌唱
場面は全て吹き替えなしで彼女が唄ったという。エロティックなシーンは敢えて抑え
気味のように感じられた。
 自らの美貌が一番の武器になり得ることを知っているエリスの、捨て身の言動
悲しくも魅力的に輝いている。「これ以上何を失う?」「(敵国ナチスの将校を)愛した
わ、それが何?」


 ムンツェとは敵・味方を超えて「一人で生き残った」辛さを分かち合う、同士の絆が生
まれたのだろう。小舟の中、つかの間の安息と知りつつ永遠を誓うムンツェ、「自由にな
るのが恐ろしい」
とつぶやくエリス。家族全員を喪っても「どうしても涙が出ないの」と
言った彼女が、ムンツェの最期を知らされて初めて泣く場面に胸を衝かれる。どんな
厳しい状況でも生きることを諦めない、朦朧とした意識の中でもチョコレートに手を
伸ばす、エリスの獰猛な生き方が私は好きだ。

 レジスタンスの中にも悪者はいたという真実は、どんでん返しのようでもいくつか
のヒントが散りばめられている。1956年10月から始まるこの長い長いエリスの物語、
様々な伏線が終盤にかけて効いてくる構造もいい。レジスタンスの人間だけではなく、
ユダヤ人を匿った者でもユダヤ人を蔑視した者はいたし、ナツスドイツに於いてさえ、
流血を拒む将校もいた。状況が変われば態度を一変させる集団心理もきちんと描かれ
ている。

 人間の持つ善意と悪意は表裏一体のコインのようなもの、ユートピアを夢見ても
現実はどこまでも厳しい。ラヘルの受難は尽きることがないのか、その後の物語にも
思いを馳せてしまうような、考えさせられるラストシーンだった。

『ブラックブック』監督・脚本:ポール・ヴァーホーヴェン
       主演:カリス・ファン・ハウテン、セバスチャン・コッホ
                    2006・オランダ、独、ベルギー)
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

[2007/10/31 13:19] | DVD/WOWOW | トラックバック(13) | コメント(12) |
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コメント
真紅さま~ご覧になられたのですねー!
で、そうそう!!私も最近甘い泥を見て、この映画のこと、思い出しちゃったのです。
で、キブツについて、暫し検索の旅~に出たりしてたんです。
結局、甘い泥については、まだ記事書けてないし、書かないかもしれませんが・・・。
だからと言って、面白くなかったのではなくて、かなり引きこまれて見ましたし、★でいうと4つ★以上です。
あの男の子、すごく美形だったわん~♪
そして母思いで、泣けたわ・・(ああいうのに、めっぽう弱いのです)
あれっ・・・甘い泥についてばかり書いちゃったかな?! 
[2007/10/31 13:40] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
『甘い泥』やはりご覧になったのですね、さすが~。。
監督さんが「キブツについて本当のことを知ってほしい」と語っておられましたよね。
イスラエルって未知の国です。早く観たいな~。
母子の物語のようですよね、それはもう、感情移入しまくりですね(笑)。
私、『モンゴリアンピンポン』は録画損ねたんですよ。。残念!
と、私もアジアン映画のことばっかりレスしてしまいました。ハハハ。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/10/31 19:21] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんばんは。いつもTBとコメントありがとうございます。

重たい社会派作品だと思って観に行ったら、
予想に反して、メッセージ性の強い娯楽作品だったことに驚きました。
展開の速さに置いてきぼりになるかと思えば、
それはそうでもなく、どんどん引っ張られる2時間あまり。
盛りだくさんの内容に、退屈している暇もなかったですね。
観た日の夜、目の前にセバスチャン・コッホの顔がちらついて、
ありゃりゃ…また惚れちまったか?と焦ったものでした(笑)
[2007/10/31 23:47] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
 真紅さん、こんばんわ
 これは何の知識もなく、劇場で見ましたが、楽しめました。ヴァンホーベン監督は「氷の微笑」「ショーガール」としたたかで、強い女性をよく描きますね、「ブラックブック」のエリスも凄く逞しい女性でした~、見ていて面白かったんですが、何故か大満足まではできなかったです。題材に新鮮味がないのは、仕方ないですが、こちらより「上海の伯爵夫人」の方が好きかもです、(同じ戦争映画と見て)でも主役が光ってましたし、S・コッホもいい感じでした~
[2007/11/01 00:46] URL | イニスJr #- [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは~
数年ぶりに風邪で一週間も寝込んでしまいました。
さて、結局感想は書かないことにした作品でしたが、地球上の悲劇は続いているというラストが印象的でした。
エリスの強さは観ていて爽快感さえ感じましたよ。
[2007/11/01 00:58] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
悠雅さま、こんにちは。こちらこそコメントとTBをありがとうございます。
この映画、『善き人のためのソナタ』のときに予告を観たんです。
観たい!と思わせる予告でしたよ、でも劇場には行けなかったのですが・・・。
長尺ですが、ずっと引き付けられて観ることができましたね。
こういう長くて面白い作品は、映画館で観たいですね~。
セバスチャン・コッホ、ナチス将校らしからぬいい人フェイスで素敵でした。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/11/01 17:04] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
イニスJrさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
劇場でご覧になったのですね。これは楽しめたと思います、私も劇場で観たかった・・・。
監督は、きっと女性が大好きなんでしょうね(笑)。
エリスみたいな逞しいヒロイン、私も大好きです!
『上海の伯爵夫人』と、う~~~~んそれは難しい選択かも。。
レジスタンスにも悪者はいた、というのはあまりない視点だと思うのですが、悪役の彼にもう一つ深みがなかったかも、ですね。
あの時代のことを知っている監督が、どうしても撮りたい題材だったらしいですね。
オランダって行ったことがないのですが、憧れの国です。
ではでは、また遊びにいらして下さいね!
[2007/11/01 17:10] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
fizz♪さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ええ~、一週間も!もうすっかり具合はいいのですか?
秋は寒暖の差が大きいので、体調崩しやすいですよね、お大事になさって下さいね。
「苦しみは終わらないの?」っていうエリスのセリフが効いていましたね。
美しくて強い女性、大好きです~。
ゆっくり休んで、またお話しましょう。ではでは~。
[2007/11/01 17:14] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さまー TBさせていただきました。
なかなか面白い,というか,最後まで飽きずに手に汗を握って観れましたよ。
もっとダークでシリアスで重厚な作品かと思いきや・・・。エンタメ作品としても完成度は高かったですね。
仰る通り,戦時下で,いわば一種の開き直りのように,強くしたたかに生き抜くヒロインには魅力を感じました。・・・それに美しい人ですねぇ。
セバスチャン・コッホもよかったです。
[2007/11/01 22:43] URL | なな #- [ 編集 ]
ななさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
私もとても面白く、飽きずに観ました。テンポがとってもよかったですね。
あの時代に、エリスのように強く生きられた女性もいたのですね。
本当に美しく、魅力的な女優さんでした。歌も上手だしー。
セバスチャン・コッホ、これからも活躍して欲しいですね!
ではでは、後ほどお伺いします~。
[2007/11/02 12:01] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こちらにもお邪魔します。
私の住む地域では上映されなかったので、先日DVDを借りてみました。
もっとシリアスな戦争ドラマだと思ったのですが、サスペンスが効いていてハラハラさせられる面白い映画でした。
主演の方はお綺麗でしたね~
凛とした美しさに魅せられました。
[2007/11/18 09:38] URL | 由香 #- [ 編集 ]
由香さま、こちらにもコメントとTBをありがとうございます。
この映画、意外に上映館が少なかったですよね。
私もちょっと足を伸ばせば観られたのですが、結局見逃してしまった一本でした。
でも、やっぱり映画館で観たかったですよね~。
こういう長めの映画は、劇場で観るのが一番ですね。
主演の女優さん、ホントに綺麗でした!
撮影後、セバスチャン・コッホと付き合っていたらしいのですが、、続いてるのかな?
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
[2007/11/18 13:54] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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