この世の果て、もしくは始まり~『ビハインド・ザ・サン』
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 BEHIND THE SUN


 1910年、ブラジル。二つの家族の間で繰り返される、土地を巡る終わりなき争い。
敵対する一家への報復殺人を義務として課せられた美しい青年の運命と心の葛藤を、
乾いた大地と青空の中に映し出す、幻想的な作品。監督は『セントラル・ステーション』
『モーターサイクル・ダイアリーズ』
の名匠ウォルター・サレス。主演は「ブラジルの宝石」
ことロドリゴ・サントロ。ややスローペースながら映像の美しさに息を呑み、残酷
で抽象的なラスト
に、言葉を失くして動けない。素晴らしい作品です。

 少年のモノローグから物語は始まる。「これは僕の物語」。薄闇の中を進む少年から、
画面は乾いた血染めのシャツが風にはためく様を映し出す。射殺された長男が着てい
たシャツ。
 何世代にも渡って繰り返されてきた殺人、血で血を洗うかのような報復。救いのな
に縛られ、死者が支配する家で生まれ育ち、殺人を犯した青年トーニョ(ロドリゴ・
サントロ)
に敵の長老は言う。「お前の人生を二つに裂く、恋も知らずに死ぬがいい」
なんというおぞましい呪いの言葉だろう。20歳まで恋も他の土地も知らず、ただ牛の
ように働き、生きてきたトーニョ。命の期限を知らされて初めて、彼は「外の世界」と向
き合おうとする。それは厳格で封建的な、父親への反抗も意味していた。
 初めて「自由」を感じたときの、トーニョの表情がいい。馬車の荷台から青空を見上げ、
口元に浮かぶ微笑。ロドリゴ・サントロのどこか哀愁を帯びた美しさが際立つ。

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 改めて強く感じたのは、人が何故、ファンタジーを必要とするのかということ。
名前のない末息子は、旅回りのサーカスの美しい女性クララ(フラヴィア・マルコ・アン
トニオ)
に出逢い、絵本を与えられ、すぐさまそのになる。厳しい労働と貧しい生活
の中で、空想の世界へと逃避するかのように。母を亡くし、継父と旅を続けるクララ
には、末息子にそれが必要だと理解していたのだろう。火を吹き、天空で回転し続け
るクララ自身も、トーニョにとっては現実離れした美しいファンタジーそのものだ。

 そして、この物語は時代設定も場所もストーリーも異にするけれど、どこかパンズ・
ラビリンス
を想起させる。少年の姿がラストと繋がるオープニング、絵本の中か
ら広がる空想の世界。命を賭けた戦い、兄弟の愛と自己犠牲強権的な父なるもの。
争いの中で犠牲になる、不幸な子どもたち。どの時代、どの国においても人間同士
の争いは絶えることなく、憎しみの連鎖を生んでいる事実。どこかでそれを断ち切
るためには、無垢なるものの血が流されなければならないのだろうか?

 黄色がかった、光と影の陰影が濃い映像も素晴らしい。ブラジルの乾いた大地、
青過ぎる空、浮かぶ白い雲。
魂の川が干上がったどこでもない場所から、最後に
トーニョが辿り着いたのはこの世の果てか、それともこの世界の始まりなのか。

 風が吹き、波はいつまでも打ち寄せる。

『ビハインド・ザ・サン』監督・脚本:ウォルター・サレス
        主演:ロドリゴ・サントロ/2001・ブラジル、仏、スイス)
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テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2007/10/24 11:44] | DVD/WOWOW | トラックバック(4) | コメント(8) |
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コメント
真紅さま~こんにちは!
ご覧になられましたかー(^O^)
>人が何故ファンタジーを必要とするのか・・
確かに、この前のパンズラビリンズも、この映画も、現在のその子の置かれている状況って、夢も希望も無い・・って感じなんですよね。
ファンタジーの世界でもなかったら、やってられない・・のかも・・・。

私は、ただ、ただ、ロドリゴサントロのカッコよさに、痺れっぱなしの映画でした~。あと風景が素晴らし良かったです。私のお気に入りの映画です☆
[2007/10/24 15:32] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます!
そうなんですよ~、やっと観ました。そして物凄く心揺さぶられました。
現実は残酷で厳しいですよね。そこに空想や恋の入り込む余地がないと、生きていくのが難しい状況の子どもたちは多いと思います。
ロドリゴはもちろん、素敵でした~。彼って顔が、本当に小さいですよね!
シェネルのときも、ニックよりちっさいんじゃ・・と思いましたもん。
私も、とってもお気に入りの映画となりました♪
ではでは、またお伺いします~。
[2007/10/24 19:13] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんばんは。
随分以前に観て、細かいところの記憶が曖昧ですが、
生まれ育った環境から抜け出た彼の静かな解放感と
ラストの後姿が強い印象になって残っています。
親の価値観の押し付けが、子供の世界を狭くする。自分はどうだっただろうと
自分の世界と対比して観ていた気がします。
もう1回観たくなりました。
[2007/10/25 00:30] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
今頃になっての鑑賞でしたが、ものすご~くいい映画ですね。
ブラジル映画だからなのか、あまり知られていないようなのが残念です。
これは何度でも観たい映画ですね。ロドリゴがね、また美しいんですよね。。哀しいほどに!
私も、自分に置き換えて観ていたかもしれません。どこにもいけない、縛られた存在の彼らを。
こんな映画に、たくさん出会いたいものです。
ではでは、またお伺いします!
[2007/10/25 12:28] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
お邪魔します~
いつもコメント&TBありがとうございます。
うれしいわ~過去記事に下さると・・。
ロドリゴはラブアクより魅力的に
感じましたわ。ちょっと小汚く・・失礼・・
になってもかっこよく見えるのって
元がいいのよね・・・・笑
ファンタジーと合わさった作品って
多いですよね。ギドク作品もそうだし・・。
バンズラビリンスは評判いいですよね。
DVDになったらチェックしたいわ
もちろん体調のいいときにね。
[2007/10/25 13:24] URL | みみこ #- [ 編集 ]
みみこさま、こんにちは。こちらこそコメント&TBをありがとうございます。
うふふふふ、うれしいですよね~。特に自分の好きな映画についてだと。。
ロドリゴ、何故出演作が少ないのかな?と思います。
とっても素敵な方なのに・・。英語も流暢ですよね。
実は角度によっては、梅宮アンナが入っているように見えてしまいました。。でも大好きです!
『パンズ・ラビリンス』、是非是非ご覧になっていただきたいです~。
物凄く深い物語ですよ。私も何度でも観たいと思います。
辛い場面も多いのですが・・・。
ではでは、またお伺いします。
[2007/10/25 17:03] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
今晩は。ロドリゴが海に出会うラストはとても印象深いシーン。でも、こんな風に家と家との確執という因習に囚われる時代ってあったんですね。
ロドリゴはこの年だったのかな「美しい50人」に選ばれてましたよね。それからハリウッドへ…。ハリウッドでは少し存在弱いですよね。
[2007/10/25 22:21] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
この映画、本当に印象的でした。ラストも、違う道を行くトーニョ、高い波。。素晴らしかったです。
昨年か、一昨年かにピープル誌の『Sexiest man alive』のベスト10内にも選ばれていたような記憶があります。
ジョージ・クルーニーが一位だったような?
もっと活躍してもらいたい俳優さんですね!美しすぎるのでしょうか?マジで・・。
ではでは、またです~。
[2007/10/25 22:38] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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[2007/10/24 15:29] ポコアポコヤ
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[2007/10/25 00:15] 悠雅的生活
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ビハインド・ザ・サン  (2001  ブラジル)監督:ウォルター・サレス出演:ロドリゴ・サントロ(トーニョ)   ラヴィ=ラモス・タセル( パクー)   ホセ・デュモント   リタ・アッセマニー  
[2007/10/25 13:26] ちょっとお話
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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