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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

現実と空想を繋ぐもの~『パンズ・ラビリンス』その2

20071021002756.jpg

 2007年も残すところあと2ヶ月余り。たくさんの映画を観てきたが、今年のベスト
だと思える作品に出会えた。パンズ・ラビリンス。メキシコ三羽烏のひとり、
ギレルモ・デル・トロによるダーク・ファンタジー。映像と美術、音楽の類い稀なる
融合によって、残酷で暗いストーリーでありながらも衝撃的な感動を与えてくれる
激震映画だ。初見時の感想はこちら⇒

 しかし、あまりにも痛々しい描写と、バッドエンドともハッピー・エンドとも取れ
るラストシーン、主人公の運命に対する捉え方の違いなどから「期待外れ」「二度と観た
くない」
などの意見も目にする。もちろん、私だって痛いのも気持ち悪いのも大嫌い。
しかし、この映画は不思議と、そういった身体感覚を超えて惹きつけられてしまった。
鑑賞後、自分の中で整理がつかないままに「今年のベスト」として感じたままを書いた
記事
をアップしたけれど、もやもやは晴れない。どうしてこんなにも毀誉褒貶の激し
い、この映画に惹きつけられるのか。それが知りたくて、『キングダム/見えざる敵』
ペンディングにしての再見。解釈する、読み解くというよりは、やはり感じたままの
感想になってしまうけれど、もう一度書き留めておきたい。

★以下、ネタバレ&長文失礼します★

20071021002907.jpg

 初見時の印象よりも、映像もストーリーも随分暗いことに驚いた。だがそれ故に、
ラストシーンの光り輝く美しさが心に残るのかもしれない。雨が降るシーンも多い。
これはラスト近く、迷宮の入り口で満月を水溜りに映すためだったのか、と思ったり
もした。

 気になっていたのは、オフェリアと母カルメン、メルセデスの関係。身重のカルメ
ンの意識がお腹の子と再婚相手であるビダル大尉に向いていたのは仕方ないにしても、
カルメンよりはメルセデスのほうに「母性」を感じた。それは静かな女性メルセデスの、
エプロンの下にナイフを隠し持つような強さ、弟ペドロに対するの強さでもある。
ひょとして、ペドロはメルセデスの弟でなく息子なのかも・・などという思いも掠める。
彼女が出産の大変さを知っていること、カルメンの出産に立ち会っていることも、
何らかの経験を感じさせる。「ここを出たい」と泣くオフェリアを助けようとするのは
カルメンでなくメルセデスであり、オフェリアに子守唄を歌うのもメルセデスなのだ。

 オフェリアの持つ白紙の本が、子宮の形で血に染まる場面は強烈な印象を残す。「少女
の初潮の予感」
と解釈されている方も多いけれど、私はオフェリアの「出産への恐怖」
より強く感じた。これは私自身が妊娠・出産にずっと恐怖感を抱いていたせいもある
と思うけれど、「一生産まないわ」と泣くオフェリアに、共感や愛情に似た「懐かしさ」
を感じてしまった。
 初潮も出産も女性が担う重要な役割の一つであり、大人への成長の為に避けては通
れない。王女のままで永遠の命を得ることは、大尉(ファシズム)の支配する現実世界
生き続けるよりも、オフェリアにとっては幸せだったのか。最後に開いた白い花、空想
世界では王国へ帰還し、モアナ王女となったオフェリアのが、現実世界に輪廻した
ような・・。

 哀切な子守唄の旋律が流れるエンドロール。深い感動と余韻の中で、じんわりと涙
が滲む。無垢なるものが生まれるとき、痛みが伴い、血が流されなければならない。
子どもは本能的に、現実の厳しさや死の恐怖を知っているのかもしれない、だから
ファンタジーというものが、この騒々しい世界には必要不可欠なのだろう。

 久々に、考えることを止められない映画に出会った気がする。毎週公開される新作
や、続々とレンタルされるDVDをただ消費するように観続けるだけでなく、こうした
記憶に残る作品に出会い、じっくりと考えを巡らせることに改めて喜びを感じてしま
った。
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テーマ : パンズ・ラビリンス
ジャンル : 映画

2007-10-21 : 映画 : コメント : 12 : トラックバック : 3
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パンズ・ラビリンス
1944年内戦下のスペイン。優しかった父親を亡くし、美しい母親とともに母の再婚相手ヴィダル大尉のもとへ身を寄せることになる読書が大好きな少女オフェリア。大尉のもとへ向かう途中の森でオフェリアは不思議なナナフシと出会う。冷酷な大尉を好きになれないオフェリアのも
2007-10-22 11:33 : 龍眼日記 Longan Diary
映画「パンズ・ラビリンス」
原題:Pan's Labyrinthこの映画での"PG-12"の意味は、成人保護者同伴で小学生を映画館に連れて行って、是非観せてあげてくださいという意味に違いない・・教育指導的お伽噺・・ オフェリア(イバナ・バケロ)は、身重の母カルメン(アリアドナ・ヒル)に連れられ
2007-11-01 02:24 : 茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~
パンズ・ラビリンス
2008年初の私の劇場鑑賞映画。隣県のミニシアターで公開されているとの情報を得て,行ってまいりました,山越えて1時間かけて。(←執念)世間で絶賛されている作品,という知識だけを頼りに,いつのものように,何の予備知識も仕入れずに,いきなり観てきました。
2008-01-06 21:23 : 虎猫の気まぐれシネマ日記
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非公開コメント

こんにちは♪
私もこの作品は、実は今のところ今年一番です。
昨晩のスマステで、稲垣吾郎さんも同じ事を言ってましたね・・・

痛いのがかなぁり苦手な私には見ていて辛くて辛くて、
だから見たその日の感想には「二度と見たくない」と書きました。
現に、又見る気力は正直言って無いんだけど、でも、一番心に残ってるんです。
色んな意味でとてもとても深く突き刺さりました。
あのラストのオフェリア、現実のオフェリアと彼女の楽園にたどり着いたオフェリアを思い出すと、今でも胸が締め付けられてしまいます・・・・
2007-10-21 15:26 : non URL : 編集
nonさま、こんにちは!コメントありがとうございます。いつもTBのみで失礼しております。
ええっ、ゴローちゃんがそんなうれしい事を!
私、スマステは滅多に観ないのですが、それは観たかったな~。。
実はnonさま初め、重くてダメだった・・・と感想書かれている方が多かったんですよ。
でも、そういう方でも深く心に残る作品なのですよね。。
本当に観ることができてよかったと思っています。二回も観てしまいました!
オフェリア役の子役さんの演技も素晴らしかったですね。ラストの表情なんか、見事でした。
あの音楽も、胸を締め付けられますね。
お互い、今年のベストってことで♪ うれしいな~。
ではでは、またお伺いします~。
2007-10-21 17:44 : 真紅 URL : 編集
遅くなりました!
真紅さん、こんにちは。
私・・・TB&コメントをお入れしたとばかり思っていたのですがされていませんでしたー。
ごめんなさい!!
(もしや別の記事にTB&コメしてしまったとか??)
いやいやいや、最近老化現象がかなり進んでしまったみたいでご迷惑をおかけしますー。
ところでこの作品はかなり気に入りました。
残酷な現実と不思議なラビリンスの錯誤する美しくも力強い作品でした。
ラビリンスの住人たちの造作や登場人物たちの衣装にも目が釘付けでした。
2007-10-22 11:37 : sabunori URL : 編集
sabunoriさま、こんにちは~。
いえいえ、ちゃんとコメント&TBはいただいております!
この記事は、一つの記事では書き足りない気がしたので、「その2」としてアップいたしました。
なんかお気を遣わせてしまい申し訳ありません~!!
練られたストーリーももちろんですが、美術や衣装が一級品で、素晴らしい映像でしたね。
本当にグレイト!な映画でした。
またお伺いしますね~、ではでは!
2007-10-22 13:47 : 真紅 URL : 編集
真紅さん

こちらに書いて申し訳ありませんが、
3周年のお祝いコメントどうもありがとうございました。
いやーこれほんと気に入られてるんですね!
自分ももう一度見たいな~って思ってるんですがホント書かれtるように観たい映画
多くって消費した見方
してるのかもしれません自分;;
ところで2回観た真紅さんにちょっと伺いたい
ことがあるんですが、この映画、オフェリア
以外の子供ってどれくらい出てきましたっけ?
自分の記憶ではほとんどあの村にいなかった
ような・・・
オフェリアはものすごく不幸な女の子の設定
だったんですけど、考えたら他の農民の子たちも不幸だったりするわけで、敢えて同年代の
子はほかに登場させなかったのかな?って
ちょっと思ったもので^^ヘンなこと書いて
すいません!
2007-10-23 17:46 : kazupon URL : 編集
kazuponさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
3周年、ホントにおめでとうございました!これからも楽しみにしておりますね。

さて。そうなんです、この映画物凄~くよかったです。
私も、観たい映画がたくさんあって、考えるのがなかなか追いついてない状態です。
ちょっと前は、それこそ『ブロークバック・マウンテン』なんか半年くらいず~っと考えてました。
記憶に残る映画は自然と残ると思うのですが、記録に残しておきたい、って気持ちもありますよね。
だから私もブログはできるだけ続けたいと思っています。

で、お尋ねの件ですが、確かに劇中、子どもはオフェリアだけしか登場しなかったと思います。
実際は、レジスタンスの中に少年兵とかいたのでしょうね。
オフェリアは、当時の不幸な子どもたちを代表して描かれているというコメントを別記事にいただいたのですが、私もそう思います。
敢えて、他の子どもは登場させなかったのではないでしょうか。
靴だけはね、たくさんでてきましたけどね。
ではでは、またお伺いします~。
2007-10-23 21:56 : 真紅 URL : 編集
真紅さま こんばんは
ラッキーなことに,劇場で観ることができました。
ものすごく深い作品でしたね。
何か・・・登場人物とか,出てくるものすべてが,暗喩的に用いられていたのかもしれませんね。
私はあのビダル大尉が怖くて仕方がなかったのですけど,彼はまさに戦争や人間の残酷さの象徴だったから,あんなに恐怖を感じたのですね。
母カルメンからは,「女の弱さや哀しさ」を,メルセデスからは真紅さまのご指摘のとおり「強靭な母性」を感じました。
・・・この監督さん,天才かも。
2008-01-06 21:32 : なな URL : 編集
ななさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
おお、我がベスト作品を劇場で・・・! この映画、いまでも全国で上映されているのですね。
北陸の方でもこれから上映、と聞きました。
劇場でご覧になれて本当によかったですね!素晴らしい作品だったでしょう?
ビダル大尉、怖かったですね。。残酷描写も多く(PG-12ですし)、苦手な方も多いようですがそこも含めて私はずっしり来ました。
監督、確かに物凄い才能ですよね。。他の作品は知らないのですが、観てみたいと思いました。
ではでは、後ほどお伺いします~。
2008-01-07 01:20 : 真紅 URL : 編集
真紅さま
再びこんばんは
この監督の「デビルズ・バックボーン」も完成度が高いですよ!ホラーですけど,切ないヒューマンドラマです。内戦のことも背景に入っていたような。きっとこれもはまりますよ。
2008-01-07 03:29 : なな URL : 編集
ななさま、再びのコメントありがとうございます!
ホラーですか・・。基本的にホラーは観ないんですよ。と言うか、怖くて観られないんです(泣)。
でも、ななさまのオススメならば大丈夫かな? いつか挑戦してみますね!
ご丁寧にありがとうございました。ではでは~。
2008-01-07 10:11 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、お加減はいかがですか?
やっぱり風邪なのでしょうか?
お母さんとしてはゆっくり休んでもいられないでしょうが、そこをなんとか休んで、どうぞお大事にしてくださいね。

そんな時に申し訳ないのですが、私もやっと観たので、TBさせてくださいませ。
(今夜はエラー続きですが、また気長に何度かトライさせて頂きますね)
劇場鑑賞ならどんなにか美しく迫力だったでしょうか!
なるほど言われてみれば母親よりメルセデスに母性が感じられましたね。
こういう映画を観られた時は幸せに感じるけれど、過去の痛ましい歴史によって生まれた作品なのだということも忘れてはいけないんですね。
2008-05-08 00:30 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは~。コメントありがとうございます!
お久しぶりですね♪ TBは残念ですが、こちらからトライしてみますね☆
そうなんです、風邪・・・。久しぶりですがこれは間違いなく風邪だと思います。
GW、遊んであげられなくて子に悪かったです・・・。ごめんね~って。
お気遣い、感謝です♪

さて。この映画ご覧になったのですね~、うれしいです~。
私はシネコンで観たので、映像と音響が素晴らしかったですよ!
圧倒されるとは、あのことだと思います。
でも、素晴らしい映画に画面の大きさなんて関係ないんですよ、本当は。
スペイン内戦についてはほとんど知識ゼロなんですけれども、こういう作品を観ることで世界の成り立ちに気付くことができる、素晴らしいですね。
感謝、感謝です。
ではでは、後ほどお伺いします~。
2008-05-08 09:44 : 真紅 URL : 編集
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