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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

東洋的自然(世界)観で描かれる米映画の傑作~ブロークバック・マウンテン#10

 最後の鑑賞になるかも、と思いつつ5回目の登山。映画の日でもレディースディ
でもない平日。なのにシネコンのチケットカウンターはまさしく「老若男女」の
長蛇の列! 世間のダ・ヴィンチブームを実感する。BBMは小さめのスクリーン
で、場内は7人。いつものように前方3列目真ん中をGET。

 夜明け、ん? 風の音が聴こえにくい。トラックから降り立つ一人のカウボーイ、
ん? 画面が暗い!・・・嫌な予感
 
 残念ながら予感は的中、音響も悪く画面も暗く、テントシーンなんて暗くて何や
ってんのか??状態。BBM=「風の音を聴く、映画」だと思っている私としては、
この音響の悪さは非常に残念。やはりDTSはダテじゃない、と痛感。前回は聴き取れ
たジャックの「Come on」も全く聴こえなかったし、何より効果音(自然の音を含む)
もBGMもない状態では場内の空調の音が耳について仕方がなかった。まぁ、それも言
うなれば「風の音」には違いないのだけれど。。

 イニスがアギーレの事務所前で独りタバコを吸っている場面。吸殻を指で弾いて
から丸め、ポケットにしまう仕草。ここが初見時から非常に気になっていた。1963年
のワイオミングで、吸殻を投げ捨てて踏み消さないカウボーイがいたとは・・・。
(イニスのアパート前でタバコを吸っていたジャックは思いっきり投げ捨てて踏み消
している)これはイニスの「繊細さ」を現すアン・リーの演出なのだろうか。
それともいわゆる「シケモク」、イニスの貧しさを現す演出なのかもしれない。

 自然を使った表現。ジャック=風(の音)、はBBM#3で言及したが、一番印象的
な「」の場面を忘れていた。下山して、最初の別れの場面。歩き始めたイニスが身
体に異変を感じて座り込むと、そこに強風が吹き荒ぶ。嘔吐を伴うほどの別れの辛さ、
ジャックへのイニスの強い想いが、この風に表現されているのだろう。
 もう一つは、BBMでの。アギーレが裸でじゃれあう二人を見て、ジャックのも
とに現れた直後、暗雲立ち込め雹が降る。この嵐はアギーレの怒りを現しているのだ
ろう、未見だが『アギーレ・神の怒り』という映画がある。
 その嵐によって羊が他の群れと混ざってしまい、ようやく選別しての帰り道。ジャ
ックがハーモニカを吹く直前の、空も雲も薄ピンク色に染まった「マジック・アワー」。
この美しいシーンも初見から非常に印象的だった。一日のうち、ほんの数十分間しか
続かないけれど最も美しい
この「魔法の時間」で、二人のBBMでの時間が終わりを
告げようとしていることを暗示しているかのようだ。
 BBMはセリフが非常に少なく、ストーリー展開や感情表現も言葉によるものは極力
抑えられている。にもかかわらず観るものに強く余韻を残すのは、この物語の第三の
主役である「自然」が、静謐でありながら壮大に雄弁に、主人公達の心情と運命を描き
出しているために他ならないのではないか。アン・リーの東洋的な自然(世界)観が
垣間見られる粛々とした演出に、改めて敬服してしまう


 場面のつなぎの巧みさも様々語られているが、面白いのは「Honey」の場面。ジャック
からのハガキを見つけたアルマがチラシの下にハガキを隠す(置く?)が、そのチラシ
の「Honey」の文字が大写しになった直後、ジャックがラリーンに「Honey,」と呼びか
ける。細かいところだけれど、本当に細部まで丁寧に作られているなと思わせるシーン
だ。

 鑑賞も5回目ともなると、字幕もほとんど読まず、画面だけに集中できるため細かい
ところも見えてくる。アギーレの事務所でイニスとジャックが立っているとき、イニス
には窓からの日の光が当たり、ジャックは暗いところに立っている。これも何かの暗示
だろうか? そして今回、ついに気付いてしまった、最後の逢瀬の場面でイニスの顔に
止まっているという噂の「ハエ」に・・。


 音響が悪い、画面が暗いと文句をたれたが、全国的にほとんど上映終了している中、
公開から2ヶ月以上もBBMを大きなスクリーンで観られたことに感謝したい。BBM
公式HPによると、6月、7月にかけても所々で上映される模様。DVD発売まで、日本の
どこかでBBMが上映されているといいな。私もまだBBMキャンプ継続中、#11に
続きます。
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テーマ : ブロークバック・マウンテン
ジャンル : 映画

2006-05-26 : BROKEBACK MOUNTAIN : コメント : 18 : トラックバック : 0
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非公開コメント

真紅さん、こんばんは。
映画館で働いている身としては、耳の痛い今日の記事でございます・・・。空調の音って気になりだすと本当に耳についてしまいますよね。どうにかできないのかなあといつも思います。うちの映画館もそうなんです。ううむ。
わたしがBBMを6回観たミニシアターでは空調の音や画面の明るさなどの問題はありませんでしたが、音が飛んだり、非常口の誘導灯が煌々と点いていたり、フィルムのふちの色が画面に映り込んだり(これは通常ではほとんど起こらないことなのですが)と、あまりよい環境ではありませんでした。しかも音とびは‘まどろみの抱擁’あたりから最後まで断続的に続いたので,“これはちょっと・・・”と思ってスタッフの方に改善をおねがいしたもんでした。
以上、BBM本編には全然関係ない話で申し訳ありません☆ では今日はこれにて。
2006-05-26 20:00 : かいろ URL : 編集
かいろさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ちょっと配慮のない記事でしたか。ごめんなさいね。。
私が異常に耳を澄ましていただけかもしれません。今まで空調の音なんて気になったことありませんでした。
でも、劇場によってコンディションの違いというのは確かにあるようですね。
映画を観に行って、音が出なかったり、途中で全く聴こえなくなったりした経験が3回あります。
これって多いほうなんでしょうか??
いろいろ大変なこともあるかと思いますが、お仕事頑張って下さいね。
・・ってコメントレスもエントリと関係ない話になってしまいました、お許し下さい。
ではでは。また遊びにいらして下さい。ありがとうございました。
2006-05-26 20:13 : 真紅 URL : 編集
今日はこれにて、なんて書いておいてまたお邪魔します~。
“配慮のない”なんてとんでもありません!!!お客様なのですから、ベストの状態で映画を観たいというのは当然のお気持ちです!わたしも別の映画館に行って、‘ちょっと~(怒)’ということがけっこうありますし。この前「ニューシネマパラダイス」を観たときは途中で5分間ぐらい中断してました。わりとどこでもトラブルはあるものなのかもしれませんね、なんつって。
それではキャンプお気張りください(?) #11の記事を楽しみにしております♪
2006-05-26 21:25 : かいろ URL : 編集
こんばんわ。そうかHONEYはそこにつながっていましたか?新聞の字は気になったのですが、英語弱いのでせりふは気づきませんでした。
ピンク色の空も気がつきませんでした。次回は見てみます。
最後の虫気になりだすと気になりますよね~。深刻な場面だけに。
2006-05-26 23:28 : しじみ URL : 編集
かいろさん、しじみさん、こんにちは。コメントありがとうございます。まとめレスさせて下さいね。

☆かいろさん
 
 こちらこそ気を遣っていただいてすみません。『ニューシネマパラダイス』リバイバル上映だったのですね、いいな~。
#11、近々アップしますね。#10を書いていたらすごく長くなったので、分割しました。まだ全然まとめてないんですけど。。
また覗いてみて下さい、かいろさんの記事も楽しみにしています。ありがとうございました。

☆しじみさん

「Honey」はジャックが青いパーカを探す場面です。注意して聴いてみて下さいね。
ハエ、最後の逢瀬のときブンブン飛んでましたね。イニスに止まった人(?)はイニスが怒ってジャックを押したら、次アップになった時には逃げてました(笑)
DVDでは処理されて消されてるかもしれないですね。
しじみさんは「次回」があるのですね、いいな~。観られたらまた記事書いて下さいね。
ではでは、また遊びにいらして下さい。ありがとうございました。
2006-05-27 00:10 : 真紅 URL : 編集
おはようございます。真紅さん。
確かに映画館は千差万別。好きな映画はいい映画館で観たいモノです。
私が住んでる地域ではすでに上映終了しているので、4度しか観られなかったのですが、4度観た映画館は広島が誇るこだわりのミニ・シアターが経営している最新館だったので、幸せでした。
ロビーには写真と鞍が飾ってあったり、「カサノバ」の宣伝がクローズアップしてあったりで良かったです。
しかしBBMのDVDを早く発売してくれないと、すでに記憶の怪しい部分がちらほら…うう、哀しい!
2006-05-27 06:05 : ライチ茶 URL : 編集
ライチ茶さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
広島にお住まいなのですね。私も少しだけ住んでいたことがあります。懐かしいです。
DVD、本当に待ち遠しいですね~。本国ではまだ公開中に発売されたらしいですし・・。
BBMについてもう少し書きたいと思っていますので、よろしければお付き合い下さいね。
またお話して下さい。ありがとうございました。
2006-05-27 09:21 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、おはようございます。初めておじゃまいたします。
今日は、先日、びあんこさんのお宅で「ジャックは我儘じゃない」説にご賛同いただいたお礼に伺いました。その節は本当にありがとうございました。ものすごい間の抜けた遅い訪問になってしまい、今更、と思われるかもしれませんが、一言なりとお礼を申し上げたく恥を忍んで参りました。
もう、ほんとに嬉しかったです。更に同志とまでおっしゃっていただいて、身に余る光栄です。BBM初見からずっと心が何かに覆われた感覚で過ごしておりましたので、こんな幸せな気分になったのは久々でした。これからもジャック共々よろしくお願いします・・・って言い方が既に図々しいでしょうか。真紅さんとの「ベストカップル争奪戦」は激しく不利な気がして気後れしてしまいそうですが、「全力投球」の精神で頑張ります!
びあんこさんのお宅でも超激遅コメントさせていただいておりまして、これからお婆様への記事とBBM#5にコメントさせていただこうと思っています。お時間ございます時にでもご一読いただければ倖いです。
ところで、沢木耕太郎氏が朝日新聞にBBMについて書かれた記事はご覧になりましたか?

2006-05-28 07:13 : 沙斗魔 URL : 編集
沙斗魔さん、いらっしゃいませ!拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます。お待ちしておりましたよ(笑)
びあんこさん宅でのコメントの件、ご丁寧にありがとうございます。沙斗魔さんのあのコメントはジャックへの愛に溢れ、ブログの1エントリにできるくらいのボリュームと内容でした。
当方こそ勝手に同志と呼ばせていただきましたが、今後ともよろしくお願いします。
さて沢木氏の記事ですが、残念ながら読めておりません。ネットで探して少しだけ内容を知ることはできましたが・・。
『確かに、これは「愛」という言葉を口にできなかった者たちの物語である。しかし同時に、その「愛」の記憶だけで生きていける者と、それだけでは生きていけない者との「別れ」の物語でもあるのだ。』
いつか全文を読んでみたいと思っています。映画評論集にでも入ればよいのですが。
では、また遊びに来て下さいね。ありがとうございました。
2006-05-28 18:50 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、おはようございます。
BBMの東洋的自然観、素晴らしいですね。コメントが遅れて失礼しました。
雹が降ったのはアギーレの怒り…うーむ、深い。マジックアワーの空の色といい、またBBMを見たくなりました。

沙斗魔さんご紹介の沢木氏の文章、鋭いですね。「愛」の記憶だけで生きていけるのはイニスで、それだけじゃダメなのがジャック。BBMはその「別れ」の物語。厳しいけどその通りかも。
2006-05-29 06:40 : びあんこ URL : 編集
びあんこさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「遅れた」なんて気になさらないで下さいね。いつでも、どの記事にでもコメントしていただいて結構ですよ。お待ちしております。
東洋的自然観ですが、この記事ちょっと言葉足らずだったかなと反省しております。また機会があれば新しく記事にするかもしれません。
BBMを登場人物の内面から語る記事は多く目にするのですが、風を始めとして自然からこの映画にアプローチしようとする記事はあまり見かけませんので、頑張って書きたいと思います。
何度も書くようですが自然はこの映画の第三の主役だと思いますし、自然のパワー(force of natureですね)がこの映画に果たしている役割は少なくないと思うんです。
びあんこさんはまた観に行かれるのですね。記事楽しみにしています。拙宅もまた覗いてみて下さいね。
ありがとうございました。
2006-05-29 09:23 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、おはようございます。
本日BBM(158)にて、こちらの記事を紹介させていただきました。URLを貼っておきますのでよろしくお願いします。荒天はアギーレの怒り、というところです。

ではでは、蒸し暑い日が続きますが、お元気で。
2006-07-14 08:04 : びあんこ URL : 編集
びあんこさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
暑くて早くもバテ気味です。もうヘロヘロ。でもこれから夏本番なんですよね~。
ご紹介、ありがとうございます。これから伺いますね。また遊びにいらして下さいませ。ではでは。。
2006-07-14 09:10 : 真紅 URL : 編集
さすがに「ハニー」には気が付かなかった(唖然)。
次回観る時には、気をつけて観てみるですよ。

アギーレという名前を聞いた時、
「あれ?神の怒りの?」と思いましたが、
やっぱり同じ事を思った人がいたんだなぁぁ(笑)。
2006-10-24 00:15 : カゴメ URL : 編集
カゴメさま
この作品は何回も観ると、様々な伏線や対の場面、自然に語らせる手法に気付きます。
私ももちろん、初見では「Honey」には気付きませんでしたよ。
是非是非耳を澄まして再見してみて下さいませ。
『アギーレ・神の怒り』は未見ですが、タイトルは何故か有名ですよね。

たくさんのコメント、本当にありがとうございました。
また遊びにいらして下さいね。私ももちろん、伺いますので。ではでは。。
2006-10-24 09:26 : 真紅 URL : 編集
初めてコメント差し上げます。
先日は、こちらでご挨拶していないのに、しじみさん宅でいきなりお名前を出したりして、大変失礼いたしました。
ROM専門でしたが、ず~っと前から拝読しておりました。素通りでごめんなさい。
これからも充実&切れ味ある記事を楽しみに、お邪魔するつもりです。
取り急ぎ、これまでのお礼とご挨拶まで。
※ どこにコメントしようかと思いましたが、やはり例の件に関連するこちらにしました。
2006-11-29 18:31 : みつ豆 URL : 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2006-11-29 18:42 : : 編集
みつ豆さま、こんにちは。こちらでは初めまして!拙ブログにお越しいただきありがとうございます。
コメントも、お気遣いありがとうございました。
読んでいただいていたのですね、ありがとうございます。
アクセス数などわからないのですが、読むだけ、という方もまだいらっしゃるのでしょうか?
コメントなど、お気楽に・・と私は思っているのですが、書き込むのは何かきっかけが必要かも?しれませんね。
今回は本当にうれしかったです。しじみさんのお宅で自分の名前を発見したときもびっくりしつつ、うれしかったんですよ!
こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いいたしますね。ありがとうございました。
2006-11-29 22:06 : 真紅 URL : 編集
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