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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

生への渇望~『マグダレンの祈り』

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 THE MAGDALENE SISTERS


 1964年、アイルランド。三人の少女が、マグダレン修道院にやってくる。従兄弟
にレイプされたマーガレット(アンヌ=マリー・ダフ)、美貌の孤児バーナデット(ノラ
=ジェーン・ヌーン)
、未婚で出産したローズ(ドロシー・ダフィ)。彼女たちは性的に
堕落した罪深い存在と貶められ、家族や保護者から疎まれ捨てられたのだ。アイル
ランドで実在し、1996年(!)に閉鎖されるまで、三万人以上の少女たちを収容した
マグダレン修道院の非人道的実態を描く力作。監督・脚本スコットランドの名優、
マイ・ネーム・イズ・ジョーピーター・ミュラン。2002年のヴェネチア国際映画祭
において、金獅子賞(最高賞)を受賞している。

 ほんの10年ほど前までこのような「人権蹂躙施設」が欧州に実在していたこと自体に
驚かされるが、少女期を過ぎ、最早「老人」としか見えない女性らの働く姿が最も衝撃的
だった。彼女たちは一体どれくらいの期間、この修道院とは名ばかりの、刑務所より
も酷い「生き地獄」の中にいたのか。身体的にも精神的にも自由を奪われ、神の名の下に
過酷な労働(しかも無報酬!)を強いられた女性たち。息をするのも忘れてしまうほどの
怒りが、身体中に渦巻くのがわかる。

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ヴェラ・ドレイクにしてもそうだけれど、こういう題材の映画を観るといつも「何故、
女だけが?」
という思いに囚われてしまう。マーガレットをレイプした従兄弟にはお咎め
なしなのか?
バーナデットをからかった男の子たちは罰を受けたのか?ローズの子の
父親は、一体何処で何をしているのだ!脱走したウーナを殴る父(ピーター・ミュラン
が演じている)
にとって、娘とは一体、何なのだ。

 しかしこの作品はただ単に、重い題材の実話を映画化しただけの告発映画ではない
三人の少女たちをそれぞれ異なるキャラクターに設定し、彼女たちの微妙な心の揺れ
や外の世界への思い
を、繊細に描いて飽きさせない。バーナデットの画策する逃亡
成功するのか?ローズは子に再会できるのか。細かなエピソードを説得力のあるもの
に成し得た女優たちの熱演も素晴らしい。とりわけ「性悪女」バーナデットを演じたノラ
=ジェーン・ヌーン
シェリリン・フェンを彷彿させる美貌と目ヂカラで、映画初主演
とは思えない力演を見せてくれる。ラストの一瞬まで、彼女の眼光が衰えることはな
い。それは自由と生への、貪欲なまでの渇望にほかならないだろう。

 修道院長を演じたジェラルディン・マクイーワン神父の生贄にされる少女クリス
ピーナ
を演じたアイリーン・ウォルシュといった脇役も、それぞれ強烈な印象を残す。
クリスマスの夜、『聖メリーの鐘』イングリッド・バーグマンを見つめるシスターを、
白け切ったまなざしで見つめる少女たち。聖なるものとは、悔悛とは、そもそも罪と
は、何なのだ?


 DVDの特典映像には、、『マグダレン修道院の真実』というTVドキュメンタリーも収録
されている。実際にあの場所で生活を強いられた女性たちの言葉は重く、怒りに満ち
ている。それでも耳を傾けるべき告白であることに疑いはない。

『マグダレンの祈り』監督・脚本:ピーター・ミュラン/2002・UK、アイルランド/
  主演:ノラ=ジェーン・ヌーン、アンヌ=マリー・ダフ、ドロシー・ダフィ)
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テーマ : 映画感想
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2007-09-13 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 13 : トラックバック : 1
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マグダレンの祈り
タイトル: マグダレンの祈り The Magdalene Sisters イギリス/アイルランド 2002年ノラ=ジェーン・ヌーン、アンヌ=マリー・ダフ、ドロシー・ダフィ、アイリーン・ウォルシュ、ジェラルディン・マクイーワン【ストーリー】1964年、アイルランド
2007-09-26 20:13 : 映画を観よう
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非公開コメント

真紅さん★こんにちは。
この映画を取り上げてくださるなんて、さすが真紅さん!と思いながら拝見いたしました。
この映画が金獅子賞に決まったとき、バチカンが抗議したんですよね。そして各地に上映拒否を呼びかけたりもしました(さすがにそれはすぐに取り消しましたが)。私はへそ曲がりだから、そういうニュースを聞くと、それまで全然興味がなかったテーマであっても、急にその作品を見に行きたくなるのです。それで遠くの映画館まで見に行きました。日本でヒットしたとは言えなかったですが、当時見た人の評価はかなり高かったです。「崇高な教えを説いても宗教は所詮、徹底した男尊女卑が根底にある」とつくづく感じ、やりきれない思いにもなりました。
小説『朗読者』も、出た当時は、某有名ユダヤ人団体がその内容(読者の同情を誘うハンナの描き方)に対して「強い不快感」を表明しました。だから私は、『朗読者』はおそらく映画化されないのでは・・・と思っていたんです。
『朗読者』も今回ご紹介のこの映画も、映像化されることによって多くの人々に「こういう歴史の中でわずかな力であっても闘いながら生きた人間(女性)がいたのだ」と、その内容を知ってもらえることはとても大きな意味がありますね。
おじゃましました☆
2007-09-13 22:11 : メグ URL : 編集
メグさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
バチカンから抗議があったのですか!そういう物議を醸すであろうことは想像に難くない題材の映画ですが、実際に抗議があったとは知りませんでした。
思えば、2002年というと私はワールドカップのことしか頭になかったかもしれません(恥)。
最近『ヴィラ・ドレイク』を観る機会があり、同じような題材の作品を観てみようと思ったのです。
ただ、この映画に扱われている問題と、「宗教」全体を括るのは危険だと思います。
私は信仰を持っていませんが、問題は宗教そのものでなく、アイルランド国全体が教会の唱える「倫理道徳の絶対的基準の下」にあったことだと思うのです。

確かに、何かを告発すれば必ず抗議や反発が起こりますね。
それでも、真実を物語という箱に詰めて、私たちに届けてくれるのが映画の一つの役割だと思うのです。
だから映画は素晴らしいのだし、後世に残る作品はたとえどんなに批判があったとしても残っていくものだと思います。
『朗読者』、どんな作品になるか本当に楽しみですね。大いに期待して待ちたいと思います。
ではでは。
2007-09-14 00:03 : 真紅 URL : 編集
真紅さま,「マグダレンの祈り」ご覧になったのですね。私は,実はこれは映画としては未見なのですが,(レンタルショップにもないんですよ~)ノベライズされた小説を読んだんです。それで,「ヴェラ・ドレイク」と似てるなあ・・・と思ったわけです。
小説を読んでいるだけでも,こみあげてくる怒りを抑えきれませんでしたが,映像となるともっと胸に迫るものがあるでしょうね。
アイルランドという国は,カトリックの教えに縛られるあまりに起こる悲劇というか,間違いというか,絶対,本来のキリスト教が目指した「愛」とは違う方向にいってしまっている部分があると思います。「司祭」という映画も,同性愛者の神父の苦悩を綴って,バチカンから抗議されましたよね。
この映画も,ぜひそのうち映像で観てみたいです。
2007-09-14 14:13 : なな URL : 編集
ななさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうなんです、題材としては『ヴェラ・ドレイク』と重なる部分があるのですが、実話なだけに衝撃度はこちらのほうが凄いです。
この映画を観たことで、今まで何気なく観てきた映画の中のアイルランドという国について考えてしまいました。
例えば『プルートで朝食を』、キトゥンの父も神父ですし、彼は養子に出されていますよね。
キトゥンの強く明るいキャラクターによって、そういうことは深く考えずに観ていたのですが、背景にはこんな厳しい事実があるということ・・。
重いですね。
『司祭』は未見なのですが、必ず観たいと思います。
ななさまも、いつか『マグダレン~』ご覧になれるといいのですが・・。暗く重い映画ですが、作品として素晴らしいと思いました。
ではでは、またお話しましょう!
2007-09-14 14:58 : 真紅 URL : 編集
原作&映画、共に観ました。
100人いれば100通りの考えと解釈があって当然の世の中ですが、宗教の世界はいまあまりにも混沌としていると思います。
原点は1つのはずなのに、男尊女卑という思い込みも1つの見方、解釈から出たもの。
実に難しい。
しかし、こと「性」に関する本作のような(ほんの1事例ですが)作品がみんなの目にふれることはとっても意義深いものを感じます。
特に監督が男性であることに私は一種のいさぎよさと“世の中まだまだ考え深い人もいらっしゃる”とちょっぴり安堵した部分もありましたし。
2007-09-14 22:33 : viva jiji URL : 編集
viva jijiさま、こちらにもコメントありがとうございます!原作もお読みになったのですね♪
「原点」はひとつ、まさに、まさにその通りでございます!!
何を信仰しようが、結局は祈りの先は同じところへ辿り着くはずだと私は思っています。
しかし、人間の数だけ原点はあると言っても過言ではないほど混沌としていますよね。
だからこそこの映画も様々に解釈できるかもしれませんが、こういう事実が世に出ることの意味は大きいですね。
しかもドキュメンタリーでなく、映画と言うエンターテインメントな形であることが重要なのだと思います。
ピーター・ミュラン、天晴れです。
またお話しましょう!ではでは~。
2007-09-15 00:27 : 真紅 URL : 編集
真紅さん TB&コメントありがとうございました。
確かに告発映画としての迫力はすごいですね。カトリックは教義が厳しいだけに「道から外れた」者をとことん追い詰めるのでしょう。善と悪の基準が相当に硬直していると感じます。仏教でも世俗の欲を捨てるために厳しい修業を積んだりしますが、「罪」を犯した者に対してこのような仕打ちをしないと思います。
僕はむしろこの映画を「母たちの村」や「スタンドアップ」あるいは「銀馬将軍は来なかった」などと比較してしまいます。どれも不当な抑圧を跳ねのけてゆく映画です。僕がこの映画を「暗い」と感じたのは、戦う映画が好きだからでしょうね。
2007-09-16 17:54 : ゴブリン URL : 編集
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2007-09-17 11:07 : : 編集
ゴブリンさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
善悪の基準は、善の側に立った人間が「自分たちは善なのだ」と疑わないところから歪が生まれていると感じます。
怖いですね、その基準を検証する者が誰もいなかったわけですから。
ゴブリンさまが挙げていらっしゃる映画はどれも未見なのが残念です。
確かに、少女たちは「逃げる」ことはしましたが「戦う」ところまではいってませんね。
そこまで求めるのは酷かもしれませんが、確かに明るさや希望は感じられない作品ではあると思います。
またいろいろ教えて下さいませ。ではでは。。
2007-09-18 10:44 : 真紅 URL : 編集
こちらにも。
初日劇場で見ましたよ。
考えさせられること多かったですね。
私たちの知らない世界が色々あるんだな・・
自分の自由な状況をありがたく思わなくては
って思いましたよ。
バーナデッドの役の方の目、今も
記憶にありますね・・・。
TBさせてね
http://www.h4.dion.ne.jp/~oshidori/jituwa.htm#magudarenn
2007-09-20 13:13 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こちらにもコメントありがとうございます。
TBもありがとうございました。ブログには感想移されていないのですね?
初日にご覧になったのですか!素晴らしい~。
ホント、今の日本では考えられないですよね。人権問題ですよ。。
バーナデッド役の彼女は、力のある目をしていましたよね。
あと、みみこさまが書かれていたマーガレットが逃げなかった場面、私も考えさせられました。
あの時、止まった車が若い男だったじゃないですか?
老人とか女性だったら、乗って逃げた気もします。。若い男には拒否反応があったのかも?
弟が迎えに来てくれた彼女は、まだ幸運でしたよね。
ではでは、またお伺いします~。
2007-09-20 16:56 : 真紅 URL : 編集
この作品、ある意味衝撃的だったのを覚えています。
マグダラのマリア・・
女性は卑しいものなのでしょうか?
宗教にはそれぞれの宗派や解釈があるのはわかりますが、こうした理不尽な世界がつい10年ちょっと前まで現実としてあった・・ということが何よりもショックでした

それでも、強く生きていく
そこがまた素晴らしいところではありますが・・・
彼女たちの悲しみと強さをもった瞳が印象的でした!
2007-09-26 20:10 : D URL : 編集
Dさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます!
ご覧になっていたのですね。かなり衝撃的な内容でしたね。。。
私も、何よりもこれがついこの間まで実際にあったことだ、ということに一番ショックを受けました。
そう、それでも生きる、何が何でも人生を生きるんだ、っていう強い意志の力を感じましたね。
私だったら、あんなに強くなれるかな、と考えてしまいました。う~ん。。
ではでは、後ほどお伺いしますね!
2007-09-27 08:35 : 真紅 URL : 編集
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