奇妙な小島~『魚と寝る女』
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 THE ISLE


 湖に浮かぶ小屋舟、桟橋で管理人をする一人の女。朝霧が立つ頃、一人の男が
やってくる。死に場所を求めて逃れてきた男と、口を閉ざし、世間から孤立した
女。
出会い、求め、拒み、傷つけ、互いの痛みを身をもって知ることで初めて一
つになるふたり。その過程を時に残虐に、時に冷淡に、そしてあくまでも静かに
描いた、キム・ギドクの名を最初に世界に知らしめた作品。海外の映画祭では失神
者続出
だとか、「痛い」描写が衝撃的だという評にビビッて今まで未見だった。しか
し先日、同じく過激だという評を聞いていた受取人不明を観ることができたので、
こちらも解禁。

 キム・ギドクの作品はいつもそうだと思うけれど、これは受け入れられる人と
激しく拒絶する人が分かれる作品だと思う。私は、現時点でソフト化されている
キム・ギドク作品は全て観ることができたために免疫(?)がついたのか、ビデオの
パッケージにあった煽り文句ほどには強烈な「痛い」作品だとは思わなかった。
『コースト・ガード』の方が、女性として激しく痛みを感じたように思う。しかし、
もしもこの作品が「初ギドク」だったなら受け入れられただろうか?
ちなみに私の「初ギドク」『悪い男』徹底的にインモラルでありながら究極とも
言える純愛
を描いたこの大傑作に、観終わった瞬間から虜になったことを憶えて
いる。

「痛み」よりもむしろ、ギドク作品のエッセンスをこの作品でも強く感じる。一言も
しゃべらない主人公、水辺、ブランコ、水浴びする女。朝霧、夕日に赤く染まる
湖、世間から隔絶された夢のような舞台。印象的な美しい風景とは裏腹に、登場
人物たちの愛憎、業は観ていて息苦しくなるほど激しい。言葉で説明しない代わ
りに、彼らは血を流し、痛みに身を委ね、身体を重ねる。闖入者は水の底深くに
沈め、辱めを受ければ制裁を加える。水を怖れず、半分水と同化したかのような
女の情念に圧倒されるしかない。

「コーヒーの出前」が売春行為とほとんどイコールであるということはユア・マイ・
サンシャイン
で知って驚いたのだが、本作でも女たちが原付バイクに乗り、小屋舟
の男たちにコーヒーを届けるシーンがある。桟橋の管理人をしながら夜は男たち
に売春している女も、彼らにコーヒーを届けているのは妙に義理堅いような、建前
を重んじているような不思議な印象を受けた。

 それで思い出したのが、もう何年も前に観たイ・チャンドン監督のデビュー作
『グリーン・フィッシュ』。兵役を終えて実家に戻ってきたマクトン(ハン・ソッキュ)
が、手持ち無沙汰に街の喫茶店に入ると、そこで妹が働いているのを知る。激怒
したマクトンを恐れ、妹が店から逃げ出すシーンがあった。
その当時は「何で喫茶店で働いていたらダメなんだろう?」と不思議に思っただけだ
ったのだが、そういうことだったのか・・・。そう言えば、妹のスカートが妙に短
かったような。。

 常識も、モラルも飛び越えたところにある、奇妙で不思議な物語。目を背けた
いと理性では思いながら、幻想的なラストまで目が離せない。この独特の世界観
に、すっかり囚われてしまった。

『魚と寝る女』監督・脚本:キム・ギドク/主演:ソ・ジョン、キム・ユソク/
                                2000・韓国)
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[2007/09/10 12:24] | DVD/WOWOW | トラックバック(4) | コメント(6) |
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コメント
真紅さん、こんにちは。
ギドク色をめいっぱい感じる力強い作品でした。
痛いけど、ギドク作品myベストの1本に入れずにはいられないー。
「コーヒーの出前」って、売春行為とほとんどイコールなんですね。なるほど。気づかなかった。
(『ユア・マイ・サンシャイン』もレンタルで観たのに・・)
それから、リンクありがとうございました♪
今後ともよろしくお願いしますー。
[2007/09/11 06:55] URL | かえる #LkZag.iM [ 編集 ]
かえるさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
荒削りですが、確かにとても力強い作品ですね。
簡単には消化できない何かを感じる作品でもありました。
女たちはコーヒー片手に、呼ばれて行くんですよね。凄い風習(?文化?風俗?)だなぁとビックリしました。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いします!
ではでは、またお伺いします~。
[2007/09/11 08:50] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ギドク監督作品は、痛いですね・・
どうしても自分とは異なる世界に眉をひそめながらも、目が離せないというか・・・
心のどこかに潜んでいるものを引きずり出されるような妙な感覚に陥ってしまいます

この作品は、実はまだ未見ですが、見てみようかなぁ~と思っています
[2007/09/12 23:16] URL | D #k0GcsowQ [ 編集 ]
Dさま、こちらにもコメント感謝です♪
ギドクの初期作品は、本当に容赦ないですよね。
この作品、レンタルの韓国映画の棚に無くて、、探し回ったらセクシャルナントカ・・の棚にありました!
そこまで探す私も私ですが(爆)
是非是非、ご覧下さいませ~。感想楽しみにしております!
ではでは、またお伺いします~。
[2007/09/13 08:29] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ご覧になったのですね!^^
だいぶ前の鑑賞ですから細部は忘れておりますがギドク色の原型のような設定が随所に用いられておりますね。
まるでギドクは「言葉はいらない、台詞はいらない」って言っているような、まさに映像で語り切る鬼才ギドクのカラー満載!
[2007/09/14 22:12] URL | viva jiji #kzLu3bv6 [ 編集 ]
viva jijiさま、こんにちは。コメントありがとうございます!
そうなのです、やっとこさ観ました。結構、普通に観れました(笑)
映像で語り切る、本当にその通りですね。ギドクカラーに慣れると、ボイスオーバーに違和感を持つようになってしまいます。
観た後、こちらまで言葉を無くしてしまう作風。力技というか、見事としか言いようがありません。
ギドクは今後もシツコク追い続けたいと思います!ご一緒しましょうね~♪
ではでは、またお伺いします~。
[2007/09/15 00:17] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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キム・ギドク監督 『魚と寝る女』 / 原題 『SEOM (THE ISLE)』 (ユーロスペース) 特集『スーパー・ギドク・マンダラ』 レイト・ショウ上映。 この『魚と寝る女』は、ぼくがキム・ギドクという映画監督の存在を知るきっかけになった作品である。今から4年ほど前、CSの仮
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&nbsp;どこか、この世界にありそうでないような場所。湖の上に、様々な色の小屋が点在する。ここでは、間借りのようにしばらく借りて棲む人もいれば、ひと時の情事を楽しみ、去ってゆくカップルも居る。ネタバレしています::::::::::::
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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