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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

運命と天才~『ピアノの森』

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 The Perfect World of Kai


 ピアニストの家系に生まれ、自らもピアニストになる夢を持つ少年、雨宮修平
祖母の病気のために転校した小学校では、学校近くの森に捨てられているピアノ
が怪談めかして語られていた。いじめっ子たちに転校生としての洗礼を受ける修平
に助け舟を出した同級生・一ノ瀬海は、音が出ないというそのピアノをただ一人
奏でられる「天才」だった。修平と海はピアノを通じて友情を育んでゆくのだが・・・。
 モーニング誌に隔週連載されている一色まこと氏のコミックを原作としたアニ
メ作品。私は原作は未読だけれど、ピアノ教師である友人は号泣しながら一気読
みしたという。今年は音楽映画の当たり年という説もあるようなのに『神童』も観逃
してしまったし、あの世界的名匠、ウラディーミル・アシュケナージ氏がアドバ
イザーとして参加し、ピアノ演奏も担当しているとなれば俄然、観たいではない
ですか。

 私自身はピアノも弾けないしクラシック音楽に造詣が深いわけでもない。それ
でも、映画館の暗闇に深緑の森が映し出され、身体全体にピアノの透明な音色が
満ちる
、映画館という「音響空間」で音楽を聴くという体験は、想像以上に素晴らし
かった。音楽って理屈や教養じゃない、身体と心で「感じる」ものなんだ。

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 幼い頃から様々なことを犠牲にしてピアノに打ち込み、手を守るために白い手袋
をする修平。酒場で働く母との貧しい暮らしの中で、捨てられたピアノと共に育
った海。対照的に見える二人の少年がお互いの才能に敬意を払い、切磋琢磨しよ
うとする姿は胸を打つ。

★以下、ネタバレあります★

 コンクールという競争の場で、「敵は誰でもなく、自分の中にある」ことを悟り、
自分の演奏をしようと全力を尽くす修平と海。しかし、海の自由奔放で型破りな
演奏
は聴衆を魅了はしたものの、コンクールという枠の中では評価されなかった。
ヴァイオリニストの五嶋みどり・龍姉弟を育てた五嶋節氏は、一度も姉弟をコン
クールに出したことがない、という逸話を思い出してしまった。

 完璧な演奏をすることと、人の心を動かす演奏をすることは似て非なるもの。
ただ単に「巧く弾く」だけではない、聴く者の胸を打つ演奏とは、どんなものなのか。
海の紡ぎ出す音は技術を超えて、魂が跳躍するように聴く者の心へ響く。何百年
も前に楽聖たちが生み出した「神の音」に触れ、涙が溢れて止まらなかった。

「便所姫」こと誉子と海のやりとりで、少し映画のテンポが狂った感があったのは
残念。声優陣も違和感はなく、特に阿字野先生の声は誰だろう・・と思っていたら
エンドロールで雨上がり決死隊の宮迫博之であることを知り、演技の巧さに驚
かされた。 

「海には、日本のコンクールは小さ過ぎる」。彼はその後、どんな音を奏でるのか。
物語の続きが知りたくなった。

『ピアノの森』監督:小島正幸/原作:一色まこと/2007・日本)
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テーマ : ピアノの森
ジャンル : 映画

2007-08-06 : 映画 : コメント : 4 : トラックバック : 4
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ピアノの森
★★★★  久々に心から感動出来る映画を観た。アニメであることが残念だが、アニメでなければ感動を得られないことも確かである。もし無理に実写版を作れば、荒唐無稽で陳腐な映画になりかねない。それは宮崎駿の作品であっても同じことがいえるはずだ。  この作品は、一
2007-08-06 14:25 : ケントのたそがれ劇場
ピアノの森
2007年 日本監督:小島正幸原作:一色まこと声の出演:上戸彩     神木隆之介     宮迫博之山本周五郎の『鼓くらべ』を思い出した。 「おやめなさいまし、人と優劣を争うことなどはおやめなさいまし、音楽はもっと美しいものでございます....
2007-08-08 01:06 : 菫色映画
映画「ピアノの森」(2007、日)
        ★★☆☆☆  高校生の息子に誘われ一緒に見に行った。 映画を一緒に見たのは市川昆監督の 新版「犬神家の一族」(2006年)以来か。  しかし、感動してパンフレットまで 買っていた息子とは対照的に、 小生にとってはピンとこなかった。       
2007-08-12 11:21 : 富久亭日乗
ピアノの森 <ネタバレあり>
旦那が好きな漫画で ウチにも全巻揃ってますがワタクシは全く見た事が無く 内容を知らずに観に行った訳ですがぁそれでも十分楽しめる 分かり易い内容となっております海は自由奔放で ピアノが大好きなのが 森のピアノを弾いている時によく伝わってくる。自分の思うま..
2007-08-14 04:17 : HAPPYMANIA
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真紅さんコメントありがとう
ホントに自然の涙ですよね。
原作読みましたが、アニメとほとんど同じですね。ただアニメの続きをコミックで見れます。
あと真紅さんのTBURLがコピーしにくいのですが、なにか良い方法はありますか?
2007-08-06 14:29 : ケント URL : 編集
ケントさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
原作は、大人向けの描写もあると聞いたのですが、映画は子どもでも安心して観られる作品でしたね。
TBURLについて、コピーできないとおっしゃられる方が他にもおられます。
お手数かけてすみません、変更など少し考えてみます。
ではでは、またお伺いします!
2007-08-06 19:09 : 真紅 URL : 編集
真紅さんの「神の音」という表現に納得です。
あの演奏シーンはすばらしかった。
完璧な演奏をしたはずの雨宮が自分が完敗したと涙を流す場面に説得力がありました。
それから宮迫さんの声はわたしも気づきませんでした!芸人らしさを微塵も感じさせませんでしたね~。プロ声優をあまり使っていないことに懸念を抱いていましたが、違和感なく観られました。
わたしも続きが気になります…。海はプロになったんでしょうか?
2007-08-08 01:05 : リュカ URL : 編集
リュカさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
「神の音」というのは、映画のポスターのコピーが「神の音を聴け」だったので、その受け売りなんですよ~。
海の演奏は本当に素晴らしかったですね!
阿字野先生の声、なんか堤さんに似てるな~と思っていたんですよ。
それが宮迫さんだったからもう、ビックリクリクリ!!
皆上手でしたね、神木くんもさすが。
続きが知りたいですね~、海は絶対、ピアノとともに生きていると思います。
ではでは、またお邪魔しますね。
2007-08-08 13:44 : 真紅 URL : 編集
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