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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

陽気にサヨナラ~『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

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 A PRAIRIE HOME COMPANION


 この夏は世界の映画界から訃報が相次いだ。スウェーデンの巨匠、イングマール
・ベルイマン監督。イタリアの巨匠、ミケランジェロ・アントニオーニ監督
。そして
ドイツ人俳優、善き人のためのソナタの主演俳優ウルリッヒ・ミューエ「映画の
時代の終焉」
と書かれた新聞記事を読んで寂しい思いが募ったが、昨年11月にも
世界的名匠が惜しまれながらこの世を去っている。ロバート・アルトマン、享年
81歳。『今宵、フィッツジェラルド劇場で』は、図らずも彼の遺作となった群像劇
豪華キャストの歌の競演が素晴らしい。

 ミネソタ州セントポール。アメリカ中西部のこの街で、30数年間続いた公開
ラジオ番組が幕を下ろそうとしていた。収録場所であるフィッツジェラルド劇場
が、テキサスの企業に買収されたのだ。劇場向かいのダイナーから夕食を終えた
保安係のガイ・ノワール(ケヴィン・クライン)がやってきて、出演者たちが楽屋に
集い始める・・・。

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 出番ギリギリまで冗談を言っている司会のギャリソン・キーラーは、実在する
ラジオ番組で本作の原題でもある「プレーリー・ホーム・コンパニオン」のホストだ
と言う。陽気なカウボーイズ、ダスティ(ウディ・ハレルソン)&レフティ(ジョン
・C・ライリー)
、トウの立った姉妹デュオ、ヨランダ(メリル・ストリープ)とロ
ンダ(リリー・トムソン)
。ヨランダの娘ローラ(リンジー・ローハン)、年老いた
シンガーのチャック(L・Q・ジョーンズ)。ジョン・C・ライリーの芸達者ぶりは
知っていたけれど、メリルやリンジーがここまで聴かせるとは思わなかった。

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 番組の終焉にかけてか、映画には陽気な歌声とは裏腹な「死の予感」が充満してい
る。白いトレンチコートの天使(ヴァージニア・マドセン)の言葉「定めの時と霊を
心に受け入れれば、この世の生きる支えになる」「老人が死ぬのは悲劇じゃないわ」

これらは図らずも、ロバート・アルトマン自身を送る言葉のようにも聞こえる。

 多くの出演者が登場する群像劇ではあるけれど、物語の舞台は劇場と向かいの
ダイナーのみで、登場人物の繋がりも予め把握できる。番組に少しのトラブルは
起こるけれど、百戦錬磨の出演者たちのアドリブによって滞りなく進行し、ラス
トにどんでん返しもない。驚くほど素直な構成であるにも関わらず、観終わって
こんなにも温かい気持ちで満たされるのはどうしてだろう?

 エンドロールで、ポール・トーマス・アンダーソンSpecial Thanks
捧げられていた。病身のアルトマン監督のスタンバイとして、PTAが現場に立ち
会っていたのだと言う。巨匠が遺した志や映画への愛は、PTAに引き継がれると
信じたい。私はアルトマン監督作は村上春樹~レイモンド・カーヴァーつながり
『ショート・カッツ』くらいしか観ていないので、これからはできる限り観ていき
たいと思っている。人生やショウは幕を下ろしても、映画は決して終わらないは
だから。

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』監督:ロバート・アルトマン
  原案・脚本:ギャリソン・キーラー/主演:ギャリソン・キーラー、
        メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン
/2006・USA)
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2007-08-05 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 9
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『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
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2007-08-05 23:19 : かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
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2007-08-07 00:12 : 銀の森のゴブリン
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2008-04-19 15:43 : ミーガと映画と… -Have a good movie-
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日記:2008年6月某日 映画「今宵、フィッツジェラルド劇場で」を見る(ネタバレあります). 2006年.監督:ロバート・アルトマン. 出演:メリル・ストリープ(ヨランダ・ジョンソン),リリー・トムリ
2008-06-21 00:17 : なんか飲みたい
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今晩は。ウルリッヒさんも亡くなられたんですね。続きますね。彼はいい味の俳優でしたのにね。彼はミヒャエル・ハネケの「ファニーゲーム」が初めて、続いて「善き人のためのソナタ」です。まだお若いでしょ?奥さんは東ドイツへの密告者だったという話は痛みました。ベルリンの陰崩壊後の東ドイツでは、友人、善き隣人と思っていた人が実は情報提供者だったという悲劇がかなりあったようですね。アルトマンはショックでした。アカデミー賞の受賞スピーチはハリウッドの彼に対する仕打ち考えると胸が痛み熱くなるものでした。アルトマン、初期作品も面白いですよ。好きです。
2007-08-05 22:45 : シュエット URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
ベルイマンの遺作は逆の味わいでしたが、
アルトマンの遺作はすんごいハートウォーミングでしたねぇ。
ポール・トーマス・アンダーソンの関わりも嬉しかったです。
私は先月から今月にかけ、アルトマンの前期作品5本を見ることができ、アルトマンの魅力をあらためて感じました。
ファニーな女性たちを描き続けているのですよ。
2007-08-05 23:29 : かえる URL : 編集
シュエットさま、こちらにもコメントありがとうございます。
ハネケのその作品は観ていないのですが、ミューエさんは本当に味のある俳優さんでした。。
まだ50代半ばであったと思います。残念ですね。。
私は新聞の訃報記事で知ったのですが、自分の妻に密告され続けていたという話も載っていました。
胃癌であったそうです、ご冥福をお祈りします。

アルトマンは、世界三大映画祭で最高賞を獲得しながら、オスカーでは無冠(名誉賞のみ)だったのですよね。
でも、映画人として本当に愛された人だったようですね。
レイモンド・チャンドラーつながりで『ロング・グッドバイ』を探したのですがレンタルになかったのです。
でも、いつか絶対に観たいと思っています。
またいろいろ教えて下さいませ、ではでは!
2007-08-05 23:46 : 真紅 URL : 編集
かえるさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
『サラバンド』観れてないのでDVDになったら必ず観ます。
本当に、心温まる映画でした。人生を肯定的に捉えていましたね、死をも。
ファニーな女性たちといえばアルモドバルが思い浮かびますが、アルトマンもそうなのですね。
私もなるべくたくさん、アルトマン作品を観たいと思っています。
そろそろPTAの新作が観たいですね~。
ではでは、またお伺いします!
2007-08-05 23:46 : 真紅 URL : 編集
真紅さん 今晩は。TB&コメントありがとうございました。
この映画を観てアルトマン監督の初期作品を観たくなりました。実は僕も結構見逃しているのがあるのです。
この作品、ご指摘のようにキャストが素晴らしいのですが、もう一つカントリー・ミュージックの魅力も上げたいと思います。僕も80年代頃まではカントリーなんて見向きもしなかったのですが、今ではディクシー・チックス、インディゴ・ガールズ、リアン・ライムス、トリーシャ・イヤウッドなどがすっかりお気に入りです。アルトマンの初期の代表作「ナッシュビル」の舞台となったテネシー州ナッシュビルはカントリー・ミュージックの聖地。アルトマン自身もカントリー・が好きだったのかもしれません。
2007-08-07 00:36 : ゴブリン URL : 編集
ゴブリンさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
私はアルトマンもそうですがベイルマンもアンチニオーニもほとんど知らないのです、まだまだ道は長いです。。
カントリー・ミュージック、『ウォーク・ザ・ライン』を観るまでほとんど聴いたこともありませんでした。
日本の演歌みたいなものかな・・と思っていましたがどうなんでしょう。
この映画でも、レフティが「ジョニー・キャッシュと一緒に演奏したことがある」とか言っていましたよね。
ディクシー・チックスは反ブッシュで一時干されていたのですよね。。
『ナッシュビル』も未見ですので是非観てみたいと思っています。
ではでは、またお伺いしますね。
2007-08-07 04:26 : 真紅 URL : 編集
こんにちは
真紅さん、コメントTBありがとうございました。
おっしゃる通り、終盤にかけて、番組の終わりと共に死の予感がじわじわ伝わってきましたね。
しかし決して暗く終わることなく、次の世代へのバトンタッチが上手にされている辺り、とても好感が持てました。
私は正直、リンジー・ローハンの歌は下手くそと思ってしまったのですが(汗)・・・しかし、俳優さんも女優さんも、本当に器用ですね。軽快な芸達者ぶりって、見ているだけで本当に愉快でした。
2007-08-07 15:07 : とらねこ URL : 編集
とらねこさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ラストで新人がデビューするところは、本当に希望が持てる終わり方でよかったです。
アルトマンってオプティニストだったんだな~と思いました。
リンジーはね、結構声が出てるな、と思ったんです。
上手い下手はよくわかりません(汗)、でも一生懸命な感じが好感でした。
さすが、皆さんハリウッドの一線で活躍されるだけのことはありますね、素晴らしかったです。
ではでは、またお伺いしますね~。
2007-08-07 16:50 : 真紅 URL : 編集
こんばんは☆
真紅さん、TBありがとうございました♪
「終り」を題材にしていながら、そこから続く新たな始まりを描いているところが、とても素敵だな~と思いました。
まさか天使が登場するとは思っていませんでしたが(笑)、不思議とマッチしていましたよねー。
メリルの唄が聴けたのも良かった♪

2007-08-07 22:36 : sally URL : 編集
sallyさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
そうですね、終わりは始まり・・じゃないけれど、繋がりを感じられてとっても前向きな作品でした。
こんな素晴らしい映画が遺作だなんて、信じられないくらいパワーに溢れていましたね。
日本では、天使って背中に羽が生えてるい小さな子どものイメージですが、海外では大人で、普通の外見ですよね。
そこがなかなか理解できない作品もあるのですが、本作はわかりやすかったです。
メリルは本当に大女優、貫禄でした!
ではでは、またお伺いします~。
2007-08-08 00:15 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは~
アルトマン監督も逝かれたのですね。
今作は暖まり笑い涙し、役者の芸達者ぶりにも感動しました。
真紅さんのレビューで、病身のアルトマン監督とPTA氏のいきさつを知りました。
ありがとうございます。
病気を押しての撮影だったのですね…
小粋で優しい命への賛歌でしたね♪
TBさせていただきました。
2007-10-06 00:01 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
アルトマン作品は『ショートカッツ』くらいしか観れてないのですが、この作品は素晴らしい遺作だと思います。
終わりを描いているのに希望に満ちていますよね。
「終わりは始まり」なんだと思います。
アルトマン監督の映画魂は、PTAはじめたくさんの若手監督に受け継がれていくのではないでしょうか。
他の作品も観たいと思いつつなかなか叶いませんが、必ず観たいと思っています。
ではでは、後ほどお伺いします~。
2007-10-06 23:13 : 真紅 URL : 編集
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