一瞬の夏~『太陽がいっぱい』
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 PLEIN SOLEIL


 パトリシア・ハイスミス原作、ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演、言わずと
知れたサスペンスの名作。古今東西、シネフィルや批評家に語り尽くされてき
たであろうこの作品について、私ごときドレミファ素人がもはや言うこともないか
もしれない。それでも何か書かずにはいられない、心の奥底に眠る情動を突き動か
されるような作品。地中海の碧さのように、色褪せない名作がここにある。

 同じ原作を、1999年にアンソニー・ミンゲラ『リプリー』として再映画化している。
ジュード・ロウがその美しさと演技力で大ブレイクしたあの作品も私は好きだし、
とても印象に残っている。

 広く知られている「同性愛的視点」については、残念ながら私の感性でははっきりと
認識することができなかった。フィリップ・グリーンリーフ(モーリス・ロネ)トム
・リプレー(アラン・ドロン)
の間に在ったものは、確かに友情ではなかったと思う。
しかしそれが「愛情」だったとも言い切れない気がした。「愛憎」という言葉が一番しっ
くりくるだろうか。断末魔のフィリップの叫び、それは彼のヨットの名でもある。

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 フィリップとトムの関係ではなく、ルネ・クレマンの「アラン・ドロン愛」は画面か
らほとばしらんばかりに溢れていたと思う。特に、トムが魚市場をうろつくシーン。
市場に出された魚たちを見るトム、トムを見る魚たちの交互のアップ。この美しい
青年の「今」をフィルムに焼き付けたい、一挙手一投足を見つめていたい・・・という
監督の願いを、アンリ・ドカエのカメラが痛々しいまでに叶えている。

 ルネ・クレマンだけでなく、多くの女性を虜にしたであろう、アラン・ドロンの
完璧なまでの悪魔的な美しさ。どこか妖気漂うギラついた眼差しと黒い髪、口角の
上がり具合はジャック・ニコルソンにも似ている。嫉妬、憎悪、憧憬、欲望。トム
がフィリップに抱いた全ての感情を、有り余る自己愛とともに表現した彼の演技も、
十二分に称賛に値すると思う。

 。地中海の紺碧の海、白い太陽の陽射し、ヨットの帆、素足に映えるデッキシュ
ーズ。
青と白が溢れる中、「赤」の不在が逆に印象的だった。フィリップも、フレディ
も、血を流すことなく死んでゆく。それ故に、オープニングの「PLEIN SOLEIL」
の緋文字が眼に焼きついて離れない。

 音楽。あまりにも有名なニーノ・ロータによるこの名曲を口ずさんでいるうちに、
『ゴッドファーザー』のテーマとこんがらがってくるのは私一人だろう。。哀切な調べ
若さの過信と残酷さ、トムが成そうとしたことの稚拙さを哀れんでいるようにも
聴こえる。

 完全犯罪をもくろみ、あと一歩のところで成功を逃した「罰当たり」な青年の一瞬の
。映画の完成から50年近くたった今も、100年先でも、トム・リプレーの儚い青春
は人々の記憶に刻まれ続けるだろう。

『太陽がいっぱい』監督・脚本:ルネ・クレマン/原作:パトリシア・ハイスミス
 音楽:ニーノ・ロータ/主演:アラン・ドロン、マリー・ラフォレ/1960・仏、伊)
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テーマ:ヨーロッパ映画 - ジャンル:映画

[2007/07/31 10:16] | DVD/WOWOW | トラックバック(3) | コメント(10) |
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コメント
真紅さま、こんばんは。
コメントいただきまして、ありがとうございました。
この作品は、私の初ドロン作品だった上に、当時まだ子供だったせいもあり、かなり鮮明に衝撃的に多くのものが心にやきついてしまっています。
映画って怖いなあ・・大人のものなんだなあ・・と思った小学4年の私です(笑)
原作のトム・リプリーシリーズ、他、ハイスミス作品群の心理劇が大好きなのですけど、この映画は原作とはまた別の、世に言われている何倍も、不朽の名作だと思います♪同時にルネ・クレマン監督も、もっと評価されてしかるべきと思うのですが。
[2007/07/31 21:29] URL | 武田 #4ARdecsc [ 編集 ]
武田さま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
TBができなくてね~。。ホント、残念です。
今回、この映画とルネ・クレマン監督があまり評価されていないと知り、正直驚きました。
ええ~、何で~~??という感じです。
アラン・ドロンといえば『太陽がいっぱい』だと思っていたのですが・・。
「アラン・ドロンは日本でだけ人気がある」と聞いたことがあるのですが、今年のカンヌで主演女優賞のプレゼンター(?)でお見かけして、日本でだけっていうのは嘘なんだなぁと思ったところでしたのに・・。
私自身が見識がないため評価はできないのですが、これから出来る限り作品を観てみたいと思っています。
その折にはまたお付き合い下さいね、よろしくお願いします!
ではでは、またです~。
[2007/07/31 23:55] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、TB、コメントありがとうございました。とても、うれしかったです。わたしもTBしましたが、うまく反映されていますでしょうか?「太陽がいっぱい」は、ヌーヴェル・ヴァーグの台頭時期が災いして、本質的な評価がされなかったようです。それでも最近は再評価の機運も高くなっているようです。
アラン・ドロンは、トランティニャンやベルモンド、ミッシェル・ピコリ、ルイ・ド・フィネスなどに、水をあけられていたようです。それでも武田さんも大好きな『パリの灯は遠く』を撮ったときはヨーロッパ全域のランキングで1位だったと聞いています。数年前のフランスの(どこが実施した調査か忘れてしまいましたが)他国の俳優も含めた歴代ランキングでは、確か11位だったと記憶しています。
日本での人気も不思議です。今の若い人は名前さえもしらない人もいるくらいですから。
では、また。
[2007/08/01 01:35] URL | トム(Tom5k) #TYPLe/N6 [ 編集 ]
トムさま、こんにちは~。こちらでは初めまして!拙ブログへご訪問下さり、コメント&TBありがとうございます。
TBは無事届いておりました。
私はフランス映画の(他の国の映画もですが)知識がなく、トムさまのところへお伺いするのは勇気が必要だったのですが、温かく迎えていただき感謝しております。
ヌーヴェル・ヴァーグとは「新しい波」でしたっけ?ゴダールとかですよね?
確かに、ゴダールの斬新さはないかもしれませんが、『太陽がいっぱい』も素晴らしい映画だと思います。
再評価、それは是非していただきたいですね!
歴代11位とは、アラン・ドロンも名優のひとりとして認められているということですよね。
これから機会を作って、なるべくフランス映画も観ていきたいと思っています。
いろいろ教えて下さいませ。ではでは、またお伺いします!
[2007/08/01 22:11] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。

たしかに、「赤」が排除された作品でしたね。それと、作中で描かれる「女」の排除が頭の中で重なってしまいました。とても男性的というか近代的というか、破滅的な世界観が印象に残る作品です。母親がこの作品を好きだったので、子供のころから繰り返し観ています。
[2007/08/04 14:28] URL | Ken-U #- [ 編集 ]
Ken-Uさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
「女」の排除ですか・・。確かに、トムの目にはマルジュは一瞬も映ってなかったですね。
彼が見ていたのはマルジュの向こうにあるお金だけ・・。
破滅的な世界観、本当にその通りですね。

お母さまがお好きだったのですか・・。小さな頃からご一緒に観られたなんて、素敵なお母さまですね。
うちの母はジミー・ディーンとかモンティが好きだったようですが、今度帰省したらこの映画の話をしたいと思っています。
ではでは、またお伺いしますね!
[2007/08/04 21:15] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。

8月が終わる前に、この映画の記事を書こうと思いつつ、、、なんとか間に合いました。又まとまりのない記事ですが、TB送りました。

本当に完璧なまでの悪魔的な美しさのドロンでした~。
音楽も悲しげなメロディーが少しゴットファーザーに似ていますね、、、あの音楽とドロンのギラギラした瞳が印象的でした。

p.s
(ゆきちさん宅の「トリスタン・・」の私のコメントで
”哀愁の貴公子”は真紅さんの命名でしたね、的確な表現でいつのまにか刷り込まれていたので、勝手にコメント中で言ってしまい、すいません(汗)、なんとなく気になって、、)

[2007/08/29 20:43] URL | sumisu #RuBj8cxQ [ 編集 ]
sumisuさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
音楽、ゴッドファーザーのテーマに似ていると思われました? よかった~、私一人じゃなかったんだ(笑)
ドロンのギラギラマナコは怖いくらいでしたね。ギラギラ王子(汗)

それから「哀愁の貴公子」ですけれど、いや~全く気にしないで下さい!
そもそも、私が命名(?)したのかももう定かでないですし・・。
フランコくんは、哀愁の貴公子かつ「うるうる王子」ですね。←もうええわ・・。
ではでは、後ほどお伺いしますね~。
[2007/08/30 00:10] URL | 真紅>sumisu様 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、メッセージとTBありがとう。
この映画、久々に見直してみて、テーマ曲と地中海の青とアラン・ドロンで、サラリ&ドキドキで観ていたけれど、ルネ・クレマンとっても見事に計算しているって改めて思った。トムとフィリップ。これはアラン・ドロンを一躍スターダムにのし上げた映画でもあるけれど、今回みてみてモーリス・ロネの魅力も重要な要素だなって思った。そしてこの二人にだけフォーカスしてカメラは追いかけている。太陽と月。太陽が月を覆い、月が太陽を殺し…こんな構図が見えてきたらぞゾクゾクしてしまう。ここまでは若い時は見えなかった・。ルネ・クレマンはこの後、商業映画路線に行ってしまったのが残念。彼の作品の中で最後の傑作だわね。「パリは燃えているか」もスター俳優総出演の豪華さだったけど…。
[2007/12/13 14:29] URL | シュエット #- [ 編集 ]
シュエットさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
何度観ても新たな発見がある映画ですね。見飽きないというか・・。凄いことだと思います。
「女性が排除されている」というコメントをいただいたのですが、トムとフィリップの間にマルジュがいないんですよね。
排除しても十分に映像的に成り立つ二人の存在感が素晴らしいです。
太陽と月、というのは言い得て妙ですね。
昔観た気になっていた映画を観返すのもいいと思いました!
ではでは、またお伺いします~。
[2007/12/14 10:02] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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 この作品でもルネ・クレマンのスタッフ・キャストの編成においては、非常に特徴があるようです。 まず、シナリオですが、クロード・シャブロル監督の『二重の鍵』『いとこ同志』やエリック・ロメール監督の『獅子座』のシナリオを担当していたポール・ジェゴフです。そし
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