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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

花は私が買ってくるわ~『ダロウェイ夫人』

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 MRS. DALLOWAY


 1923年、第一次世界大戦後のロンドン国会議員リチャード・ダロウェイの妻
クラリッサ(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)は、その夜自宅で開くパーティのために
花を買いに出かける。陽光輝く6月のロンドンで、クラリッサは若かった青春の
日々
を思い出していた・・。

 20世紀最高の文学作品とも評されるヴァージニア・ウルフ著『ダロウェイ夫人』
の映画化。20世紀初頭のロンドンの風景、上流社会の人々の暮らしぶりを忠実に
再現した映像が美しい。ダロウェイ夫人を演じるのは英国の大女優ヴァネッサ・
レッドグレーヴ
『ジュリア』オスカーを受賞し、反体制の闘士として印象深い
彼女が上流階級の夫人を演じるのか、と観る前は違和感もあったが、人生の終幕
に差し掛かった初老の夫人を美しく、気高く演じ切って見事。
 若き日のクラリッサをナターシャ・マケルホーンラヴェンダーの咲く庭で)、
クラリッサの親友サリーレナ・ヘディ300)、シェルショック(戦争神経症)
に悩む青年セプティマスをルパート・グレイヴスモーリス)が演じる豪華な
キャスト。

 若かったあの日、この道ではなく、もしも向こう側を選択していたら・・・。
ある程度の年齢を重ねた者ならば誰しも一度はそう考えることだろう。ロマンチ
ストで強引なピーターと、安定した人生を約束してくれるリチャード。安定を選
び、国会議員夫人として首相をパーティに迎えるほどの地位にあっても、「ダロウェイ
夫人」としか呼ばれることのない、名前を失ったクラリッサの心の揺れ。「○○さん
の奥さん」「○○ちゃんのママ」としか呼ばれなくなった経験のある女性にとっては、
痛いほど共感できる思いなのではないだろうか。そして青春の日、彼女の心を占
めていたのはピーターでもリチャードでもなく、同性であるサリーであったこと
が印象深い。サリーとキスを交わした後の、クラリッサの歓喜に満ちた表情。
「いつまでもいつも一緒よ」と誓った後で、他の男と楽しげに語り合うサリーを見る
クラリッサの、失意に満ちた表情。奔放に見えて現実的なサリーよりも、子ども
っぽいピーターよりも、クラリッサが一番夢見がちな少女であり、それは何十年
と月日が過ぎた後でも変わることはない。

20070729164311.jpg

「死への憧憬」で繋がったクラリッサとセプティマス。指からこぼれる砂のように過
ぎ去ってゆく時間をいとおしみ、欺瞞に満ちた生の世界、パーティへと戻ってゆ
くクラリッサ。過去へ戻ることはできない、しかし記憶の中に閉じ込めた過去の
中では、時間は永遠に止まっている・・・。

 雰囲気のある、普遍的な人間の生と死、老いについて描いた映画ではあるが、
『ダロウェイ夫人』をモチーフに、時を隔てた三人の女性の「ある一日」を描いた傑作
『めぐりあう時間たち』には及ばない。窓辺に立つクラリッサのモノローグの場面や、
クラリッサとセプティマスの繋がりは、もう一工夫して欲しかった気がして残念
原作を読んで再見すれば、また新しい視点が生まれるのかもしれないけれど・・。
『めぐりあう時間たち』がもう一度観たくなった。

『ダロウェイ夫人』監督:マルレーン・ゴリス/1997・UK、USA、オランダ
    主演:ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ナターシャ・マケルホーン)
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テーマ : ヨーロッパ映画
ジャンル : 映画

2007-07-29 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 7 : トラックバック : 1
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非公開コメント

真紅さん、こんにちは~
ヘヴンで感銘を受けて以来、感想が書けずに自宅は放りっぱなしで、あちこちとお邪魔してます(汗)
真紅さんのいつもながら安定した鑑賞ペースと洞察力・文章力には感動です!

主人公に共感できず終いでしたし、目の前で繰り広げられるストーリーにも入り込めず、私も真紅さんと同様に少々残念でした。
>『めぐりあう時間たち』がもう一度観たくなった
これも、まさに同感ですー!!
私の場合は『ダロウェイ夫人』が先でしたが、原作者ヴァージニア・ウルフ自身も登場する『めぐりあう~』の方がかなり面白かったし、見応えもある様に感じられました。
2007-07-30 02:57 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
私も『ヘヴン』にはかなりやられましたから、お気持ちわかります~。。
ウチも、来月はあまり更新できないと思います。まぁボチボチやっていきますのでよろしくお願いしますね。

『めぐりあう~』があまりにも傑作なので、どうしても比較してしまいますよね。。
あれは原作も読んだのですが、原作の世界観をほとんど損なわずに映画化に成功している稀有な例だと思いました。
映像や美術は素晴らしいだけに、残念な気持ちも大きかったです。
BSで放映があったのを観られたので、それはラッキーでした。
ではでは、私もまたお伺いしますね。
2007-07-30 08:12 : 真紅 URL : 編集
お邪魔します~。先日はコメントありがとございました。マイペースでやっていきますので今後ともよろしくお願いします。お嬢様の体調その後
いかがですか・・。お大事になさってくださいね。
さて・・↑の映画は、悠雅さんのところでも書いたようにがめぐりあう~の予習のための鑑賞でした。確かに、青年と彼女のつながりには深みが欲しかった気はしますが、彼女の過去の選択への迷い&こだわりには、自分なりに感じるところはありました。このあと↑原作も挑戦しましたが挫折しました・・・笑。
めぐりあう~は傑作ですものね・・・。やはり映画として比べてしまうと物足りなさはありますよね。
ところでリトル・チルドレン・・・行ってきましたよ。
いや~~~ケイト想像どおりの熱演でした。
感想UPはまだですけど・・。
真紅さんの感想楽しみにしていますね。・。
ではまたね・・・。
2007-07-30 18:26 : みみこ URL : 編集
真紅さん、ごめんなさい。
↑お嬢様ではなかったですね
おっちょこちょいで・・。
失礼しました・・・。
2007-07-30 19:15 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
お嬢様・・・。フフフ私のことかと思いましたよ(笑)
おかげさまで元気ですけれど、鼻水はまだ出てます。。夏風邪って治りにくいですね~。

『めぐりあう~』の予習でご覧になったとは・・。97年の作品ですものね。
ダロウェイ夫人のように恵まれた環境にいても、人は誰しも今と違った人生を夢想するのだな~と感じました。
リチャードのようにやさしく、理想の夫に見えれば見えるほど、「夫人」である自分は何なのだ、と思うのかもしれません。
原作は、訳がいくつか出ているのですよね。私はAmazonで評判がよさそうだった訳書を読んでみようかと思っています。
『めぐりあう~』はコメンタリを聴いていないので、絶対再見したいんです。カニンガムのコメンタリなのですよね・・。

おお、リトル・チルドレン!関東では土曜からやってるのですよね~。
こちらでは来月下旬です。観られるといいな~、宿題追い込みでそれどころじゃないかも(泣)
私もみみこさまの感想楽しみです~、観てから読みたいです、できれば・・・。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いします!ではでは~。
2007-07-30 20:59 : 真紅 URL : 編集
こんにちわ~
私はこの映画知らないです。頑張って探してみようかな・・・
原作はあるんですよ。すごく素敵な表紙の。
でも、まあ、返さなくて良いなら、まず図書館で借りたものから読まないと・・・・・・ってホント悪循環で・・・・・・何の為に買ったのやら。
ところで、「めぐりあう時間たち」の映画は素敵でしたが、私は本を読まないと気付かないことが沢山ありました。
映画は、どうも、メリル・ストリープの話が弱いというか、他の二人の話が丁寧だったんですよね、そいで、ジュリアン・ムーアの話を見ても、ジュリアン・ムーアの息子がエド・ハリスだっけ、エイズらしき病で死ぬ人だったとは気づかなかったんです。ええ、あの、一緒にケーキ作った男の子が・・・・・・っていうかんじでしたね。最後ちゃんとメリル・ストリープのところに老けたジュリアン・ムーアが訪ねてきたのに・・・・・・まあ私の浅い読みはおいといて、ホントに素敵な映画でした。初めはカニンガムは単なる「ダロウェイ婦人」の読者で、そこからあの「めぐりあう・・・・・」をうみだしたんですものね。それがめぐりめぐって映画になるなんて。そして私の家にはいまだ読まれていない「ダロウェイ婦人」・・・・・・・いや、この映画も本もこの機会に鑑賞してみます。
2007-07-31 10:29 : 牧場主 URL : 編集
牧場主さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
買った本を後回しにする・・って物凄くよくわかります(苦笑)
私も買ったものの観てないDVDや読んでない本がたくさんありますよ。
返却期限に追いつかない本も多いですし、ホント何やってんだか・・ですよね。

『めぐりあう・・』私はメリルとエド・ハリスのパートはとても印象的でした。
私は逆に、映画を観て感じたことが原作では言葉で説明されていて、読みながら映画の場面がよみがえって泣きました。
あの作品は原作も素晴らしいですよね。。大きな声では言いたくないのですが、翻訳の感じが好きでなかったことだけが残念でした。
『ダロウェイ夫人』私も原作は未読ですので早く読みたいです。
映画を観てから買っている原作を読むのもいいかもしれませんね。
ではでは、またお話しましょう~。
2007-07-31 10:52 : 真紅 URL : 編集
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