アルモドバルのミューズたち~『神経衰弱ぎりぎりの女たち』

WOMEN ON THE VERGE OF
A NERVOUS BREAKDOWN
テレビ女優兼声優のペパ(カルメン・マウラ)は、同棲相手のイヴァン(フェルナ
ンド・ギリェン)から別れを切り出される。イヴァンからの電話を待って苛立つ
ペパの元に、テロリストに利用されたモデルのカンデラ(マリア・バランコ)、ペン
トハウスの見学に来たカルロス(アントニオ・バンデラス)とマリサ(ロッシ・デ・
パルマ)がやってくる・・。
恋に悩み、神経を擦り減らす80年代の「プッツン」女たち。愛を込めて、彼女た
ちを明るく美しくコミカルに描き、様々な映画賞で高い評価を受けたスペイン
の名匠ペドロ・アルモドバルの出世作。
『オール・アバウト・マイ・マザー』以前のアルモドバル作品を初めて観た。オー
プニングのファッション雑誌のようなビジュアル、「赤」が印象的な色彩設計、
一筋縄ではいかない女たちの生態に、今も変わらぬアルモドバル印を感じる。

『ボルベール<帰郷>』でペネロペの母を演じていたカルメン・マウラが主演。
彼女は初期のアルモドバル作品に欠かせない女優であったようだが、本作以降、
アルモドバルとは袂を分かったと言われていたらしい。情熱を漲らせて見開か
れた大きな瞳、身体ごと相手にぶつかってゆく激情。電話を引きちぎり、ベッ
ドを燃やし、レコードを投げ捨てる彼女は身勝手なようで、どこか憎めない。
母と娘をはじめ、様々な「回帰」が描かれていた『ボルベール<帰郷>』は、カル
メン・マウラの「アルモドバル作品への回帰」でもあったのだ。

若き日のアントニオ・バンデラス演じるカルロスが、父親譲りのジゴロぶり
を発揮するのも可笑しい。カルロスの母ルシアの60年代風メイクも、彼女の思
いが20年間変化していないことを表しているのだろう。ちゃんと目薬を常備し
てくれたマンボタクシーも楽しい、あんなタクシー乗ってみたい!
ペパがどうしてあんなにもイヴァンに執着したのか、ラストのセリフで明か
される。恋を失っても、これからの人生に何が起こるのか、わくわくしている
ような女二人が語らうラストシーン。この映画は多分、アルモドバルから全て
の女たちへの応援歌なんだ。
★アルモドバルの新旧ミューズ★

(『神経衰弱ぎりぎりの女たち』監督・製作・脚本:ペドロ・アルモドバル/
主演:カルメン・マウラ、アントニオ・バンデラス/1988・スペイン)
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