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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

骨太のラブストーリーに涙~『ナイロビの蜂』

 原作者ジョン・ル・カレの著作は未読だし、監督フェルナンド・メイレレス
の作品も未見。でもレイチェル・ワイズがアカデミー助演女優賞を受賞した本作
はどうしても観たかった。レディースデイに近くのシネコンまで足を運ぶ。

 冒頭、「じゃあ、二日後に」と言って搭乗する妻テッサレイチェル・ワイズ
を見送る外交官の夫ジャスティンレイフ・ファインズ)。その後の映像が凄い。
人物にフォーカスすることなく、アフリカの空と地平とで悲劇を表現している。
 政治活動家だった妻の死の謎を追い、夫が外交官の地位を捨て、命を賭して
アフリカの大地を走る。原題”The constant gardener”誠実な庭師、もう一つ
言えば個人主義で事なかれ主義な家庭人であった彼が、妻との絆を取り戻すため
に。

 レイフ・ファインズといえば『レッド・ドラゴン』で見せた狂気の眼差しが記憶
に残るけれど、本作で初めてアップになった彼を見たとき「え、これがレイフ・
ファインズ?」と思ってしまったほど、やさしげで物静かな英国紳士だ。
片やレイチェル・ワイズは情熱的な妻テッサを熱演しているのだけど、どうも彼女
に感情移入できない。出会いから結婚→アフリカ行きまでがほとんど描かれていな
いため、夫婦の愛のはじまりと絆の強さのわけが見えない。気の弱い亭主と自己中
な妻(または押しかけ女房)
と取れなくもない。

 しかし夫ジャスティン(=正義)が、事件の真相と妻の愛を知る過程でどんどん
引き込まれ、ラストまで目が離せない。妻を知ることは妻に近づくことであり、共
に暮らしていたときには決して共有できなかった「秘密」を知ることでもある。
なぜ共有できなかったのか? なぜ話してくれなかったのか。
一人を救っても意味が無い」と、ただ傍観者であった彼が当事者になったとき、
初めて「一人なら救える」と口にする。その時彼は最も妻に近づき、やがて同化し
てゆく
。帰りたい家が妻であるなら、エンディングの彼の選択は悲劇とだけは言い
切れないだろう。

 ただ「夫婦愛」を描いたのみならず、アフリカ(ケニア)の美しい自然と貧困
エイズや結核の蔓延、政府ぐるみの大企業の癒着、その犠牲となる人々の現実も
描いた、骨太な力作。ケニアでは発禁本であるという原作を、ここまで映像化した
監督の勇気と力量に脱帽する。レイチェル・ワイズのオスカーは、彼女の演技と
いうよりもこの作品に贈られたもの、と考えたほうがいいかもしれない。

(『ナイロビの蜂』監督/フェルナンド・メイレレス、
       主演/レイフ・ファインズ 、レイチェル・ワイズ/2005・UK)
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テーマ : ナイロビの蜂
ジャンル : 映画

2006-05-18 : 映画 : コメント : 15 : トラックバック : 5
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2007-09-22 14:25 : 虎猫の気まぐれシネマ日記
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真紅さんへ
本当は、某新聞で書こうと思った原稿ですが、タイミングがあわず、発表できず、保存のままになって原稿です。
参考のため、柔らか文体に変えて、添付します。ここが初出です。特別ですよ(笑)
「ナイロビの蜂」評

原作は英国の作家ジョン・ル・カレ。夫は植物栽培にしか興味がない。社会を直視しない夫が、妻の無念を晴らそうと奔走する。ふと、軍事政権下で暗殺された自由主義の議員の事件を追う体制派の検事を描いた70年の傑作『Z』を想起しました。「Z」とは、議員が死んだ後、民衆がかざす記号。肉体は滅びても思想は生きつづける、という意味です。
本作では国際社会の不正を暴く卓抜なミステリーと同時に、地を這う夫婦愛も輝いています。硬軟が見事に融合した、愛の映画ですね。
スラム街の青春群像を鮮烈に描いた傑作『シティ・オブ・ゴッド』(これは必見!)のブラジル監督フェルナンド・メイレレス初の英語作品。身を低く構えて、大国の悪しきグローバリズムを撃つ感覚。今回は、「やとわれ仕事」だけど、志は「第3世界」との連帯に見えました。映像はときに荒々しく現実を直視し、ときに希望を求め詩情を醸す。アフリカの風土感を高める音楽もいい。監督の心意気が伝わる、独創的で多彩な演出です。
 運動家の妻役はレイチェル・ワイズ(本当はヴァイと発音・オスカー助演賞)。官能的な母性が、映画の最後まで「残り香」となる、ふくよかな存在感です。ボクが好きなのは、夫が自宅を外から眺めながら、亡き妻を思い、温室育ちの自分を嘆くシーン。泣かせます。映画の前後に、鳥の群れが飛び立つ。これもいいです。不屈の魂が愛に昇華するような、心地よい余韻が広がります。「彼らはまだ生きている」と。

ではでは、安寧!


2006-05-18 16:22 : ウンジュン URL : 編集
失礼。
ワイズの本当の発音、先のは「ス」ぬけでした。
「ヴァイス」が正解です。
念のため。
2006-05-18 16:28 : ウンジュン URL : 編集
ウンジュンさん、いらっしゃいませ。拙ブログにお越しいただき、コメントありがとうございます!
このような貴重な原稿を・・・畏れ多くも感謝感激です。
そうですね、音楽も印象的でした。鳥の群れも、今思えば天国への飛翔のようなブックエンドでした。映像が目に焼きついています。
『シティ・オブ・ゴッド』は未見ですが近々観ます。レイチェル・ワイズ(ヴァイズ)も、この作品を観てこの監督の作品に出たい!と思ったそうですし。
楽しみが増えました。また遊びに来て下さい。
ありがとうございました。
2006-05-18 22:01 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは。こちらの記事にTBさせていただきました。「ナイロビの蜂」、とても好きだったのですがかなり精神的に消耗する映画でしたね・・・。観てからしばらくしないといろいろ書けないなあと思って、真紅さんのレヴューも何度か読ませていただいた後にやっと書き始めました。
‘レイチェルワイズのオスカーは、彼女の演技というよりもこの作品の贈られたもの、と考えたほうがいいかもしれない’と言う真紅さんのお言葉、まったく同感です。わたしの友人もむしろレイフのほうが印象的だった、と言っていました。
なんだか沈んだ感じのコメントになってしまいましたが、今日はこの辺で。またお邪魔させていただきます。
2006-05-22 19:14 : かいろ URL : 編集
かいろさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます!
「観てからしばらくしないと書けない」う~ん、わかりますよ。自分の中で熟成(?)するの待たないと書けない時ってあります。
お互いマイペースで続けましょう。かいろさんちにも後ほど遊びに行きますね。
ではでは。ありがとうございました。
2006-05-22 21:37 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは。
TB&コメントをいただき、ありがとうございました。私もTBさせていただきますね。
うわぁ、とても読み応えのあるレビューですね!
私も最初の空と鳥のシーンで胸がいっぱいになって惹きこまれてしまったのですけど、ああいう画は映画の醍醐味というか・・・素晴らしいですね。
「レッド・ドラゴン」私は未見なのですが、「ナイロビ」のジャスティンには参りました。レイフ、見直したわ、というか・・・。(←何様でしょう)
社会派サスペンスでありながら、ひじょうに深みのある愛の物語でもあって、バランスの取れた素晴らしい作品だと思いました。
レイチェル・ワイズのオスカーは作品に贈られたもの・・・。なるほど、本当にそうですね!そう考えたら、とても納得がいきました。
また、ぜひお邪魔させてください。
2006-05-26 01:35 : 武田 URL : 編集
武田さん、こんにちは。拙ブログにお越しいただき、コメント&TBありがとうございます!
レイフ・ファインズは素晴らしい役者さんですね。レイチェルも授賞式(GG、オスカー)で必ず真っ先にレイフの名を挙げていたのが印象的でした。
ちなみに最近私の母もこの映画を観て「淀川さんがいい映画でしたね~って言うのが聞こえてきそうな映画だった、もう一度観たい」と申しておりました。
またお話できたらうれしいです。私もお邪魔しますね。ありがとうございました・
2006-05-26 01:49 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、TB感謝です♪♪♪

「シティ・オブ・ゴッド」、是非ご覧下さい。
えらく衝撃的で良く出来た作品ですよぉ♪

cistantには不変、不屈、誠実という意味があるらしいので、
庭=アフリカと捉えると、庭師はテッサかも知れません。
スリービーズの農薬を庭に撒く夫に憤慨するシーンは象徴的ですね。
ジャスティンが昔彼女の暮らしてたアパートを訪ねた時、
荒れ果てた庭を眺めて泣くシーンがありましたが、
あれもまた象徴的なシーンでありましたね…。
2006-12-27 15:23 : カゴメ URL : 編集
カゴメさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
『シティ・オブ・ゴッド』はこの作品の後、観ました。
レビューも一応アップしてるのですが、もの凄い衝撃作でした。編集がカッコイイな~と思ったですよ。
原題の「献身的な庭師」がテッサのこと、というのは目から鱗ですね。本当にそうですね・・。
しかし思い返すとこの映画つくづくよかったなぁ~。。
メイレレス監督の次回作も期待ですね。ではでは、ありがとうございました。
2006-12-28 01:16 : 真紅 URL : 編集
邦題はスリービーズの蜂?
これも今頃ですが・・やっと観ました!!

『シティ・オブ・ゴッド』も好き嫌いのハッキリする映画だと思いますが、この作品が、同監督作品とわかってすごく納得しました!

>レイチェル・ワイズのオスカーは、この作品に・・・

確かに・・そうかもしれませんね。
テッサの足跡をたどりながら、思い出すこれまでの彼女・・(激しくて、外交官の妻とは思えぬほどの行動)
お互いに深く思うがゆえの秘密と無干渉
でも、あの激しさがあったからこそ、レイフの静かな演技が引き立ったのかも・・と思えたりもする私です!!

どちらにしても、またひとつイイ作品にめぐり合えて良かったです♪
2007-01-19 10:22 : D URL : 編集
Dさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね~♪ この作品、ものすごく一つ一つのシーンがかっこよく撮れてると思ったのですが、『シティ・オブ・ゴッド』を観て納得でした。
レイチェルはどうしてもこの役がやりたかったとか・・。入魂の演技だったんですね。レイフ・ファインズも素敵でした。
アフリカや第三世界について描いた作品は観るのが辛いことが多いのですが、この作品はラブストーリーでもあり、また観たくなりました。
ではでは、またお伺いしますね♪
2007-01-19 15:49 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは♪
コメント&TBありがとうございました。
私もTBさせてくださいませ。
いつもながらさすがのレビューですね!
真紅さんはスクリーンで観たのですね。
私も行けばよかったと後悔した映画でした。
観ていて最初は、テッサがアフリカに行きたい為の結婚か?…と邪推してしまったくらい唐突な気がしました。
でも観ていくうちにそうじゃなかったと納得しましたが。
『シティ・オブ・ゴッド』も観なくちゃです♪
2007-02-22 23:47 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、コメントとTBをありがとうございます。
そうなんですよ~、映画館で観られてラッキーでした♪
でもDVD観ても、あのアフリカの大地の映像の素晴らしさは味わえたのではないでしょうか?
なかなか映画館で映画を観る、という贅沢な時間は捻出しがたいのですが、お互いそういう時間は大切にしたいですね。
『シティ・オブ・ゴッド』は文句なしに凄い映画ですので、是非是非ご覧になって下さいね!
またお話しましょう。ではでは。
2007-02-23 11:00 : 真紅 URL : 編集
またまたこんにちわ。韓国映画が続くのも何なので,「王の男」の前にナイロビの記事をTBさせてくださいね。
これは,実はレンタルで一度目は「寝た」作品なんです。ドキュメント風の映像に飽きちゃって・・・。疲れてたのもありますけど(言い訳)
二度目は最期まで見て,製薬会社の言語同断の悪行ぶりに怒り心頭!になり(つまりやっとストーリーが理解できたってわけです)
そして三度目は・・・。テッサとジャスティンの夫婦愛ばかりが胸に迫ってきました。レイフが演じたのはまことにハマリ役。
「ブラッドダイヤモンド」や「ホテルルワンダ」と同じ重い問題を扱っていても,これは私にとってはBBMのような味わいの,忘れられない物語となっています。
2007-09-22 14:35 : なな URL : 編集
ななさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます!
レスが遅れてごめんなさいね。

さて。この映画、私は劇場で観たのですが、アフリカの自然と夫婦愛に圧倒されました。
結構、テッサの行動が理解できないとか否定的な感想も目にするのですが、私は感銘を受けました。
三度もご覧になったのですね!レイフ、とってもよかったですよね♪
BBMのような味わいですか・・・。それは何度観ても感動できますね。。
ちょっと後になるかもしれませんが必ず記事を拝読に伺いますね!
ではでは~。
2007-09-23 17:16 : 真紅 URL : 編集
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