ハードボイルド・ワンダーランド~『ロング・グッドバイ』
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 THE LONG GOODBYE


 ロスに住む私立探偵フィリップ・マーロウは、ある日テリー・レノックスと出会い、
不思議な縁と友情で結ばれる。しかし、テリーの妻である億万長者の娘・シルヴィア
惨殺され、テリーは妻殺しの告白をしたためた手紙をマーロウに遺し、メキシコで
自殺する。事件の裏に隠された複雑な人間関係と真実を追い、マーロウは一人、巨悪
と立ち向かうとする・・・。
アメリカを代表するハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの代表作『長いお別れ』
を、村上春樹が新たに訳出した話題作。3月の発売日翌日に購入したままだった本書、
ようやく読了。フィリップ・マーロウに完全にノックアウトされました。痺れた。

 村上春樹のこの小説(とフィリップ・マーロウ)への偏愛ぶりはつとに有名であるが、
それは長い長い「訳者あとがき」に十分すぎるほど表れている。どれほどこの小説が素晴
らしいか、どれほどこの小説を読み込んできたかを言葉を尽くして村上春樹は語る。
しかし、同じく昨秋訳出されたスコット・フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー』
と比べ、随分楽しんで訳しているな、という雰囲気も伺える作品となっている。村上
春樹の『ギャツビー』に対する思い入れの強さ、深さゆえか、あの作品は「楽しんで読む」
類の小説ではなかった
気がするが、本作は素晴らしく面白い。久々に「早く続きが読みた
いけれど、読み終わるのはもったいない!」
という気持ちを味わえた。残りのページ
数を確認しながら、ラストに向かうに連れ、わざとゆっくり読み進む。

 この小説の優れたところは語り尽くされているのかもしれないけれど、私にとって
本作の最大にして最高の魅力はフィリップ・マーロウという主人公だ。以前「カッコイイ
とは、こういうことさ」というコピーがあったけれど、まさしく世界一カッコイイ男、
マーロウ。
タフで一匹狼で、信条を曲げず公平で悲観的にも楽観的にもならず、決し
てブレも媚びもしない。女を抱いても執着しない。彼が永遠のアイコンとして、今迄
もこれからも光り輝く存在であり続けることは間違いないだろう。

 しかし、意外にもこの小説は「読み始めたが最後、ラストまで止まらない」わけではな
かった。スロースタートと言っていいくらいの(しかし非常に印象的ではある)序盤を経
て、本当に面白くなるのは三分の一を過ぎてから。チャンドラーの真骨頂であるとい
う会話が弾み、マーロウ節も全開、名セリフ、名場面に暇がない。ラストのどんでん
返し
も、最初からうっすら感じられていたとはいえ、やはりあの名セリフ「ギムレットを
飲むには少し早すぎるね」
と相まって感動的だ。この部分を読んで『テロリストのパラソル』
(藤原伊織・著)
を思い出す。あの見事な傑作も、この小説の影響を受けていたんだなぁ
としみじみ思え、感慨深かった。合掌。

 訳者あとがきにも、帯にも「ハードボイルド」という言葉は見当たらず、「準古典小説」
呼ばれている。理由はどうあれ、意図的に「ハードボイルド」という言葉が排除されたことは
明白だ。けれども、本作は私にとっては十分「ハードボイルド」な小説であり、「ワンダーラ
ンド」的面白さに溢れていた
名訳とされる清水俊二氏の『長いお別れ』も読んでみたいし、
村上春樹訳で他のチャンドラー作品も、是非読んでみたい。

 最後に恒例(?)の「勝手にキャスティング」を。本当に勝手ですのでご容赦下さい。
(近々マーロウをクライヴ・オーウェンが演じるそうですし・・)

 フィリップ・マーロウ :ヒース・レジャー(若過ぎるけど是非!)
 テリー・レノックス  :ジュード・ロウ/ヴィゴ・モーテンセン
 アイリーン・ウェイド :ニコール・キッドマン
 ロジャー・ウェイド  :アーロン・エッカート
 リンダ・ローリング  :キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
 エドワード・ローリング:ウィリアム・ハート
 ハーラン・ポッター  :ブライアン・コックス
 グリーン刑事     :ハーヴェイ・カイテル
 バーニー・オールズ  :マイケル・ケイン
 シルヴィア・レノックス:キャメロン・ディアス

『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー・著/村上春樹・訳/
  早川書房・2007/
  "THE LONG GOODBYE" by Raymond Chandler/1953・USA)
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[2007/06/28 09:36] | 読書 | トラックバック(1) | コメント(8) |
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コメント
真紅さん、はじめまして。
BBM関連のブログを巡ってこちらにたどり着き、ずっと以前から楽しく拝見させていただいています。

「ロング・グッドバイ」~村上氏の「長いあとがき」がとても読み応えありましたよね。村上春樹新訳で初めて読んだチャンドラー作品は、ストーリーはもちろんのこと、有名な「あのセリフ」がどこでどのように出てくるのかも、読書中の更なる楽しみのひとつでありました。

さて、真紅さんの「勝手にキャスティング」に反応させていただいてもよろしいでしょうか。
読み始めて少ししてから、それがレノックスの境遇によるものなのか、何だかギャツビーその人とイメージが重なり~(じつは「グレート・ギャツビー」を読んでいた時から、この主役は私の中で勝手にヒース・レジャーで決まり!レッドフォードも適役でしたけど)~ということで、レノックス役がヒースに脳内決定!
しかしながら読み進むうち、誰もがあこがれるであろうカッコイイ男★マーロウ役にもヒース捨てがたいなあ~との内なる葛藤が…(笑)。ごめんなさい、単なるヒースファンで。

…とかいいつつも、実はいつの間にか主人公マーロウは、「カサブランカ」のイメージでハンフリー・ボガードにすり替わっていたというオチつきでした。
なんじゃ、そりゃあ~ですね、初めてのコメントなのに勝手なことばかり並べてすみません(汗)。

真紅さんのキャスティングも実にハマっていて、是非観てみたいですね~!特にゴージャスな女優陣は、この作品にぴったりです。








[2007/06/29 18:28] URL | セロ莉 #- [ 編集 ]
セロ莉さま、初めましてこんにちは!拙ブログにお越し下さり、コメントありがとうございます。
読んでいただいてありがとうございます。
私は初チャンドラーだったのですが、もう完全にノックアウトでした。
名作ですね。村上春樹も随分楽しんで訳しているのが伝わってきて、読むのも楽しかったです。

村上春樹もこの小説と『ギャツビー』を重ねていましたよね。
ヒースファンでいらっしゃるのですか~。私も『ギャツビー』の感想にも書いたのですが、ギャツビーはヒースで決まりですね。
(ニックはジェイクで、笑)
ハンフリー・ボガードは、マーロウ役を演じたことはないのでしょうか?
ボギーといえばハードボイルドなイメージですから、あり得るかもしれませんね。
女優は、特にアイリーンはニコール・キッドマンしかないと思いました。
周りの風景が止まって見えるほどの存在感と美しさ。しかも狂気を帯びているとなると・・。
勝手に脳内キャスティングするのって楽しいですよね、止められません(笑)

またよろしければいつでも遊びにいらして下さいませ。今後ともよろしくお願いいたします!
ではでは~。
[2007/06/30 00:23] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。
私も痺れました^^
この作品の崇拝者が多い理由がよくわかります。
テリー・レノックス・ジュード・ロウ、いいですね~。
金髪美女というとニコール・キッドマンしか思い浮かばないです。
ヒースにはヴェリンジャーのコロニーにいるクレイジーなアールを演じて欲しいです。端正なお顔でマーロウと戦っていただきたい。(ダメ?)
他の配役も大賛成でございます。
特にアーロン・エッカートがイメージ通りです。
(ブラック・ダリアの彼はとてもよかった。)

「テロリストのパラソル」も苦い物語でしたね。
トラックバックが相変わらずうまくいかないのでリンク張らせていただきました。よろしくお願いいたします。
http://blog.so-net.ne.jp/miyuco/2007-04-06
[2007/06/30 11:13] URL | miyuco #ubwH2qN2 [ 編集 ]
miyucoさま、こんにちは。コメント&リンクをありがとうございます。
TBはうまくいかなくてすみません!残念です~。
素晴らしい作品で、読んで本当によかったと思います。
あのテリーの名セリフ、感動でした!
完璧な美しさの金髪美人、というとやはりニコールですよね~。
miyucoさまはアールがお気になのですよね。私は彼は怖かったです。キリアン・マーフィーなんてどうでしょう?
アーロン・エッカートいいですよね、『サンキュー・スモーキング』見逃したのでDVDを楽しみに待っています。
ではでは、またお伺いしますね!
[2007/06/30 17:21] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
おお、読了されたのですね~!そしてマーロウにノックアウト!!ですよね、ですよね~。
私も初めて読んだ時はまだ高校生でしたが、マーロウの台詞ひとつひとつにカッコイイ~と痺れ、こんな格好いい大人になりたいな・・・なんて(まだ子供でしたからw)思ったものでした(笑)
今回の「ロング・グッドバイ」は村上氏のこだわりがギャッツビーの時よりもよく分かって、とても楽しめました!あ・・・これはこーいう事だったのね・・・と新たな発見があったり、おーこう来たか!と細部までこだわり抜いた表現に嬉しくなったり。大好きな本の新訳って、う~ん・・となる事が多いんですが、これは良かったです~♪
ほんと、他のチャンドラーの本も村上氏訳で是非読みたいですね。
それから、マーロウを演じるには・・ヒースは私的にはまだまだ青い・・ってカンジでしょうか(笑) マーロウはもう自分の中に勝手なイメージが出来上がりすぎていて、どーも誰かが演じるというイメージが湧かないという・・w ではでは~。
[2007/07/01 01:23] URL | ルカ #- [ 編集 ]
ルカさま、こんにちは~。コメントありがとうございます!
そうなんです、やっと読みました(遅)。マーロウ、かっこよかったです~。
高校生の頃に読まれたのですか!清水氏は字幕翻訳の第一人者であったこともあり、訳がとてもリズミカルで決めセリフもカッコイイとか・・。
『ギャツビー』は、村上氏があまりにも愛しすぎてしまって、ちょっと周りが見えてないのかも?と思ってしまったんです。
(オールド・スポートの訳でそう感じてしまったのですが)
でも『ロング・グッドバイ』は「無茶苦茶気が合った友達がいて、すっごくいい奴だからみんなに紹介したいんだ!」って感じの訳だったと思います。
マーロウのキャストは、実はあまり思い浮かばなかったのですが。。ダニエル・クレイグかな?とも思いつつ、彼は瞳が碧過ぎるな~と思って。
「瞳の色を変えることまではできない」ですから!
映画化もされているのですよね。レンタルが見つからないのですが、いつか観たいと思っています。
ではでは、また遊びにいらして下さいませ~。
[2007/07/01 01:41] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こちらにもコメントさせていただきます。またゴダール&ドロンの『ヌーヴェルヴァーグ』をTBさせていただきました。ほんの少しですが、この映画も『長いお別れ』の挿話があります。ドロンの演じる主人公の名前もレノックスです。
ハワード・ホークスの『三つ数えろ』は、ご覧になっていますか?
では。
[2007/08/01 01:44] URL | トム(Tom5k) #75uqyicg [ 編集 ]
トムさま、こちらにもコメント&TBをありがとうございました。
恥ずかしながら『ヌーヴェルヴァーグ』も『三つ数えろ』も未見です。
ゴダールとドロンが組んでいることも初めて知りました(恥)。
レイモンド・チャンドラーは、世界中のクリエイターに影響を与えているのですね。。この小説はホント、素晴らしいです。まさに古典ですね。
後ほどお伺いしますね。今後ともよろしくお願いいたします。
ではでは~。
[2007/08/01 22:15] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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『ヌーヴェルヴァーグ』?~ゴダール&ドロンの共通点、それは映画の大衆性ではなかったか?!~
 ヌーヴェル・ヴァーグの時代以後、「BBC」の1980年代以前、丁度その中間に位置する1970年代、ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれた世代の映画監督であるフィリップ・ガレルは『ヌーヴェルヴァーグ』を評して、次のように語っています。「『ヌーヴェルヴァー
[2007/08/01 01:16] 時代の情景
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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