愛が越えるべきもの~『やさしくキスをして』
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 AE FOND KISS...


 スコットランド・グラスゴーの高校。パキスタン移民二世のタハラは「文化のミックス」
である自分に誇りを持って生きている。音楽の臨時教員であるアイルランド系移民
のロシーン(エヴァ・バーシッスル)
は、タハラの兄カシム(アッタ・ヤクブ)と出会
い、恋に落ちる。しかし、カシムには敬虔なイスラム教徒である両親の決めた許婚
がいた。国と人種、宗教と慣習、家族と恋人の間で揺れ動く二人。この愛は成就す
るのか? 9・11後、寛容さを失くしてしまった世界に英国の名匠ケン・ローチ
届ける、少し苦い愛の物語。

 愛と宗教の問題について描いた作品といえば、エドワード・ノートン監督作『僕たち
のアナ・バナナ(原題:KEEPING THE FAITH)』
が思い浮かぶ。この映画ではユダヤ
教のラビと恋に落ちた女性が改宗するハッピー・エンディングだったが、ベン・ス
ティーラー主演だけに宗教問題はあくまでコミカルに描かれていた。本作では、家族
と宗教(神)、恋人との間で揺れ動くカシムの心情がリアルに伝わってくる。

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 カシムの両親が、どんな思いでパキスタンから海を越えてきたか。父の心の傷
「カシム」という名に込められた一人息子への思い。小さな雑貨店を商い、三人の子ども
たちに教育を受けさせ、イスラムの戒律を忠実に守り、異教徒と結婚することなど
夢にも考えたことのない両親。カシムを許婚と結婚させることも、タハラを地元の
大学に進ませることも、子を思う親としての思いからなのだということは十分理解
できる。だけど、だけども。。子どもだって一人の人間。好きな場所で、好きな人
と、好きなように生きてもいいじゃないか。そう思ってしまう私は、世間知らずで
信仰心のない親不孝ものなのかもしれない。


 揺れ動くカシムの心情もわかる。ロシーンを愛している、離れたくない、しかし
親や姉、親戚のことはどうでもいいのか? ロシーンの愛は永遠なのか。25年後、
自分が年老いたとき、病に倒れたとき、彼女は傍にいてくれるだろうか? 異教徒
との結婚は許されるのか、彼女は改宗してくれるのか?

 法律で、教師の信仰心を問う国。異教徒と婚前交渉(!)すると罵倒される、カソリ
ック教会
というところ。「私の人生よ!」と叫んでも、職場に理解者がいても、他所か
らの圧力で結局は学校を追われるロシーン。「ミサに長い間出席していない」ことから、
彼女は敬虔とはいえない信者のようだ。神父の描かれ方に、教会への批判的な目線
が伺える。生徒たちにビリー・ホリデイ『奇妙な果実』を聴かせるロシーン。それで
も、愛する人の為であっても、改宗はできないと彼女は言う。

 ロシーンを演じたエヴァ・バーシッスルは、プルートで朝食をでキトゥンの母、
ファントム・レディを演じている。カシムを演じたアッタ・ヤクブはダルビッシュ
くん
のような野生的な風貌が印象的。保守的な両親と姉、自立心旺盛な末娘、両者
の間で揺れる長男。どこの国、どの時代でも繰り返されてきた家族の物語に、ケン・
ローチは英国における移民社会と人種差別の問題を加えてみせる。

 ラストシーンで描かれた甘い時間は、そう長くは続かないだろう。現実の厳しさ
をわかってはいても、ロシーンとカシムがずっとずっと年老いても、共に生きてい
て欲しいと願わずにはいられない。


『やさしくキスをして』監督:ケン・ローチ/脚本:ポール・ラヴァーティ
            主演:アッタ・ヤクブ、エヴァ・バーシッスル/
                  2004・UK、ベルギー、独、伊、スペイン)
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[2007/06/25 13:14] | DVD/WOWOW | トラックバック(8) | コメント(12) |
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コメント
真紅さん、こんにちはー。
トラックバック受けられない状態でごめんなさい。
本作はケン・ローチ作品の中ではあまり好評ではなくて、ロシーンの身勝手さに共感できないなんて感想も多かったんです。でも、私は彼らのそれぞれの心情に寄り添うことができたし、とてもステキな作品だと思っています。宗教や人種間の争い、もめごとの尽きないこの世界だけど、その壁を乗り越える一つのキーが"恋"であったりするわけで。解決していないことはたくさんあるけれど、アプローチの一つとしてはとてもココロに沁みましたー。
[2007/06/26 13:01] URL | かえる #mQop/nM. [ 編集 ]
かえるさま、こんにちはー。コメント&TBありがとうございます。
TB、送信は可能なのですね。エキサイトずっと不調ですね~、早く復旧してもらいたいですね!
さて、本作はあまり評価が高くないのですか・・。
私はケン・ローチ初心者なので他の作品のことはあまりわからないのですが、この映画もそう悪くない、いやとてもいい映画だと思いました。
ロシーンが身勝手という意見が多数なのだとしたら、やはり伝統的な家族観がいまだ主流なのだということかもしれませんね。
私も、家族と恋人の間で揺れるカシムが愛おしかったです。
ロシーンの立場だったらどうするかなぁ・・。愛を貫けるでしょうか。
壁を乗り越えたり、橋を架けることは愛しかできないのかもしれませんね。
そのとっかかりが音楽や映画だったらステキだと私も思います。
ではでは、またお伺いします!
[2007/06/26 22:27] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
Tbありがとう。
ロシーンとカシムは長続きしないと僕は思いました。かれらが悪いというより、まだまだ過渡期かな、と。タハラのなってくるともしかしたら、異なるかもしれませんね。
[2007/06/27 00:25] URL | kimion20002000 #fOhGkyB. [ 編集 ]
kimion20002000さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
う~ん、長続きしませんか・・。やはりカシムが「一人息子」のプレッシャーに折れてしまう?
「やさしいキス」の歌詞にも別れは暗示されているのかもしれませんね。
おっしゃる通り「過渡期」なのかもしれません。。
ではでは、またよろしくお願いします!
[2007/06/27 00:32] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
お邪魔します~
宗教・人種が絡まなくても結婚に行き着くまでは大変だったりしますからね・・・。
考えちゃったわ・・・。
高いハードルを超えるのはやはり・・
愛の力ですよね・・・。何が一番大切かって
考えればいいんだもの。
でも、それを持続させるのって、案外難しいですよね・・。気持ちに温度差が出てくるしね・・。
私も真紅さん同様、2人の気持ちが
変わらないようにと、思いながらの鑑賞でしたわ・・
[2007/06/27 00:48] URL | みみこ #mQop/nM. [ 編集 ]
カシムとロシーンの直面した困難の何と大きいことか。ロシーン程勇気のない僕などは立ちすくんでしまいます。そういう意味でkimionさんの指摘したような結果になる可能性は確かに高いでしょう。
しかしケン・ローチはカシムの姉とカシム、そして妹のタハラを描き分けています。どんどん新しい世代が生まれている。カシムの後にはタハラが続いている。そして別の家族にもまたカシムやタハラがいるかもしれない。
圧倒的な困難を描きながらも、カシムとロシーンを簡単に挫折もさせなかった。ぶつかり合ったからこそ困難が見えてきた。行動しなければ変化は生まれない。しかし大きな変化が生まれるまでには何世代もかかることもまた事実でしょう。
ケン・ローチは対立を中心に世界情勢が動いている今の時代に一石を投じてみせた。一家族の問題は民族間の問題につながっている。ここまで問題の本質を深くえぐって見せたこと自体高く評価されるべきだと思います。
[2007/06/27 01:44] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
みみこさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
そうなんですよね、しかも結婚してからのほうが実はいろいろ、もっと大変なんですよね~。。
愛が大事なんだけど、それは本当に歳をとっても変わらないのか?家族は変わらないぞ!って畳み掛けられて、カシムが気の毒でした。
若いときは、先のことなんか考えませんよね・・。それがまぁ「若気の至り」でもあるのですが。
それでもこの二人は応援したいですよね。
ケン・ローチの作品、もっともっと観たいと思っています。またいろいろと教えて下さいね!
ではでは~。
[2007/06/27 12:30] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
確かに、女性よりも男性のほうが慎重にならざるを得ない部分もありますね。
人それぞれですが、自分=家の責任と考えてしまいますから。
同じ兄弟で同じ親に育てられても、世代が違えば考え方も変わる、という描き方ですね。
9・11後、世界は対立を増して寛容さを失いましたが、もう一度愛する気持ちを思い出してみよう、という監督のメッセージかもしれない、と思いました。
もちろん簡単なことではないし時間もかかると思いますが、互いに許しあい愛し合う気持ちがないとうまくいかないですね。
それは国家という大きな単位から家族やカップルと言う小さな単位に至るまで、結局は同じことだと。
さすがケン・ローチですね。敬愛しています。
ではでは、またお伺いします!
[2007/06/27 12:32] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
数日、留守にしており(在宅でもですが^^;)またまたお邪魔が遅くなりました。

日本人には想像がつかない宗教や人種の壁。
けれど、だからこそ、でき得る限りの想像力でもって、
彼らが悲しい別れを経験せずに済むように祈るしかないのだろうか、と
静かに提示されるメッセージに自問自答しながら観ていました。
ケン・ローチ監督作品としては評価が低いのは聞き及びますが、
設定がラブ・ストーリーであるだけで、視点の確かさは同じですね。
こういう作品があるから、映画を見続けてしまう気がします。
[2007/06/29 00:59] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こんにちは&お帰りなさいませ!コメント&TBありがとうございます。
お疲れのところ、ご訪問ありがとうございます。
この映画、評価が低いのですか。。私はとてもよかったと思います。
悠雅さまがおっしゃる通り、設定がラブストーリーであるだけでいつもながらのケン・ローチ節だったと思います。
ケン・ローチ作品たくさん観たいと思うのですが、DVD化されている作品も少なく、レンタルにもほとんど出てないですね。。
こんなに名匠と謳われているのに、不思議です。残念。
これからもお忙しいとは思いますが、また伺わせて下さいね。
ではでは!
[2007/06/29 08:50] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さーん、暑いねー!
元気でやっているかな?

これ、いまさらなんだけど見れました。
7年前の記事なのねー。
なんだか、感慨深いわー 7年あったら、このカップル、どうなっていたんだろうね・・・。

私も真紅さんと同じく、子供は子供の自由に生きて良いと思うわ。それと、このカップルの甘い時間は、そう長く続かないであろうことも頭に浮かんだわ・・・。
[2014/07/25 09:44] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こんにちは~。コメント&TBありがとう。
熱いよ、暑過ぎるよ! もう、災害レベルのこの気温^^;
でも、仕事が忙しくて気が抜けないので、バテずに必死で踏ん張っているよー。

この映画、未見だったのね。意外~。
ケン・ローチ映画の中でも、珍しくハッピーエンド、、、なんだけど一抹の不安も残しつつ。
7年前か。なんか、記事が長い^^
[2014/07/26 07:10] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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