まだ始まってもいないよ~『SWEET SIXTEEN』
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 Happy birthday,Liam


 スコットランドの田舎町に住む15歳の少年リアム(マーティン・コムストン)は学校
をドロップアウトし、兄弟同然の親友ピンボール(ウィリアム・ルアン)と共にタバコ
を売り歩く日々。16歳の誕生日前日に出所する服役中の母親と暮らしたい一心で、
彼は危ない商売に手を染めてゆく。英国労働者階級の貧困層に生まれ、過酷な環境
でもがきながら成長してゆく少年を描いた秀作。監督は英国の巨匠ケン・ローチ
2002年度カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作。

 観ながら思い出していたのは北野武監督の『キッズ・リターン』。二人の少年の挫折
を描いたこの佳作と、どこか通じるものを感じてしまった。突き放されるようなラ
スト
、心が引き裂かれ、重い衝撃を受けたように感じる内容は麦の穂をゆらす風
重なる。流れ落ちるは、観終わってもしばらく止まることはない。

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 厳しすぎる環境の中で、這い上がろうとすればするほどちてゆくリアム。麻薬
に手を染めた親に育てられ、何が善で何が悪か、混乱しているピンボール。若くし
シングルマザーとなり、我が子を自分たちのようにはさせないと気丈に生き、弟
を気遣うリアムの姉シャンテル。麻薬の売人である恋人の身代わりに収監されてい
る母親。誰もが傷つき、守られることもなく、「SWEET」なものなど何もない現実
の中で、リアムが母を恋うその思いだけが純粋な、たった一つの希望のように映る。
しかしその思いが純粋であればあるほど、砕かれるときの痛みも並大抵ではない。

 リアムの母親の行動は私の理解の範疇を超えていて全く共感はできないけれど、
彼女は母性よりも「女」としての部分が勝っている人なのだろう。『誰も知らない』
YOUが演じた母親のように罪の意識のかけらも無いようには見えないけれど、子ど
もたちへの愛情や責任よりも恋人スタンと生きる道を選んでしまう、共依存のよう
な状態なのかもしれない。「大丈夫?いじめられてない?」刑務所での面会時、この
言葉を母親ではなく、リアムが母親にかけるのだ。母親が持つべき当たり前の母性
を15歳の少年が口にする苦さ。その切なすぎる思いは彼の人生を捻ってしまう。
 
 リアムを演じたマーティン・コムストンが素晴らしい。プロサッカー選手であっ
た彼をオーディションで発掘したケン・ローチの慧眼!本作が初めての演技だとは
にわかには信じ難いほど、リアムの憔悴や緊張、悲しみ、渇望が痛いほど伝わって
くる
。髭を剃るリアムをからかう姉にとって、彼はまだ幼い15歳の少年。そして
一人の「愛を乞うひと」であることが、リアムの背伸びした肩から滲み出ている。

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 ケン・ローチは社会の底辺に生きる彼らを誇張も貶めもせず、あくまで淡々と
いていく。しかしそのまなざしは決して冷徹ではなく、どこか「やさしさ」を感じてし
まうのは私だけだろうか?「福祉クラスは?」「母さんが出所するまでは申請できない」
富は輪廻し、貧困は再生産される。本当に守られるべき弱者に公的な救いの手は届
かないことがさり気ない会話に込められ、太陽の覗かないスコトランドの曇った空
が、彼らの灰色の人生を象徴しているかのようだ。

 ラストシーン、一人湖畔に佇むリアム。彼を自転車で迎えに行き、後ろに乗せて
言ってあげたい。「まだ始まってもいないよ」

『SWEET SIXTEEN』監督:ケン・ローチ/脚本:ポール・ラヴァーティ
  主演:マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン/2002・英、独、スペイン)
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テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2007/06/11 13:55] | DVD/WOWOW | トラックバック(6) | コメント(14) |
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コメント
こちらにも。
え~~っ!あの少年って、サッカー少年だったんですか?それはビックリ・・・
あの子って、明日へのチケットにも出てたんですってね。私は気がつかなくて、見終わった後に、そうだったんだ~って。。

そうなんですよ・・・。これ、息子がふびんでならなくてね・・・(;_;)。この母には怒りを持って見てしまった私です・・・。
[2007/06/11 15:43] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こちらにもコメントありがとうございます!
DVDのインタビューで、「サッカーは初恋の相手」と語っておりましたよ♪
映画の中でもちょこっとサッカーしてる場面がありましたね。
私は『明日へのチケット』を先に観たので、あ、あのセルティックサポの子たちだと思いました。
ホント、リアムがね・・。あの後裏社会とは手を切って、ささやかでも幸せになってほしいと願わずにいられませんね。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/06/11 19:08] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん 今晩は。コメントありがとうございます。
最近僕のブログは写真ブログになってしまいました。もちろん映画のレビューも書き続けていきますのでご心配なく。
僕の記事はまだ短いレビューを書いていた頃のものなので、あまり具体的な場面は書いていないのですが、それでもいくつかの場面は記憶に残っています。それだけ強烈な印象を植え付けられる映画だったのでしょうね。

<「SWEET」なものなど何もない現実の中で、リアムが母を恋うその思いだけが純粋な、たった一つの希望のように映る。>
<彼を自転車で迎えに行き、後ろに乗せて言ってあげたい。「まだ始まってもいないよ」>
「SWEET」という言葉にこれだけ苦い意味合いを込めた映画はほかにないでしょう。もがいてももがいても逃げられない、変えられない現実。しかしそれでも、あえて「SWEET」というタイトルをつけたケン・ローチの思い。どうかこのまま歪まずに大人になってほしい、そう願わずにはいられない映画でした。
[2007/06/11 20:01] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
TBを何度か試みたのですが反映されないようです。また時間を置いてトライしてみますね。
写真、いいですね~。素敵なところにお住まいですね。『王の男』のレビューも楽しみにしております。
『SWEET SIXTEEN』強い印象が心に残る映画でした。『麦の穂をゆらす風』を観たときと同じ気持ちだったんです。
これがケン・ローチ監督の「色」なのでしょうか。
リアムがまた、いいんですよね・・。彼を見ていると、誰もが胸が痛くなると思います。辛すぎる。
苦い映画ですが、彼がまだ16歳だということに希望を託したいですね。
ケン・ローチの映画はこれからもできるだけ観たいと思います。またオススメあれば教えて下さいませ。
ではでは、またお伺いします!
[2007/06/11 20:36] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
お邪魔します~
現実は厳しいけれど・・でもでも
頑張れるはずだよ・・って。
希望を感じる映画でしたよね。真紅さんのおっしゃるとおり、まだ始まってもいないよ・・なんですよね。私は、↑の作品中の母親みたいなタイプが一番イライラするんですよ。そういう親に対して子どもは立派なんだよね・・・。
だから、誰も知らないの・・・YOUに関してなんて
・・・当時、相当怒りまくっていましたね・・
~~笑

P。S   DVDのカテゴリー100突破おめでとうございます~~♪
これからもますます充実させていってくださいね。お祝いおくれてごめんね~~~
応援してます・・・・♪
[2007/06/12 10:49] URL | みみこ #mQop/nM. [ 編集 ]
 真紅さん、おはようございます、
 この作品以前レンタルで見ました、すごく好きな作品でした、何で「sweet」なのかわかりませんでしたが、真紅さんの記事読んでまた記憶が甦りました、16歳という年齢で色んな経験してる少年が切なく、愛おしくて、抱きしめてあげたい気持ちにさせられますね、ほんとに主役の男の子は新人らしからぬ上手さでしたよね、サッカー選手だったとは、(ジョシュ・ハートネットに似てませんでした?)あと監督がケン・ローチというのも知らなくて、でもさすがですね、「麦の穂・・・」も良かったですがこちらの方がほろ苦くて好きかも・・・、
[2007/06/12 12:14] URL | イニスJr #- [ 編集 ]
みみこさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
ラストは厳しいものでしたが、まだリアムが16歳になったばかりなんだっていうところに希望が見えるような気がしたんですよね。
そうそう、私もこの母親は・・・ね。『誰も知らない』を観たとき、周りはすすり泣きの声が聞こえていたのですが、私はあの母親への怒りで頭に血が上ってしまって。
涙が出なかったのですよ、あまりにも腹が立って。
子どもがしっかりするんですよね・・。この作品はリアムがピンボールと決別する場面から、もう涙、涙でした。

お祝いコメントもありがとうございます♪
みみこさまはじめ、お付き合い下さる皆さまのおかげで続けられたと思っています。
今後ともよろしくお願いします!ではでは、またお伺いします~。
[2007/06/12 14:50] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
イニスJrさま、こんにちは!コメントありがとうございます。
私も本当にいい映画だと思います、観てよかった~。。
16歳なのに、SWEETな思春期ではなかったリアムですが、まだまだこれからやん、と言ってあげたいです。
リアム役のマーティン・コムストンがね~、ホント素晴らしかったですね!これが初の演技だなんて信じられないくらいでした。
ジョシュ?そう言われればそうかも!!
『麦の穂~』はまごうことなき傑作ですが、この作品も名作だと思います!
また遊びにいらして下さいね、ではでは~。
[2007/06/12 14:50] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ケン・ローチ作品は
胸をえぐるような痛みを伴いながらも、それでもどこかに深い優しさを感じるものが多いと思います。
どの作品も秀作ですよね(私なんかが言うのはおこがましいけれど・・・)
明日へのチケット・・写真を見た瞬間、リアム少年だ!と気づいたのですが、まだ観ていません!早く観なくては~~~
[2007/06/21 21:33] URL | D #k0GcsowQ [ 編集 ]
Dさま、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます!
お話するのはお久しぶりですね。お忙しそうですが落ち着きましたでしょうか。
そう、そうなんです!ケン・ローチの映画は私もまだ初心者なのですが、厳しさの中にもものすご~くやさしさを感じてしまうんです。
こういう映画って、主人公や登場人物に対して愛がないと絶対に撮れないと思うんですよね。。
この作品でケン・ローチは私の「心の父」になったんです。
『明日へのチケット』ケン・ローチ編いいですよ。ラストで溢れる愛を堪能して下さいませ。
ではでは、後ほどお伺いします!
[2007/06/22 09:27] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
“キッズリターン”は傑作ですね。あの名台詞は忘れられません。
私は海のラストシーンで、トリュフォーの“大人はわかってくれない”を思い出しました。誕生日のお祝いは誰より母親に言って欲しかったでしょうね。
トリュフォーは当然ご覧になっていることでしょうが、こちらも本当に素晴らしい作品でした。
[2007/09/06 08:00] URL | ay #gEjbkfp6 [ 編集 ]
ayさま、初めまして。ご訪問&コメントありがとうございます。
『キッズ・リターン』のラストには感動しました。
あのセリフが全てと言いいたいほど素晴らしいと思いました。
『大人はわかってくれない』、残念ながら観ておりません。
しかしDVDは持っていますので、必ず観ますね。
観たら感想をアップしますので、よろしければまたお立ち寄り下さいませ。
ではでは!
[2007/09/06 09:11] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。TBをありがとうございました。

いつでも何度でも観れたはずなのに、
何故か、ずっと後回しにしてしまい、今頃になって観た作品です(恥)
やはり、他の作品同様、ケン・ローチ監督の愛情溢れる視点で描かれた作品でしたね。
「もし、この環境に生まれなければ…」と思う主人公に寄り添い、
冷静に丁寧に、現実を切り取って観せてくれる誠実さに
いつも感服するばかりです。

16歳から、罪が重くなるというスコットランドで、リアムの将来はどうなるんだろうと、
彼の明るい明日を祈りながら、ただ、彼を抱きしめてやりたいと思うラストでした。
[2007/10/16 16:46] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
当方からはTBのみで失礼いたしました。

ケン・ローチ作品、もっと観たいのですがDVD化されているものが少ないですよね。
ビデオもほとんどレンタルにはないし、手に入りにくいし・・・。大ブーイング!です。
初期の傑作と言われているものなど、どうしても観たいのですが・・・。

この作品も素晴らしいですね。
リアムは本当に頭のいい子なのに、環境が彼を追いやったと思うと切なく苦しいです。
16歳から罪が重くなるとは知りませんでした。
ケン・ローチ監督がタイトルに込めた思い、複雑なのですね・・。
またお伺いしますね。ではでは。。
[2007/10/16 18:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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