旅は道連れ、世は情け~『明日へのチケット』
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 TICKETS


 カンヌ映画祭でパルムドール受賞経験のある三人の巨匠による、オムニバスでな
「共同演出」という形の長編。オーストリア・インスブルックからミラノを経てローマ
に終着する、ヨーロッパを横断する一本の列車を舞台に、そこに乗合わせた様々な
国の様々な階層の人々を巡る物語。3人の監督それぞれが3つのパートを演出して
いる形ではあるけれど、物語は全体で一つの大きな流れに沿っている。列車が線路
を走るように。


 エルマンノ・オルミ監督の作品は未見。アッバス・キアロスタミ監督は『友だちの
うちはどこ?』
は印象深いが、パルムドール受賞作『桜桃の味』は途中リアタイアとい
う苦い経験あり。そんな私がこの映画に興味を持ったのは、麦の穂をゆらす風
ケン・ローチが監督の一人であるということと、予告を観てセルティックサポの話
だと知ったから。スコットランド・グラスゴーのセルティックは、我らが「天才」中村
俊輔の所属チーム
。日本の至宝を熱くサポートしてくれる彼らを、ケン・ローチが
どう映画に焼き付けてくれているのか観てみたかったから。

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★以下、ネタバレあります★

 エルマンノ・オルミによる一つめのエピソードは、国外出張したイタリア人の老
教授
が、帰路の世話をしてくれた秘書に抱いた淡い恋心を描く。孫との約束を果た
すためどうしても家に帰りたい彼が、秘書の思いやりに触れ「列車が引き返してくれ
たなら・・」と彼女との逢瀬を夢想する。秘書役のヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
どこかで観たと思えば、ぼくを葬る「依頼人」の彼女ではないか!やさしく思い
やりある眼差しが美しい。社内に流れる(乗客のCDプレーヤーからこぼれた)ショパン
の調べも彩りを添え、老教授が一杯のミルクを難民の子どもに差し出すラストが温
かい。この難民一家が、実はラストまで物語のとなる。

 キアロスタミによる二つめのエピソードは、傲慢で傍若無人の未亡人が世話役の
青年に逃げられ、途方に暮れるストーリー。ヴィトンのトランクを持ちながら二等
切符しか買わず、他人の席を横どる図々しさ、厚かましさは観ていられない!車窓
に流れる美しいトスカーナの風景とは対照的に、その醜悪さは徹底しており、観て
いて嫌悪感しか抱けないキャラクターだ。携帯電話のエピソードは、自分も思い込
みで人を判断
していると思い知らされたけれど・・。

 そして真打、ケン・ローチ。スーパー店員でセルティックサポーターであるメガ
ネの太めくん、赤毛のフランク、陽気なジェムジー
の三人は、チャンピオンズ・リ
ーグ観戦のため、スコットランドからローマへ向かっている。列車で旅する理由が
「飛行機嫌い」というのがまた、ベルカンプみたいで笑える。マンチェスター・ユナイ
テッドの7番ユニを着た少年に「ベッカム!」と話しかけ、たちまち意気投合するとこ
ろも、フットボールは世界の共通語、みたいで微笑ましい。

 この少年がアルバニアから来た難民一家の一人だったことから、事態は思わぬ方
向へ走り出す。ジェムジーのチケットを少年が盗んだのだ。いきり立つ三人に、涙
ながらに事情を話す少年の姉。難民の問題は自分たちの手には負えない、自分たち
には関係ない、政治に任せておけばよい。チケットがなくて警察に留置されれば、
セルティックの試合は見られない、何のために金を貯め、旅してきたのだ・・?
それでも、彼らはチケットを少女に差し出す、それも一番熱く怒っていたフランク
が、だ。「ケン・ローチって、なんてやさしい人なんだろう・・」そう思うと熱いもの
が胸からせり上がって来て、頬が涙で濡れていた。

 終着駅で難民一家は父と無事再会し、三人組は逃げのびる。未亡人の下から自由
を得た青年の表情は晴れ晴れとしていて、テルミニ駅にたむろするローマサポータ
ーは歓声を上げている。ラストの大団円に泣き笑いしながらも、いい映画を観た感慨
と満足感に、長い間浸っていた。


『明日へのチケット』2005・伊、英、イラン
  監督:エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
  脚本:エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ポール・ラヴァーティ/
  主演:カルロ・デッレ・ピアーネ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、
     シルヴァーナ・ドゥ・サンティス、フィリッポ・トロジャーノ、
     マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン)
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[2007/06/05 17:39] | DVD/WOWOW | トラックバック(6) | コメント(8) |
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コメント
真紅さま~こんばんは!
やっぱり3つ目が良かったですよねー!
スカッとしました。若さ溢れる?映画でした。

中村俊輔が、セルテックで、大活躍している様子をTVで見る度に、すごく嬉しく、誇らしくなります☆ 真紅さま、サッカーがお好きなんですね^^
私は、最初に彼を見た時(98年でしたっけか・・・?違ったかな・・・。とにかく、ワールドカップに一緒に連れて行ってもらえる、才能あるらしい若い青年!って事で)なんか、この子、か細いし、強いのかぁ??って半信半疑だったことを今思い出すと、大変な、おみそれしちゃってたなー!って(^^;)
あら。。。映画と無関係な話しをしてしまいました。
[2007/06/05 18:37] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
最初のエピソードもよかったのですが、三つ目のラストが大好きでした。
サッカーも、以前ほどではないのですが大好きです。
昔は「三度の飯よりサッカー中継」という感じで(笑)、スタジアムへもよく出かけたものです。
今はなかなかそうもいきません・・。今日もラストだけチラっとしか観られませんでした(泣)
でもアジアカップは楽しみにしています♪
俊輔にはまだまだ頑張ってもらいたいですね☆
ではでは、またお伺いします~。
[2007/06/05 21:48] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん 今晩は。TB&コメントありがとうございました。
やはり最後のエピソードがよかったですか。あの見るからにサッカー小僧という3人組が、切符をめぐって真剣に悩み、本気で怒鳴り合う場面はこの映画のハイライト・シーンですね。周りの目も気にせず大声で怒鳴り合う彼らの姿に感動しました。
最初のエピソードも老人のほのかな恋心がしっとりと描かれていて、ひきつけられるものがありました。難民の子どもにミルクを与える場面は印象的でしたね。
真ん中のエピソードはあのおばちゃんにイライラしますが、さんざん顎で使われ罵倒されていたフィリッポがコンパルトメントを飛び出して行った時には「よしよし」と拍手したくなりましたよ。
それぞれに違った味わいがあって楽しめましたが、やはりケン・ローチが一番でしたね。
[2007/06/05 22:33] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
そうですね、三者三様に魅力ある作品でしたが、やはりケン・ローチに一票、です。
エルマンノ・オルミ監督の作品は未見なのですが、とても美しく幻想的なお話でした。
二番目のエピソードは、ああいうオバサンにならないようにしよう・・・とかなり反省しながら観ました。
彼女がいたから、ラストのフランクの行為が生きてくるとも言えると思います。
ケン・ローチの作品は、これから出来る限り観てみたいと思っています。
またオススメありましたら教えて下さいませ。
ではでは、またお伺いしますね。
[2007/06/05 23:33] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
TBありがとう。
三人の巨匠が、それぞれ持ち味をみせています。日本では、オムニバス的な映画は、えてして、難解な芸術に走りがちなんだけど、この作品は安心して見ていることが出来ました。
[2007/06/05 23:43] URL | kimion20002000 #fOhGkyB. [ 編集 ]
kimion20002000さま、こんにちは。TBのみで失礼してしまいました。
コメントとTBをありがとうございます。
そうですね、列車内という限定された空間の中で、それぞれの監督が持ち味を出しつつも楽しんで撮影している印象を受けました。
考えてみれば、ものすごく贅沢な映画ですね。ありがたや~。
ではでは、またお伺いします!
[2007/06/05 23:56] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、おはようございます。

しばらく前に観終わっていたんですが…

3作品ともそれぞれ良かったです。
キアロスタミ監督はこんな作風のも撮るんですね。真紅さん、リタイアの「桜桃の味」は余韻があって好きな映画です。
この未亡人の結婚生活は幸せではなかったんでしょう。同情はしないけれど哀れには思いますね。
ケン・ローチの作品が一番好きです。
なんといっても3人の青年たちの描きかたが素晴らしいです。最後まで怒っていた青年が最後の最後にチケットを渡してしまう意外性。でもこんなことあるあると思える。

監督の人をみつめる優しさと同時に人をみつめる観察眼にも感服します。

[2007/07/12 08:35] URL | AYA #- [ 編集 ]
AYAさま、こんにちは~。コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね。どのパートもそれぞれに味わいがありますが、やはり私も最後のケン・ローチ編が一番好きです。
キアロスタミの描いたおばさんは強烈でしたね。物凄い不快指数でした。
哀れ・・、本当に、その通りですね。
ケン・ローチの映画をこのところ続けて観たのですが、人へのまなざしのやさしさをいつも感じます。
『桜桃の味』、いつか再トライしてみようかな? と思っています。
また遊びにいらして下さいね。ではでは~。
[2007/07/12 12:22] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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