fc2ブログ
映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

悪意と嘘とビデオテープ~『隠された記憶』

20070517101607.jpg

 『CACHE(HIDDEN)』


 TVキャスターであるジョルジュ(ダニエル・オートゥイユ)は、出版社に勤める妻アン
(ジュリエット・ビノシュ)
と、12歳の息子ピエロとの三人暮らし。友人にも恵まれて
何不自由ない生活を送る彼の元に、自宅を盗撮した差出人不明のビデオテープが送ら
れてくる。一体誰が、何の為に? 見えない恐怖と不安にさいなまれる彼と妻。一切
の音楽(主題歌、効果音)を排し、固定カメラによる長回しのビデオ映像が、観るものの
心をざわつかせる。
2005年度、カンヌ映画祭監督賞、ヨーロッパ映画祭作品賞ほか、
数々の映画賞を受賞した話題作。ミヒャエル・ハネケ監督作は初見。

 この映画の宣伝文句である「衝撃のラストシーン」には少々、いやかなり肩透かしを
くらった感がある。確かに唐突ではあるけれど、衝撃ではない。それよりも、突然
血しぶきが上がるあのシーンのほうが余程強烈だ。ラストに一体どんな「衝撃」が待っ
ているのかどうしても期待してしまうため、ガッカリはしてしまったけれど、それは
映画全体の出来とは別の問題。緊迫感がラストまで持続し、120分間画面に引きつけ
られたことは確か。この映画が好きか嫌いかと問われれば、正直「嫌い」だけれど。

 少年時代、自らが起こした行為が数十年たって思いも寄らぬ形で自分に返ってくる、
という設定に、『オールド・ボーイ』を思い出していた。やった側は綺麗に忘れたつもり
でも、やられた側はいつまでも忘れない。もちろん、そこに悪意が潜んでいたか、や
られた側が復讐しようとしたのか否かの違いはある。本作では犯人の動機はおろか、
犯人そのものも明らかにされないため、観終わってもモヤモヤが残る。そして観終わ
ったばかりの映画について、あれこれ思いを巡らすことになる。

 ジョルジュにとって、少年時代の行為(または意識)は決して悪意を伴うものではなく、
彼にとっては自然なことだったのかもしれない。だから大人になって思い出すことも
なかったのかもしれない。しかし、いやだからこそ恐ろしく罪深いのではないか。
アルジェリアとフランスの関係。差別がごく自然に、少年の内に刷り込まれているの
だから。

20070517101715.jpg

 ジョルジュが傲慢で、自己保身の塊のような男であることは前半で提示されてい
る。そんな彼に終始イラついている妻。水泳に没頭しているようで、何を考えている
のかわからない思春期の息子。罪悪は家庭の中に、自分自身の中にあった。ビデオテ
ープは無意識に隠そうとした罪が、記憶の底から浮かび上がるきっかけに過ぎなかっ
たのかもしれない。
 
 そして何故か印象に残るのが、ジョルジュの息子ピエロがプールでターンを繰り返
す場面。執拗に、意味も無く繰り返されるように感じられるこのシーンは、一体何を
暗示しているのだろう?
 ジュリエット・ビノシュの肌は相変わらず白く輝いていた
けれど、体型が松坂慶子になっているのには驚いた。

20070517101809.jpg

 ビデオテープの送り主が誰なのか、解釈は観たものに委ねると監督は発言している。
人は生まれながらにを背負い、そのことについて考えるきっかけとなって欲しいと。
DVDを繰り返し観れば、新たな謎や発見があるのかもしれない。しかし、もう一度観る
気にはならない。なんとなく、凄い映画だな・・というのはわかるのだけれど。

『隠された記憶』監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
   主演:ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ
           フランス、オーストリア、ドイツ、イタリア/2005)
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 気になる映画
ジャンル : 映画

2007-05-17 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 10
Pagetop
水面に揺れる夢~『弓』 «  ホーム  » 君は僕の運命~『ユア・マイ・サンシャイン』
trackback

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
「隠された記憶」ミヒャエル・ハネケ
こんなに面白いと感じながら腹が立つ映画もないだろう。 面白いというのは無論この映画の持つミステリーの部分だ。ハネケ監督は「この映画で謎解きは重要ではない」と言っているけど、多くの観客の関心はどうしたって謎解きに行ってしまう。しかもこの謎に答えは提示され
2007-05-17 11:01 : 藍空放浪記
隠された記憶
2005年 フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア 2006年4月公開 評価:
2007-05-17 23:34 : 銀の森のゴブリン
隠された記憶
隠された記憶  (2005  フランス・オーストラリア・ドイツ               イタリア)CACHE HIDDEN 監督: ミヒャエル・ハネケ 製作: ファイト・ハイドゥシュカ 製作総指揮:
2007-05-20 07:49 : ちょっとお話
隠された記憶
『Cache(Hidden)』2005年フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア【ネタバレ気味・・】           よかった、どうにかギリギリ間に合って観に行くことができました。ふ~ハネケ監督・・。私は『ピアニスト』しか
2007-05-23 21:21 : 終日暖気
隠された記憶
 フランス映画。原題はCACHÉ(隠された)。観た後に考えさせられる映画。何も考えたくもない人は観ないほうがいい。たとえば、夜寝る前、暗い寝室の天井を見上げた時、過去の自分の言動に深い後悔を感じて眠れなくなるような人はこれを観た方が良い。もしくは自
2007-07-16 19:10 : OKULO
「隠された記憶」
CACHE HIDDEN 2005年/フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア/119分/PG-12 ミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」でかなり疲れた私には、本作「隠された記憶」は、劇場で見たときは絶えずジョルジュに対して不快な気分に陥ったものの、ハネケの仕掛けたものが見えてきて、
2007-09-27 16:27 : 寄り道カフェ
隠された記憶
 『送られてきた1本のビデオテープ それは記憶の底に隠された無邪気な悪意』  コチラの「隠された記憶」は、公開時に”衝撃のラストカット その真実の瞬間を見逃してはいけない”と煽られた「ピアニスト」のミヒャエル・ハネケ監督のセンセーショナルなPG-12指定のサ...
2008-07-07 20:27 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
映画『隠された記憶』を観て
原題:Cache(フランス・オーストリア・ドイツ・イタリア)公式HP上映時間:119分監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ出演:ダニエル・オートゥイユ(ジョルジュ・ロラン)、ジュリエット・ビノシュ(アン・ロラン)、モーリス・ベニシュー(マジッド)、ワリッド・アフキ(...
2008-07-08 22:17 : KINTYRE’SDIARY
『隠された記憶』
劇場公開時に気にはなっていたものの見逃してた作品をやっとのことで鑑賞。 ジュリエット・ビノシュとダニエル・オートゥイユっていう渋い共演もさることながら、話のあらすじを見てるだけで興味津々な作品だったので、楽しみにして観てみました。 心理サスペンス的な要...
2008-10-10 23:59 : cinema!cinema! ミーハー映画・DVDレビュー
「ファニーゲーム」「隠された記憶」感想
両方、ミヒャエル・ハネケ監督のドキドキハラハラ引き込まれ度大な映画。
2009-09-16 12:37 : ポコアポコヤ 映画倉庫
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

TB&コメントありがとうございます。

偏見や差別意識は程度の差こそあれ誰にでもあるでしょう。それにしてもここまでぐりぐりやられたのではジョルジュもたまらない。ハネケも人が悪い。しかも、これでもまだ彼の作品の中では観やすい方らしいですからね。正直、僕にとっても好きなタイプの監督ではないですよ。

デヴィッド・リンチの「ロスト・ハイウェイ」のようなサスペンス・タッチなので最後まで引き込まれますが、後味は確かに悪い。文字通り古傷をえぐりだす展開。植民地問題をめぐる社会的テーマがあるので僕は評価しましたが、賛否が分かれるでしょうね。

それにしてもおばちゃん体型の代表に名を挙げられたのでは松坂慶子も浮かばれまいに。うるうる。
2007-05-18 00:29 : ゴブリン URL : 編集
ゴブリンさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
監督さん、とっても頭のよい方なのでしょうけど、本当に性格悪そうですね(笑)
しかもその術中にはまって、観た後何日もこの映画について考えてしまうんですよね~。。本当に人が悪い!
フランス人はもっと怒るんじゃないでしょうか。

デヴィッド・リンチの映画は『マルホランド・ドライヴ』も『ロスト・ハイウェイ』も未見なのですよ。
私も凄い映画だとは思いましたが、好きじゃないですね。

あはははは、ただのおばちゃん体型じゃなく、「昔は綺麗だった人」代表ですから!
ビノシュは新作ではジュードと恋愛関係になるようですから、体型にも注目したいと思っています。
(おばちゃん体型のままでジュードと恋仲になるなんて・・許せん)
ではでは、またお伺いします~。
2007-05-18 02:58 : 真紅 URL : 編集
こちらにも。最後は期待するわりには
大した衝撃ではないですよね。
わかりづらいしね・・
血・・・一杯でしたよね・・
急に出てくるので、準備しようがないですよね。
私・・あの犬の話も結構驚いたのですよ。
ビノシュ・・は松坂慶子・・
フフフ~~そうでしたね。
ビノシュは素敵な男優さんとの共演が
多いので(ジュードもレイフもジョニーも
その他いっぱい・・ですよね)いつもうらやましく
思っている女優さんの一人です。
いいな~~~笑
2007-05-20 08:04 : みみこ URL : 編集
みみこさま、こちらにもコメント&TBありがとうございます。
ラストの「衝撃」は宣伝の煽りですね、でもあの宣伝文句で「ラストに何かある」のは事前にわかるので、見逃さずにすんだかも?しれません。
あの犬の話、確かにビックリしました。
ビノシュって昔は「ぶりっ子してる~」と思ってて、苦手だったのですよ・・。
彼女が出てたら観たい映画も観なかったり・・。バカでした・・。
素敵な女優さんだなと今は思えます。
確かにうらやましいです、『嵐が丘』ずっと観たいんですよ~。
ではでは、後ほどお伺いしますね。
2007-05-20 09:52 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんばんは~♪
TBとコメントをいただき、ありがとうございました。
この映画、ラストより犬の話のほうがよほど衝撃でしたわ(笑)
70年代の某映画を見たら、この映画はその作品に似てるなあと思って、ちょっと冷めた感じになりました。
ハネケ監督、相当なインテリなんでしょうね。
個人的には、アニー・ジラルドが出ているのが嬉しかったんですけど・・・。
2007-05-23 21:27 : 武田 URL : 編集
武田さま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
そうですよね、あのラストのどこが衝撃なんじゃ?!と思っている方多いのではないでしょうか。
そうか、元ネタがあるのですね・・。監督のインタビュー映像も観ましたけれど、
「ボクは頭がいいんだよ、君たちついて来れるかな?フッフッフ」って感じでした(汗)
アニー・ジラルドについてはゴブリンさまも言及してらっしゃいました。
美人女優さんだったそうですね~。私は知りませんでした。
ではでは、またいい映画あったら教えて下さいませ~。
2007-05-23 23:48 : 真紅 URL : 編集
こんばんは
ご無沙汰してます。
その間にコメントしたくなる記事がいっぱい~!
この作品は、たしかにあの自殺シーンが衝撃でしたね。何の構えもしてなかったので固まってしまいました。
アルジェリア人虐殺の歴史を知らなかったので、見たときはその根深い差別にピンとこなかったのですが…。その差別の先にある人間性の問題としてジョルジュは罪深かったですね。
ハネケ作品はもう観られる予定はないですか?
もし気が向いたら『ピアニスト』観てみてください。これも…ひどい後味の作品ですが(笑)。
2007-05-24 23:20 : リュカ URL : 編集
リュカさま、こんにちは。こちらこそご無沙汰しております。コメントありがとうございます。
この映画の根底のところは、ヨーロッパ人じゃないと理解できないのでは・・・とどなたかがおっしゃっていたような気がします。
日本にいたら、実感としてフランスとアルジェリアの関係とかピンときませんよね。
ジダンは知っているけれど・・という感じでしょうか。
『ピアニスト』は有名ですね。何かの賞を受賞したような?
リュカさまのオススメならば、レンタルで見つけたら観てみますね。ハネケ中毒になったりして(笑)
ではでは、私もまたお伺いしますね。
2007-05-24 23:48 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、早速にTB&コメント有難うございます。タイトルのコピーってソダーバーグの「セックスと嘘とビデオテープ」のもじりですか?真紅さんもいろいろ暗示とか隠されている部分って感じるでしょ?見るほどに見えてくるから面白いのよ、ハネケ作品は。大丈夫!一度見て免疫で着ているから面白く見れるわよ。だって内容がとtも知的で。グロテスクではないから、ある面見る側の知的好奇心をつついてくれるわよ。TBさせていただきますね。
2007-09-27 16:27 : シュエット URL : 編集
シュエットさま、こんにちは~。こちらこそコメント&TBありがとうございます。
そうです、『セックスと嘘とビデオテープ』拝借させていただきました。
サブタイトル付けるの面白くて止められません(笑)
ソーダバーグの新作、観たいなと思いつつです。
さて、この映画は隠された意図を読み取らないと、不快感ばかりが残る作品ですね。
ラストだって、気付かない人は気付かないように撮ってあるし・・・。
見るほどに見えてくる、確かにその通りですね。
ではでは、またお伺いします~。
2007-09-27 17:00 : 真紅 URL : 編集
真紅さん~こんにちは!
これが、真紅さんの初ハネケだったのね^^
マイルドな感じの(どういう・・・)映画から入ったのね♪
私はこれの後に、ファニーゲームを見たんだけれど、こっちの方が善かったな~。
ファニーは、もう血圧上がりっぱなしよ~!!

で、松坂慶子には爆笑!私も思った~。でもモテオーラが彼女から漂ってるんだよな、うらやまじい~~。幾つになっても、魅力的だわん。

ラストは私ももっとすっきりしたかったんだけど、でもこの監督の映画じゃ、それは望めないんだろうなあ・・・というあきらめが先にあったので、やっぱりか・・・と(^▽^)
2009-09-16 12:37 : latifa URL : 編集
latifaさん、こんにちは~。コメントとTBありがとうございます。
そうそう、これが初だったのよ~。
で、私も、ファニーゲームは二度と観たくないわ。。US版も、観に行かなかった。DVDも観ないと思うわ。
ハネケってほんっとに性格悪いと思う。

ビノシュって、絶対男好きのするタイプよね~~~~。。
私も、うらやましい。。今更うらやましがってもどうにもならんが。。

白黒つけたり、結論や教訓を与えてくれるような監督ではないですからね。
むしろ議論を呼んだり、物議を醸すことを楽しんでる気がする。
カタルシスなんてもっての外! そう割り切って観れば、魅力的な監督さんなんだろうね。
後ほどTB2コ持って伺います。
2009-09-17 00:04 : 真紅 URL : 編集
Pagetop
« next  ホーム  prev »

What's New?

真紅

Author:真紅
 Cor Cordium 
★劇場鑑賞した映画の感想はインスタにアップしています@ruby_red66

Archives

Search this site

Thank You!