家族のかたち~『植物診断室』
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 少子・晩婚化の時代と言われて久しい。星野智幸による中篇『植物診断室』の主人公
水鳥寛樹も、そんな時代の申し子なのかもしれない。
「結婚しない40男」である寛樹は、横浜港を望むタワーマンションに住み、趣味は一人
歩き(散歩、または徘徊)と、ベランダを植物の楽園にした「ジャングリング」。会社
の人間とは適度に付き合うが、ほぼ一匹狼。初老の母親からはさり気なく、そして
時にあからさまに「結婚しない理由」を質されている。そして不思議なことに、彼は子
どもにやたらと好かれるのだった。


 純粋に「自分らしさ」や自己実現を追求し、自分のペースで生きていくことを望むな
らば、他者と共生する=結婚は難しいだろう。ましてや、全く未知の他者である「子ども」
を持つことなど論外かもしれない。たとえ結婚したとしても、子どもを持つことに
懐疑的になるのも当然かもしれない。我々の生きるこの時代とこの社会に、本当に
安心して子どもを託せるのかと問われれば、答えはノーだ。中学の教師である寛樹
の義弟が「こんな環境に置かれる子どもはちょっと悲惨すぎる」と子どもを持つことに
対する不安を語る場面は悲観的なようでいてリアルだと思う。

 大人になったら就職して結婚して、子どもを何人か持つ、というモデルケースの
ような人生を、もう誰も無邪気に信じなくなってしまったのかもしれない。それで
も人は一人では生きていけないし、誰かとどこかで繋がりたいと願うだろう。この
小説が提示する新しい家族のかたちは、今の時代に求められる、ごく自然な人とし
ての生き方なのかもしれない。

 結婚はしてもいいし、しなくてもいいと思う。子どももいてもいいし、いなくて
もいいと思う。ましてや子どもの数を誰かに決められたり、何人いるのが健全だ、
などと発言して欲しくもない。様々な家族のかたち、血の繋がりに縛られない生き
方があってもいいのではないだろうか?


 星野智幸の小説は初めて読んだ。『植物診断室』は芥川賞候補作。共感できる内容、
柔らかくどこか醒めた文体に適度な距離感があって心地よい。
新作は「すばる」5月号
に掲載されている『無間道』。ヤンやラウ(トニーやアンディ)が登場するのだろうか?
しないと思うが読んでみたい。

『植物診断室』星野智幸・著/文藝春秋・2007)
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[2007/04/11 21:38] | 読書 | トラックバック(1) | コメント(4) |
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コメント
真紅さん おはようございます!
まさに、ワタクシ晩婚&晩産でございまして、この本の主人公に少し興味がわきましたっ!
夫も同様に四十路を越えての結婚でした。
このまま独身でもイイかなぁなんて思っていたようです。
難しい問題ではありますが、周囲から結婚や出産のことを言われるといい感じはしなものでした。
真紅さんは映画だけじゃなく、こうして読書もよくされていらっしゃるのですねぇ。
見習わないといけません。
晩婚に敏感に反応してコメントさせていただきました。
[2007/04/13 09:17] URL | なぎさ #- [ 編集 ]
なぎささま、こんにちは。コメントありがとうございます。
この本の主人公は、自らを「あらゆる意味で独身」と表現するんです。
独身が自分の性質の一部だと。
自分をしっかり持っている強い人なんだと思います。
私は自分が弱い人間なので、強い人にすっごく憧れるんですよ・・。
なぎささまと旦那さまは、ご縁があったのですね~。
ブログを始めて読書量が激減したので、今年は意識して本の感想も書こうと思っています。
とは言っても積読状態なんですけど(汗)。
読書しないと、自分が枯れていく気がするんですよ。水のようなものかもしれないですね。
ではでは、またお話しましょう!
[2007/04/13 09:29] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは
真紅さんは読書家でもいらっしゃるんですね。

私の知り合いに子供がいない夫婦がいます。ご主人の転勤で他県から来たのですが、もう自分達の故郷にはも戻らないそうです。
故郷では様々な心ない干渉や白い目で見られ続け精神的にも大変な苦痛を味わい続けたそうです。 幸い私の住んでる地方は歴史も他県より浅いので、そういう世間の目は幾分薄いようです。
昨年亡くなった米原万理さんが以前新聞のコラムで書いてました。
文明が発達すると子供の出生率は減る。だから先進国は減少傾向になり後進国は減らない。
(育つ率は別ですが) それが自然の摂理ではないかというようなことでした。

[2007/04/13 11:02] URL | AYA #- [ 編集 ]
AYAさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
私は読書家とは言えないと思います、『世界名作全集』みたいなのは読んでませんし・・。
強いて言えば、本好き、ですかね?
他人に干渉する人は、熱中できる何かを持たない人かもしれませんね。
情熱を傾ける何かがあれば、他人のプライベートにあまり関心がいかないと思うのですが。
でも、私もセレブや芸能人のゴシップは興味アリですから、偉そうなことは言えないのですけど・・。
米原万里さんこそ読書家、博覧強記の方でしたね。
彼女の絶筆『打ちのめされるよな凄い本』、圧倒されてしまいました。
ご冥福をお祈りします。
いろんな生き方が許される時代になっているとは思うのですが、人と違うと打たれる、というのはなかなか無くならないですね。
全ての人が生きやすいと感じられる世の中であって欲しいです。
またお話しましょう、ではでは。
[2007/04/13 15:55] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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「植物診断室」 四十男の妄想と個の輪郭をめぐって
星野智幸著 『植物診断室』 (文藝春秋) 男は40歳になるがまだ独身である。湾岸に臨む高層マンションでひとり暮らす彼は、ベランダに生い茂る草木の中に身を沈めたり、あらゆる町の路地をあてもなくさまよい歩くことを日常の楽しみにしている。そしていつの頃からか、植物
[2007/04/14 02:35] BLOG IN PREPARATION
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