デイムの恋~『ラヴェンダーの咲く庭で』
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 1930年代のイギリス、コーンウォール地方。海に面した屋敷に、初老の姉妹
ひっそりと暮らしていた。嵐が過ぎ去ったある朝、浜辺に一人の青年が漂着してい
るのを見つけた彼女たちは、青年を自宅で介抱する。青年の名はアンドレア、ポー
ランドからアメリカを目指して乗り込んだ船が難破したという。老姉妹と言葉の
通じない青年との、静かで少し、奇妙な同居生活が始まる・・。

 アンドレア(ダニエル・ブリュール)に恋してしまうアーシュラ(ジュディ・デンチ)
に感情移入してしまい、途中から涙・涙の鑑賞でした。しかし、この御伽話のよう
な恋物語に泣かされるとは・・。私もいよいよ焼きが回ってきたかな(汗)。

 老姉妹、アーシュラとジャネットを演じたジュディ・デンチとマギー・スミス
は、英国が誇る大女優。ともにデイムの称号を持ち、オスカー女優でもある。
イギリスの中産階級、「いいとこのお嬢さん」がそのまま歳を取ったような、純粋で
世間知らずな雰囲気
を見事に醸し出してお二人ともさすが。特にジュディ・デンチ。
アンドレアへのどうしようもない思い、彼の一挙手一投足に注がれる眼差しの、
なんと初々しいことか!戦争で夫(あるいは恋人、婚約者)を奪われた姉、恋をし、
愛を知る機会さえ与えられなかった妹。彼女たちも間違いなく戦争の犠牲者であ
り、「人生は不公平よ」と泣くアーシュラ、そんな妹を抱きしめるしかないジャネッ
トが哀しい。

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 そんなアーシュラにとって、アンドレアは初めての恋の相手だったのかもしれ
ない。彼の髪を拾い、そっとポケットに隠すことくらいしかできない、淡い恋
孫と祖母ほどの年齢差があろうと、彼女はアンドレアを見た瞬間、恋に落ちてし
まったのだ。

 老いと恋情について考えるのと同じくらい、「若さの傲慢さ」についても考えてし
まった。姉妹の近くに滞在する画家・オルガの振る舞いは、アーシュラに感情移
入してしまった自分にはとても無作法で非常識なものに思える。勝手に他人の庭
に入り、庭の花を摘むかのように、姉妹からアンドレアを奪い去ってゆくオルガ。
いつまでも一緒にはいられない、ロンドンに行くことがアンドレアのためになる
とわかってはいても、せめて別れの挨拶くらいしてから去る思いやりが持てなか
ったのか。アンドレアを「囚人」と呼んだオルガには、彼が姉妹、特にアーシュラに
とってどれほど大きな存在か、想像することも出来ないのだろう

 舞台の上で演奏するアンドレアを、自らの眼に、頭に、心の中に刻み込もうと
するかのように見つめるアーシュラ。ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団に
よるものだという美しい音楽、ヴァイオリンの調べが、彼女の人生の哀歓を一層
引き立てる。引き際を心得た彼女たちの、凛とした後姿が美しい

『ラヴェンダーの咲く庭で』監督・脚本:チャールズ・ダンス
 主演:ジュディ・デンチ、マギー・スミス、ダニエル・ブリュール/2004・英)
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

[2007/04/05 17:26] | DVD/WOWOW | トラックバック(6) | コメント(14) |
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コメント
真紅さん、こんにちは!!
真紅さんのレビュー、しみじみと拝見させて頂きました。そして、この映画のことが色々蘇って来ました。いや~やっぱり、この映画、切ないけれども、好きです!

「若さの傲慢さ」
まさに!その通りですね。私もアーシュラに感情移入しちゃっていたので、お庭にズカズカ入って来た時、ギャッ!!この女危険だわっ!!嫌だわ!!って、びびっと来ちゃいましたw
 そうそう!せめて別れの挨拶くらい・・・って、私もそう思いました。
お話してたら、また、この映画が、見たくなって来ちゃいました!
[2007/04/05 18:45] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさま、いらっしゃいませ!拙ブログへようこそ。コメント&TBありがとうございます。
これ、とっても大人の映画だと思うのですが、好きな方がたくさんいらっしゃってうれしいです。
私ももちろん大好きです!音楽もいいですよね~。。
村のみんながラジオに聴き入るシーンもよかったです。
ある意味、アンドレアも傲慢なんですよね。。でも、男はあれで正解なのでしょうが。
ホント、切ないけれどいい映画でした。
また伺わせて下さいね。今後ともよろしくお願いします!
ではでは~。
[2007/04/05 23:06] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
焼きが回って来た(?)真紅さん、こんばんは。

アーシュラに感情移入する方が多い中、
個人的には彼に惹かれるものがなかったせいか^^;、自分が長女であるせいか、
わたしは姉のジャネットになって、
やがて傷つくに決まってる妹に、何て言ってやろうかと、そればかり考えてました。

ああ、真紅さん、やっぱりお若いなぁ、って思いました。
わたしには、オルガは傲慢には見えなかったもの。
繊細な心配りが足りないだけで、悪気のない普通の行動だけれど、
老姉妹にとっては驚異の存在になるんだわ…っていうだけでした。

わたしの友人たちは、子どもがみんな成人して結婚させたり孫が生れたり、という方が多くて、
その方たちと異口同音に言ったのは
「わたしたちの年代で観れてよかったね」でした。
真紅さんもずっと先でご覧になったら、また違う感想かもしれませんよ。
[2007/04/06 00:02] URL | 悠雅 #- [ 編集 ]
悠雅さま、こんにちは!コメントとTBをありがとうございます。
これ観て、泣きながら我に返り「この映画に感情移入できてる自分って・・」と思ってしまいました。
年取ったんだなぁ、って(笑)。
私も一応、姉でもあるのですが、上もいるので下の立場で観てしまうことが多いです。
でも、おっしゃる通り、更に、孫が出来たり髪が真っ白になったりしてから観ると、またまた違った観方ができるのかもしれませんね。
オルガを傲慢に感じるって、まだ熱い恋の炎が燃え盛っているということなのでしょうか?
私は、悠雅さまもまだまだ「恋する乙女」だと思いますよ~。
また「恋バナ」しましょう!ではでは~。
[2007/04/06 00:47] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんにちは♪

私もこの映画好きです。内容もいいですが海のある美しい風景やお庭、英国のテーブルウェアなど良かったです。 
イギリスのトーストって薄くて小さいです。ティーカップやお皿もステキでした。
アンティークが好きなのでそういう意味でも楽しめました。

初めて恋をした少女のようなジュディ・デンチも素晴らしかったですね。


[2007/04/06 16:32] URL | AYA #- [ 編集 ]
TBが飛びました~♪
こんばんは、真紅さま。昨日はコメントをいただき、ありがとうございました。
この映画、やっぱり二人の名女優が素晴らしかったですね。アーシュラを見れば、ママな気持ち。ジャネットは同士、オルガには(この坊やの才能をいっちょよろしく)みたいな感じで見ておりました。で、ヴァイオリンの音色を聴きながら涙して・・

あれ?私、もう晩年でしょうか(笑)
[2007/04/06 19:57] URL | 武田 #qs0owOX6 [ 編集 ]
AYAさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうなんです!コーンウォール地方の美しい自然や、姉妹の暮らしぶり、テーブルウエアやクラシックカーなどなど、「古き善き時代」という感じで本当に素敵でしたよね。
車がピカピカ過ぎるのが気になりましたが・・。
イギリスのお茶の習慣っていいですよね。私も紅茶大好きなので楽しめました!
またお話しにいらして下さいね。ではでは~。
[2007/04/07 06:00] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
武田さま、こんにちは。TB&コメントありがとうございます。
私もTB再度トライしたら飛びました~♪
何故か、武田さま側から成功すると飛ぶようです?今後ともよろしくお願いします。
私はアーシュラが同士、ジャネットは「心強いお姉さん」、オルガは「敵」でしたわ。
ラストのあの演奏は泣けましたね・・。
晩年?わはは、いやいや武田さまはお若いのに経験豊富ですから!(映画経験ね)
昨夜爆睡してしまい、記事アップできませんでした。
またお伺いしますね、ではでは~。
[2007/04/07 06:07] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こちらにもお邪魔します。
感想をUPできそうにもありませんが(恥)
私も以前観ましたよ。
二人のベテラン女優がさすがでしたね~
実は私も悠雅さん(の投稿を読ませて頂いて)と同じ様な心持ちで観てました(笑)
そしてそして、アーシュラの気持ちも痛いほど解る気がして
涙が止まりませんでしたよ。
私にもまだ少し乙女心が残ってるかも?(爆)
真紅さんの
>引き際を心得た彼女たちの
ここなんですよね!
人生の終盤に差し掛かったこのふたりの身の処し方に
私も感動しましたよ~
こんな老女になりたいわって(笑)
それと、あの半分に切った薄いトーストを立てる
トーストスタンド(?)を
探しましたが見つけられませんでした。
この映画以来、我が家は薄いトーストが流行りです♪
[2007/04/13 01:58] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
fizz♪さま、こちらにもコメント、ありがとうございます。
お姉さん気質なのですね~。私も一応姉でもあるのですが、映画を観るときは何故か下の立場からが多いのです。
一番共感できるのは真ん中です。『いつか晴れた日に』のマリアンヌは他人とは思えません、美しさは別として(笑)
いや~お互い死ぬまで乙女ですよ!老女になっても乙女でいたい!
関西ではトースト、5枚切りが人気なのですよ。8枚切りってなかなかないです。
姉妹の食卓、素敵でしたね~。私もあんな感じで優雅にお茶したいです。
お仕事、落ち着いたらまたいろいろお話させて下さいね。
ではでは、またお伺いします~。
[2007/04/13 04:16] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんばんは
デンチ,いじらしくて,可愛かったですね。切ないわ・・・。
私もオルガは大嫌いでしたよ。
アンドレアはどっちにしても,いずれ姉妹のもとを離れて
才能を伸ばす運命にあるとは思うけど,
オルガのあのやり方は無作法で無神経だよね~~。
あ~,ひっぱたきたーい。
清純なアーシュラに比べて
若い彼女の方がしたたかに見えましたわ。
ダニエル・ブリュール,どっかに落ちてないかしら??
[2008/07/28 21:49] URL | なな #- [ 編集 ]
ななさま、こんにちは♪ コメントとTBをありがとうございます。
あはは、「ダニエル・ブリュール、どっかに落ちて・・・」に笑ってしまいました。
落ちてたら、拾うよね~! うふふふふ。
ジュディ・デンチって、怖くて偉い人の役のイメージがあったのですが、こんなかわいい乙女ゴコロな役柄も巧いですね!
オルガにはイライラきましたね。。
若いって、それだけで傲慢なものなのだなぁと思います。
彼女に悪意はなかったのだろうけれど、自然に振舞うだけで姉妹にとっては脅威でしたよね。
いい映画だったな~、と思います。
ではでは、後ほどお伺いしますね!
[2008/07/29 09:20] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
あたしもアーシュラってば初恋なのかな?
と思いました。
ジャネットに写真の男性のことを聞くシーンとか、
どうしようもない思いに自分自身でとまどっているような
ところとかありましたものね~。
なんだか初恋の淡くて、切なくて、でもとっても幸せな
気持ちを思い出させてもらっちゃいましたね。
[2009/06/15 21:13] URL | miyu #- [ 編集 ]
miyuさん、コメントとTBありがとうございます。
アーシュラにとって、ダニエル・ブリュールは天からの贈り物ですよねー。
彼女、見かけはおばあちゃんだけど、心は乙女でしたね。
若い頃、戦争で男の人がいなくて・・・、って状況は世界中どこでもあるんだな、と思いました。
いい映画よね~、大好きだわ。切ないけど。。
後ほど伺いますね。
[2009/06/16 18:13] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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