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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

青のままで〜『裸足で鳴らしてみせろ』 #1

裸足で鳴らしてみせろ














 LET ME HEAR IT BAREFOOT 


実家の不用品回収会社で働く直巳(佐々木詩音)は、目の不自由な養母・美鳥(風吹ジュン)と暮らす槙(諏訪珠理)と出逢う

 「どこへ行こう?」 「どこへでも行ける」

オーファンズ・ブルース でPFFグランプリを受賞した工藤梨穂監督の商業映画デビュー作
何処にも行けないふたりの青年が世界の 「音」 を探して彷徨うロードムービー
(青年と言うよりは Boy meets Boy が正しいかな)
PFFスカラシップ作品です
昨年劇場公開を観逃して一番残念だった映画をWOWOWにて鑑賞

粗削りで万人受けする作品ではない(多分)ですが、私は愛おしくて堪らない
しばらくはこの映画のことしか考えられない状態でした
なぜこんなにも心奪われ、涙が止まらないのか?
この映画には、私が創作に求める 「切実さ」 が溢れているからだと思う
誠実で、真摯でひたむきで青臭くて
このポスター見てくださいよ
「部屋に飾りたい」 と久々に思った

☆以下、内容に言及(ネタバレ)します☆


直巳の避難所の光がブエノスアイレスだなと思ったら 『天使の涙』 が置いてある
ビデオ、レコード、カセットテープ、ブラウン管テレビ
スマホが出てこず、家電が鳴る現代劇を久しぶりに観た気がする

直巳(ナオミ)と槙(マキ)って名前がいい(ふたりのセリフに同感)
語感だけだと男女どちらでも通る名前なのは敢えてそうしたのかな
もちろん美鳥(ミドリ)も素敵
役名と俳優名が併記してあるエンドロールで初めて音と漢字がリンクして、とても好感しました

直巳の所在なげでオドオドした感じを、佐々木詩音が繊細に表現していた
典型的なモラハラ気質の父(甲本雅裕)と向き合う時の上目遣いとか
直巳の母は、そんな夫から逃げるために家を出たのではないかな
残された直巳が 「触れるものしか信じない」 と言うのもわかるような気がする
その 「触れること」 についての映画でもありました

直巳も槙も、首に触れる仕草が癖
でも、お互いには触れられない

「抱きしめられる人がいるって、どんな感じ?」 「どうしてみんな、触れられる人を見つけられるんだろう」
孤児だったのだろう槙の孤独が痛いほど伝わってくる
それは直巳も同じ
ゴーグルのシーンでは私のほうが泣いていた

ふたりで食べるパスタは ゴッズ・オウン・カントリー へのオマージュ?と思わず前のめりになった
幸せなひととき
束の間の世界旅行
「一緒に居たかったから、止められなかった」

同じ磁場を持つふたり
だから強い力で反発しあう
甘噛みのようなじゃれ合いから始まった格闘が、互いを傷つける暴力にエスカレートしてしまう展開は観ていて辛かった(同時に、このバトルが少し長いとも感じた)

「俺に触れよ!」 「できないよ」

ああいう形でしか愛情を表現できない彼らに共感はできないのに、私まで胸を抉られるようで

何処へも行けないから、「今しかない」 と焦る直巳
「何処にも行けなくても」 一緒にいられればいい、と願う槙
(特に直巳の)爆発しそうな激情は滅びへと一直線に堕ちてゆく
お金持ちの佐渡さんの登場で 「そうなる」 ことは予想がついたけれど、「そうなってほしくない」 と願いながら観ていたのに

そして何度も何度も観てしまうラストシークエンス
投げ出された裸足
見上げる直巳
見下ろす槙
青いままのふたり
そこに言葉はない、でも

槙はずっとカセットをトラックに乗せて、ひとりで聴いていたのかな
直己は髪型も雰囲気も変わったけれど、槙はなんにも変わっていない
忘れてないよ
今までも
今も
これからもずっと

こんな愛の告白ってある?(号泣)
「愛してる」 でも 「好き」 でもない
言葉にしなくても、それはふたりだけにはわかる
永遠の約束

こういうシチュエーションってありますよね?
心を残して離れた相手と何年も経って偶然再会して、しこりが溶けてゆく感覚
一番好きな人とずっと一緒にはいられない
すぐ傍にいる相手とは別の場所に心がある

 「一緒では苦しすぎるが、ひとりでは生きていけない」

未来を信じて、記憶に残ればそれでいいと言った槙
今しか信じられず、触れるものしか信じないと言った直巳

やさしい嘘、苦しい嘘
夕日の先のそれぞれの道
それでも人生は続いてゆく

つづく

( 『裸足で鳴らしてみせろ』 監督・脚本:工藤梨穂/主演:佐々木詩音、諏訪珠里/2021)
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