うたかたの日々~『夢を与える』

「いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。いつも。たった一人の。一人
ぼっちの。一人の女の子の落ちかたというものを」(岡崎京子)
『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞した著者の、三年半ぶりの受賞第一作。チャイルド
モデルから国民的少女タレントとなった主人公・夕子。芸能界を駆け抜けた彼女の、
激動の18年間を綴った300頁の力作。
実は私は『蹴りたい背中』よりも『蛇にピアス』(金原ひとみ・著)のほうが好きだっ
たので、過剰な期待はせずに本書を手に取った。しかし、最初のページからすぐに
引き込まれ、最後まで概ね面白く読んだ。著者はとても力強い、説得力のある文体
を獲得したと思う。
一人の女の子が一見華々しい芸能界に生き、孤独感にさいなまれながらやがて
落ちてゆく、というプロットは岡崎京子氏の『ヘルター・スケルター』を思い出させ
る。冒頭の文は『ヘルター・スケルター』の帯に書かれた言葉。まだ20代前半の
綿矢氏はこの漫画を読んで触発され『夢を与える』を著したのでは・・などと、つい
邪推してしまう。

『ヘルター・スケルター』
/岡崎京子・著
/祥伝社・2003
両親の不仲、兄弟のいない寂しさ、孤独感。主人公と同じように10代から芸能界
に生き、若くして結婚、離婚を経験した宇多田ヒカルの心情ともダブる。彼女はシ
ンガーとしてまだまだ絶好調だけれど、内に秘めた孤独は愛した人さえも拒絶して
いるかのようで痛々しい。主人公が所属した芸能プロダクション社長が言うように、
ただの「よくあること」なのかもしれないけれど。
同じく10代半ばで文学賞を受賞し、作家デビューした綿矢氏が、同じような孤独
を抱えているのかどうかはわからない。彼女の今後の作品にその答えがあるのかも
しれない。けれど、どうか人生のダークサイドばかり見つめないで欲しい。次回作
も必ず読みます。
(『夢を与える』綿矢りさ・著/河出書房新社・2007)
- 関連記事
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こんにちは。
『夢を与える』私も読んでみたいと思ってます。
『蹴りたい背中』は物足りなかったです。
10代の女の子の感情をうまくすくい上げていたと思うけれどそれだけのような気がして。
比較しても仕方ないけれど、70年代の少女マンガを読んでいた私にはこの程度の描写だったら当時たくさん読んでいたと思ってしまいます^^;
岡崎京子さんの作品は未読なんです。
不幸な事故でお気の毒でしたが、だいぶ回復してきたようですね。
いつか読んでみたいと思っていますが私の年齢で読むのはちょっと違う気がして…
若い頃に読みたかったです。
『夢を与える』私も読んでみたいと思ってます。
『蹴りたい背中』は物足りなかったです。
10代の女の子の感情をうまくすくい上げていたと思うけれどそれだけのような気がして。
比較しても仕方ないけれど、70年代の少女マンガを読んでいた私にはこの程度の描写だったら当時たくさん読んでいたと思ってしまいます^^;
岡崎京子さんの作品は未読なんです。
不幸な事故でお気の毒でしたが、だいぶ回復してきたようですね。
いつか読んでみたいと思っていますが私の年齢で読むのはちょっと違う気がして…
若い頃に読みたかったです。
miyucoさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
『夢を与える』は今までの作品よりも分量がグッと増え、専業作家になったのだなぁ・・という感じでした。
岡崎京子さんの作品は、私もほとんど読んでないんですよ。
(というか漫画をあまり知らないのです、悲)
でもどうでしょう?世代を超えて読まれる漫画家さんの一人だと思いますよ。
『ヘルター・スケルター』は事故に遭われる直前の作品で、単行本化に際しての加筆・修正がなされていません。
だからちょっと荒削りですが、凄い作品です。機会があれば是非!読んでみて下さいませ~。
ではでは、私もまた遊びに行きますね。
『夢を与える』は今までの作品よりも分量がグッと増え、専業作家になったのだなぁ・・という感じでした。
岡崎京子さんの作品は、私もほとんど読んでないんですよ。
(というか漫画をあまり知らないのです、悲)
でもどうでしょう?世代を超えて読まれる漫画家さんの一人だと思いますよ。
『ヘルター・スケルター』は事故に遭われる直前の作品で、単行本化に際しての加筆・修正がなされていません。
だからちょっと荒削りですが、凄い作品です。機会があれば是非!読んでみて下さいませ~。
ではでは、私もまた遊びに行きますね。