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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

魂の双子~『ヘヴン』

20070320235021.jpg



 *内容に触れています*


 イタリア、トリノの街。ビルに爆弾を仕掛け、尋問されるイギリス人の女。彼女を
見つめ、彼女の言葉を通訳する男。殺人犯と憲兵として出逢ったふたりが、運命に導
かれ「ヘヴン」へと飛び立ってゆく様を、スペースカムによる雄大で美しい映像と、静謐
な音楽
で綴った佳作。ポーランドの巨匠、クシシュトフ・キェシロフスキの遺稿をドイツの
俊英トム・ティクヴァが監督、シドニー・ポラック、アンソニー・ミンゲラ、ハーヴェイ・
ワインスタイン
らが製作総指揮を務めている。嵌りました。素晴らしい作品です。
理屈じゃない。

 まず言及すべきはやはり、ケイト・ブランシェット。主人公のひとり、フィリッパ
を演じた彼女が入魂の演技を見せてくれる。尋問室で真実を知らされ、愕然とするま
での微妙な表情の変化。瞳に宿る復讐への執念、冷たい狂気。頭を丸めた後の穏やか
な微笑。透明感と凄みが混ざり合ったような美しさ。間違いなく、彼女が現代最高の
女優の一人
であることを、十二分に感じさせてくれる。

 フィリッパと出逢い、予め定められていた運命に身をゆだねようとする男、フィリ
ッポ
を演じたジョヴァンニ・リビシ。彼もケイトに負けず劣らず、この美しく悲しい
物語の主役を熱演している。父の跡を継ぎ、世の中に出たばかりの初々しい青年。愛
ばかりか、恋さえも知らないような、まだあどけなさを残した表情。フィリッパに出
逢い、彼女と運命を共にしようとする彼の静かな眼差しには、深い愛情と揺るぎない
決意
がみなぎっている。

20070320235146.jpg

 灰色の尋問室から、光溢れるトスカーナの大地へ。トンネルを抜けた後、画面いっ
ぱいに広がる風景が素晴らしい。頭を丸め、白いシャツに黒いパンツというシンプル
な、最小限の出で立ちをした二人は、まるで双子のように見える。父の元へ電話をか
けたフィリッポに駆け寄り、抱きつくフィリッパの姿に涙が止まらない。彼らが出逢
ったこと、惹かれあったことは偶然ではない。彼らは互いに魂の半身だったから、二人
でひとつ、彼らの間に愛と呼ばれるものは予め存在していたのだ。それまでに起こっ
た数々の悲劇も、彼らをそこへ導くための必然だとさえ思えてくる。

 ナレーションも説明もなく、極力削ぎ落とされたセリフ。僅かな表情と仕草で、主
人公たちの心のありようを表現する演出も見事。美しいピアノの旋律、何曲かは監督
であるトム・ティクヴァ自身が作曲し、演奏してる音楽も、この静寂が支配する物語
をより一層、印象深いものにさせることに成功している。

「なぜ最も大事な瞬間に、人間は無力なのだろう」愛情深いフィリッポの父のセリフ、
長い間のあと、"Si,"と一言で自らの決意を表現するフィリッパ。夕暮れ時、大きな
木の下で結ばれる二人は、魂の居場所を見つけたかのように荘厳だ。

 ラストシーン、空高く吸い込まれるようにヘリが消えてゆく。逃避行の終わり、彼
らなりの贖罪を、どこまでも青い空が包み込む。これが感動でなくて、何なのだ。

『ヘヴン』監督:トム・ティクヴァ/脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ
      主演:ケイト・ブランシェット、ジョヴァンニ・リビシ
                     2002・独、仏、伊、米、英)
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テーマ : 心に残る映画
ジャンル : 映画

2007-03-21 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 15 : トラックバック : 7
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2007-07-28 19:05 : BLACK&WHITE
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真紅さんこんばんは

かなり以前から観ようかどうしようか迷ってた作品です
真紅さんが感動されてる様子なので、即レンタルして観ましたが、大正解でした
見てよかったです、ありがとうございます

お父さんも弟君も、親友もこの二人をどうにかして守ろうとしてたのにね・・・(涙)

ケイト・ブランシェットさん
美しく、知的で品があり大人の女性ですが
今まではそのイメージが冷たく感じられて
ました。
でもこの作品の彼女は本当に魅力的で、フィリッポでなくても、一瞬で恋に落ちてしまいそう。
頭を丸めてからは、彼に絶対の信頼を置き
頼り切っていた様子が切なかったです

でも、あの頭・・・
余計目立ちません・・・?
って思ってしまいました(笑)
2007-03-25 22:00 : レイラ URL : 編集
レイラさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
ご覧になったのですね~、そしてお好きな作品でしたか!よかったです。
こちらこそ、拙記事をきっかけに観ていただいて、ホント冥利に尽きます。

私もこの作品はトム・ティクヴァ監督ということでほとんど予備知識もなく観たのですが、心を打ち抜かれた感じでした。
あのラストシーン・・。絶対忘れられない映画だと思います。
ケイトの演技も素晴らしかったですよね~。記事中でも大・絶賛してるのですが、女優魂がスゴイ。
改めて大好きな女優さんになりました。

そうそう、あの頭、「散髪屋さんは逃亡犯って気付かなかったのかな?」と思ってしまいました(笑)
二人だけ、世界から浮いてましたね。
ああ、ホントにいい映画でした~。。
またよろしければ遊びに来て下さいね。ではでは~。
2007-03-25 22:09 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは。
常日頃、失礼ばかりしているのは承知してはおりますが、
またまた、ここでも失礼してしまって、本当に申し訳ないです。

『パフューム』をきっかけに、この監督さんの作品を続けてご覧になって、
また新しい世界をひとつ知る機会になりましたね。

ふたりの足音しか聞こえない長い空撮、
シルエットになる夕暮れの姿、父親の言葉、そして、ラストシーン・・・
それぞれが、強く心に残っている作品です。
最後まで観て初めて、冒頭部分が伏線だったと、
初めて気付いて(冒頭を忘れてましたから)二重に唸った気がします。

ケイトの演技力の高さ、やっぱり素晴らしいです。
ケイトの本格的デビュー作品で、
レイフ・ファインズ共演の『オスカーとルシンダ』という作品があるのですが
もし未見なら、機会があれば是非。
2007-03-27 14:32 : 悠雅 URL : 編集
悠雅さま、こちらにもコメント、そしてTBもありがとうございます。
いえいえ、失礼だなんてとんでもないです!ご訪問ありがとうございます。
この映画、本当に素晴らしかったです。オススメいただき、感謝しております。
冒頭のシミュレーション場面、あれが伏線なのですよね~。
誰もがラストで「あ!」と気付く仕掛けだと思いました。
『オスカーとルシンダ』、確かアクターズスタジオのインタビューでも言及されていましたよね。
未見ですので是非!観たいと思っています。
ケイトは本当に凄い女優さんですね。
彼女、とっても英国の方な印象なんですけど、オージーなのですよね。
私、『アビエイター』も未見なのですよ!いろいろ必見映画がありますが、少しずつ観ていきたいと思います。
ではでは、またお邪魔しますね~。
2007-03-27 15:03 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんにちは~

ケイト・ブランシェット好きですが、観てないもの結構ありますね。で~「ヘヴン」レンタルして観ました! とても静謐な美しい映画です。

なんといってもケイトの演技、素晴らしい!まったく無関係の人が犠牲になったと知ったときの表情の変化はさすがですね~。
二人が坊主頭で同じいでたちになったとき、あれっ、まるで兄弟みたいと私も思いました。

フィリッポが一瞬でフィリッパを愛してしまったのはもう運命としかいいようがないのかも…
それにしてもフィッリッポの父親は息子を失うだろうとわかっていながら、むりやりに連れ戻そうとはしない。その心情を推し量るのはあまりにつらすぎる…もしかしたら父親も昔運命的な恋をしたことがあるのかもしれない。


なんと
2007-03-29 10:03 : AYA URL : 編集
最後の 「なんと」 は間違いです。

ごめんなさい!です。
2007-03-29 10:06 : AYA URL : 編集
AYAさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
間違いの件は了承しました。訂正していただきすみません。
私もケイトは大好きですが、さすがに全作品はとても観ていません。
これから少しずつ、観ていきたいと思っています。
尋問室の演技は素晴らしいですね!感動しました。
父親役の俳優さんも、とても印象的でしたよね。
そう、この映画お母さんが出てこないんですよね・・。
父親と弟はフィリッポを喪うわけですが、彼が愛に殉じることを黙って見守っていますよね。
父親のセリフにも、涙・涙でした。
またお話できたらうれしいです。いつでもいらして下さいね。
ではでは~。
2007-03-29 13:02 : 真紅 URL : 編集
TBありがとうございました
真紅さま
ご無沙汰しております。
私があの記事を書いた時、映画『ヘヴン』でTBできるブログはほとんど見当たらなかったと記憶しています。

『ヘヴン』は恋愛映画としても最高傑作の1つだと私も思いますね。DVDは、アスミックなので廉価版は出ません、たぶん。なので、現定価でお求めください(笑)。そのくらいの価値がある1枚ですよ!

トム・ティクヴァに関しては、近々また記事を書こうかと思っています。よかったら、チェックしてみてください。

PS.真紅さんの記事、影響力あるんですね~。
2007-04-06 08:05 : umikarahajimaru URL : 編集
umikarahajimaruさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
ご無沙汰してすみません。でもいつも覗かせていただいております。
私もこの映画は隠れた名作だと思います。物凄く感動しました。
廉価版、出ないのですか・・、残念←セコイ
トム・ティクヴァ、本当に才能のある方ですね。
監督・脚本だけでなく、スコアも書いて、自ら演奏もしてしまうなんて・・。
彼の記事、もちろんチェックさせていただきます!
影響力というのは畏れ多いですが、自分が感動した映画の記事を読んでDVDを手に取って貰えると、本当に冥利に尽きます、感謝です。
またお伺いしますね。ではでは~。
2007-04-07 05:55 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、おはようございま~す。
観ました。感動でした! 名作です!
こんなに素晴らしい映画があった事をちっとも知らなかったなんて、私は今まで損をしてましたね。
本当に双子でしたよね。
そしてあの父の言葉は涙なくしては無理です。
DVDでもそっくり同じ言葉に訳されてましたよ。
またこんな作品があったらご紹介くださいね♪
TBさせて頂きました。
2007-07-21 05:24 : fizz♪ URL : 編集
fizz♪さま、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます!
ご覧になったのですね、気に入っていただけてうれしいです。
私もね、思いましたよ、何で今まで未見だったんだろーって。
素晴らしい作品ですよね。参りました。
私もDVDで観ましたよ。購入希望だったんですけど、もう買わないかな(予算が・・)。
こちらこそ、またいい映画あったら教えて下さいね。
いつもありがとうございます、後ほどお伺いします~。
ではでは!
2007-07-21 16:45 : 真紅 URL : 編集
TBありがとうございました。
前半と後半で色の違う作品だなぁと思いました。
逃亡劇となってからは景色の美しさに
二人のピュアな心がマッチして感動が大きかったです。

最後の空のシーンも印象がとても深いものになっているけれど
こちらで貼られている夕焼けの木のシルエットシーンも
それはそれは素晴らしかった。

私のレビューはBlogを始めた初期の頃のものなので
今読むとひどく恥ずかしいんですけどTBさせていただきますね。
2007-07-28 19:08 : ジュン URL : 編集
ジュンさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
トスカーナの風景が、本当に美しかったですね。素晴らしい映像、素晴らしい作品でした。
色の違い・・、全くその通りですね。
後半は心を持っていかれたように見入っておりました。
大きなスクリーンで観たい作品でした。。
あの美しい夕焼けはほんの数十分の「マジック・アワー」だと思うのです。
そういった意味でも、奇跡のような作品ですね。
いえいえ、恥ずかしいなんてとんでもないですよ!
大好きな作品にTB、ありがとうございました。
2007-07-29 01:15 : 真紅 URL : 編集
真紅さま、こんにちは~
思いがけず、タダで良い作品を見れて、今日はご機嫌です^^
前から見たいなぁ~と思っていたものの、近所のレンタル店にないので、諦めていたんです。
まさか深夜のTVでやってくれるとは!!

ところで、監督さんがこの映画の音楽も作っていたというのにはビックリ。才能あるなぁ~。
私も願わくば、映画館で見たかった映画だったなあ・・・。予想外の展開が多くて、楽しめました
2008-09-23 12:57 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
おお、これ、大好きな映画です! 深夜テレビでやっていたのですか~。
DVD欲しいくらい、好きですよ♪

本当に、監督さんは才能ある方ですよね~。今までの作品、全部音楽も手がけているのではないかな?
なんか、イーストウッドみたいですね。
映画館で観たら、感動も一入だったでしょうね~。。私も大きなスクリーンで観たかったです。
ではでは、後ほどお伺いします~。
2008-09-23 22:39 : 真紅 URL : 編集
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