うちの子に限って~『緋色の迷宮』
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「誰にでも偏見はあるけれど、僕の偏見を一つだけ言わせていただくなら、トマス・
H・クックを知らない人は小説ファンではない。
トマス・H・クックを読まずして
現代小説を語ることはできない」
これは朝日新聞に掲載された、池上冬樹氏による『緋色の迷宮』書評の冒頭である。
ブログを始めてから読書量は激減、これはいかんと思っていた矢先、こんな風に
書かれたら読まないわけにはいかないではないか!・・と思いつつ早数ヶ月がたっ
てしまった(汗)。

 小さな町で小さな写真店を経営しているエリック・ムーアは、美しい短期大学
講師の妻と、15歳の一人息子キースとの3人で、何の不足もなく穏やかに暮らし
ていた。そんなある日、8歳の少女エイミーが失踪し、彼女のベビーシッターであ
るキースに嫌疑がかけられる。犯人は息子なのか?自分の兄も事件と関わっている
のではないか・・。疑惑が過去の忌まわしい記憶を想起し、事実と妄想との間で苦
しむエリック。彼が父として、夫として、弟として、そして彼自身もまた息子とし
て、自分を作った家族と自分が作った家族との関係を見つめなおし、向き合ってゆ
く過程が、苦く、哀切なストーリーで語られてゆく。久しぶりに、読み始めたら止
められない、読み終るのがもったいない!気分にしてくれた本だった。

 この小説は、ジャンルとしてはミステリーやサスペンスとして括られるが、あく
までも人間の持つ業や内面の葛藤を描く、優れたドラマである。主人公とその家族
が巻き込まれるのは特異な事件のようでいて、一方ではごくありふれた、個人的な
煩悶でもある。そこにはいくつかの過ぎ去った死と、これから訪れるであろう死が
ある。一人の人間が命を落とすことを死と呼ぶならば、家族の崩壊もまた、一つの
と言えるかも知れない。家族を持たない人間はいない。ならば家族の誰か-息子、
娘、父、母、夫、妻-が事件の被害者、被疑者になる可能性を持たない人間もまた
いないのだ。そういう意味で、この小説は万人に死と対峙すること、死への覚悟を
促す力を湛えていると言えるだろう。
  
 愛しているけれど好きではない。家族においては、厳しいけれどそれもまた真実
かもしれない。自分は親として、真剣に子と向き合っているか?妻として、夫とし
て、パートナーと人生に向き合う覚悟はあるか。絶望に打ちひしがれたとき、奈落
の底から救ってくれるのは本当に、家族なのか?人間は誰しも弱く、不安な生き物
だ。その人間が寄り添い集まって作る家族、そこには何よりも深く、強い絆が必要
だ。互いに信じあうこと、たったそれだけの脆い結びつきで家族がかろうじて成り
立っていることに改めて気付かされ、読後は愕然とするしかない。しかしそれでも、
家族と生きてゆきたいと思わせてくれる小説でもある。

 冒頭に挙げた池上氏の書評はこの言葉で締められる。「クックを読め!」御意!

★おまけ:恒例勝手にキャスティング★

 エリック・ムーア:レイフ・ファインズ
 メレディス   :アネット・ベニング
 キース     :ポール・ダノ『リトルミス』の引きこもり兄ちゃん)
 ウォーレン   :フィリップ・シーモア・ホフマン
 エイミー    :エル・ファニング

『緋色の迷宮』トマス・H・クック著/村松潔・訳/文春文庫・2006
 RED LEAVES by Thomas H.Cook/2005・USA)
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

[2007/03/18 01:15] | 読書 | トラックバック(0) | コメント(6) |
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コメント
こちらにも。情けないことに海外小説はあまり読まないのですが、↑のレイフ・ファインズに激しく反応して、ちょっと興味を持ちました。
私でも読めますでしょうか・・笑
実は、真紅さんが以前UPしていた「星々の生まれるところ」も挫折してしまって・・。あの世界に入り込む前に返却期限がきてしまいました。
初、マイケル カニンガムでしたのに・・。
懲りずにまた挑戦してみます・・。
[2007/03/18 18:16] URL | みみこ #mQop/nM. [ 編集 ]
みみこさま、こちらにもコメント、ありがとうございます!
読めますよ~絶対!実は私も巷間名作と言われている『緋色の記憶』は挫折してしまったのですが・・。
ちょっと翻訳の感じが合わなかったのです。
でも『~迷宮』の方は最初からグイグイ引っ張られるように読めました。
ミステリですが物凄く考えさせられますよ・・。オススメです。
カニンガムの新作はちょっとシュールでしたね。
『この世の果ての家』が一番、何と言っても、素晴らしいですから!
是非是非読んでみて下さいませ♪ ではでは~。
[2007/03/18 21:31] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
いや~すごい。何がすごいかって、映画化したらの「勝手キャスティング」の見事さ!
全員ずばりのキャスティングで、正直驚きました。しかも出演を依頼したら、すぐにも引き受けそうな面々ばかり。
本も素晴らしかったが、このキャスティングで、
ぜひとも 見たい!
[2007/03/25 10:24] URL | 筆知 刻久 #- [ 編集 ]
筆知刻久さま、こんにちは。コメントありがとうございます!
このキャスティングに賛成していただけますか?うれしいな~。
PSHはレイフより年下だと思うので、ケヴィン・スペイシーでもいいかな?と思ったのですが。
彼が出てくると『アメリカン・ビューティ』になってしまいそうで(笑)
素晴らしい小説ですから、是非映画化して欲しいですよね。
ではでは、またこちらからもお伺いします。
[2007/03/25 15:58] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
「ゆれる」のついでにこちらにもコメントします。
トマス・H・クックはロバート・ゴダードと並んで好きなミステリー・作家です。ブログにかまけて最近読んでいなかったのですが、真紅さんのレビューのおかげでまた読んでみたくなりました。書店で『緋色の迷宮』を探してみようと思います。
[2007/03/26 23:39] URL | ゴブリン #2YYP0Fkg [ 編集 ]
ゴブリンさま、こちらにもコメントありがとうございます。
海外小説は翻訳が合わなくて挫折してしまうことも多々あるのですが、この作品の翻訳は素晴らしかったと思いました。
私は「初クック」だったのですが、また読んでみたいと思いました。
面白い作品があれば教えて下さいね!
ではでは、またお伺いします。
[2007/03/27 14:01] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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