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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

独裁者の孤独~『ラストキング・オブ・スコットランド』

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 1970年代、アフリカ中部ウガンダ独裁者として恐怖政治を敷いた実在の大統領、
イディ・アミン。彼の側近であったスコットランド人医師ニコラス・ギャリガン
視点から、悪名高い大統領の真の姿が描かれる、実話に基づくフィクション
アミン大統領を演じたフォレスト・ウィテカーは、アカデミー賞はじめ、2006年度
各映画賞の主演男優賞を総なめにした。確かに、物凄い存在感。圧倒されました。

 大学を卒業したばかりの青年医師ニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)は、冒険心と
野心から故郷を後にする。スコットランドの灰色の空から、オレンジ色のアフリカ
の大地へ。新大統領アミンの登場に沸き立つウガンダで、村の医師として働き始め
るニコラス。偶然の出会いから、アミンの主治医となった彼はアミンや家族の信頼
を得、大統領付アドバイザーとして主治医以上の権限を与えられる。知らず知らず
のうちに政権の中枢に近づき過ぎた彼に、特権と背中合わせの危機が迫っていた・・。

 大衆の心を捉える芝居がかった演説、人懐こい笑顔、包容力溢れる大きな身体。
大統領としてのアミンは一見魅力的で、カリスマ性のある人物だ。しかし反体制派
から命を狙われたことをきっかけに精神のバランスを崩して疑心暗鬼となり、残虐
粛清の深みにはまっていく様を、フォレスト・ウィテカーが演じ切る。小心者で
無邪気な反面、激情と狂気を併せ持つ、単純なようで複雑な人物
を、瞬時に切り替
わる表情と声音で表現する。ただの「物真似」に終らない、映画の中に生きる「アミン像」
を見事に創り出している。

 そして本作の真の主人公であるニコラスを演じたジェームズ・マカヴォイも素晴
らしかったと思う。若さゆえの好奇心から、父親に敷かれたレールを拒否して異国
へ向かった青年が、結局は大統領の庇護という父親的なものに絡め取られる。同僚
医師の妻サラとの危うい関係、大統領の第三夫人ケイと一線を越えてしまう彼の振
る舞いからは「若気の至り」としか言いようの無い愚かさ、浅はかさを感じてどうしよ
うもない。ジェームズ・マカヴォイはこの映画が初見だったが、ニコラスの感じた
高揚感や恐怖や虚しさを美しく碧い瞳で表現し、迫真の演技。彼と関係し、非業の
死を遂げたアミンの妻、ケイを演じたケリー・ワシントンも悲しいまでに美しい。

20070316044543.jpg

 近年、アフリカを舞台にした映画が数多く製作・公開されている。ナイロビの蜂
『ホテル・ルワンダ』、未見だが『ダーウィンの悪夢』、そして来月公開されるレオナルド
・ディカプリオ
主演『ブラッド・ダイアモンド』、そして本作。大企業の不正や虐殺、
飢饉、ダイヤ密輸、独裁者の暴挙など、先進国にはないアフリカの諸問題が先進国
の手によって映画化され、世界に発信される
。この状況は映画のラスト、命の危険
を冒してまでニコラスを助けた医師の言葉とダブる。「生き残って、ウガンダの真実
を世界に知らせてくれ。君の言うことは皆信じる、君が白人だから

 映画の最後に「アミンは在任中、30万人以上を虐殺した」とテロップが出る。しかし
彼の蛮行は終盤、一気に映像化されるが、映画全体の流れの中ではさほど強調され
ていない。むしろ一人の独裁者の孤独と、彼の暴走を止められなかった周囲の愚か
さ、虚しさが苦く後味として残る作品だった。

『ラストキング・オブ・スコットランド』監督:ケヴィン・マクドナルド
  主演:フォレスト・ウィテカー、ジェームズ・マカヴォイ/2006・UK)
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2007-03-16 : 映画 : コメント : 14 : トラックバック : 13
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非公開コメント

こんにちは
こんにちは♪
そうですね、アミンの殺戮に関してはさほど強調されてはいない為か、むしろ彼のよい面や葛藤を受け取れる作品かもしれません。そういう意味では、暴君にもすこし寄り添える感じです。

でもどちらかというと、彼の存在感のありようははオスカーを取ったということですでに頭にインプットされてるので、ウィテカー以外の方に視点があってしまった感じです。
作品としても見ごたえはありましたが、映像主義の私には音楽とかそういう方が興味の対象だったかしら。
だからあまり30万以上の方を虐殺した怖さは伝わってこなかったのも事実。汗
・・・んー、視点がちょっと違いすぎ?
2007-03-16 13:43 : シャーロット URL : 編集
シャーロットさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
「視点が違いすぎ」というのは拙記事とシャーロットさまの記事が、ということでしょうか?
う~ん、読ませていただいた限りでは私は違和感はありませんでした。
私も、映像や音楽はとてもよかったと思いましたよ。
フォレスト・ウィテカーも、あれだけ賞を総なめ状態では先入観がありますよね、「オスカー獲ったんだ」って。
彼だけが評価されているようですが、映画全体としてもよかったと思いました!
ではでは、またお伺いしますね。
2007-03-16 19:21 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、最近のアフリカを描いた作品群とは
ちょっと違ってって、二人の見た目は強そうだけど内面はやっぱりボロボロな男の対比を描いた
映画じゃないかと思いました。
これだけ主人公に感情移入出来ない映画も
珍しいかも^^
2007-03-16 20:35 : kazupon URL : 編集
kazuponさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、この映画30年前の話なので、ここ最近のアフリカ題材ものとは趣が異なりますね。
虐殺は『ルワンダ』と被るけど、そこを前面に押し出してはないですもんね。
男性から観ても、ニコラスには感情移入できないんですね、当たり前か(笑)
またお伺いしますね~、ではでは!
2007-03-16 21:44 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
またまた、お邪魔するのが遅くなってごめんなさい。

当然といえば当然だけれど、ニコラスはどちらでも非常に評判が悪いですね。
決して褒められた行いとは言わないけれど、
彼と同じ生まれ育ちの、若くて世間知らずの青年が、
ある日突然同じ環境に置かれたら、誰にでもあり得ることかもしれないと
(それは、アミンも同様ですね)
平和な日本で普通の生活しかしたことないわたしなど、
その潜在的な可能性が怖いと感じるばかりでした。

そんなニコラスをジェームズ・マカヴォイがとても巧く表現してましたよね。
彼が今、引っ張りだこなのも当然ですね。
2007-03-17 22:32 : 悠雅 URL : 編集
悠雅さま、こんにちは。コメントとTBをいつもありがとうございます。
ニコラスは、確かに若さゆえの傲慢と浅はかさの塊みたいな奴でしたね。
でも、おっしゃる通り、同じ環境に置かれたら誰でもああなる可能性はあったと思います。
これは二人の弱い男の物語なのかもしれません。
ジェームズ・マカヴォイはこれが初見だったのですけど、巧い俳優さんですね。
彼が本当の主人公ですよね。碧い瞳が印象的でした。
ひっぱりだこなのですか? それは今後、目にする機会が増えるかもしれませんね、楽しみです。
ではでは、またお伺いします!
2007-03-18 01:02 : 真紅 URL : 編集
初めまして
こんばんは、真紅さん、初めまして!
TB&コメントありがとうございました。
私も、栗本さんのところで、数回。真紅さんの名前を見かけたことがありました・・・
訪問、とっても嬉しかったです。ありがとうございました。
そうですね、私も、ジェームズ・マカヴォイ、とても魅力的にこの危険で少し考えナシな、典型的な若者を、上手に演じていたように思います。
ウガンダ政権と、アミンを、マカヴォイにとっての新たな父親像として見ているのも、とても納得のいく見方だったと思います。
いやはや、それにしても、恐怖を描く時に、ホラーの類の残虐性に頼ることなく、心理面で怖さを煽るのが、この脚本の良さだったように思います。
2007-03-22 22:47 : とらねこ URL : 編集
とらねこさま、初めまして!拙ブログにご訪問ありがとうございました。
コメント&TB、感謝です♪
ニコラスってホント「若気の至り」で、ほとんど呆れて観てたんですけどJ.マカヴォイ迫真の演技でしたよね。
師匠の影に隠れてますけど、もっと評価されてもいいと思います。今後に期待♪ですね。
アミンの「人食い」って言われてたような猟奇的なところは見せずに、彼の小心さや矮小さにスポットを当てていたのもよかったです。
でも最後の最後で目を背けてしまいましたけど・・。
すごく引き込まれて観ることが出来た映画でした!
私もまたお伺いしますね。ではでは~。
2007-03-23 06:24 : 真紅 URL : 編集
こんばんは。
非業も非業、あんな死に方は嫌ですね(笑)。
伝えられるアミンの残虐性を、
すべてニコラスにおっかぶせて、
なかなか巧い見せ方だったと思います。
よくできたサスペンスでありながら、
チクリと皮肉なところもあって、
青天の霹靂的な面白さでした。
2007-03-23 20:13 : 栗本 東樹 URL : 編集
栗本さま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
30万人を虐殺、って半端な数じゃないですよね・・。本当なのでしょうか?
本当なのでしょうね・・。怖すぎる。
あと、ケリー・ワシントンもすごい綺麗!と思ったのですが、彼女お直ししたのでしょうか?
まぁ、女優さんですからね・・。
師匠の演技しか期待してなかったのですが、ホント思わぬ面白さでした!
ではでは、また伺いますね~。
2007-03-23 21:51 : 真紅 URL : 編集
こちらにもお邪魔します。
真紅さんのところで、同じテーマの記事がありましたら、少しづつお邪魔させてもらっても構いませんか?ご迷惑にならないように、時間を置いて読ませて下さいね。

こちらの映画ですが、かなり見応えがありました。
二コラス青年が大統領に父親的庇護を抱いたとも考えられそうですね。
私は、アミンと二コラスは、全く違う考え方をしながらも、底の部分で似ていたところがあったように思えました。(例えば子どもっぽい所)だからこそ急速に惹かれ合ったのかな。。。と。
とにかく主演を受賞したウィテカーだけでなく、マカボィの演技も素晴らしく、恐ろしくも魅力ある映画でしたね。
2007-04-19 16:45 : 由香 URL : 編集
由香さま、こちらにもコメント&TBをありがとうございます。
いえいえ~、迷惑だなんて全くそんなことお気になさらず!いろいろと読んでいただいてうれしいです♪
うちは閑古鳥ブログなので、いつでも大歓迎です~。

さて。私もこの映画はほとんどウィテカーの演技のみ期待して足を運んだのですが、意外にも凄く面白かったです。
特にJ.マカヴォイは、実は彼が主役と言ってもいいほどの存在感でしたよね。
実際、彼の物語であると感じました。
ウィテカーさんにのみ注目が集まっていますが、作品自体ももう少し評価されてもよさそうですよね。
ではでは、私も後ほどお伺いします~。
2007-04-19 21:56 : 真紅 URL : 編集
真紅さま~こんばんは(^O^)
やっぱり、ニコラスは、男女ともに評判悪そうですね(^^;)
でもニコラスを演じたマカヴォイさんは、なかなか上手だったと感心しました♪

真紅さまのレビューにあるように、最近アフリカものの映画が一杯上映されていますよね。
どれもアフリカの現実・・を描いたものが多く、平和ボケしている私には、ガツンと響く作品が多いです。まだブラッドダイヤモンドを見ていないので、今度見なければ!といつも思っています。
2008-03-20 23:22 : latifa URL : 編集
latifaさま、こんにちは~。コメント&TBをありがとうございます。
マカヴォイさん、オスカーの授賞式でもプレゼンターやってたし、注目株ですね☆
『ペネロピ』は観れなかったので、次は『つぐない』かな・・。

アフリカもの、最近『ツォツィ』観ました。でも記事がアップできない~(泣)。
もう記事は書いているので、またアップしたらお邪魔させて下さいね。
『ブラッド~』、レオくんのキャリア最高の演技が観られますよ♪
でも、重~い、苦し~い映画ですが・・・。
ではでは、またです~。
2008-03-20 23:58 : 真紅 URL : 編集
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