『COLD WAR あの歌、2つの心』

ZIMNA WOJNA
COLD WAR
1949年、ポーランド。民族舞踏団を結成した音楽家ヴィクトル(トマシュ・コット)は、オーディションで歌手志望のズーラ(ヨアンナ・クーリグ)と出逢う。
第87回アカデミー賞授賞式での立ち姿とスピーチにノックアウトされて以来、我が最愛の映画監督であるパヴェウ・パヴリコフスキの最新作。前作 『イーダ』 が大好き過ぎて、傑作の誉れ高いこの映画は物凄く楽しみだった反面、観るのが怖くもあった。期待外れだったらどうしよう、と。
しかしそんな心配は全くの杞憂だった。カンヌやヨーロッパ映画賞で受賞多数、アカデミー賞も三部門ノミネートは伊達じゃなかった。肩が震え、嗚咽を堪えるほど涙・涙。「観客が映画を見て涙を流すとすれば、それはスクリーンの中に観客自身の人生を映し出しているから」 という言葉を思い出しながら。正確には 「観客自身の【そうでありたかった】人生」 だけれど。
鑑賞後、世界が変わって見えるような映画とでも言えばいいのか・・・。映像--カメラワーク、ショットの一つひとつ、光と影、モノクロ・スタンダードのスクリーンサイズ--、音楽、ストーリー、キャストの演技、クレジットの最後の献辞に至るまで。90分足らずの尺の中、15年に及ぶ男女の生き様をこれほど濃密に描き出せるなんて・・・。超絶技巧としか言いようがない。当然、無駄と思えるショットもセリフも皆無。「傑作」 という言葉では足りないし、少し違う。極私的な感情の坩堝と、イデオロギーに支配される芸術が放つ至高の光。愛と言うよりも 「情念」 と宿命に身を委ね、時に身勝手に、時に献身的に生き壁を越えようとするズーラとヴィクトル。彼らは共感も同調も拒み、唯一無二の磁石のように互いだけを求め、反発する。
ポーランド、ベルリン、パリ、ユーゴスラビアからまたパリ。セーヌ川からふたりが望むノートルダム大聖堂が夢幻のよう。そしてふたたび最果ての地ポーランドへ。舞台は円環を成し、ふたりを 「あちら側」 へと誘う。
グレゴリー・ペックに似ていたというお父様似なのか、監督は超ダンディ。ヴィクトルは一瞬、監督が演じているのかと錯覚する。レア・セドゥ(またはジェシカ・チャステイン)に安藤玉恵を足したような(?)容姿のヨアンナ・クーリグは時に下卑た眼差しで世界を挑発し、その歌声とダンスでスクリーンを支配する。
今年の(暫定)ベストワン。もう一度観たい。この映画の全てを、この目と耳に焼き付けるために。

( 『COLD WAR あの歌、2つの心』 監督・原案・共同脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ/
主演:トマシュ・コット、ヨアンナ・クーリグ/2018・ポーランド、英、仏)
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2019-07-27 09:16 :
:
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No title
鍵コメ様、コメント(というかレス)ありがとうございます。
こちらこそややこしい鍵コメ入れてしまって、すみません。。
その展示会は行ったことないのです(もちろん知ってはいますが)。
北欧製のもの、いいですよね! あちらは先進国ですよね。。
北欧にも行ったことないので、行きたいな~、といつも思っています。
また面白いドラマ(映画)あったら教えてくださいね!
記事更新楽しみにしています。
真紅拝
こちらこそややこしい鍵コメ入れてしまって、すみません。。
その展示会は行ったことないのです(もちろん知ってはいますが)。
北欧製のもの、いいですよね! あちらは先進国ですよね。。
北欧にも行ったことないので、行きたいな~、といつも思っています。
また面白いドラマ(映画)あったら教えてくださいね!
記事更新楽しみにしています。
真紅拝
こんにちは
遅ればせながら見てきました。
学生時代、数々のポーランド映画に震えましたが、その感動を思い出させてくれる映画でした。
ヨアンナを見て、僕もすぐレア・セドゥ(好きです)を連想しました。これからも日本で公開されるような映画に出てくれるといいんですが。
学生時代、数々のポーランド映画に震えましたが、その感動を思い出させてくれる映画でした。
ヨアンナを見て、僕もすぐレア・セドゥ(好きです)を連想しました。これからも日本で公開されるような映画に出てくれるといいんですが。
ありがとうございます
雄さん、こんにちは。私の大好きなこの作品にコメントをありがとうございます。
今、今年のベストと2010年代のベストを考えているのですが、今年はこの作品がマイベスト1になると思います。
2010年代ベストには『イーダ』を入れるつもりです。
ヨアンナ、最高にいい女でしたね♪
今、今年のベストと2010年代のベストを考えているのですが、今年はこの作品がマイベスト1になると思います。
2010年代ベストには『イーダ』を入れるつもりです。
ヨアンナ、最高にいい女でしたね♪
No title
真紅さん、こんにちは!
紅茶の記事も拝見しましたよー。
とっても可愛いパッケージ・缶で、色々集めたくなっちゃうね。
そちらには(京都や大阪)お洒落なカフェとか多くて羨ましいなあ。
で、この映画。
真紅さんちで、この監督さんのお名前がよくあがっていたので、是非いつか見たいと思っていたの。
イーダを最初に見たかったんだけど、見れなくて、、残念。
で、これをお初に見たんだけど、うーん、残念ながら、あまりハマって見れなかったよ。
でも、イーダ、いつか絶対見るね!
紅茶の記事も拝見しましたよー。
とっても可愛いパッケージ・缶で、色々集めたくなっちゃうね。
そちらには(京都や大阪)お洒落なカフェとか多くて羨ましいなあ。
で、この映画。
真紅さんちで、この監督さんのお名前がよくあがっていたので、是非いつか見たいと思っていたの。
イーダを最初に見たかったんだけど、見れなくて、、残念。
で、これをお初に見たんだけど、うーん、残念ながら、あまりハマって見れなかったよ。
でも、イーダ、いつか絶対見るね!
2020-11-27 10:15 :
latifa URL :
編集
No title
latifaさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
紅茶ね、まだどれも開けてない(笑)。飾ってる(貧乏性)。
>そちらには(京都や大阪)お洒落なカフェとか多くて羨ましいなあ
うん、、、でも今は全然行けないからね。。つまらん。。
で、この映画はハマれなかったのね。。残念。
私はもうこの作品世界にドハマりして、大変なことになったわ(笑)。
イーダはオスカーはもちろん、ヨーロッパ映画賞もほぼ総なめ状態だった作品です。
映像がとにかく美しくて絵画のようよ。アート映画一歩手前という感じ。
ポーランド映画特集なんかで再上映はあっても、円盤はちょっと入手困難みたいだね。
いつかほんと、観ていただきたいわ~。私もまた観たい。
紅茶ね、まだどれも開けてない(笑)。飾ってる(貧乏性)。
>そちらには(京都や大阪)お洒落なカフェとか多くて羨ましいなあ
うん、、、でも今は全然行けないからね。。つまらん。。
で、この映画はハマれなかったのね。。残念。
私はもうこの作品世界にドハマりして、大変なことになったわ(笑)。
イーダはオスカーはもちろん、ヨーロッパ映画賞もほぼ総なめ状態だった作品です。
映像がとにかく美しくて絵画のようよ。アート映画一歩手前という感じ。
ポーランド映画特集なんかで再上映はあっても、円盤はちょっと入手困難みたいだね。
いつかほんと、観ていただきたいわ~。私もまた観たい。