『彼女がその名を知らない鳥たち』

自堕落な生活を送る十和子(蒼井優)は、15歳年上の陣治(阿部サダヲ)を不潔で下品だと毛嫌いしながらも同居していた。十和子には、8年前に別れた黒崎(竹野内豊)という忘れられない人がいたのだ。ある日、クレームの電話をした百貨店の担当・水島(松坂桃李)と会った十和子は、彼に黒崎の面影を見る。
究極の愛を観た。これは 『あゝ、荒野』 と並んで今年の邦画のベストではないだろうか? 昨年のマイベスト映画 『湯を沸かすほどの熱い愛』 を観た後と、少し似た感覚。『凶悪』 の白石和彌監督、大傑作を撮りましたね。必見!
※以下、ややネタバレ
原作は読んでいるはずなのだが、読み進むのが苦痛なほどの嫌悪感(主に陣治への)でいっぱいだった記憶しかない。しかし、その 「忘却」 にこそ意味があったとは・・・。常識的に観れば嫌な女で、人間のクズかもしれない十和子。そんな彼女に感情移入しまくり、あんな風になるのも仕方ないと思う自分は、原作を読み終わった瞬間から十和子に憑依していたのかもしれない。十和子が記憶を取り戻した辺りから、ラストまで涙滂沱、ほぼ嗚咽でもう、顔が大変なことになってしまった。暗転してからのあのセリフ・・・決め台詞というか、殺し文句というか・・・。間違いなく私は殺られてしまった。
十和子と陣治の関係を、「反抗期の子と親みたい」 と思いながら観ていた。不貞腐れて文句ばかり垂れ流す十和子、何を言われてもどんな態度を取られても、ひたすら十和子に 「美味いもの」 を食べさせようとする陣治。そしてどんな罵詈雑言を浴びせた後でも、一緒に食卓を囲む。二人の関係に在る、理屈や損得を超えた 「繋がり」。謎めいてさえ見えるそれが、陣治の最後のセリフで腑に落ちるのだ。
売れ過ぎの松坂桃李(同じく沼田まほかる原作 『ユリゴコロ』 にも出演していた)は、よく受けたと思うくらいの嫌な役。そして黒崎、この役に説得力がないとこの作品そのものが成り立たない重要な役、演じた竹野内豊が素晴らしい! 声、声よ~あの声! 黒崎に出会ったら、迷いなく私も、十和子と同じことをするだろう。
阪堺電車、近鉄の駅、夕陽ヶ丘、あべ地下、既視感ある商店街。ロケ地が自分の生活空間とリンクしていて、少しドキドキする。
それにしても、蒼井優は凄い女優だな~。肝の据わり方が違う。ラストシーンのクローズアップは、主演女優賞に値する表情だった。
( 『彼女がその名を知らない鳥たち』
監督:白石和彌/主演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊/2017・日本)
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trackback
ポスターの阿部サダヲを見てずっと韓流スターだと勘違いしていたのよ、私・・・。主要キャストの4人、グッジョブ!この手の役柄を演じるのってきっと楽しいに違いない。特に松阪桃李が演じる水島のようなオトコはその辺にいそうなゲス加減で(いや、でも初対面でアレはないな。それも仕事中。 笑)初めて松阪桃李いいじゃない!と思った次第。三千円の時計・・・。少しばかりの見た目の良いクズ男ばかりを渡り歩いてしまう...
2017-11-08 21:47 :
龍眼日記 Longan Diary
沼田まほかるの原作を読んでないのにこんなこと言うのもなんだけど、最近の若い作家や
2017-11-13 13:33 :
Days of Books, Films
『彼女がその名を知らない鳥たち』を渋谷シネパレスで見ました。
(1)蒼井優の主演作ということで映画館に行ってきました。
本作(注)の冒頭では、マンションの1室で、十和子(蒼井優)が電話をかけています。
十和子が、「そろそろ何とかしてもらわないと」「電話もこれで3回目」と言うと、電話の相手(デパートの時計売り場の店員)は「何分、メーカーが操業停止しておりまして」と答え、それに対し十和...
2017-11-15 18:43 :
映画的・絵画的・音楽的
「九月が永遠に続けば」「ユリゴコロ」などの沼田まほかるの人気小説を実写映画化。同居する相手の稼ぎに依存しながらも彼を嫌い、家庭のある別の男性とも関係を持つ身勝手な女と、彼女に執着するさえない中年男の関係を軸に、究極の愛とは何かを問い掛ける。メガホンを取るのは、『凶悪』などの白石和彌。クセの強い二人を、『アズミ・ハルコは行方不明』などの蒼井優と『殿、利息でござる!』などの阿部サダヲが演じる。
...
2017-11-16 18:44 :
パピとママ映画のblog
泥水まみれな大傑作!
白石和彌監督の最新作
『彼女がその名を知らない鳥たち』
~あらすじ~
15歳年上の佐野陣治(阿部サダヲ)と共に生活している北原十和子(蒼井優)は、下品で地位も金もない佐野をさげすみながらも、彼の稼ぎに依存し自堕落に過ごしていた。ある日、彼女は8年前に別れ、いまだに思いを断ち切れない黒崎に似た妻子持ちの男と出会い、彼との情事に溺れていく。そんな折、...
2017-12-04 22:44 :
シネマ・ジャンプストリート 映画のブログ
原作は「ユリゴコロ」の沼田まほかるの人気ミステリー小説。脚本は「ラスト・フレンズ」「クローバー」の浅野妙子、監督は「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌。ちなみにRー15作品第41回日本アカデミー賞で、主演の蒼井優は本作「彼女がその名を知らない鳥たち」で最優秀主演女優賞を受賞作品何の取り柄もない下品な男と同棲しながらも既婚者との不倫に走る女。失踪した元恋人を巡って女の衝撃の過去が明らかにな...
2019-11-07 14:28 :
のほほん便り
コメントの投稿
真紅さん、こんにちは。
「反抗期の子と親みたい」・・・
これ、私も感じました。
十和子は陣治が受け止めてくれることをわかっている上で毒づき自由に振る舞っているんではないかとも。
共感はないですが十和子への嫌悪感はそれほど感じませんでした。
まぁ序盤のクレーマー的言動には凍てつきましたが(笑)。
竹野内豊&松阪桃李どちらも拍手モノでしたね。
よくぞこの役を演じてくれました。
「反抗期の子と親みたい」・・・
これ、私も感じました。
十和子は陣治が受け止めてくれることをわかっている上で毒づき自由に振る舞っているんではないかとも。
共感はないですが十和子への嫌悪感はそれほど感じませんでした。
まぁ序盤のクレーマー的言動には凍てつきましたが(笑)。
竹野内豊&松阪桃李どちらも拍手モノでしたね。
よくぞこの役を演じてくれました。
sabunoriさん、こんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
うれしい~この映画、なんとなくですがsabunoriさんに観ていただきたいなと思ったので。
十和子は、基本ヒマなんでしょうね(笑)。暇つぶしにクレーム電話しているだけで。
蒼井優の関西弁、上手いな~さすが女優!と思ったら御両親が大阪出身なんだそうで、なるほどと思いました。
竹野内くんと松坂桃李が関西弁でないのが、逆によかったですね。
ほんとキャストには拍手ですね~♪
うれしい~この映画、なんとなくですがsabunoriさんに観ていただきたいなと思ったので。
十和子は、基本ヒマなんでしょうね(笑)。暇つぶしにクレーム電話しているだけで。
蒼井優の関西弁、上手いな~さすが女優!と思ったら御両親が大阪出身なんだそうで、なるほどと思いました。
竹野内くんと松坂桃李が関西弁でないのが、逆によかったですね。
ほんとキャストには拍手ですね~♪
真紅さんは原作を読まれていたんですね。映画から感じるものもずいぶん違いでしょう。
大阪が舞台になっているのも、真紅さんにはいちだんと身に迫ったでしょうね。
私は蒼井優ファンなので、彼女の嫌味なセリフや投げやりな態度、瞬間的に見せる無垢の表情、彼女が何をやっていても満足でした。
彼女だけじゃなく、3人の男優の演技がなければ成り立たなかった映画ですね。
大阪が舞台になっているのも、真紅さんにはいちだんと身に迫ったでしょうね。
私は蒼井優ファンなので、彼女の嫌味なセリフや投げやりな態度、瞬間的に見せる無垢の表情、彼女が何をやっていても満足でした。
彼女だけじゃなく、3人の男優の演技がなければ成り立たなかった映画ですね。
雄さんこんにちは~。コメント&TBありがとうございます。
原作<<映画でしたね。まぁ、読んでいても一番肝心なラストを忘れきっていましたが(笑)。
小説はそんなに好きではなかったということだと思います。
しかし映画は素晴らしかった!
蒼井優お好きなのですね。フフフ。。。
彼女を見ていると、好き嫌いは別にしても「天性の女優」と認めざるを得ませんね。
男優3人と彼女とでバランスが取れると言う・・・。凄いと思います。
原作<<映画でしたね。まぁ、読んでいても一番肝心なラストを忘れきっていましたが(笑)。
小説はそんなに好きではなかったということだと思います。
しかし映画は素晴らしかった!
蒼井優お好きなのですね。フフフ。。。
彼女を見ていると、好き嫌いは別にしても「天性の女優」と認めざるを得ませんね。
男優3人と彼女とでバランスが取れると言う・・・。凄いと思います。