『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
マンチェスター・バイ・ザ・シー








 MANCHESTER BY THE SEA


 ボストン郊外。アパートの便利屋として世捨て人のように孤独に生きるリー
(ケイシー・アフレック)のもとへ、兄ジョー(カイル・チャンドラー)の訃報が届
く。帰郷したリーは、兄が遺した息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見
人に、自分が指名されていることを知る。

 マンチェスター・バイ・ザ・シーは、マサチューセッツ州の北岸に実在する
港町。5月13日、公開初日に鑑賞。

 ”ケイシー、ケイシー、ケイシー・アフレック”. (by ケネス・ロナーガン)

 『ムーンライト』 よりも 『ラ・ラ・ランド』 贔屓の私だけれど、今はこの作品
がアカデミー賞作品賞でもよかったのでは? と思っている。小さな、しかし
美しい港町の海と空が、いつまでも胸に残る名作。思い返すだけで、涙が溢
れてくる。

◆◇ ラストシーンに言及しています 



 今までずっと、なぜ芸術作品には 「死」 を扱ったものがこれほど多いのか、
自分は理解できていなかったと思う。しかし、今ならわかる。人は、ごく身近な
愛する者の死を受け入れ難く、「なぜ?」 と自問し続けずにはいられない。答
えなどないとわかっていても。だから非日常であり、現実ではない芸術に、救
いや共感や、癒しを求めるのだと。(これは 「芸術」 を 「宗教」 と言い換える
こともできるだろう。私は映画という芸術を 「信仰」 しているのかもしれない)

 ”I can't beat it. I can't beat it.

 終盤、リーが絞り出すこのセリフはある意味衝撃であり、救いであり、真理で
あると思う。乗り越えられない、、乗り越えられるわけがない! それでも時は
流れ、人生は続く。「死なないで!」 リーの元妻ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)
の慟哭。そう、生きていてくれるだけでいい。

 永遠の弟キャラ、ケイシー・アフレック。本作のキャストは全て素晴らしいと感
じたが、特にケイシーは各演技賞総なめも納得の演技。しかしオスカー授賞セ
レモニーで、なぜか微妙な会場の雰囲気を感じてしまった。そしてそれが、彼が
過去に起こしたスキャンダルが原因であることを知るのに、さほど時間はかから
なかった。

 この映画が描いている通り、「起きてしまったこと」 を 「なかったこと」 にする
ことはできない。人生には乗り越えられない悲劇も、生涯背負わなければならな
い過ちもあるだろう。全ての俳優が、善良で模範的な社会人であるべき、とは必
ずしも思わない。それでもケイシーには、自分が数々の栄誉にふさわしい人間
であると、これからの人生と、その演技で示してほしいと思う。

マンチェスター・バイ・ザ・シー2

 ( 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』 監督・脚本:ケネス・ロナーガン/
     主演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、ルーカス・ヘッジズ/2016・USA)
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[2017/06/01 00:00] | 映画 | トラックバック(4) | コメント(8) |
<<破壊(と再生)~『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』 | ホーム | Hello, stranger/Happy Together ~『ムーンライト』>>
コメント
ケーシーが監督した『容疑者ホアキン・フェニックス』は、ホアキンとケーシーによるフェイク・ドキュメンタリーで、悪評サクサクの怪作だったようです。この映画のせいで、干されたとか。見てみたいものです。いろんな過去があるからこそ、マット・デイモンでなくケーシーがこの映画にはまったのかもしれませんね。
[2017/06/07 10:48] URL | #MerVb5Ks [ 編集 ]
雄さんこんにちは。コメントありがとうございます。
件の映画、ホアキン引退宣言までしてたし、二人にとってはマジで黒歴史ですね。
観たいような観たくないような・・・(笑)。
マットは確かに質実剛健、清廉潔白な感じしますよね。
彼は彼で大好きですが、この映画はおっしゃる通りケイシーで大正解、だと思います。
[2017/06/08 12:43] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さんへ。
先ず最初に……このポスター!
物凄い合成ですよね(笑)実際は海じゃなかったもの。
これって、物語の最後まで来ても大団円ではなく、
この先も物語は続いて行くって言うスタンスが好きでした。
彼らの人生の転機になった一時期を切り取ったって言う感じがね。
息子が冷凍庫の肉で父親の死を初めて実感するでしょう?
そう言う細かいシーンの積み重ねが丁寧で好きでした。
僕なんか母が死んだ5日後には友人と普通に会食していたし、
大事な人の死って、感じ方は人それぞれ、
リーもパトリックがいなかったらジョーの死に付いての、
感じ方も変わっていただろう……とか、色々考えさせられました。
スキャンダルのことは全く知りませんでした……疎いので。
調べちゃいましたよ(笑)それにしてもあちらの人たちは、
政治的なことも含めて自分の立ち位置をハッキリさせているのが凄い。
ブリー・ラーソン……拍手しなかったんですね……凄いわ。
過去は過去、演技の技術的なことはキチンと評価する。
オスカーがそれぞれの分野の人たちによる投票って言うことを考えても、
また、スキャンダルで票が減ったことを加味しても、
圧倒的なケイシーの演技でしたね。
「ジェシージェームスの暗殺」も好きだったなぁ……。

ブノワ。
[2017/06/09 08:29] URL | ブノワ。 #kZkdgmoI [ 編集 ]
ブノワ。さん、こちらにもありがとうございます。
ポスター、そういえばそうですね。。全然気付かなかった。。。
このポスターで「恋愛映画」と勘違いされる方も多いでしょうね。
しかしこの映画で一番肝になるシーンですから。。ミスリードも仕方ないかな?
淡々と、流れるようにでも少しずつ、少しずつリーに温もりが生まれる感じが好きでした。
リーが(現在のパートで)初めて笑顔を見せるシーン、、、忘れられないですね。
私もスキャンダルのことは知らなかったのですが、あの授賞式にはすごい違和感ありましたよ。。。
ブリー・ラーソン、ハグはしたんですが拍手は全くしていません。
デンゼル・ワシントンもケイシーが名指しでお礼いってるのにニコリともしない。
なんだか怖いくらいでした。
で、私もソッコーググりました(笑)。
もちろん、この映画のチームはケイシーを大切にしてる感はありましたが。
複雑ですね。。
まぁ、間違いなく才能ある俳優さんだと思うので、これからもいい演技見せて欲しいですね。
[2017/06/10 00:03] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。
この作品は本当に傑作だと思いますし、同時に長い間自分の心の中に残っていく作品だと思っています。
「乗り越えられない」…そのことをありのままに出している作品が近頃の(特にハリウッドの)作品には殆ど無いような気がします。夢は願いが強ければ必ず叶うし、困難は色々あっても結局は乗り越えられる、そんな作品が多いような。…でも、「乗り越えられない」ことって確かにあるし、その方が現実には多いような気さえします。
叔父と甥の関係性の描写も含めて、とても誠実な作りの作品だと思いました。
[2017/06/13 12:35] URL | ここなつ #/qX1gsKM [ 編集 ]
ここなつさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
『メッセージ』にもTBありがとうございました。
私も、しみじみと「自分はこういう映画が好きなんだなぁ」と思いました。
↑記事中にも書きましたが、この映画がアカデミー賞作品賞でもよかったんじゃないかと思っています。
まぁ、「乗り越えられない」と普通はドラマになりませんからね(笑)。
よく企画が通りましたよね。さすがマット・デイモン! 彼に一番感謝しないといけないかもですね。
>とても誠実な作りの作品
これもマット・デイモンらしいと私は思います。
なんか私、マットの大ファンみたいですね!好きですけども(笑)。
ケイシー>>>ベン≧マットかなぁ。この三人にはこれからも変わらず仲良くいてほしいです。
[2017/06/14 20:24] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
お邪魔します~~
真紅さんの一言で、リベンジして観に行きました。ありがとう・・・・
その劇場でも満席でしたよ。
いい作品だったので、大画面での鑑賞で良かったです。
アカデミー賞での↑の話、全然知らなくて。
驚き~~~。
良い演技でこれから活躍することを心掛けて
ほしいわ。
[2017/07/02 20:48] URL | みみこ #zQHIT1rU [ 編集 ]
みみこさん、こんにちは~。コメントありがとうございます。
>真紅さんの一言で、リベンジして観に行きました。

え~、ホントにぃ? うれしい~、こちらこそありがとう!
この映画、みみこさんは絶対気に入ってもらえるだろうなと信じていたよ。
満席なんだ、、すごいね。大阪でもヒットしたみたい。

そう、授賞式でケイシー、かなりガツーーーンとやられていたよ。
私は後で知ったから、当時の事とか真相はわからないんだけども。。
まぁ、役者としては正真正銘、素晴らしいと思うんで。
ほんとこれからも頑張ってほしいね。
後で行きます~。
[2017/07/03 10:55] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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ありきたりな表現が許されるなら、傑作である。ただただ、傑作である。ネタバレ含みますので未見の方はご注意下さい。マンチェスター・バイ・ザ・シーの穏やかな海の風景。ヨットで海に出て釣りをする家族の描写。父と子と、子の叔父と。冬の過酷な寒さのボストンの「今」の風景と交差して展開される。父はジョー(カイル・チャンドラー)、息子はパトリック、叔父はリー(ケイシー・アフレック)。ヨットの光景はパトリック...
[2017/06/13 12:30] ここなつ映画レビュー
マンチェスター・バイ・ザ・シー
住むには辛すぎる町 公式サイト http://www.manchesterbythesea.jp 製作: マット・デイモン アメリカのボストン郊外でアパートの便利屋をして孤独に生きる男リー(ケイシー・
[2017/06/15 10:19] 風に吹かれて
マンチェスター・バイ・ザ・シー ★★★★
「ジェシー・ジェームズの暗殺」「ゴーン・ベイビー・ゴーン」のケイシー・アフレックが心に深い傷を抱えた主人公を好演し、アカデミー主演男優賞をはじめ主要映画賞を総なめするなど各方面から絶賛された感動のヒューマン・ドラマ。ある悲劇をきっかけに故郷のマンチェス...
[2017/06/19 18:51] パピとママ映画のblog
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
叔父と甥の会話(言い合い)が、なかなか笑える。ユーモアがあっていい。
[2017/07/07 07:17] 或る日の出来事
真紅のthinkingdays


いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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