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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

寄り道、挫折、それもまたよし~『サイドウェイ』

20070220155146.jpg

 小説家を志すバツイチの英語教師マイルス(ポール・ジアマッティ)とTV俳優の
ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)は、大学時代からの親友。一週間後に
アルメニア人の令嬢と結婚し、年貢を納めるジャックのために、マイルスはカリ
フォルニア・ワイナリーへの旅
を計画する。離婚した妻への未練が断ち切れず、
自作の出版も軌道に乗らず自信喪失気味のマイルスと、独身最後の一週間に発情
気味のジャック
。対照的な二人が、ワインと女性を巡る旅に出る。
 アカデミー賞の脚色賞をはじめ、多くの賞を受賞した本作、監督・脚本は『アバ
ウト・シュミット』
アレクサンダー・ペイン

 この映画もアメリカが好むロードムービーの一つであり、過剰なまでの成功を
求めるアメリカという国のマインドを反映している。主人公のマイルスは、英語
(アメリカでは国語ですね)教師というインテリジェンスで固い職業に就いていなが
らも、小説を出版できない自分を「海に吐き出される汚物=無価値」だと感じている。
上昇することへの思い入れが強い余りに、失敗したり、「負け犬」と呼ばれることを
恐怖しているマイルスが痛々しい。彼は本能よりも、頭で考えて生きているのだ。
リトル・ミス・サンシャインとこの映画が似ている、と聞き、なかなか手が伸び
なかった本作を観てみる気になったのだが、なるほど、一見「敗北者」な主人公たち
の人生をシビアに切り捨てない視線には、共通するものがあると思う。
 対するジャックは、本能剥き出し、「女とやる」ことが一番。嘘がばれて鼻を折ら
れようと、痛み止めを飲みながらでも一夜の相手を探す。「俺にはこれが全てだ。俺
のウズキをわかってくれ」
そこまで言うか・・。勝手にやってろ(笑)。

 主演のポール・ジアマッティトーマス・ヘイデン・チャーチの演技が素晴ら
しくいい。ワインおたくな「哀愁の薀蓄王」マイルスに降りかかる不幸の数々、その
度にジアマッティの顔に浮かぶ悲しみと諦念がすっごくリアル。軽々しく生きて
いるように見えるジャックも、婚約者に捨てられたら自分には何も残らないとむ
せび泣く。彼もまた、敗者となることへの過剰な恐れを抱いているのだ。そんな
親友のために、住居不法侵入の危険を冒して一肌脱ぎ、愛車を大破させるマイル
ス。ええ男や・・。旅の終わり、一瞬の間を置いて抱き合う二人が絶妙だ。

20070220155227.jpg

 「あきらめるなよ
  俺にはそんなうまく書けねーよ」

 「俺にも無理さ
  ブコウスキーをパクッたんだ」



 別れた妻に未練タラタラだったり、新しい恋になかなか踏み出せないマイルス
を、私は笑えない。いや、大笑いしながらも、めちゃめちゃ身につまされる。人生
半ばにさしかかり、「何も成し遂げていない」という焦り。「ピークを境にワインは
ゆっくりと坂を下り始める。そんな味わいも捨てがたいわ
」最高の理解者を目の前
にしながら、抱き寄せる勇気と行動力がない、考え過ぎてしまう哀しさ・・。
それでも最後には、自分の意志でドアをノックするマイルス。語り過ぎない、
るものに委ねる終わり方
がまた、ニクイのだ。

 脚本は、日本語字幕でも十分その素晴らしさが味わえる。シリアスとコミカル
なパートを切り分ける、作劇のバランスが見事。コメディタッチに流れすぎない、
大人のための上質な映画に仕上がっている。傑作です。

『サイドウェイ』監督・脚本:アレクサンダー・ペイン
  主演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ/2004・USA)
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テーマ : ★おすすめ映画★
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2007-02-20 : BD/DVD/WOWOW/Streaming : コメント : 12 : トラックバック : 7
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サイドウェイ
2004年 アメリカ監督:アレクサンダー・ペイン脚本:アレクサンダー・ペイン、ジ
2007-02-20 22:25 : 銀の森のゴブリン
★「サイドウェイ」、これで泣けないの?★
「サイドウェイ」(2004)  米/ハンガリー SIDEWAYS監督:アレクサンダー・ペイン製作:マイケル・ロンドン原作:レックス・ピケット脚本:アレクサンダー・ペイン ジム・テイラー撮影:フェドン・パパマイケル編集:ケヴィン・テント音楽:ロルフ・ケント出演:....
2007-03-07 10:52 : ★☆カゴメのシネマ洞☆★
映画DVD「サイドウェイ 特別編」
2004年 アメリカ 監督: アレクサンダー・ペイン 主演: ポール・ジアマッティ、 トーマス・ヘイデン・チャーチ アカデミー賞受賞作品  ■ストーリー さえないバツイチ中学教師が 友達の落ち目...
2007-08-28 00:21 : 映画DVDがそこにある。
サイドウェイ
サイドウェイ[DVD]2004年 アメリカ 監督:アレクサンダー・ペイン 出演:ポール・ジアマッティ    トーマス・ヘイデン・チャーチ    ヴァージニア・マドセン    サンドラー・オー by G-Tools 少しだけ寄り道。 人生はワインのように芳醇ではないけれ
2009-10-22 21:47 : 菫色映画
「サイドウェイ」感想
プレイボーイ男と、気弱なうんちく男のコンビが良いですね~。なんだかんだ言っても、2人はお互いを思いやってるし、良い関係。パトリス・...
2009-10-31 09:29 : ポコアポコヤ 映画倉庫
サイドウェイ
ワインと人生 【Story】 作家志望のマイルス(ポール・ジアマッティ)と売れない役者のジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)は、ジャ...
2009-11-15 14:17 : Memoirs_of_dai
サイドウェイ
 コチラの「サイドウェイ」は、レックス・ピケットの小説を「アバウト・シュミット」のアレクサンダー・ペイン監督が映画化した対照的な中年男2人が織り成すロード・ムービーです。  アカデミー賞脚色賞を受賞し、日本では昨年リメイクされたのですが、やっぱりどうせな...
2010-04-14 22:13 : ☆彡映画鑑賞日記☆彡
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真紅さん TB&コメントありがとうございました。
この映画は2005年の7月に観たのですが、その前の5ヶ月はほとんどアメリカ映画を観ていませんでした。2003年から4年ごろ製作のアメリカ映画は本当に谷間のように落ち込んでいた時期で、この映画は久々にアメリカ映画の実力を味わった映画でした。ですからとても印象深い映画です。
負け組マイルスとやけっぱちジャックの2人旅は、哀愁を帯びている面と滑稽な面がコインの裏表のように組み合わさっていて絶妙でしたね。ラストがまたよかった。
ところで、「哀愁の薀蓄王」という表現がえらく気に入ってしまいました。真紅さんのオリジナルでしょうか?これほど気の利いた表現はなかなか思いつきません。
2007-02-20 22:52 : ゴブリン URL : 編集
ゴブリンさま、こんにちは。コメントとTB、感謝です。
私もこの映画、あまり期待せずに観たせいか物凄くよかったです。
キャストも地味で低予算映画なんですけど、傑作といえると思いました。
またDVD欲しい病が始まってしまいました(笑)
「哀愁の薀蓄王」は特にどこかから引っ張ってきたというわけではないですよ。
ワインを語るマイルス、「辛気臭い」と思ったのですが思いやりを込めて「哀愁」と表現しました(笑)
でも「哀愁」も「薀蓄王」も特に目新しい言葉ではないですよね。
オリジナルというほどではないので使って下さいね(笑)。ではでは、またお伺いします。
2007-02-21 00:03 : 真紅 URL : 編集
真紅さん こんにちは!
冴えない、いけてないオヤジが主人公のこの作品ですが、なんとなく憎めないあの風貌が良いんですよねぇ。
しかも、この作品ってオシャレですよね!
大人が味わう作品って感じですね。
DVDを買ったので、また繰り返し観たいです。
2007-02-21 15:44 : なぎさ URL : 編集
なぎささま、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうそう、ポール・ジアマッティのあの佇まいがなんともいえずいいですね~。。
(観てるぶんには、、付き合うのはちょっと、、笑)
DVDを買われたのですね、わかります~。私もすごく欲しいです!主演二人のコメンタリ、聴きたいなぁ。。
この作品がいいと感じる、自分も大人になってしまったのね・・と思えた作品でもありました。
ではでは、また遊びにいらして下さいね♪
2007-02-21 17:00 : 真紅 URL : 編集
TB、感謝です♪♪♪

カゴメは5年ほど前に、軽度のうつ病を患って通院してた事があるですが、
このマイルスを観ていて、とても良くうつの症状が描けているのに驚いたです。
そして、マヤの珠玉なあの一言!!
当時、患っていたカゴメにも優しい女性が一人いてくれて、
お陰で命を救われましたが、
そのことも彷彿と思い出されて、一層、大切な作品になりましたよ。
今は、精神保健福祉士として逆に相談される立場になりましたが、
この作品は、自分の経験と重ね合わせても、とても良い参考になるです。
2007-03-07 10:59 : カゴメ URL : 編集
カゴメさま、こんにちは。コメント&TB、ありがとうございます。
そうなんですか、マイルスはうつなのですね。
よく描けているということは、アレクサンダー・ペインも経験があるのかもしれませんね。
私も何年か前、「自分は何の価値もない人間だ・・」「死にたい・・」とずっと思っていました。
勇気がなくて病院には行けなかったのですが、やっぱり友人の言葉に救われたかな?
私にはやさしい男性はいてくれなかったけどね(笑)
だからこの映画、私も大好きです。心に沁みますね・・。
またお伺いしますね。お身体、お大事に。ではでは。
2007-03-07 14:32 : 真紅 URL : 編集
TBありがとうございます。
申し訳ないですが、僕には合わない作品でした。
2007-08-28 09:23 : maimai URL : 編集
maimaiさま、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
私はとても好きな作品でした。感想は人それぞれなので、申し訳ないと思うことはないですよ。
ではでは~。
2007-08-28 14:30 : 真紅 URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
マイルスは愛しい男でした。
かわいいですよね。元妻の再婚に荒れ、新しい恋に躊躇し、でもワインのこととなると目を輝かせる…。ひどく人間くさくて好きです。
あのラストも良いですね。ノックの先にあるものを想像して、自然に口元が緩みます。
「哀愁の薀蓄王」はわたしも気に入ってしまいました!(笑)
さて、ジアマッティに小日向さんがどこまで肉薄できるか見物です。
2009-10-22 21:46 : リュカ URL : 編集
リュカさん、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます。
マイルス。。ホント、付き合いたくないタイプだわ(爆)。
でも、友だちの彼氏なら応援したいな~(笑)。
こういう神経症的な演技をさせたら、ジアマッティって巧いですよね。
小日向さんは期待大なんだけど、ヒロインが。。
『重力ピエロ』を思い出しそうですよね。
でも、時間あったら観たいです~。
2009-10-23 21:11 : 真紅 URL : 編集
真紅さ~ん、こんにちは!
これ、すごく好きな映画でした。
思いがけず良い作品に巡り会えたって感じ。
リュカさんち経由でこちらに来たんだけれど、あのオーさんって、監督の当時の奥さんだったのね? 彼女だけが、いまひとつピンと来なかったんだけれど(彼女だけ、ちょっと可哀想というか・・なんというか・・だったよね(^^ゞ) 

それ以外は、マイルスの感情の揺れとか、とっても良かったな~。
うじうじしちゃう処や、急に思い立ってがんばってみようとお店に行くものの、たまたまマヤが仕事休みで、会えずに、ふぅ~ってタイミングあわずに、1人で飲み過ぎてしまう処とか、色々感情移入して楽しめました~。
2009-10-31 09:41 : latifa URL : 編集
latifaさん、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございます♪
私も、この映画大好きなんですよ。。
好き過ぎて、リメイクは観ないかもしれない。。そういう時ってあるよね?
そうなんですよ、あのサンドラさんは監督の元奥様。。
でも、ゴールデン・グローブで受賞したりしてるの観たことあるし、他の映画でもちょくちょく見かけます。
だから一定の評価はある女優さんなんだろうね。

私も、マイルスって全然好みじゃないけど、友だちならなってもいいかな~(笑)。
絶対、付き合いたくないタイプだけど←何度も言うな
これはホント、傑作だと思いますよ。
2009-11-01 10:25 : 真紅 URL : 編集
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