国境の南~『ボーダーライン』

SICARIO
優秀なFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)は、メキシコの麻薬組織<カル
テル>撲滅のためのチームにスカウトされる。国境の南で彼女が見たのは、
銃声の止まない無法地帯と化した街・フアレスだった。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの新作は、血で血を洗う残酷描写に、身の毛もよだつ
サスペンス。冒頭、原題の 「シカリオ」 とは暗殺者のことである、とテロップ
が出る。ラストシーンの後、暗転とともにその言葉が大きく映し出され、本作
のタイトルロールが誰であるのかを理解する。
★ 以下、ネタバレ ★

ケイトは本作の目撃者であり、真の主役はアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)
である。妻子を殺された、謎のコロンビア人。メキシコの麻薬組織を壊滅させる
というのは大義名分であり、妻子の復讐を誓うアレハンドロがジリジリと敵を追
いつめていく様を、観客はケイトとともに目撃する。ケイトの瞳は私たちの眼で
あり、怯え、震え、怒りに凍りつく。
「君は私の大切な人に似ている」 「怯えると少女のようだな」。アレハンドロは
ケイトの中に喪った妻子の面影を見、無法地帯となった国境から去れと言う。
しかし人一倍正義感が強く、長いものに巻かれることができないケイトは、最後
の最後までアレハンドロに銃を突き付ける。決して撃つことはできないと知りな
がら・・・。ラストは、切ない別れのシーンに映った。

想像を絶するアメリカ×メキシコ国境の荒廃と、もしかしたらそれ以上に、人
間性を失っている捜査に戦慄を覚えた。暴力が暴力を呼び、銃と札束が支配
する闇の世界。そこに身を置き、感覚を麻痺させている捜査官マット・グレイヴ
ァー(ジョシュ・ブローリン)の薄笑いに、青臭いままのケイトの抵抗が痛々しく
映る。
「ここを去り、法秩序の残る小さな町で暮らせ」。サインさせることで、アレハン
ドロはケイトを守ろうとしたのだ、と思う。結局私は、ベニチオ・デル・トロの色気
に骨抜きにされたのかもしれない。
( 『ボーダーライン』 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/2015・USA/
主演:エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン)
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trackback
原題「Sicario(シカリオ)」は、メキシコで「暗殺者」を意味する。誘拐・人質専門担当官のケイト・メイサー(エミリー・ブラント)は、とある事件の凄惨な現場に遭遇した後、国防省の顧問を名乗る男マット・グレイバー(ジョシュ・ブローリン)のスカウトを受け、アメリカの麻薬社会を牛耳る、麻薬カルテルのボスを挙げる業務に就く。それは、メキシコという麻薬戦争の戦地に赴くことであったが、作戦の末に果たされ...
2016-04-19 16:34 :
ここなつ映画レビュー
終わりのない闇 公式サイト http://border-line.jp 監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ 「灼熱の魂」 「プリズナーズ」 「複製された男」 FBIの誘拐即応班を指揮する女性捜査官、ケイト
2016-04-21 14:53 :
風に吹かれて
23日のことですが、映画「ボーダーライン」を鑑賞しました。
試写会にて
FBI捜査官のケイトは、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした部隊にリクルートされる
特別捜査官マットや謎のコロンビア人アレハンドロとともにアメリカとメキシコの国境付近の麻薬組織撲滅の...
2016-04-21 22:57 :
笑う社会人の生活
Sicario(viewing film) 『ボーダーライン』の原題はSicar
2016-04-22 11:11 :
Days of Books, Films
公式サイト。原題:Sicario。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、ヴィクター・ガーバー、ジョン・バーンサル、ダニエル・ ...
2016-04-23 16:12 :
佐藤秀の徒然幻視録
アメリカとメキシコの国境付近における麻薬戦争を描いた作品。
激烈ですねぇ。日本でこの様な事が話題になることはないので、衝撃的です。単に、警察に寄る取り締まりではなく、リアルに“戦争“だと思います。
描かれている内容が圧倒的すぎて、何とも言えません。映画な...
2016-04-23 17:29 :
勝手に映画評
メキシコの麻薬組織壊滅を目的とする特殊チームにスカウトされた正義感あふれるFBI女性捜査官が、突然放り込まれた麻薬戦争の最前線で目の当たりにする衝撃の実態をリアルかつ極限の緊張感で描き出した社会派サスペンス・アクション。主演は「オール・ユー・ニード・イ...
2016-04-23 20:19 :
パピとママ映画のblog
映画『ボーダーライン』は、今最も注目されている映画監督といっても過言ではないカナ
2016-04-23 23:00 :
大江戸時夫の東京温度
越えてはいけない一線がある。分けるべき一線もある。
これがメキシコ麻薬カルテルの恐ろしさなのか。これがドナルド・トランプ候補が国境線に壁を建てたいと主張した実情なのか ...
2016-04-23 23:02 :
こねたみっくす
評価:★★★★☆【4.5点】(11)
メキシコとの国境沿いの緊迫感が凄い!
2016-04-24 00:31 :
映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
『プリズナーズ』『複製された男』などのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作。
原題は「Sicario」であり、スペイン語で「殺し屋」を意味する。
誘拐事件を担当していたFBI捜査官のケイト・メイサー(エミリー・ブラント)は、捜査中に麻薬カルテルのアジトに踏み込み大量の死体を発見する。仕事の成果が評価されたケイトは国防総省のマット・グレイヴァー(ジョッシュ・ブローリン)の特殊...
2016-04-24 01:09 :
映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
アメリカとメキシコ国境の町フアレス。 女性エリートFBI捜査官ケイトは、巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、謎のコロンビア人と共に麻薬組織ソノラカルテルを撲滅させる極秘任務に就いた。 人が簡単に命を落とす現場に直面したケイトは、善悪の境界が分からなくなってゆく…。 クライム・アクション。 R-15
2016-04-25 16:23 :
象のロケット
原題は「Sicario」。邦題は似たような題名のテレビや映画はあるだけに、最初はどうかと思いましたが、見終わったら、ああ、この題名しかないと腑に落ちました。最初から最後まで緊迫感あふれるサスペンスです。 作品情報 2015年アメリカ映画 監督:ドゥニ・ヴィルヌ…
2016-04-26 06:44 :
映画好きパパの鑑賞日記
(ネタバレは概要紹介の後、「以下ネタバレ注意」注意書き以降から)
あれ?いとこのファウスト・アラルコンはソノラ・カルテルのナンバー3って言われてなかったっけ・・・?
そんな疑問が頭に引っかかり、でもwikipediaのストーリー欄は間違いだらけでアテにならないし、なによりラストが最高過ぎたので、映画『ボーダーライン』の2回目を鑑賞してきました。
やっぱり言ってる・・・。その後さ...
2016-05-24 23:54 :
グドすぴBlog
DVDで鑑賞して、「この映画、劇場で見なくちゃだったな…」と後悔する作品が年に何本か、ある。
今作は、まさにその一本!
映画のテーマは、メキシコの麻薬組織との闘い。
そのテーマでいうとアカデミー賞を3つ獲得した「トラフィック」を思い出す。
が何と! その主演だったベネチオ・デル・トロがこちらでも。
で、その彼の存在感があまりに凄く、圧倒された!
今回は主...
2016-09-22 08:03 :
日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~
「ボーダーライン」(原題:Sicario)は、2015年公開のアメリカのクライム・サスペンス&アクション映画です。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロ、...
2016-09-22 22:42 :
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SICARIO
2015年
アメリカ
121分
サスペンス/犯罪/アクション
R15+
劇場公開(2016/04/09)
監督:
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
『複製された男』
出演:
エミリー・ブラント:ケイト・メイサー
ベニチオ・デル・トロ:アレハンドロ
ジョシュ・ブローリン:マット・...
2017-02-28 20:48 :
銀幕大帝α
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督ドニ・ヴィルヌーヴ
ネタバレあり
2017-03-26 09:30 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
麻薬戦争、恐ろしい!
2017-04-08 07:14 :
或る日の出来事
コメントの投稿
同意です
こんにちは。
>結局私は、ベニチオ・デル・トロの色気
に骨抜きにされたのかもしれない。
私も、でございます(笑)。
しかし、壮絶な復讐譚でしたね。
>結局私は、ベニチオ・デル・トロの色気
に骨抜きにされたのかもしれない。
私も、でございます(笑)。
しかし、壮絶な復讐譚でしたね。
ここなつさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
私、エミリー・ブラントは大好きなんですが、紅塩さんはそうでもなかったんですよ。
でも、この映画は痺れましたね、彼に。
スペイン語しゃべるといいのかもね(笑)。
私、エミリー・ブラントは大好きなんですが、紅塩さんはそうでもなかったんですよ。
でも、この映画は痺れましたね、彼に。
スペイン語しゃべるといいのかもね(笑)。
>サインさせることで、アレハンドロはケイトを守ろうとしたのだ、と思う。
そうですね。こういう遠回しなセリフ、間接的に言いたいことを伝えるのはハードボイルドやノワールの定番ですから。それにしてもベニチオ(この役のために体重増やしたんでしょうか)の崩れかけた体型に潜む思いの深さに圧倒されました。
そうですね。こういう遠回しなセリフ、間接的に言いたいことを伝えるのはハードボイルドやノワールの定番ですから。それにしてもベニチオ(この役のために体重増やしたんでしょうか)の崩れかけた体型に潜む思いの深さに圧倒されました。
雄さん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
あのセリフ、情緒的に受け取り過ぎかな? と思ったのですが、アレハンドロにそういう思い、ありましたよね。
これはデル・トロの映画でしたね。彼、私は昔から大柄な印象があります。
この映画続編ができると小耳に挟んだのですが、スタッフ・キャストも続投して欲しいなと思います。
あのセリフ、情緒的に受け取り過ぎかな? と思ったのですが、アレハンドロにそういう思い、ありましたよね。
これはデル・トロの映画でしたね。彼、私は昔から大柄な印象があります。
この映画続編ができると小耳に挟んだのですが、スタッフ・キャストも続投して欲しいなと思います。