ひとつの真実~『ユナイテッド93』
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 2001年9月11日。世界を変え、本当の意味で20世紀が終ってしまったあの日、
ハイジャックされた飛行機のひとつ、ユナイテッド93機。乗員乗客全員死亡という
惨事のさなかで、何が起こっていたのか。彼らは何を見、何を感じ、何をしたのか。
ポール・グリーングラス監督が徹底したリサーチのもと、物語性を排し、無名の
俳優や関係者をキャスティングすることで、あの日のユナイテッド93機内をドキュ
メンタリー形式
で撮りきった作品。製作はワーキング・タイトル。誰もが知って
いる「事実」を描きながら、そこには紛れも無い真実が映し出されている。

 ポール・グリーングラスのインタビューが読みたいと思った。彼が何故、この
映画を撮ろうと思ったのかが知りたかった。映画公開時点で9・11から5年。それ
は「たった」5年なのか「すでに」5年なのか。TV中継によって全世界が目撃者と
なった未曾有の大惨事であっても、私たちの記憶は日々薄れてゆく。しかし当事
者や遺族にとっては5年たった今も、事件は昨日の出来事のように生々しい記憶
であるだろう。

 結末もストーリーもわかっていながら、どうしても希望が捨てられない。「この
中で、一人でも助かったら・・」
そう願わずにはいられない。あの夏、ありふれた
ある晴れた朝、何千と飛び交う飛行機の中でユナイテッド93機を選び、偶々乗り
合わせた40人の乗員・乗客たち。彼らが何故、命を落とさなければならなかった
のか。テロリストの大義とは、何だったのか。緊迫した会話と状況、リアルタイ
ムに進行する映画の中で乗客たちが過ごした時間を追体験し、改めて彼らに与え
られた運命の残酷さに打ちのめされる。

 命の期限を悟ったとき、家族や恋人に「愛している、それだけ伝えたかった」
言う彼ら。自分が同じ状況に立たされたとき、私は誰に電話をするのだろう。
電話をした相手に心から「愛している」と言えるのだろうか。と、ふと思う。幼い
子どもや最愛のパートナーを遺して逝かねばならない彼らの無念に、涙が止まら
ない。極限状況にあっても、生きること、正義を諦めなかった彼らの生き様を、
映画は記憶し続ける。忘れないことが死者にとって一番の弔いであるならば、こ
の映画を世界が観て、心に留めることこそが鎮魂の礎となる、そう監督は願って
いたのだろうか。

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 世界最大の軍事大国でありながら、数人のテロリストによる凶行を止められな
かったアメリカという国。エンディングに出されるテロップに、監督の怒り
込められている。あの日から今日までアメリカが辿ってきた道は、犠牲者たち
の眠りを妨げてはいないだろうか?

 ポール・グリーングラスのアカデミー監督賞受賞もアリか?と思わせる力作。
時期尚早かもしれない、賛否両論あるだろう。それでも観るべき価値のある作品
だと私は思う。未見の方は是非ご覧になって下さい。

『ユナイテッド93』監督:ポール・グリーングラス/2006・米、英、仏)
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【2007/02/14 13:56】 | DVD | トラックバック(5) | コメント(8)
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コメント
真紅さん いつも幣ブログへコメントとTBをありがとうございます!
なのに残念なことに、こちらからはTBができないというのが申し訳ないです。
原因はなんでしょうね。
コメントだけで失礼しますが、この作品は真紅さんも仰るように、結末はわかっているのに最後まで希望を捨てられない、そんな緊迫感がありますね!
アメリカのずさんな危機管理にも驚かされました。
【2007/02/14 17:06】 URL | なぎさ #-[ 編集]

拙宅にコメントありがとうございました。

当方からのTB無事反映されたようですね。

P・グリーングラスの力強くて鋭い映像と迫真の語り口は
最後はあのようにトラジティな結果にはなってしまい
ましたが、作品としての完成度の面では
非常に的確なセンスでまとめられていたと思います。

唐突に目の前でブチ切れたような、あのラスト。
私、劇場の椅子に座っていることさえ
面映い衝撃を受けたのを思い出します。

真紅さんからもう一度TBトライしてみていただけますか?
【2007/02/14 21:12】 URL | viva jiji #kzLu3bv6[ 編集]
なぎささま、こんにちは。コメントありがとうございます。
TB、いつもすみません。こちらこそお手数かけます。
私も一番驚いたのは政府や軍の後手後手な対応でした。
アメリカってあの日まで本土攻撃されたことがなかったんですよね。
だからある意味、平和ボケしてたんだなぁ、と思いました。
またTBがダメでも遊びにいらして下さい。ではでは。
【2007/02/15 01:51】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
viva jijiさま、こんにちは。コメントとTBありがとうございました。
当方からも再度トライしてみましたら成功しました♪
私もこの作品はかなり完成度が高いと感じました。
賛否両論あるようですが、的確な描写だったのではないでしょうか。
劇場で観たならば、物凄い衝撃だったと思います。
9・11からもう5年、まだ5年・・。今後も様々なアプローチで映画が作られるのでしょうね。
ではでは、またお伺いしますね!
【2007/02/15 01:52】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
こんばんは~☆この映画、ラストはわかっていながら、「愛してる」の電話に涙が止まりませんでした・・・。
色々と良い映画はありますが、この映画のように「観るべき」映画っていうのも珍しいですね。概ね賞賛の声が多い映画ですが、P・グリーングラスが、批判の声も含めて受け入れるつもりで描いた、素晴らしい作品だと思いました。
【2007/02/19 23:20】 URL | hiro #-[ 編集]
hiroさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、乗客たちがかけた電話に涙し、考えさせられましたね。
ポール・グリーングラス、オスカーノミネートも納得!の出来栄えだったと思います。
貴宅にも伺わせていただきますね。ではでは。
【2007/02/20 12:06】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
こんにちは 劇場で見ずにDVDで見ましたか
特典映像がとてもよかったです。
再度見直したときは,遺族のまなざしで見ることができました。
この監督さん,すばらしいですね。
もし自分があの飛行機に乗っていたら・・・
最後に「愛している」と伝えたい人の顔が浮かんで
涙が止まりませんでした。
【2007/12/12 12:55】 URL | なな #-[ 編集]
ななさま、こんにちは。コメント&TBをありがとうございます。
私も、DVDの特典映像観ました。一時間くらいのドキュメンタリーでしたよね。
このような悲劇が、二度と繰り返されないように望みます。
ポール・グリーングラスは凄い監督だと私も思います。
この映画のカメラワーク、ドキュメンタリータッチの映像は『ボーン』でも活かされていますね。
後ほどお伺いします。ではでは!
【2007/12/12 13:39】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
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【UNITED 93】2006年/アメリカ 監督:ポール・グリーングラス   出演:ハリド・アブダラ、ポリー・アダムス、オパル・アラディン、ルイス・アルサマリ、デヴィッド・アラン・ブッシェ、リチャード・ベキンス 200 BLACK&WHITE【2007/08/05 01:15】
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