神が与えしもの~『サウルの息子』
サウルの息子




 SAUL FIA

 SON OF SAUL


 1944年、アウシュビッツ。ユダヤ人強制収容所には、「ゾンダーコマンド」
秘密の運搬人と呼ばれ、同胞の死体を処理するために働かされていた囚人た
ちがいた。その一人であるサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ガス室から虫の息と
なって運ばれてきた少年を息子だと主張し、彼を 「正しく埋葬」 しようとする。

 ホロコーストを描き、カンヌ映画祭で監督賞を受賞した話題作。第88回アカ
デミー賞外国語映画賞
をも受賞したハンガリー映画。初日に鑑賞。

 スタンダードサイズのスクリーンに、至近距離で主人公のアップが映し続け
られる、「異様」 としか言いようのない作劇。Mommy/マミー でグザヴィ
エ・ドラン
が近いことをやっているが、この映画は自身が 「自撮り棒」 で撮
っているかのように、カメラは徹底してサウルから離れることはない。結果、私
たちはサウルに同化したかのような、居心地の悪さを感じ続けることになる。

サウルの息子2

 強制収容所で、ガス室で何があったのか。ドイツ兵の言う 「部品」 がクロ
ーズアップされることはない。しかし、はっきりと映し出されないからこそ、私
には見えてしまう。想像の目で、惨劇を目撃してしまうのだ。

 息子を正しく埋葬しようと死体を隠し、ラビを探して奔走するサウルは、ま
るで 「狂人」 のように見える。しかし、本当に狂っているのは誰なのか?

 ユダヤ人とは、「ユダヤ教を信仰している人」 のことだと聞いたことがある。
特に、イスラエル建国前だったこの時代、宗教だけが彼らのアイデンティティ
だったことは想像に難くない。細かな灰になるまで焼き尽くされ、川に流され
る同胞たち
を、どんな思いでサウルは見つめていたのか。少年を、「息子」 を
正しく埋葬したい
---。全感情、全感覚を麻痺させて生き長らえていた彼
は、人間としてそう願ったのだ。強く。

サウルの息子3

 これが初の長編映画だというネメシュ・ラースロー監督も凄いが、サウルを
演じたルーリグ・ゲーザの存在感は只者ではない。顔、立ち姿、彼一人の演
技がこの重量級の作品をけん引している
、と言っても過言ではないだろう。し
かも、彼は専業の俳優ではなく、詩人だというからさらに驚かされる。重過ぎ
る、リアル過ぎるこの107分間、ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』 で父
親役だった俳優が医者を演じていると気付いたとき、「これは映画なんだ」 と
安堵している自分がいた。

 ラストシーン。森に遊んでいた地元の少年を見て、サウルは微笑む。息子が
転生して現れたのだと思ったのかもしれない。銃声が轟き、何事もなかったか
のように、木々は揺れている。

 ( 『サウルの息子』 監督・共同脚本:ネメシュ・ラースロー
     主演:ルーリグ・ゲーザ、ジョーテール・シャーンドル/2015・ハンガリー)
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【2016/03/07 07:22】 | 映画 | トラックバック(20) | コメント(2)
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コメント
こんにちは。
ラストシーンはかなり印象的でした。
あの終わり方は良かったのですが、そこに行きつくまでが非常に観ていて辛かったです。
【2016/03/09 22:33】 URL | りお #xPbS6JcU[ 編集]
りおさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
いつもTB送らせていただいておりますが、コメのやり取りは初めてですね~ありがとうございます!
確かに、ものすご~く疲れる映画でしたね。
私は、サウルの顔が嫌いじゃなかったので大丈夫でしたが。
【2016/03/10 12:31】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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