愛しい人~『消えた声が、その名を呼ぶ』

THE CUT
1915年、オスマン帝国。アルメニア人鍛冶職人のナザレット(タハール・ラヒ
ム)は、妻と双子の娘を愛し、幸せに暮らしていた。しかしある夜更け、憲兵が
彼を強制連行する。妻子と引き離され、過酷な肉体労働に従事させられたナ
ザレットは・・・。
トルコ系ドイツ人監督、ファティ・アキンの新作。トルコの歴史の暗部である
アルメニア人大虐殺を題材にしているため、かなりシビアな描写もある。しか
し、旅する主人公の傍らに音楽が寄り添う、紛れもないファティ・アキンの映
画だった。こういう説明調の邦題は、好きではないけれど。

寡聞にして、アルメニア人が被った悲劇を今作で初めて知った。とにかく世界
史と世界地理に疎く、映画を観ながらアルメニアやミネアポリスが国なのか地
域なのか、はたまた都市名なのかも判然としない自分が情けない。勉強って、し
ておいて損はないですね、、、反省。こんな私に、世界の有りようを教えてくれる
のが映画なのだけれど。
虐殺を免れたものの声を失い、地獄を見ながらも情けある人々との出逢いに
よって生き延びるナザレット。敬虔なキリスト教徒(その名が正に神の子イエス
の出生地!)だった彼が、あまりにも過酷な運命の仕打ちに信仰を捨てる場面
が切ない。娘を見つけようと旅に出た彼は、時に罪を犯し、時に人を救い、最後
にある 「歌」 に辿り着く。愛しい人、愛しい人と繰り返すその旋律は、遥かなる
故郷から神が遣わせた使徒のように、ナザレットを導く。

主人公ナザレットを、ほぼ出ずっぱりで熱演したタハール・ラヒムは初見。出
演作の数々は日本でも公開されているが、なんと全て未見であった。チャップ
リンの 『キッド』 を観て、泣いたり笑ったりする姿がなんともかわいい! エン
ドロールには、ファティ・アキンからマーティン・スコセッシへの熱烈な謝辞が記
されている。デリケートな題材だけに、この映画の製作が困難を極めたことは
想像に難くないが、初志を貫いて力作を世に問うたファティ・アキンに、敬意を
表したい。彼のこれからの作品が、ますます楽しみになった。
( 『消えた声が、その名を呼ぶ』 監督・製作・共同脚本:ファティ・アキン/
主演:タハール・ラヒム/2014・独、仏、伊、露、ポーランド、加、トルコ、ヨルダン)
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命をかけてこの道をゆく 君たちに再び会うためにこの作品の当時、オスマン帝国は中世からの大繁栄からは打って変わって領土を失い、黒海の下方に位置するのみの「瀕死の病人」状態であった。敵国ロシアに対する攻防を続けたのち、第一次世界大戦に参戦する。そして歴史的には1922年、帝国は滅亡する。これは、第一次世界大戦時に起こった、歴史に残るアルメニア人大虐殺(一説にはヒトラーのユダヤ人ホロコーストは、こ...
2016-02-04 13:38 :
ここなつ映画レビュー
「The Cut」2014 ドイツ/フランス/イタリア/ロシア/ポーランド/カナダ/トルコ/ヨルダン
1915年オスマン・トルコのマルディン。アルメニア人の鍛冶職人ナザレットは美しい妻ラケルと可愛い双子の娘たちと愛に満ちあふれた日々を送っている。キリスト教徒である彼は教会で祈りを捧げる善き人。しかしある夜、いきなり押し掛けてきた憲兵に、同居していた兄弟と一緒に強...
2016-02-04 17:45 :
ヨーロッパ映画を観よう!
『愛より強く』(ベルリン国際映画祭金熊賞)などのファティ・アキンの最新作。
原題の「THE CUT」は主人公が負うことになる傷のことだろうか。
この映画は歴史上のある出来事に関して描いている。この出来事はウィキペディアでは「アルメニア人虐殺」という項目として記されている。第一次世界大戦中のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人の計画的で組織的な虐殺というのが一般的な見方...
2016-02-04 18:33 :
映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
消えた声が、その名を呼ぶ@角川シネマ有楽町
2016-02-04 19:58 :
あーうぃ だにぇっと
第一次大戦中にトルコで起きたアルメニア人虐殺を舞台に、生き残った父親が離ればなれになった娘達を捜す壮大なストーリー。トルコ系のファティ・アキン監督が、トルコ史の恥部をいうべき作品を撮影するというのも驚きです。 作品情報 2014年ドイツ、フランス、イタ…
2016-02-05 06:28 :
映画好きパパの鑑賞日記
砂漠に消えた、愛を探して。
第一次大戦中のオスマン・トルコ帝国による、アルメニア人のジェノサイドをモチーフとした、壮大な映像叙事詩。
声を失いながらも、この世の地獄を生き残った主人公は、何処かへと消えた家族を探して、いつ果てるとも知れない苦難の旅に出る。
監督はトルコ系ドイツ人のファティ・アキンで、彼の「愛より強く」「そして、私たちは愛に帰る」に続く「愛、死、悪に関する三部作」の最...
2016-02-05 22:07 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
The Cut(viewing film) 『そして、私たちは愛に帰る』が記憶に
2016-02-07 00:07 :
Days of Books, Films
「愛より強く」「そして、私たちは愛に帰る」のトルコ系ドイツ人監督ファティ・アキンが、トルコのアルメニア人大虐殺をモチーフに、虐殺を生き延びた男が、生き別れた2人の娘を捜して繰り広げる壮大な旅の行方を描いたドラマ。主演は「預言者」「ある過去の行方」のタハ...
2016-02-15 16:43 :
パピとママ映画のblog
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年ドイツ=フランス=イタリア=ロシア=トルコ=ポーランド合作映画 監督ファティ・アキン
ネタバレあり
2017-09-26 23:15 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
こんにちは!
すごい…素晴らしい作品でしたよね?
>敬虔なキリスト教徒(その名が正に神の子イエス
の出生地!)だった彼が、あまりにも過酷な運命の仕打ちに信仰を捨てる場面が切ない。
と書いていらっしゃいますが、
私も、ナザレットが手首にした十字架の刺青を消そうと自分の腕を痛めつけるシーンは胸が締め付けられそうでした。
ところで、タハール・ラヒム出演作については、私は「預言者」がお勧めです。長いですが。機会があれば是非。彼の卓越した、けれど瑞々しい演技を観る事が出来ます。
すごい…素晴らしい作品でしたよね?
>敬虔なキリスト教徒(その名が正に神の子イエス
の出生地!)だった彼が、あまりにも過酷な運命の仕打ちに信仰を捨てる場面が切ない。
と書いていらっしゃいますが、
私も、ナザレットが手首にした十字架の刺青を消そうと自分の腕を痛めつけるシーンは胸が締め付けられそうでした。
ところで、タハール・ラヒム出演作については、私は「預言者」がお勧めです。長いですが。機会があれば是非。彼の卓越した、けれど瑞々しい演技を観る事が出来ます。
ここなつさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
はい、素晴らしい作品でした。ファティ・アキンに外れなし!
タハール・ラヒムは初見でした。
素敵な俳優さんですよね~。ぽっ
日本でもそこそこ話題になった作品に出ているのに・・・。
年間結構な数の映画を観ているのに、こんなことってあるのですね。悲
『預言者』は、ハリウッドリメイクされるとつい最近ニュースに出ていたような・・・。
彼の出世作のようですね。
是非観てみたいと思います。
はい、素晴らしい作品でした。ファティ・アキンに外れなし!
タハール・ラヒムは初見でした。
素敵な俳優さんですよね~。ぽっ
日本でもそこそこ話題になった作品に出ているのに・・・。
年間結構な数の映画を観ているのに、こんなことってあるのですね。悲
『預言者』は、ハリウッドリメイクされるとつい最近ニュースに出ていたような・・・。
彼の出世作のようですね。
是非観てみたいと思います。
ファティ・アキン、コメディにドキュメンタリーにこうしたドッシリした作品群にと、どれもクオリティが高いのがすごいですよね。
まだ若いのに、これからが楽しみな監督です。個人的には、『愛より強く』のような、みずみずしいヴァイヴの強い作品がまた見たい気もします。
あと、「タハール・ラヒムにハズレ無し!」でもありますよ!
今のところ公開した5作は全て見てますが、彼は面白い俳優になりそうです。
『第九軍団のワシ』なんかも、案外いい作品で驚きました。
まだ若いのに、これからが楽しみな監督です。個人的には、『愛より強く』のような、みずみずしいヴァイヴの強い作品がまた見たい気もします。
あと、「タハール・ラヒムにハズレ無し!」でもありますよ!
今のところ公開した5作は全て見てますが、彼は面白い俳優になりそうです。
『第九軍団のワシ』なんかも、案外いい作品で驚きました。
とらねこさん、こんにちは~。コメントありがとうございます。
ファティ・アキン、ほんとハズレなしよね~。
私は『愛より強く』が初見だったような気がする。。。
あれで度肝を抜かれたんですよね。大好きで大切な映画です。
そうそう、ビロルさん最近観なくない?
どーしてるんやろ、、と思っていたところでした。
タハール・ラヒム、遅ればせながらチェックさせていただきますわ♪
そうそう、『第九軍団のワシ』、どなたかがすごくよかったー、って年間ベストにも入れてらっしゃったような気がする。
roseさんだったかな? 観たーい。
観たい映画が多過ぎるよね。(笑)
ファティ・アキン、ほんとハズレなしよね~。
私は『愛より強く』が初見だったような気がする。。。
あれで度肝を抜かれたんですよね。大好きで大切な映画です。
そうそう、ビロルさん最近観なくない?
どーしてるんやろ、、と思っていたところでした。
タハール・ラヒム、遅ればせながらチェックさせていただきますわ♪
そうそう、『第九軍団のワシ』、どなたかがすごくよかったー、って年間ベストにも入れてらっしゃったような気がする。
roseさんだったかな? 観たーい。
観たい映画が多過ぎるよね。(笑)