為すべきこと~『フランス組曲』
フランス組曲






 SUITE FRANCAISE


 1940年。フランスはドイツの支配下に置かれ、リュシル(ミシェル・ウィリ
アムズ)
義母(クリスティン・スコット・トーマス)と住む田舎町ビュシーにも、
ドイツ軍が進駐してくる。義母の邸は、ブルーノ(マティアス・スーナールツ)
という名のドイツ軍中尉が間借りすることになる。

 第二次大戦下、出征した夫を待つ人妻と、敵国の軍人が惹かれ合うメロ
ドラマ
ミシェル・ウィリアムズとクリスティン・スコット・トーマスの共演ならば、
観逃すわけにはいかない。音楽によって心の垣根を越え、人間として愛し
合った男女の物語
以上に、エンディングに明かされる 「真実」 に涙した。

フランス組曲2

 「戦争は人間の本性を暴く」。多分、この世のほとんどの人間は、善人でもな
く悪人でもない
。この映画の登場人物は、正義と我欲の間で引き裂かれながら、
誰もが必死で生きている。自分の 「生」 が脅かされた時、誰もが建前だけの
善人ではいられない
のだ。

 音楽を愛する穏やかな紳士が、人を殺さなければならない不条理。他人の悪
行を密告し、保身に走る人々。理不尽な空気の中で亡き父に言われるがまま、
愛を知らないまま嫁ぎ、自分の人生を生きてこなかったリュシルは、ブルーノを
愛して初めて、自分が 「為すべきこと」 を知る。

 「ナチスは母を殺せなかった。これは復讐ではなく勝利だ」。この物語はアウ
シュヴィッツで亡くなったユダヤ人作家イレーヌ・ネミロフスキー
のノートに綴ら
れ、60年以上、彼女の娘によって保管されていたもの。イレーヌが自己投影
したと思われるユダヤ人女性を イマジン のアレクサンドラ・マリア・ララ
演じ、彼女の娘を匿うクリスティン・スコット・トーマスに サラの鍵 がよぎる。
ペンは剣よりも強く、芸術は時空も国境も超えて、私たちに真理を教えてくれ
る。

フランス組曲3

 もちろん、不満がないわけではない。フランスの田舎町の人々が、英語をしゃ
べる違和感。美し過ぎるマーゴット・ロビー、ハンサム過ぎるサム・ライリーは、
農村の人間にはとても見えない。しかしブルーノの奏でるピアノの調べには、そ
れら全てを許してしまう包容力を感じるのだった。

 ( 『フランス組曲』 監督・共同脚本:ソウル・デイブ/2014・英、仏、加、ベルギー/
     主演:ミシェル・ウィリアムズ、クリスティン・スコット・トーマス、マティアス・スーナールツ
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[2016/02/04 00:00] | 映画 | トラックバック(8) | コメント(4) |
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コメント
真紅さんへ。
こんにちは。
友人もそう言っていました。英語はおかしいって……。
僕は英語版の「危険な関係」が平気な人間なので、
勿論、フランス語だったらもっと雰囲気でしょうけど、
それほど気になりませんでした。
気にしないようにしている……の方が正しいかな?
皆、密告するのですね……村人の数だけ秘密がある訳で、
チョッとその辺の心理って空恐ろしい気がしました。
ホラ、溺れる心理?人の頭を抑えて自分が浮き上がるみたいな……。
ブルーノは処刑でしょうかね?オートバイで駆け付けちゃぁねぇ。
リュシルは初めて人を愛して自分の強さに気付いたかもしれませんね。
村の誰よりも強いもの。お義母さまより強い。
スコット・トーマスがブノワを助けるに至る心理描写が弱いですね。
あのごうつくババアですもん、息子の洋服を着ているのを見たから?
もっと何かなきゃ……甘いなぁ、もっとキツい性格ですよ、彼女は。
しかし、スコット・トーマスはいい女優になりましたねぇ。
年輪を重ねて素敵になる女優って大好き!
「オンリー・ゴッド」とかシビレましたから(笑)
「フランス組曲」も真紅さんの背中を押して貰いました。
いつもありがとうございます!

ブノワ。
[2016/02/03 13:29] URL | ブノワ。 #kZkdgmoI [ 編集 ]
ブノワ。さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これご覧になったのですね。
シネコンにはかかりましたがひっそりと始まって、もう終わっているところも多いですよね。
映画ブロガーさんの記事もほとんど見かけません。
いい映画なので残念です、、でもブノワ。さんに気に入っていただけてよかったです!

言葉の問題は、もう言い出したらキリがないないですよね。
そもそも吹替えで観られる方は、全く気にされないのでしょうし・・・。
「世間」の空気って、ほんと恐ろしいですよね。
戦時中は特に、皆疑心暗鬼になって、平時よりさらに空気がギスギスするのだろうと想像します。
ブルーノのような人が、人を殺さなければならない空気。。
本当に恐ろしいです。
今の日本の空気はどうでしょう? そうなってほしくないな、と思います。
義母の豹変は、私もちょっと唐突感がありました。
クリスティン・スコット・トーマスは、押しも押されもしない大女優ですね!
彼女は作品選びもいいなと思います。
年輪を重ねて素敵になる女優、、、やっぱりヨーロッパに多くて、アメリカにはあまりいない気がします。
ミシェル・ウィリアムズには、頑張ってそうなって欲しいなぁ。

こちらこそ、いつもありがとうございます。
またお伺いしますね。
[2016/02/04 12:50] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
こんにちは。オジロワシと言います。
「自分の『生』が脅かされた時、誰もが建前だけの善人ではいられない」とおっしゃる点、まったくその通りですね。とりわけ戦争という究極の時代に、正邪だけで他人(ひと)を判断するのは、危険を伴います。その正邪・善悪が誰にとってのそれであるかを見極めることは重要だと思いました。

本作においては、そんな判断のはざまで揺れ動いたリュシルやブルーノ、そしてアンジェリエ夫人だったように思うのです。それぞれに、夫に対する貞操観や国家(軍)への忠誠、息子や今は亡き夫に対する愛情といったひとつの価値観(「善(正)」)を乗り越えて、各人が人間性に目覚めていく移り変わりを描いたと言えるのではないでしょうか。

また彼ら3人の既存の価値観に対置するように登場するのが、ドイツ兵を憎むブノワと夫を限りなく愛するマドレーヌであり、さらには自由奔放にふるまうセリーヌや最後は子爵としての矜持に殉じたモンモール町長なのでしょう。そこには価値観の相克は見られません。

原作者ネミロフスキーが、幼いころに目にしたボリシェヴィキ革命の現実、自由・平等・博愛を勝ち取ったはずのフランスに残る小作制度、ユダヤ人迫害といった過酷な体験の中からつかみ取った複眼的な観察眼がそこにあるような気がします。

真紅さんが、本作を引き合いに「いまの日本の空気はどうでしょう?」と疑問を呈しておられる点に、時代に対する重要な示唆を感じました。
拙ブログにトラックバックをお寄せいただき、ありがとうございました。
[2016/03/19 23:21] URL | オジロワシ #lq9Rnrxw [ 編集 ]
オジロワシさん、こんにちは。こちらこそコメント&TBありがとうございます。
おととい、『リリーのすべて』を観ましたら、マティアス・スーナールツが結構重要な役で出演しており、この映画を思い出していたところでした。
大阪ではかなり前に上映は終わっていたのですが、ちょくちょくTBをいただくので全国順次公開だったのでしょうか、この映画。
いい作品でしたので、全国で上映されるのはとてもうれしいです。

この映画を観て私が感じたことは、「普通の人、市井の人は皆、善悪両面の貌を持っている」ということです。
当たり前のことなのですが。
いい面、悪い面、どちらが前面に出てくるかは、時代や社会状況に寄るのだな、と。
命が脅かされた時、本能というか本性が出るものだと思います。
原作者は、きっと多くの人々が豹変したり、変わらずにいたりするのを観ていたのでしょうね。
改めて、「これは復讐でなく勝利だ」というエンドロールの言葉を思い出しています。

いい映画は一度観た切りでも記憶に残りますね。
改めて、ありがとうございました。
[2016/03/21 21:05] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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