誰かの青空~『恋人たち』
恋人たち

 妻を通り魔に殺された橋梁検査員のアツシ(篠原篤)は、民事裁判を起こして
犯人を訴えることだけを心の支えに生きていた。夫と姑の三人で暮らし、味気な
い毎日を送っている主婦の瞳子(成嶋瞳子)は、パート先で出逢った男(光石研)
に心ときめく。弁護士の四ノ宮(池田良)は、学生時代からの友人(山中聡)
思い続けていた。

 (大好きな)橋口亮輔監督7年ぶりの長編。年齢や生活環境の異なる三人の
主人公が、それぞれに鬱屈を抱えながら、理不尽な世の中で生きて行く様を描
いた群像劇。11月半ばの公開直後に観て、正直もう、年内は映画観なくていい
かな、と思うくらいの余韻を与えてくれた作品
。しかし主演はほぼ無名の役者
し、観ていてイライラさせられるところもある。もちろん笑いどころもあるが、どち
らかと言えば悲しく、暗い話ではあるので、万人受けする映画ではないと思う。
それでも、できれば、なるべく多くの人に観て欲しい。個人的には、今年の邦画
ベストワン


恋人たち2

 私はこの三人の主人公や、登場人物の誰にも似ていないようで、誰でもある
ような気がする。彼らと同じ経験はしていなくとも、似たような感情を持ったこと
は、確かにある。裏切られ、落ち込んで引きこもり、様々なものを失った

 キャストは皆素晴らしい。特に気になったり、印象に残ったのはアツシの義姉
と、株式会社太陽の女子社員とそのお母さん、そして同僚の黒田さん(黒田大
輔)


 「私、好きな人がいて。その人も、私のこの変な顔と、変な性格が好きだ、
  って言ってくれて。でも、サトコが殺されて、私、、、振られたの。
  友だちも、みーんないなくなって。

  私、妹殺されたんだよ?」

 「お母さんが、その人にウチで一緒にテレビ観よう、って」

 「腹いっぱい食って、笑ってりゃ人生なんとかなるさ」


 ご飯食べよう、でも、遊びに行こう、でもなく、「テレビを観る」 という生活者の
視点
。特別なことは何もなくとも、平凡な暮らしがどれほど素晴らしく、実は貴い
もの
であるか。アツシの繰り言を、じっと黙って聞く黒田さん。私も、誰かが傷つ
いて落ち込んでいる時、その人の話に耳を傾けられる人になりたい
と思った。
何もできなくても、いやむしろ、何もしなくてもいいのだ。ただ、傍にいて、話を聞
くことさえできれば。

恋人たち3

 観終わった後、様々に考えさせられるのはこのタイトル。上野でアツシが見
つめたふたり。登場人物は皆、「恋しい人」 を失った者たちであり、彼らもか
つては 『恋人たち』 であったのだ。誰かの、幸せの象徴としての。

 ぐるりのこと。 でも音楽と主題歌を担当したAkeboshiが、今回も素晴ら
しくいい。名バイプレイヤー光石研や、安藤玉恵の登場もうれしい。タブー
触れ、チャレンジを厭わないこの映画が、優しい映画という印象を残すのは、
橋口監督の人柄ゆえ、なのかもしれない。

 ( 『恋人たち』 監督・脚本:橋口亮輔/2015・日本/主演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良
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[2015/12/16 12:49] | 映画 | トラックバック(15) | コメント(2) |
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コメント
真紅さん、おひさしぶりです^O^
「恋人たち」橋口監督の思いが、伝わりましたね。
先行上映で観たんですが、橋口監督と主役のアツシさんのトークショーが上映後にあり、ワークショップの話、撮影時の裏話なんか、いろんな話をしてくださいました。
成嶋さんがあまりにも思いがけない面白い表情をしてくれるので、カメラマンと笑いをこらえるのが必死だったとか。
監督はもっと無口なタイプな人かと思っていたけど語り口がスマートでユーモア交えて話されて、私はアツシさんが登場してしばらくは彼を見ていて、「アツシさん、ほんとつらかったよねー」とか思ってグスグスと泣いてました (^ ^;)
朴訥な九州弁が、九州人にはよけいにグスリと。
それにしてもキャストの皆さんの存在感のすばらしさ、大島渚監督の「一、に素人」という言葉を思い出しました。

[2015/12/19 22:13] URL | ゆーこ #- [ 編集 ]
ゆーこさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
お久しぶりです。
この映画ご覧になったのですね!
しかも先行上映、トークショー付き、、、うらやまし過ぎです!
私も、先日橋口監督が話されているのをラジオで聞いて少し驚きました。
ホント、軽妙にお話される方ですよね。
声が少し、岩城晃一さんに似てる~、なんて思いながら聞いていました。
アツシさん、劇中も九州弁がところどころ出ていて、、、グッときますよね。
成嶋さんは、ずっと森三中のみゆきちゃんに似てると思いながら観ていました。
あの独白のシーン、すごく印象に残りました。。
ほとんど無名の俳優さんがここまで胸に迫る演技をされる。
これはやはり、橋口監督の演出力のたまものだと思います。
あと、当て書きされたという脚本も。
本当に余韻のある映画でした。
[2015/12/20 17:17] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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