夏の約束~『野火』

第二次大戦末期、フィリピン・レイテ島。肺病を患った田村一等兵(塚本晋也)
は、野戦病院からも所属部隊からも拒絶され、空腹と疲労に朦朧となりながら
大地を彷徨う。
誰もが 「観たい映画」 を観るものだろう。しかし誰もが 「観るべき映画」 と
いうのもあると思う。戦後70年の節目の年に、塚本晋也が自主製作で撮った
この映画は間違いなく 「観るべき映画」 であり、私にとって 「夏の宿題」 だ
った。夏の約束、と言い換えてもいい。
劇場は賑わっていたはずなのに、ファーストランはあっと言う間に終了してし
まった。しかし夏が終わり、秋が来ても全国でムーブオーバーが続いている。
9月最後の土曜日、やっと観ることができた。地方の小さなシネコンは、そこそ
この入り。この国の良心は、まだ死んではいないと感じる。やっと約束を果たせ
た気分。自分が、自分に課した約束だけれど。

「観るべき映画」 と書いたが、正直積極的に 「観たい映画」 ではなかっ
た。怖いモノがとにかくダメなので、トラウマレベルの残酷描写があるのでは
・・・、と危惧し、鑑賞前夜はよく眠れなかったほど(どんだけ、笑)。しかし、案
ずるより産むが易し。正視できないほどの映像は皆無だった。
戦争映画ではあるけれど、敵(アメリカ軍)は姿を現わさない。全てが田村
という一人の兵士の視点で描写され、観る者がそれを体感する。徹底して一
人称な映画である。塚本晋也が自主製作で撮り上げたと言う 「私的」 さが、
本作においては功を奏していると思う。
この映画では、「戦争映画」 にありがちな勇ましさや男らしさ、大作感は
全て排除されている。好むと好まざるとに関わらず、徴兵され、異国へ送ら
れた男たち。彼らの 「目下の敵」 は飢えと疲労、そして孤独であるという
真実。インテリであろうがなかろうが、極限状態の中で理性は崩壊し、本能
のみが生き延びようとのた打つ。この世の地獄。

かつて起きた悲劇が再び起こるはずがない、などと、何故言えるのだろう。こ
の映画を観て、一体誰が、殺し殺され、血を流し合うことを望むだろう。
戦争反対。
( 『野火』 監督・製作・脚本・撮影・編集・主演:塚本晋也/2014・日本))
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おススメ度 ☆☆☆
塚本晋也好き ☆☆☆☆
1959年に市川昆が映画化している。当時は白黒、人肉食のシーンは避けた。
それから50年、風化しつつある戦争体験を、描きたいと願ってきた塚本晋也。その独特の映像美で、描き切った傑作。
そのスプラッター描写と、狂った...
2015-10-20 08:34 :
ひろの映画日誌
公式サイト。英題:Fires on the Plain。大岡昇平原作。塚本晋也監督・主演、リリー・フランキー、中村達也、森優作、山本浩司、中村優子。1959年に市川崑監督によって映画化されている。 ...
2015-10-20 08:48 :
佐藤秀の徒然幻視録
これは凄まじい戦争映画です。英雄でも何でもない、末端の兵士が生存本能で地獄から生還する話ですが、この作品を見ると他の日本の戦争映画はきれい事だらけに見えてなりません。資金が集まらず自主制作に近かったそうですが、こうした作品がある限り、邦画の未来は明る…
2015-10-20 10:36 :
映画好きパパの鑑賞日記
Fires on the Plain(vewing film) 大岡昇平の『野火
2015-10-20 12:29 :
Days of Books, Films
1959年に市川崑により映画化された大岡昇平の同名小説を塚本晋也の監督、脚本、製作、主演により再び映画化。
日本軍の敗北が濃厚となった第二次世界大戦末期のフィリピン戦線。結核を患った田村一等兵は部隊を追放され、野戦病院へと送られる。しかし、野戦病院では食糧...
2015-10-20 17:56 :
パピとママ映画のblog
評価:★★★☆【3,5点】(P)
人として、その一線を越えるかとどまるのか。
2015-10-20 21:42 :
映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
五つ星評価で【★★★これはこれで大した物に違いない】
結論から言うと、私は市川崑版の方が好きだ。
市川版は、物事の筋書きをはっきり書いていて物語として分かりやすい。
...
2015-10-20 23:02 :
ふじき78の死屍累々映画日記
【出演】
塚本 晋也
リリー・フランキー
中村 達也
森 優作
【ストーリー】
日本軍の敗戦が濃厚になってきた、第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島。一等兵の田村は、結核を発症したために部隊を追われて野戦病院へと送られる。だが、病院は無数の負傷兵を...
2015-10-20 23:27 :
西京極 紫の館
大地は美しい。しかし戦争をする人間は汚らわしい。そんな人間の血で大地を汚すのか。
これは崇高なる反戦映画だ。そして最初から最後まで一片の澱みもなく「塚本晋也」でもある ...
2015-10-20 23:50 :
こねたみっくす
緑の海の流離譚。
昭和の文豪・大岡昇平が、自らの戦争体験をもとに著した小説「野火」を、異才・塚本晋也監督が20年の構想を経て自主制作体制で映像化した本作は、驚くほどの熱量を持つ大変な力作である。
舞台となるのは、太平洋戦争末期のフィリピン戦線。
監督自ら演じる日本陸軍の一等兵・田村は、肺病を患った事から所属する隊を追い出され、圧倒的な火力を持つ米軍とゲリラ兵が跋扈するジャングルを、...
2015-10-21 00:20 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
戦後70年。
世界中で意欲的に反戦映画が作られている今年だからこそ、1つは必ず戦争ものを、そしてその1つに選ぶならこの映画を観て欲しい。
いや、観るべきである。
2015-10-21 17:52 :
ノルウェー暮らし・イン・原宿
『野火』を渋谷のユーロスペースで見ました。
(1)『鉄男』の塚本晋也監督の作品ということで、映画館に足を運びました。
本作(注1)の冒頭では、小屋の中で分隊長(山本浩司)が田村一等兵(塚本晋也)を、「バカヤロー、食糧も集められない肺病病みを飼っておく余...
2015-10-23 07:16 :
映画的・絵画的・音楽的
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・塚本晋也
ネタバレあり
2016-08-06 10:02 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
☆☆☆☆- (10段階評価で 8)
7月26日(火) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。
2016-08-10 09:48 :
みはいる・BのB
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なかなかにヘヴィーな作品だったかと思います
あまり観たい作品ではなかったのに、重い腰を上げて見に行っていただき、ありがとうございます…。
私の直接の友人なんかでも、イヤイヤ見に行っていたのかもしれないなあ…
題材としての難しさはあったかもしれませんが、戦後70年のこの夏に
一番インパクトのある、意義のある映画だったと思います。
あまり観たい作品ではなかったのに、重い腰を上げて見に行っていただき、ありがとうございます…。
私の直接の友人なんかでも、イヤイヤ見に行っていたのかもしれないなあ…
題材としての難しさはあったかもしれませんが、戦後70年のこの夏に
一番インパクトのある、意義のある映画だったと思います。
とらねこさん、こんにちは~。コメントありがとうございます。
>私の直接の友人なんかでも、イヤイヤ見に行っていたのかもしれないなあ…
いやいや、そんなことはないですよ!
観たいけど、ちょっと怖そう、ビビる、、、みたいな感じでしたよ、私の場合。
とにかく怖がりなので、、、ダメですね。
でもこの作品は、観る価値のあるとっても貴重な作品だと思いました。
戦死した方って、多くが餓死、と聞きました。
綺麗ごとは通用しない世界だよね。
できれば、塚本監督にもお会いしてみたかったです。
>私の直接の友人なんかでも、イヤイヤ見に行っていたのかもしれないなあ…
いやいや、そんなことはないですよ!
観たいけど、ちょっと怖そう、ビビる、、、みたいな感じでしたよ、私の場合。
とにかく怖がりなので、、、ダメですね。
でもこの作品は、観る価値のあるとっても貴重な作品だと思いました。
戦死した方って、多くが餓死、と聞きました。
綺麗ごとは通用しない世界だよね。
できれば、塚本監督にもお会いしてみたかったです。