香港的十年愛に涙、涙~『ラブソング』
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 1986年3月、天津から香港へ出稼ぎに来た青年シウクワン(黎明レオン・ライ)
彼は初めての給料日に入ったマクドナルドで、アルバイトのレイキウ(張曼玉マギー・
チャン)
と出会う。彼女も広州からやってきた大陸出身者だった。友達も顔見知り
もいない香港で、ふたりは友情を育み、やがてそれは自然と愛情に変わる。しか
し、シウクワンには故郷に残してきた恋人がいるのだった。
 香港とニューヨークを舞台に、一組の男女の10年に渡る愛と別離、再会を描き、
1997年度香港アカデミー賞ではグランプリをはじめ、9部門を独占したという
大ヒット作。またひとつ、忘れられない映画に出会った。

 改めて、マギー・チャンという女優の美しさ、演技力に感動した。ハリウッド
ではチェン・ツィイーやコン・リーのほうが知名度は高く、日本でもメジャーな
女優というわけではないかもしれない。しかし彼女の表情、笑顔や泣き顔、手の
動き、髪の一本一本までが、レイキウの歓び、悲しみ、戸惑い、心の揺れを表現
していて素晴らしい。レイキウの初登場シーン、マクドナルドの制服を着た彼女
のかわいらしさ。シウクワンの心を瞬時に捉えたのは、懐かしい北京語の響きだ
けではないだろう。私は断然、彼女をこそ「アジアナンバーワン女優」と呼びたい。
『天使の涙』『インファナルアフェアⅢ/終極無間』での、クールで冷徹な雰囲気
の印象が強いレオン・ライも、朴訥で心やさしい、まっすぐな青年を好演してい
る。正直言って、こんな素敵な俳優さんだとは思わなかった。(実は、彼に魅力を
感じていなかったから、今までこの作品を未見だったのだ・・)

 この映画は恋愛の本質を描いていると思う。一般的に、恋愛において女は引き
ずらないとか、ウジウジ後を引くのは男だとか言われているけれど、決してそう
とばかりは言えないと思う。ずっと一人の相手だけを思い続ける女もいれば、あっ
さり恋人を捨てる男もいるだろう、もちろん逆もある。でも誰だって一度くらい
は忘れられない人に出会い、その人の記憶を生涯、心のどこかに留めているもの
ではないだろうか。映画の中で、シウクワンの先輩が「縁があれば、またいつか会
えるさ」と言うシーンがある。そう、あなたがその人を忘れていなければ、相手も
きっと忘れていない。そしていつかまた必ず会える、それが本当の恋だったなら

★以下、内容に触れています★

 レイキウは、気丈でしっかり者だが、とても繊細で脆い。彼女はシウクワンを
心の底から愛していたのに、借金まみれでマッサージ嬢となった負い目や、彼の
故郷の恋人を思い、身を引く。そこに、あのミッキーマウスの刺青・・。大きな
背中に滑稽なほど不似合いなそれを最後に目にしたときの、彼女の慟哭。一緒に
家族を作ろうと決心したのに。人生は時に残酷で、ままならない。自分の愛する
女が、心の底で忘れられない誰かを愛していると知りながら、全てを受け入れて
包み込む男
もいる。曾志偉エリック・ツァンが演じたパウの愛の形も、紛れもな
愛の本質だ。

 そう、この映画の登場人物は、誰一人愛を偽らない。シウクワンは故郷の恋人
も、もちろんレイキウも愛していたのだし、レイキウもシウクワンを愛し、パウ
にもただの情ではない、愛を感じていたのだと思う。人間誰しも、何十年と生き
ていれば、たった一人の相手だけに純粋培養された愛情を注ぐことは難しいだろ
う。いろんな愛の形があっていい、たとえそれが世間から拒絶されようと、結果
的に誰かを傷つけようと。

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 レイキウと初めて結ばれた翌朝、故郷の恋人に電話し「愛している」と継げるシウ
クワン。それはただの友情の延長だと思い込もうとして、彼はずっと後、結婚し
てから間違いに気付く。あれは真実の、たった一つの愛だったのだと。それがわ
かってからのシウクワンは、もう迷わない。人生にはやがて終わりが来る。なら
ば新しい土地で、新しい人生を始めよう。心の中にあの日の歌と思いを秘めて、
ニューヨークに生きる彼は、すっかり大人の男になっている。

 映画冒頭、クレジットに杜司風クリストファー・ドイルの名前を見つけ、撮影
はドイルか!と喜んでいたら、俳優として出演していて驚いた。二人の心を繋ぐ
モチーフとして、テレサ・テンの歌が印象的に使われている。日本の歌のメロデ
ィーも聴こえてきてうれしい。ラストシーンのレイキウの笑顔が、10年という
歳月を飛び越えて光り輝いている。運命という言葉を、もう一度信じてみよう。
そんな気持ちにさせてくれる、涙、涙の傑作。この映画を勧めてくれた方々に、
心から感謝します

★2007年4月20日、この映画のDVDが再発売されるようです★

(『ラブソング』監督:陳可辛ピーター・チャン
      主演:黎明レオン・ライ、張曼玉マギー・チャン/1996・香港)
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テーマ:心に残る映画 - ジャンル:映画

[2007/02/08 17:16] | DVD/WOWOW | トラックバック(1) | コメント(10) |
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コメント
真紅さん、こんにちは♪
香港映画にはまり始めた頃に観て大好きになった映画です。
大陸から出て来た朴訥なあか抜けない若者二人が人生を歩むうちにだんだん変化していく様も、ゆ~ったりと身を預けるみたいな気持ちで観たことを思い出しました。
>誰一人愛を偽らない
そうかぁ、そうでしたね!
これが観る側を素直な気持ちにさせたのかも知れませんね… 
希望を感じるラストも本当に感動でした♪
[2007/02/09 00:33] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
fizz♪さま、こんにちは。コメントありがとうございます。
この映画、本当によかったので・・。好きな方、多いでしょうね~。
fizz♪さまもお好きなのですね、うれしいです!
そうそう、前に「感想アップしますね」と言っていた『終極無間』、結局書かずじまいです。
ごめんなさい!!!『ディパーテッド』の予習のつもりで観たので・・。反省。。
しかしあの三部作はどれもよくできていますね。

あのラスト、わかっちゃいるんだけど涙がドドーーーーッと(笑)
というか自転車二人乗りのシーンから大号泣していた私です(何を思い出してたんや・・)。
結構長い記事になったのですが、しつこくまた何か書くかもしれません。
ではでは、私もまた伺いますね~。
[2007/02/09 11:16] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、再びお邪魔します。
覚えていてくださったんですね~
いえいえ、とんでもないですよー!
こちらこそごめんなさい!!!
私もⅡを観たのに感想をUPしてません(汗)
これからも真紅さんの素敵なレビューを楽しみに通わせて頂きますので、宜しくお願いします♪
[2007/02/09 19:18] URL | fizz♪ #0HzTjQFo [ 編集 ]
おお、fizz♪さま、再びのコメントありがとうございます。
いえいえ、自分が言ったことは忘れないんですが「有言不実行」ではダメですよね・・。
しかもあの作品を「予習」で観るとは何事じゃ!と怒られそうです(汗)
なかなか、観た映画や読んだ本の感想、全てを記事にするのは難しいですね。
でもできるだけ書いて行きたいと思っていますので、こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いします♪
[2007/02/09 20:38] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、こんばんは。
いい映画でしたね。
真紅さんのおっしゃるとおりこの作品では誰もが愛を偽っていませんでした。
その瞬間その瞬間を自分の気持ちに従って自分で選択して人生を進んでいく・・・。
香港に来たばかりのシウクワンの何を見ても好奇心いっぱいのまん丸の目が子供のようで愛しかったです。
こちらからもTBさせていただこうと思っているのですが、なかなかうまくいきません。(汗)
また後ほどトライさせていただきますね。
[2007/02/10 00:32] URL | sabunori #JalddpaA [ 編集 ]
sabunoriさま、ようこそいらっしゃいました!コメントありがとうございます。
今回、マギーはもちろんレオン・ライの演技力に驚きました。
香港からとNYへと舞台も移りますが、彼の表情の移り変わりも見事でした。
NYでの彼、何かを胸に秘めて生きる男そのものでしたね。
香港でのキョロキョロぶりもかわいかったし・・。
TBはうまくいかないとおっしゃる方が多いので、気になさらないで下さいね。
お手数かけて申し訳ありません。
またお伺いさせていただきますね。ではでは!
[2007/02/10 02:33] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さん、この映画日本で公開される前に
VCDで観てしまって、そこで感激して
ちょっとスクリーンで最初に観なかったのを
後悔した作品だったんですけど、観客は多分
観ているうちにあの二人両方ともに幸せに
なってもらいたい!って思うようになりますから、
あの余韻のあるラストは最高だったと思います。
ラストのラストの回想場面がすごくいいんで
すよね。
香港が中国に返還される頃の映画だったので
現地の方も感慨ひとしおだったんじゃないかと
思います。
リンクの件、こちらは特別リンク欄をまだ
設けていないので恐縮なのですが、もし
差しさわりなければリンクしてくださいませ。
光栄でございます^^
[2007/02/13 12:43] URL | kazupon #- [ 編集 ]
kazuponさま、こちらにもコメントありがとうございます。
これホントにいい映画でした。アジアの映画って本当にお好きな方は海外版のDVDやVCDで先に観られるんですよね、現地まで観に行ったり。
うらやましいな~。。
私はオープニングで、レオン・ライの後ろにマギーらしき人がいるのを発見してしまったのですけど、それでも涙・涙でした。
リンクの件、ありがとうございます。早速張らせていただきました。
ずっとお願いしたかったんです。kazuponさまのブログ大好きなんですよ!
今後ともよろしくお願いします。ではでは。。
[2007/02/13 16:45] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さま こんばんは

これ,いい作品ですよね~
すっかり大好きになってしまいました。
ほんと,この作品の魅力はリアルなことですよね。
ロマンチックではないとはいいませんが
同時に二人を愛したり,
他に本命がいるのに別の人と暮らしてたり・・・
そこらへんの「ほんとにありそう」なところが
韓ドラなんかと違って深く共感できました。
韓ドラは韓ドラで,非現実的なドラマに酔う,
という楽しみ方ができますが。

ところで,例のミニシアターが
めでたく「チェイサー」を上映してくれることになりましたので
週末に行ってきますね!楽しみ!
でもレイトショーなので怖いかなぁ・・・。
[2009/06/11 00:29] URL | なな #- [ 編集 ]
ななさん、こんにちは!コメントとTBをありがとうございます。
この記事にTBを頂くのは初めてですね、どうもありがとう~。
私も、この映画大好きです。
ピーター・チャンの『ウォー・ロード』を観逃してしまったことが悔やまれます。
韓ドラマは冬○ナしか観たことがないのでよくわからないんですが、
昔、福山くんと常盤貴子で、この映画のリメイクみたいなドラマがあったんですよ。

『チェイサー』上映よかったですね!
さっすが、支配人!やるな~。
そういう方がいらっしゃると心強いですね。
私もそのシアター、影ながら応援していますよ。
ではでは、後ほど伺います。
[2009/06/11 07:57] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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