愛しかない~『Mommy/マミー』

MOMMY
2015年、架空のカナダ。シングルマザーであるダイアン(アンヌ・ドルヴァル)
の息子スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)は、ADHDのため矯正施
設に入所していた。しかし問題を起こした彼は施設から拒絶され、自宅へ戻
される。時として暴力衝動を起こすスティーヴと日々対峙し、疲弊していたダ
イアンは、ある日隣人のカイラ(スザンヌ・クレマン)に助けられる。
本作で監督・製作・脚本・衣装・編集を手掛け、カンヌ映画祭において審査
員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン。彼は 「若き(美しき)天才」 と称されるこ
とが多いが、まさに 「映画を撮るために」 生まれてきた人だと思う。過剰に
エモーショナルかつ過剰にカラフルなその作風、その画風は観る側を選ぶだ
ろうし、毀誉褒貶相半ばするだろう。意図的に鳴り響く音楽も騒々しい。しかし
個人的には、全面的に支持したい。139分の長尺を感じさせない力作。

その背景が全く語られないことで、逆にカイラに強く心惹かれた。演じるスザ
ンヌ・クレマンは 『わたしはロランス』 が記憶に新しい。一見、何の問題もな
いように見える彼女と夫と幼い娘の三人家族に、どんな怪物が潜んでいるの
か。その怪物と共存する道を選ぶしかないカイラの人生にも、「希望」 があっ
て欲しいと願う。もちろん、ダイアンとスティーヴの人生にも。
もがき苦しむ彼ら、すれ違い、思い通りに行くはずもない人生。1:1、正方形
に切り取られたスクリーンを(泣きながら)見つめながら、私自身の過去、ある
出来事を思い出していた。

「お母さん、何歳まで生きる?」 9歳だった息子に、そう尋ねられた。
それは私の祖父母が相次いで亡くなった頃。息子も幼いなりに、「死」 という
ものを意識したのだろう。
「う~ん、80歳くらいかな?」
「そのとき、僕は何歳?」
「う~ん、まだ若いね・・・。じゃあお母さん100歳まで生きるわ!」
「うん、絶対やで」 「約束な」。
◆◆◆
光陰矢のごとし。今息子は15歳、思春期の嵐は凪ぎつつあり、とうに私の背丈
など超えてしまった。一人息子を案ずる母は疎ましい存在に他ならず、私の死を
畏れた幼い頃の彼とはまるで別人のように、寡黙にそこにいる。
それでも私は忘れない。「100歳まで生きて」 と、彼が願ってくれた日のことを。
ただ、それだけのことだ。親子なんて、ただそれだけ。
愛しかない。

Xavier Dolan
( 『Mommy/マミー』 監督・製作・脚本・衣装・編集:グザヴィエ・ドラン/2014・加/
主演:アンヌ・ドルヴァル、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン、スザンヌ・クレマン)
- 関連記事
-
- 女を船に乗せてはいけない~『海にかかる霧』 (2015/05/28)
- 愛しかない~『Mommy/マミー』 (2015/05/26)
- 騙し騙され~『フォーカス』 (2015/05/20)
スポンサーサイト
trackback
今回の試写会場は4月22日にプレオープンした109シネマズ二子玉川だ。試写会は公開日前夜試写会の名付けられて、映画上映前にモデルのなつぅみさん、ファッショニスタのマドモアゼル・ユリア、マッピー、ミーシャ・ジャネット、スタイリストの大田由香梨さんが登壇した。
最近は観客のSNSも大事な宣伝ツールと映画会社も認識したのか、観客の写真撮影もOKと言う事で、私が客席後方から7倍ズームを使い撮影し...
2015-05-26 11:54 :
新・辛口映画館
「Mommy」2014 カナダ
2015年、カナダのとある町(仮想の国でもある)。ある日、シングルマザーのダイアンは矯正施設から15歳の息子スティーヴを連れ出す。多動性障害であるスティーヴは情緒不安定なため、自分をコントロールできず怒りを覚えると暴れまくり、施設に放火していたのだ。まもなく二人のぎこちない生活が始まるが、母親は失業中の上、息子は問題を起こしてばかり。そんな折、二人は真向...
2015-05-26 13:45 :
ヨーロッパ映画を観よう!
公式サイト。カナダ映画。原題:Mommy。グザヴィエ・ドラン監督。アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン、パトリック・ユアール、アレクサン ...
2015-05-26 14:53 :
佐藤秀の徒然幻視録
4日のことですが、映画「Mammy/マミー」を鑑賞しました。
シングルマザーのダイアンは最近矯正施設から退所したADHDの情緒も不安定な15歳のスティーヴと二人で生活していた
やがて2人は隣の家に住み 今は休職中の引きこもりがちな女性 高校教師カイラと親しくな...
2015-05-26 18:16 :
笑う社会人の生活
映画『Mommy マミー』は、飛ぶ鳥を落とす勢いのグザヴィエ・ドラン監督作品。で
2015-05-26 22:04 :
大江戸時夫の東京温度
評価:★★★☆【3,5点】(09)
“愛と希望どちらを捨てるか”って、二者択一かよ!(笑)
2015-05-26 22:51 :
映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
社会の枠には嵌らない。映画の枠にも嵌らない。
ケベックの美しき天才:グザヴィエ・ドラン。若干26歳でこんな凄い映画を撮ってしまうなんて…。「こいつ、映画、変えそうだ」と称 ...
2015-05-26 23:26 :
こねたみっくす
グザヴィエ・ドランの最新作(第5作)。カンヌではゴダールと共に審査員特別賞を受賞した。
出演はアンヌ・ドルバル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリビエ・ピロンなど。今回はドラン本人の出演は1シーンのみ。息子役のアントワン=オリビエ・ピロンはどことなくマコーレー・カルキンみたいな風貌で、『ホーム・アローン』のパロディみたいなシーンもあって、ちょっとドランの茶目っ気も感じられる。
...
2015-05-26 23:27 :
映画批評的妄想覚え書き/日々是口実
よく、乳幼児を2人以上抱えた母親が「毎日が戦争」などと言うけれど、多動性の症状の重い息子を抱えた母親ダイアンこそは、彼が青年になってからも「毎日が戦争」なのであろう。グサヴィエ・ドラン監督作品。スティーヴ(アントワン=オリビエ・ピロン)は幼い頃から多動性症候群の病を抱えていたが、父親が亡くなってから、その症状は酷くなってきており、16歳の今、専門施設で暮らしていた。しかし、ある時施設に放火を...
2015-06-19 12:32 :
ここなつ映画レビュー
『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』などのカナダの俊英、グザヴィエ・ドラン監督が母と息子を題材に描く人間ドラマ。架空のカナダを舞台に、型破りなシングルマザーと問題児の息子、そして隣人の女性が織り成す人間模様を映し出す。『マイ・マザー』など...
2015-06-19 19:47 :
パピとママ映画のblog
(原題:Mommy)
----あらら。今頃、この映画?
世間では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で盛り上がっているというのに、
ニャんだか対極の映画…。
「まあ、
あれはすでに喋っちゃっているわけだし、
この作品は、以前からすごく気になっていて…。
というのも...
2015-07-11 15:03 :
ラムの大通り
ドラン作品2つ。同じ日にレンタル開始になったので、早速借りて来ました。両方面白かったです。4つ★
2015-12-29 13:33 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年カナダ映画 監督グザヴィエ・ドラン
ネタバレあり
2016-06-09 10:25 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
【概略】
とある世界のカナダでは、連邦選挙で新政権が成立。内閣が可決したS18法案は、ダイアン・デュプレの運命を大きく左右することに。
ドラマ
まだ僕は幼すぎて、ただすべてを欲しがっていた。
グザヴィエ・ドラン監督作品。本作は夫に先立たれたシングルマザーと、ADHD(注意欠如多動性障害:落ち着きがない、思い付きで行動する、衝動が抑えられず暴力的な行動に走る等の症状)を患...
2017-02-11 07:43 :
いやいやえん
コメントの投稿
真紅さん、この記事とってもいいなあ…!
こういうの好きです、書いた人の人生経験が反映するような記事。前も言いましたけど。
そしてそれは、そのまま映画の重みにも重なってくるから余計心を打ちますね…!
だって真紅さんにしか書けないもの、ってことだもの。
私の大好きな映画を拾って下さってありがとう!
なーんて、自意識過剰な発言でした(笑)
こういうの好きです、書いた人の人生経験が反映するような記事。前も言いましたけど。
そしてそれは、そのまま映画の重みにも重なってくるから余計心を打ちますね…!
だって真紅さんにしか書けないもの、ってことだもの。
私の大好きな映画を拾って下さってありがとう!
なーんて、自意識過剰な発言でした(笑)
とらねこさん、こんにちは。コメントありがとう。お褒めの言葉もありがとう!
私も前に書いたかもしれないんですが、公式サイトに書いてあるような感想を書いても仕方ないな、といつからか思うようになったんですよね。
私のブログに私の感想を上げるのだから、私が感じたように書かないと意味ないな、と思って。
誰が何と言おうと(笑)。
もちろん基本的な情報は覚書として残しますけれども。。
「これは『私の』大好きな映画だ!」そう思わせるところもドランくんの手腕ですね♪
私も前に書いたかもしれないんですが、公式サイトに書いてあるような感想を書いても仕方ないな、といつからか思うようになったんですよね。
私のブログに私の感想を上げるのだから、私が感じたように書かないと意味ないな、と思って。
誰が何と言おうと(笑)。
もちろん基本的な情報は覚書として残しますけれども。。
「これは『私の』大好きな映画だ!」そう思わせるところもドランくんの手腕ですね♪
親子の愛
お邪魔します~~
私も素敵な記事だわと思いました。
思い通りにはいかない子供との関係ですけど
親子は親子ですから、やっぱり絆は深いはずだと思いますよ。
で・・この映画、確かに、好みが分かれるかも。
私は心揺さぶられたけれど、気に障る人も
あろうかと思うのよね。
カイラ…気になる~~。仕事でいろいろあったのか、家庭でなのか。
ロランスとはまた違った雰囲気で、存在感ありましたよね。新作も楽しみ♪
私も素敵な記事だわと思いました。
思い通りにはいかない子供との関係ですけど
親子は親子ですから、やっぱり絆は深いはずだと思いますよ。
で・・この映画、確かに、好みが分かれるかも。
私は心揺さぶられたけれど、気に障る人も
あろうかと思うのよね。
カイラ…気になる~~。仕事でいろいろあったのか、家庭でなのか。
ロランスとはまた違った雰囲気で、存在感ありましたよね。新作も楽しみ♪
2015-05-29 16:23 :
みみこ URL :
編集
みみこさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
そうですよね、やはり親子の絆は固いと私も信じたいです。
できるなら、もう一回過去に戻って子育てやり直したいな。。
カイラ役の女優さん、ホント引きつけられましたね。
あの、言い淀む、うまく言葉が出てこない感じが本当に上手かったです。
ロランスより、彼女に合っていた気がしました。
グザヴィエ・ドラン、早く初期作品観てしまわないとどんどん新作が出ますね。
コンプリートしたいわ。。フフフ
そうですよね、やはり親子の絆は固いと私も信じたいです。
できるなら、もう一回過去に戻って子育てやり直したいな。。
カイラ役の女優さん、ホント引きつけられましたね。
あの、言い淀む、うまく言葉が出てこない感じが本当に上手かったです。
ロランスより、彼女に合っていた気がしました。
グザヴィエ・ドラン、早く初期作品観てしまわないとどんどん新作が出ますね。
コンプリートしたいわ。。フフフ
真紅さん、こんにちは!
そうっか、インデックス、最近のは書かれてなかったんだね^^
了解!私も、溜まっちゃってる・・・。
自動的に追加できたりするシステムあったら便利なのにねー(おいおい・・)
ところで、上でみなさんもすでにおっしゃってるけど、私もこの記事読んで、なんかジン・・としちゃったよ・・・。
ドラン君も、きっと、マザーの時と、本作では、数年しか経ってないとはいえ、お母さんへの想いとかも、少し変化したんだろうね。。
そうっか、インデックス、最近のは書かれてなかったんだね^^
了解!私も、溜まっちゃってる・・・。
自動的に追加できたりするシステムあったら便利なのにねー(おいおい・・)
ところで、上でみなさんもすでにおっしゃってるけど、私もこの記事読んで、なんかジン・・としちゃったよ・・・。
ドラン君も、きっと、マザーの時と、本作では、数年しか経ってないとはいえ、お母さんへの想いとかも、少し変化したんだろうね。。
2015-12-29 13:39 :
latifa URL :
編集
latifaさん、こんばんは~。コメント&TBありがとうございます。
インデックス、ほんとごめんね~。
でも、みなさんインデックスってどうされてるんだろう、、と思うよ。
私は未だにブログの仕組みとかよくわかってないから、タグで管理するとか「??」って感じ。
自動的に追加って、ありそうじゃない? ないんかなー。
まぁ検索したら出るから、いいか(笑)←テキトー
子を思う親の心より、親を思う子の心のほうが深いよね。強いし。
『マイ・マザー』はまだ観れてないんだよ。。
WOWOW、放映してくれー(叫)。
インデックス、ほんとごめんね~。
でも、みなさんインデックスってどうされてるんだろう、、と思うよ。
私は未だにブログの仕組みとかよくわかってないから、タグで管理するとか「??」って感じ。
自動的に追加って、ありそうじゃない? ないんかなー。
まぁ検索したら出るから、いいか(笑)←テキトー
子を思う親の心より、親を思う子の心のほうが深いよね。強いし。
『マイ・マザー』はまだ観れてないんだよ。。
WOWOW、放映してくれー(叫)。