一心同体~『悪童日記』

A nagy fuzet
LE GRAND CAHIER
1944年8月、ヨーロッパのある国。戦争の足音が次第に高まり、街で暮らし
ていた双子の少年(アンドラーシュ&ラースロー・ジェーマント)は、母の実家
のある田舎町に疎開する。そこには、人々から 「魔女」 と呼ばれる祖母が
いた。彼女は初めて会った彼らを 「メス犬の子ども」 と罵り、厳しい労働を
課す。
亡命作家アゴタ・クリストフによる世界的ベストセラーにして、世紀の大傑作
『悪童日記』 の映画化。私が原作に接したのは、ほんの数年前。最後の一行
を読んだときの息を呑む衝撃は、今でも忘れられない。私の中で、これはどう
しても観なければならない映画だった。上映館が少ないことに、観る前は不満
を抱いていたが、今はその理由がわかる。むしろ、ひっそりと公開される映画
があってもいい、とさえ思う。
スクリーンに映し出される、おそらくは献辞であろう Agota Kristof の
文字を見つめる。彼女が存命であれば、この映画をどう観たのだろう?

映画化が困難を極めたことは想像に難くない。あまりにも有名な原作と、その
独特な世界観。しかし、監督がハンガリー中から探し出したという主役の双子の
キャスティングが成功していることが、この映画の成功の半分以上を占めている
と言っても過言ではない(個人的には、彼らは少し大き過ぎる、と感じたけれど)。
原作を読了した時よりも、この映画を観終わった後のほうが、この作品の意図
していたものがしっかりと感じ取れた気がした。戦争という 「絶対悪」 がもたら
す、荒廃と残酷。「痛み」 によって強くなれたと感じたとき、彼らは罰を与えるこ
とを覚える。共に生まれ、共に眠り、共に痛み、片時も離れず一心同体であった
彼らが 「別れ」 を選択したことは、自らへ課した 「罰」 なのかもしれない。
これ以上はないと思えるほど高いハードルを越えてきた監督の、勇気と手腕
を讃えたい。不穏で陰惨な物語ではあるけれど、そこには 「生きる」 というこ
との真実が描かれている。ヨーロッパの旧い絵画のような映像も、美しかった。

( 『悪童日記』 監督・共同脚本:ヤーノシュ・サース/
主演:アンドラーシュ&ラースロー・ジェーマント/
2013・ハンガリー、独、オーストリア、仏)
- 関連記事
-
- 疑似家族~『レッド・ファミリー』 (2014/11/07)
- 一心同体~『悪童日記』 (2014/11/06)
- 発展途上人~『フランシス・ハ』 (2014/11/01)
スポンサーサイト
trackback
映画『悪童日記』は、第二次世界大戦下を舞台にしたハンガリー作品。とにかく映画とし
2014-11-06 21:35 :
大江戸時夫の東京温度
原題 Le Grand Cahier
製作国 ドイツ/ハンガリー
上映時間 111分 映倫 PG12
原作 アゴタ・クリストフ 『悪童日記』(早川書房刊)
監督 ヤーノシュ・サース
出演 アンドラーシュ・ジェーマント/ラースロー・ジェーマント/ピロシュカ・モルナール/ウルリク・トムセン/...
2014-11-06 21:56 :
to Heart
戦争と、周囲の大人たちによって、彼らは作られた。
兄弟はいつも一緒、同じ行動。気持ちも一つの一心同体、手段は選ばない。生き延びるためなら。
ハンガリー出身の亡命作家アゴタ・クリストフの処女小説にして世界的ベストセラーを実写映画化。
アカデミー...
2014-11-06 23:49 :
我想一個人映画美的女人blog
原題 LE GRAND CAHIER2013年 ドイツ・ハンガリー合作原作 アゴタ・クリストフ「悪童日記」
第二次大戦中のハンガリー軍人の父(ウルリッヒ・マテス)は戦地に赴き、双子で9歳になる「僕ら」(ラースロー・ジェーマント、アンドラーシュ・ジェーマント)の暮らす街...
2014-11-07 10:13 :
読書と映画とガーデニング
生きるために、彼らがした事。
戦時下のとある国。
都会で育った双子の兄弟は、迫りくる戦火から逃れるため、“魔女”と呼ばれる粗野な祖母の家に疎開する。
片田舎の農家では働かなければ食事も与えられず、祖母からも村人からも意味もなく殴られる過酷な日々。
村は外国の軍隊の占領下にあり、ここでは生と死はごく薄い壁によって隣り合わせの関係にあることを兄弟は知ってゆく。
やがて彼らは、厳しい...
2014-11-08 16:36 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
アゴタ・クリストフの20世紀文学の傑作を映画化。僕は原作を読んでいないので比較はできないのですが、映画も極限状態における人間をうまく描いた作品に仕上がっていると思います。ただ、劇場で堂々とスマホでネットをずっと見ているバカがいてあきれました。ちかくだっ…
2014-11-14 17:54 :
映画好きパパの鑑賞日記
14-82.悪童日記■原題:Le Grand Cahier(英題:The Notebook)■製作年、国:2013年、ドイツ・ハンガリー■上映時間:111分■料金:1,800円■鑑賞日:10月18日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)
□監督・脚本・製作総指揮:ヤーノシュ・サース□脚本:アンドラーシュ...
2015-01-04 15:48 :
kintyre's Diary 新館
ハンガリー出身のアゴタ・クリストフの小説を映画化し、第2次世界大戦下の過酷な時代を生き抜いた双子の日記を通して世界を見つめた衝撃作。両親と離れて見知らぬ村に預けられた少年たちが、日々激化する戦いの中で自分たちのルールに従い厳しい状況に追い込んでいく姿を...
2015-01-21 19:03 :
パピとママ映画のblog
悪童日記
'13:ハンガリー
◆原題:LE GRAND CAHIER
◆監督:ヤーノシュ・サース
◆出演:アンドラーシュ・ジェーマント、ラースロー・ジェーマント、ピロシュカ・モルナール、ウルリッヒ・トムセン、ウルリッヒ・マテス、ギョングベール・ボグナル、オルソルヤ・トス...
2015-01-23 19:48 :
C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜
2013年/ハンガリー・ドイツ・オーストリア・フランス/111分
監督:ヤーノシュ・サース
出演:アンドラーシュ・ジェーマント
ラースロー・ジェーマント
ピロシュカ・モルナール
■概要
原題は『A nagy füzet』。英題は『The Notebook』。ハンガリー・ドイツ・オーストリア・フランス合作による2013年の戦争ドラマです。アゴタ・クリストフという...
2015-03-20 22:19 :
偏愛映画自由帳
宅配DVDで、やっと見ることができました。
2015-07-16 19:51 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年ハンガリー=独=オーストリア=フランス合作映画 監督ヤーノシュ・サース
ネタバレあり
2015-10-05 10:17 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
【概略】
第2次世界大戦下のハンガリー。双子の兄弟は両親と離れ、祖母が住む田舎へ疎開させられる。過酷な日々を送るうち、大人の非情な世界を知ったふたりは自らの信念に基づき生き抜こうと決意し、成長していく。
ドラマ
主演の双子の美少年は、素人だっていうんだから驚きだ。
映画は双子の目線で起こったことをそのまま日記のように淡々と流していき心理描写は一切描かれていない。
疎開...
2017-01-23 15:01 :
いやいやえん
コメントの投稿
TB、有難うございます☆
>最後の一行を読んだときの息を呑む衝撃
そうなんですか!?
コレ、殆どネタバレの感想を読んだ記憶があるのですが、原作、読んでみたくなりました。
原作を読んでいらっしゃるからこその、少年たちのイメージもあるでしょうね。
少年たちの善悪の基準。仰るように、ギリの年齢設定であるかも知れないとは私も感じました。
そうなんですか!?
コレ、殆どネタバレの感想を読んだ記憶があるのですが、原作、読んでみたくなりました。
原作を読んでいらっしゃるからこその、少年たちのイメージもあるでしょうね。
少年たちの善悪の基準。仰るように、ギリの年齢設定であるかも知れないとは私も感じました。
kiraさん、おはようございます~。コメント&TBありがとうございます。
この映画、結末は原作と同じなので、先に映画を観た方は原作を読んでも衝撃はさほどないと思います。
そして原作は三部作なのですが、読み進むにつれて謎が謎を呼び、「???」となってきます。
私は三部作読んだのですが、自分の中でうまく咀嚼できず、三作目の感想は書けませんでした。
しかし大傑作であることは間違いないと思うので、是非一読をオススメいたします♪
この映画、結末は原作と同じなので、先に映画を観た方は原作を読んでも衝撃はさほどないと思います。
そして原作は三部作なのですが、読み進むにつれて謎が謎を呼び、「???」となってきます。
私は三部作読んだのですが、自分の中でうまく咀嚼できず、三作目の感想は書けませんでした。
しかし大傑作であることは間違いないと思うので、是非一読をオススメいたします♪
☽こんばんわー
世界的なベストセラーとも知らず、あるところで映画解説に接し、見てないのに衝撃を受けました。
真紅さんは三部作も読み、映画も見られたんですね~
あの時代の東欧、動乱の中ではどんなことも起こり得るのでしょうね。
本は読むことはないだろうと思っていたのですが、映画はみてみようかなと思っています。
真紅さんは三部作も読み、映画も見られたんですね~
あの時代の東欧、動乱の中ではどんなことも起こり得るのでしょうね。
本は読むことはないだろうと思っていたのですが、映画はみてみようかなと思っています。
白いねこさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
レスが遅くなってしまい、ごめんなさいね。
原作を読んだとき、「映画化は可能だろうか?」と考えたので、この作品は絶対観たかったのです。
期待を裏切らない作品だと思います。
でも、原作も素晴らしいので是非読んでいただきたいと思いますよ^^
レスが遅くなってしまい、ごめんなさいね。
原作を読んだとき、「映画化は可能だろうか?」と考えたので、この作品は絶対観たかったのです。
期待を裏切らない作品だと思います。
でも、原作も素晴らしいので是非読んでいただきたいと思いますよ^^
真紅さん、ここのところ、連日押しかけてきちゃってます(^^ゞ
これ!真紅さんは、原作の3部作、読まれているのね。
そちらの小説の方の記事も読ませてもらったよ。
凄い作品みたいで、私も読みたくなってきちゃった。
で、そのかつての小説の記事に、懐かしい由香さんのお名前があったよ・・・。あと、HNのリュカさんの名前が、この双子ちゃんから来ていたとは。
私ね、おバカな発言で恥ずかしいんだけど、この悪童日記って、ポーの一族とか、あの一連の何か関連する作品なんだろうなーって、漠然と思い込んでいたのよ!
なんでまた、そんな風に思ったんだろうか・・・タイトルから来る勝手な印象だったんだろうね。
でも、偶然と言っちゃなんだが、真紅さんが、ポーの一族と、共通するものを感じるって書いていて、うわー!!って、なんだか嬉しくなっちゃって。(私が勝手に)
原作は、かなりエグかったり、グロかったりするみたいね。
でも、2,3作目は、あっというどんでん返しがあるみたいで(我慢できず、ネットサーフィンして、ざっとネタバレ見ちゃった・・)
これ!真紅さんは、原作の3部作、読まれているのね。
そちらの小説の方の記事も読ませてもらったよ。
凄い作品みたいで、私も読みたくなってきちゃった。
で、そのかつての小説の記事に、懐かしい由香さんのお名前があったよ・・・。あと、HNのリュカさんの名前が、この双子ちゃんから来ていたとは。
私ね、おバカな発言で恥ずかしいんだけど、この悪童日記って、ポーの一族とか、あの一連の何か関連する作品なんだろうなーって、漠然と思い込んでいたのよ!
なんでまた、そんな風に思ったんだろうか・・・タイトルから来る勝手な印象だったんだろうね。
でも、偶然と言っちゃなんだが、真紅さんが、ポーの一族と、共通するものを感じるって書いていて、うわー!!って、なんだか嬉しくなっちゃって。(私が勝手に)
原作は、かなりエグかったり、グロかったりするみたいね。
でも、2,3作目は、あっというどんでん返しがあるみたいで(我慢できず、ネットサーフィンして、ざっとネタバレ見ちゃった・・)
2015-07-16 19:50 :
latifa URL :
編集
latifaさん、こんばんは~。コメント&TBありがとうございます。
お返事がまたまた遅くなってしまってごめんね。
今日、明日は休みなんだけど、来週は土日も仕事なんだ(T_T)
11連勤なんて、身体が持つか心配よ。暑い時期だし、もうバテバテ。
精神的には大丈夫なんだけどね・・・。
で、この作品だけど私はとにかく原作にものすごい衝撃を受けました。
だから、映画はどうしても観なければ、、、ってほとんど使命感よ。
でも、期待を裏切らない作品でよかった。。
そうそう、由香さんとかリュカさんとか、懐かしいよね~。
ブログ辞められた方も多いけど、昔のコメントとか読むとホント懐かしいわ。
みなさんブログは書かなくても、映画や本を読むことは続けられてるといいな~と思います。
『ポーの一族』、なんでだろうね?
あのヨーロッパの雰囲気と、少年たちの物語っていうのがキーかな。
ポーは本当に、漫画界の金字塔というか、、、私の中であれを超える漫画はないかもしれない。
この『悪童日記』も、小説としては凄いと思うよ。
逆にlatifaさんが読まれてないって意外だったわ。
お返事がまたまた遅くなってしまってごめんね。
今日、明日は休みなんだけど、来週は土日も仕事なんだ(T_T)
11連勤なんて、身体が持つか心配よ。暑い時期だし、もうバテバテ。
精神的には大丈夫なんだけどね・・・。
で、この作品だけど私はとにかく原作にものすごい衝撃を受けました。
だから、映画はどうしても観なければ、、、ってほとんど使命感よ。
でも、期待を裏切らない作品でよかった。。
そうそう、由香さんとかリュカさんとか、懐かしいよね~。
ブログ辞められた方も多いけど、昔のコメントとか読むとホント懐かしいわ。
みなさんブログは書かなくても、映画や本を読むことは続けられてるといいな~と思います。
『ポーの一族』、なんでだろうね?
あのヨーロッパの雰囲気と、少年たちの物語っていうのがキーかな。
ポーは本当に、漫画界の金字塔というか、、、私の中であれを超える漫画はないかもしれない。
この『悪童日記』も、小説としては凄いと思うよ。
逆にlatifaさんが読まれてないって意外だったわ。