聖少女~『イーダ』

ポーランドの寒村。修道院で育った孤児のアンナ(アガタ・チュシェブホフス
カ)は、修道女となる誓願式の直前、シスターから叔母の存在を知らされる。
たった一人の身内であるその叔母、ヴァンダ(アガタ・クレシャ)は、初対面の
アンナに対し顔色ひとつ変えず、こう告げる。
「あなたの名前はイーダ・レベンシュタイン。ユダヤ人よ」
全編モノクロ、スタンダードサイズのスクリーンで描かれる、あるユダヤ人
少女の魂の軌跡。全てのカットがそのまま絵画のような映像美。研ぎ澄まさ
れた数少ないセリフに、80分というランタイムながら、これほどに静謐かつ
雄弁な映画を知らない。アート映画という枠に嵌めこんでしまうには余りに
惜しい、本年必見の佳作。どうしても劇場で観たかった。

世俗を知らない、清貧で敬虔で美しい少女イーダ。酒とタバコが手放せず、
「アバズレ」 と自称するヴァンダ。姉に生き写しのイーダを見た瞬間、ヴァン
ダの時計は逆回転を始める。血の繋がりだけが接点の叔母と姪は、大切な
家族の 「最期」 を知るための、短い旅を始める。「神など存在しない」 こ
とを証明するために。
しかしどれほど否定しようと、遠ざかろうと悪態をつこうと、彼らは 「神」
の御手から逃れることはできない。一人生き残ったヴァンダは、その罪悪感
と孤独ゆえに、結局は自ら神の懐に飛び込む。彼女は救われたのか? そ
れは誰にもわからない。

ホロコーストを巡るポーランドの内情に向き合いつつ、映画は一人の少女
の岐路にフォーカスする。 「海を見に行こう」 「それからどうするの?」
「犬を飼って、結婚して子どもを作ろう」 「それからどうするの?」 イーダは
わかっていたのだ、人々が 「幸せ」 と呼ぶ平穏な日々の中に、自らの居場
所はないことを。それでも彼女は迷う。ベールをつけながら、何度も何度も振
り返る。望めばひととき、得られるであろう 「幸せ」 を。
ラストシーン。固定されていたカメラは、歩きだすイーダを正面から捉え続
ける( 『キムチを売る女』 が思い出される)。自由を知った彼女は、それで
も神の下で生きる道を選択するのか。すれ違う車のヘッドライトが、イーダの
迷いを瞬間、照らしては去る。

IDA
( 『イーダ』 監督・共同脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ/
主演:アガタ・チュシェブホフスカ、アガタ・クレシャ/2013・ポーランド、デンマーク)
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監督・脚本: パベウ・パブリコフスキ
出演: アガタ・クレシャ 、アガタ・チュシェブホフスカ
鑑賞劇場: シアターイメージフォーラム
公式サイトはこちら。
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素晴らしかったですねえこれ。
文句のつけようがないです。
終わり方も、そこでいい! ってところでちゃんと終わってましたし。
映画ってこのくらいシンプルで十分なような気がするんですよね。
文句のつけようがないです。
終わり方も、そこでいい! ってところでちゃんと終わってましたし。
映画ってこのくらいシンプルで十分なような気がするんですよね。
rose_chocolatさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
本当に、観てよかった、観に行ってよかったと思える作品でした。
まだ余韻が残っています。
シンプルでも、傑作足り得るんですよね。十分。
これオスカーの外国語映画賞最有力って声もあるようです^^
本当に、観てよかった、観に行ってよかったと思える作品でした。
まだ余韻が残っています。
シンプルでも、傑作足り得るんですよね。十分。
これオスカーの外国語映画賞最有力って声もあるようです^^
No title
真紅さーん、you-tubeで、若干変な翻訳ではあったけど、これ、見れたの!!
すっごく良かったよ。
映像も雰囲気も最高♪
私の好みの映画だったー。
でも、COLD~さっき知ったんだけれど、なんと監督のご両親の、ほぼ実話だって言うのを知って、衝撃。
それを知ったら、★一つくらいアップしちゃったよ・・・
こちらのイーダは、監督の祖母の実話(どこを、どう使ったのかは謎なんだけど・・)らしいとか。
この監督さんの映像とか凄く素敵で気に入っちゃったので、他の映画もこれから見てみようと思います!
すっごく良かったよ。
映像も雰囲気も最高♪
私の好みの映画だったー。
でも、COLD~さっき知ったんだけれど、なんと監督のご両親の、ほぼ実話だって言うのを知って、衝撃。
それを知ったら、★一つくらいアップしちゃったよ・・・
こちらのイーダは、監督の祖母の実話(どこを、どう使ったのかは謎なんだけど・・)らしいとか。
この監督さんの映像とか凄く素敵で気に入っちゃったので、他の映画もこれから見てみようと思います!
2020-11-28 16:05 :
latifa URL :
編集
No title
latifaさん、こんばんは。こちらにもありがとう。
おお~、ご覧になったのね?
>若干変な翻訳
セリフが少ないから無問題よね。
この映画、本当に素晴らしいよね。。アカデミー賞授賞式のときの監督のスピーチにノックアウトされたわ。
『cold war』そうそう、監督のご両親のことが基になっているんだよね。
(当然、脚色はあるし全てその通りではないにしろ)
最後に、「両親へ」ってキャプションが出るでしょう? もう、涙、涙よ。
>こちらのイーダは、監督の祖母の実話(どこを、どう使ったのかは謎なんだけど・・)らしいとか。
え、そうなん?? 知らなかった。。
監督の映画、私も次回作楽しみにしてます!
おお~、ご覧になったのね?
>若干変な翻訳
セリフが少ないから無問題よね。
この映画、本当に素晴らしいよね。。アカデミー賞授賞式のときの監督のスピーチにノックアウトされたわ。
『cold war』そうそう、監督のご両親のことが基になっているんだよね。
(当然、脚色はあるし全てその通りではないにしろ)
最後に、「両親へ」ってキャプションが出るでしょう? もう、涙、涙よ。
>こちらのイーダは、監督の祖母の実話(どこを、どう使ったのかは謎なんだけど・・)らしいとか。
え、そうなん?? 知らなかった。。
監督の映画、私も次回作楽しみにしてます!