最後の一日~『フルートベール駅で』

FRUITVALE STATION
サンフランシスコに住むアフリカ系青年オスカー・グラント(マイケル・B・ジョー
ダン)は、前科はあるが気のいい好青年。遅刻癖のために解雇されたり、浮気
症がもとで恋人と諍いがあったりと、人生に多少の問題はあるものの、彼は娘
を持つよき父であった。2008年の大晦日、そんな彼が凶弾に倒れる。
アメリカで実際に起こり、社会問題となったという警官による一般人射殺事件
を基に、主人公の生前最後の一日を描く。静かで、淡々とした語り口の映画で
ある。ごくありふれた一日を、過剰に盛り上げることもなく描いた映画である。
それでも、いやだからこそ、どうしてもこの物語を世に出したいという作り手の熱
い思いと、静かなる怒りが伝わってくる。

人が死ぬ、ということ。それは、死んだ者だけがこの世から消え去ることでは
ない。オスカーには恋人、娘、妹、母、祖母、伯父、仲間たちがいた。人懐っこく、
若者らしく女の子に目がなかった彼は、見知らぬ相手にも臆せず話しかけ、好
印象を残している。死、とは、そんなオスカーに関わる全ての人の未来から、彼
と過ごすはずだった時間を奪うことをも意味する。永遠に。
冒頭、フルートベール駅で起こった実際の映像が流れる。他の部分は創作で
も、事件の部分は事実に即しているのだろう。暴力が恐怖を生み、我を忘れさ
せ、恐慌がまた更なる暴力を生み、死に至らしめる。過剰な肩入れも感情移入
もなく、ただ淡々と、監督は出来事を積み上げてゆく。無駄と感じられるセリフ
もシーンもなく、理不尽な結末を、観終わった後もじわじわ胸に響かせる演出は
見事。
人は二度死ぬと言う。一度目は命が終わったとき、そして二度目は、その人
が生きていたということを忘れられたとき。オスカーは22歳で命を終えたが、
人々が彼を忘れることはないだろう。永遠の命、というのも、ある意味残酷な
ものなのかもしれない。

オスカーを演じたマイケル・B・ジョーダン。彼って 「デンゼル・ワシントンの再来」
かも?
( 『フルートベール駅で』 監督・脚本:ライアン・クーグラー/2013・USA/
主演:マイケル・B・ジョーダン、メロニー・ディアス、オクタヴィア・スペンサー)
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公式サイト。原題:Fruitvale Station。フォレスト・ウィテカーら製作、ライアン・クーグラー監督。マイケル・B・ジョーダン、メロニー・ディアス、オクタヴィア・スペンサー、アナ・オラ ...
2014-04-30 15:36 :
佐藤秀の徒然幻視録
フルートベール駅で(2013 アメリカ)
原題 FRUITVALE STATION
監督 ライアン・クーグラー
脚本 ライアン・クーグラー
撮影 レイチェル・モリソン
編集 クローディア・S・カステロ マイケル・P・ショーヴァー
音楽 ルートヴィッヒ・ヨーランソン
出演 マイケル・B・ジョーダン メロニー・ディアス
オクタヴィア・ス...
2014-04-30 20:02 :
映画のメモ帳+α
「Fruitvale Station」2013 USA
オスカーに「陽だまりのグラウンド/2001」「クロニクル/2012」のマイケル・B・ジョーダン。
ソフィーナに「僕らのミライへ逆回転/2008」のメロニー・ディアス。
ワンダに「ヘルプ~心がつなぐストーリー~/2011」「フライペーパー! 史上最低の銀行強盗/2011」のオクタヴィア・スペンサー。
カルーソ警官に「ロビン・フ...
2014-04-30 21:58 :
ヨーロッパ映画を観よう!
信じ難い悲劇。これが現代アメリカの恐ろしさ。
2009年1月1日に無抵抗のまま警察に射殺された22歳の黒人青年オスカー・グラントの最後の一日を描き、第29回サンダンス映画祭で作品 ...
2014-04-30 22:36 :
こねたみっくす
映画『フルートベール駅で』はサンダンス映画祭作品賞&観客賞→カンヌ他でも受賞とい
2014-04-30 22:37 :
大江戸時夫の東京温度
明日は、もうやってこない。
2009年の1月1日未明、サンフランシスコ・ベイエリアのフルートベール駅で、丸腰の黒人青年オスカー・グラントが警官に射殺された事件をモチーフにした人間ドラマ。
特定人種への偏見が事件の一因である事は確かだが、単に人種差別を告発した作品ではない。
映画は、オスカー最後の一日を通して、彼が何者だったのかを私たちに知らしめる。
理不尽に奪われたのは、どこにで...
2014-04-30 22:43 :
ノラネコの呑んで観るシネマ
静かで熱い、深刻な問題提起を受けとめるべし!
時に埋もれていた事件に光を当て、大きなムーヴメントを起こす映画の社会的ポテンシャルをまざまざと思い知らされる良作であった。
22歳の黒人青年が白人警官に銃で撃たれて死亡し、全米で大きな波紋を起こした実在の...
2014-05-01 00:17 :
相木悟の映画評
原題 Fruitvale Station2013年 アメリカ
2009年ニューイヤーズ・デイ新年を迎え歓喜に沸く人々でごった返すベイエリア高速鉄道のフルートベール駅で、22歳の黒人青年が白人の鉄道警官に銃で撃たれ死亡した銃を持たない丸腰の青年がなぜこのような悲惨な死を迎え...
2014-05-01 08:25 :
読書と映画とガーデニング
2013年のサンダンス映画祭で、作品賞と観客賞Wで受賞
(正直、サンダンスもカンヌで選ばれるものもあまり好みじゃないこと多いけど)
2009年1月1日にアメリカ・サンフランシスコで実際に起こった射殺事件を題材に
主人公オスカーの最後の一日を追った作品 。
...
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我想一個人映画美的女人blog
2009年1月1日未明、サンフランシスコ郊外のフルートベール駅で、無抵抗の黒人青年オスカー・グラントさんが、白人警察官に射殺される事件がありました。その事件を、同世代(27歳)の黒人監督が見事に映画化。ただ声高に叫ぶのではなく、淡々と描いているのが、かえっ…
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映画好きパパの鑑賞日記
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ダイターンクラッシュ!!
10日のことですが、映画「フルートベール駅で」を鑑賞しました。
試写会にて
2009年1月1日、サンフランシスコのフルートベール駅で22歳の黒人青年オスカー・グラントが
警察官に銃で撃たれて死亡した事件を基にしたストーリー
もはや悲劇となるストーリー、ラスト
しか...
2014-06-16 00:30 :
笑う社会人の生活
フルートベール駅で ~ FRUITVALE STATION ~ 監督: ライアン・クーグラー キャスト: マイケル・B・ジョーダン、メロニー・ディアス、オクタヴィア・スペンサー、ケヴィン・デュランド、チャド・マイケル・マーレイ、アーナ・オライリー、アリアナ・ニ…
2014-10-09 04:46 :
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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督ライアン・クーグラー
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