ミリオンダラー・ダディ~『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

Nebraska
モンタナでAV機器販売店を営む、冴えない中年男デイヴィッド(ウィル・フォ
ーテ)は、父ウディ(ブルース・ダーン)とネブラスカを目指してドライヴする。
ウディは100万ドルの懸賞に当選したと思い込み、歩いてでもネブラスカに行
くと言い張るのだ。根負けし、渋々ながら父に寄り添うデイヴィッドだったが・・・。
アレクサンダー・ペインの映画は大好き。大きな事件は起こらないし、スリル
もサスペンスも大恋愛もないけれど、人生における大切なことはちゃんと描か
れている。そしてそれらは大抵、悲哀に満ちているのに、そこはかとないおか
しみも感じさせる。そんな彼の映画の魅力は、彼自身が書く脚本に依るところ
が大きいのでは、と思ってきた。本作は、脚本のクレジットが監督でないことに
驚いたが、アレクサンダー・ペイン節は健在。カンヌ映画祭男優賞受賞、アカ
デミー賞6部門ノミネートも納得の秀作。今年のベスト作の1本。

とにかく、地味な映画である。今回は、ジャック・ニコルソンもジョージ・クル
ーニーもいない。出てくるのは中年か、老人ばかり。しかも舞台は中西部モン
タナ、ワイオミング、サウスダコタを経て、アメリカの田舎の代名詞・ネブラス
カ。そして極めつけは、なんと全編モノクロ映画なのである。どんだけ・・・(笑)。
心優しいデイヴィッドを見つめながら、身につまされるような、我が身を振り
返って考えさせられもする映画だった。無口で呑んだくれの父、子どもには無
関心で、何を考えているのかわからない父。内心うんざりしながらも、デイヴィ
ッドは父と二人きりで過ごすうち、父のことを何も知らない自分に気付く。
子どもは 「親」 である両親しか知らないけれど、親にも 「それまでの」、親
になる前の人生があるのだ。どんな恋愛をして、結婚に至ったのか。どうして
逃げるように酒ばかり飲むのか。何故100万ドルにこだわるのか。「新車が欲
しい。お前たちに残したい」 とウディは言う。お父さん、本当は、故郷=ネブラ
スカに帰りたかったんじゃないの? と私は思う。ラスト、ウディがもしや死んで
しまうのでは、、とちょっとドキドキしてしまったけれど、そこはアレクサンダー・
ペイン。やってくれました!

何もないけれど、全てが在るような、広大なアメリカの風景。まだ健在だけれ
ど、年々老いてゆく実家の両親のことを思いながら、私自身も、いつか子ども
に支えられて旅をすることになるのかな、などと考える。親子って、互いを気遣
っていても、なかなかそれを口に出して言う機会はないもの。旅が、そのきっか
けを与えてくれるんだな。珠玉のロードムービー、と言ってしまおう。
( 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 監督:アレクサンダー・ペイン/
主演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ/2013・USA)
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『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン監督による父と子のゆきて帰りし物語『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(Nebraska)』主演のブルース・ダーンは
2014-04-09 20:56 :
映画雑記・COLOR of CINEMA
ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅@松竹試写室
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あーうぃ だにぇっと
ミリオンダラー・ファザー
公式サイト。原題:Nebraska。アレクサンダー・ペイン監督、ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデン ...
2014-04-09 21:37 :
佐藤秀の徒然幻視録
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』を吉祥寺バウスシアターで見ました。
(1)これも、アカデミー賞の作品賞などにノミネートされたことから見に行ってきました。
本作は、老齢の父親が100万ドルの賞金に当たったと信じこんでいるために、その賞金の受け取りに、父...
2014-04-09 21:55 :
映画的・絵画的・音楽的
映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』は、モノクロ・ワイドの画面がいい味出して
2014-04-09 22:31 :
大江戸時夫の東京温度
『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン監督がメガホンをとり疎遠になっていた父子が旅を通して家族の絆を取り戻す様子を描いたロードムービーです。
...
2014-04-09 22:46 :
カノンな日々
評価:★★★★【4点】(10)
モノクロ映像であるが故に美しく詩的な印象を受ける。
2014-04-09 23:18 :
映画1ヵ月フリーパスポートもらうぞ〜
原題 NEBRASKA2013年 アメリカ
100万ドルの賞金に当たったと信じ込む父親インチキだと知りながらもそっと寄り添う息子愛すべき旅の途上でいつしか心と心がつながれていく
警察からの連絡を受けて、疎遠にしていた父親のウディ(ブルース・ダーン)を迎えに行...
2014-04-10 08:11 :
読書と映画とガーデニング
じんわり沁み入る、親と子の愛しき旅ムービー!
ずっとこの世界観に浸っていたいと思わせる、珠玉の人情ロード・ムービーであった。
本作は、『アバウト・シュミット』(02)、『サイドウェイ』(04)、『ファミリー・ツリー』(11)と撮る度に百発百中でアカデ...
2014-04-10 11:19 :
相木悟の映画評
新しいトラックと空気圧縮機 公式サイト http://www.nebraska-movie.jp 監督: アレクサンダー・ペイン 「サイドウェイ」 「ファミリー・ツリー」 モンタナ州に暮らす老人ウデ
2014-04-10 12:16 :
風に吹かれて
ゴールデン・グローブ賞主要5部門ノミニー。
アカデミー賞主要6部門
(作品賞/監督賞/主演男優賞/助演女優賞/脚本賞/撮影賞)でノミネート中!!
監督は、「アバウト・シュミット」「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」などのアレクサンダー・ペイン。
...
2014-04-10 12:29 :
我想一個人映画美的女人blog
Nebraska(film review) アレクサンダー・ペイン監督の映画には
2014-04-10 13:49 :
Days of Books, Films
老いても鯛。それが父親というもの。
息子にとって父親は人生最初の英雄。ゆえにその英雄の名誉を守るのは男としての一生の使命。例えその英雄が老いて衰えようが、ボケて意固地 ...
2014-04-10 18:15 :
こねたみっくす
『ファミリー・ツリー』などのアレクサンダー・ペインがメガホンを取り、頑固な父と息子が旅を通して家族の絆を取り戻す様子を描くロードムービー。大金が当選したという通知を信じる父とそれを怪しむ息子が、モンタナからネブラスカまで車で旅する途中に立ち寄った父の故...
2014-04-10 20:21 :
パピとママ映画のblog
(原題:Nebraska)
----スゴイ雪だったニャ。
お空の上から見ると、一面真っ白。
「う〜ん。
なにせ、
東京じゃ16年ぶりという大雪だからね。
というわけで、今日はこの映画
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』」
----えっ、ネブラスカって雪が多いの?
「いや、よく...
2014-04-10 22:17 :
ラムの大通り
全編モノクロだしー、ゆるそうな映画だしー、こりゃ寝ちゃうかも?と思ったら大間違い。
ゆる~く笑える老おいた父と息子の心に沁みる作品は、今こそ是非とも観たい作品。
2014-04-11 23:55 :
ノルウェー暮らし・イン・原宿
アメリカ映画と言えば、定番ジャンルに「ロードムービー」がある。
なんたって広大な国だけに、東西を行き来するだけでいろいろドラマが発生するのだ(笑)
これを親子で、というのが今作の特徴。
インチキ宝くじに当たったと信じ込んでしまった父親(ブルース・ダ...
2014-04-12 23:48 :
日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
2013年・アメリカ 配給:ロングライド 原題:Nebraska 監督:アレクサンダー・ペイン脚本:ボブ・ネルソン撮影:フェドン・パパマイケル 頑固者の父親と、そんな父とは距離を置いて生きてきた息子が
2014-04-14 01:13 :
お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法
【NEBRASKA】 2014/02/28公開 アメリカ 分監督:アレクサンダー・ペイン出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク
回り道がもたらした人生最高の当たりくじ
[Story]100万ドルが当たったという通知を受け...
2014-04-14 12:41 :
★yukarinの映画鑑賞ぷらす日記★
100万ドルの賞金が当たったという、どう考えてもインチキな手紙を信じ込んだウディ・グラント(ブルース・ダーン)は、モンタナ州からネブラスカ州まで、徒歩で賞金を受け取りに行こうとする。
何を言っても耳を貸さない父に根負けした息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、無駄骨承知でネブラスカまで連れて行くことにした。
途中、立ち寄ったウディの故郷で、デイビッドは父の意外な過去を知ることに...
2014-04-21 00:18 :
心のままに映画の風景
14-30.ネブラスカ、ふたつの心をつなぐ旅■原題:Nebraska■製作年、国:2013年、アメリカ■上映時間:115分■料金:1,800円■観賞日:3月23日、TOHOシネマズシャンテ(日比谷)□監督:アレクサンダー・ペイン◆ブルース・ダーン◆ウィル・フォーテ◆ジューン・ス...
2014-04-21 16:52 :
kintyre's Diary 新館
「Nebraska」 2013 USA
ウディ・グラントに「華麗なるギャツビー/1974」「庭から昇ったロケット雲/2007」のブルース・ダーン。
デイビッド・グラントに「ロック・オブ・エイジス/2012」のウィル・フォーテ。
ケイト・グラントに「アバウト・シュミット/2002」のジューン・スキップ。
ロス・グラントにボブ・オデンカーク。
エド・ピグラムに「ブッシュ/2008」...
2014-04-23 22:04 :
ヨーロッパ映画を観よう!
4日のことですが、映画「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」を鑑賞しました。
どう見てもインチキな100万ドルが当たったという通知を受け取ったウディ、信じるウディに息子のデイビッドは付き添うことに
こうして始まった父と息子の4州をまたぐ車での旅が始まるのだが・...
2014-09-28 18:13 :
笑う社会人の生活
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督アレクサンダー・ペイン
ネタバレあり
2015-03-08 10:16 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
息子、優しいなあ・・・・。
2015-03-19 17:23 :
ポコアポコヤ 映画倉庫
【概略】
100万ドルの賞金に当たったと信じ込む父・ウディを見兼ねた息子のデイビッドは、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて旅に出る。
ドラマ
頑固者で少々痴呆気味の父親ウディと、彼の無茶旅に付き合う事になった息子との物語。
全編モノクロなのですが、これが味わいがあってよかった。
ただ、なんかなあ。息子デイビットの献身が、あまりにも優しすぎると言うか普通ここまで出来...
2015-04-11 08:16 :
いやいやえん
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過激なまでに地味な作品
真紅さん、
この作品は過激なまでに地味でしたね。出演する女優たちも驚くほど色気がなく(笑)。そうした演出の過激さもあり、『サイドウェイ』より本作の方がより上だと感じました。ラストが心にしみました。
この作品は過激なまでに地味でしたね。出演する女優たちも驚くほど色気がなく(笑)。そうした演出の過激さもあり、『サイドウェイ』より本作の方がより上だと感じました。ラストが心にしみました。
2014-04-16 23:14 :
Ken-U URL :
編集
Ken-Uさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
お久しぶりですね。変わらず映画ご覧になっているようでうれしいです。
過激、確かに。タイトルからして最強ですよね(笑)。
私この映画、3月1日(土)朝9時の回で観たんですが、ほぼ満席だったんです。
映画の日の朝のとっぱちから、わざわざこんな過激なまでに地味な映画を観にやってくる人がこんなにいるんだ、、と心強かったです。
同志~、みたいな。。
ラストもよかったですね^^
お久しぶりですね。変わらず映画ご覧になっているようでうれしいです。
過激、確かに。タイトルからして最強ですよね(笑)。
私この映画、3月1日(土)朝9時の回で観たんですが、ほぼ満席だったんです。
映画の日の朝のとっぱちから、わざわざこんな過激なまでに地味な映画を観にやってくる人がこんなにいるんだ、、と心強かったです。
同志~、みたいな。。
ラストもよかったですね^^
真紅さん、こんばんは。
アカデミー関連では、この作品が一番好きでした!
地味ではあるけれど、この作品に流れる微妙な空気感がすごく良かったです。
ゆるゆるに見えて、実は目線も鋭いんですよね。皮肉も効いてるし。
私も上の方同様、『サイドウェイ』よりこちらの方が好きでした!
アレクサンダー・ペインの中でもこれが一番好き。
アカデミー関連では、この作品が一番好きでした!
地味ではあるけれど、この作品に流れる微妙な空気感がすごく良かったです。
ゆるゆるに見えて、実は目線も鋭いんですよね。皮肉も効いてるし。
私も上の方同様、『サイドウェイ』よりこちらの方が好きでした!
アレクサンダー・ペインの中でもこれが一番好き。
とらねこさん、こんばんは~。コメントありがとうございます。
私も、この映画かなりお気に入りです。
う~ん、『サイドウェイ』も『ファミリー・ツリー』もこれもかなり好きなので、私は甲乙つけがたいかな。
あと、アカデミー賞の候補にこれが入っているっていうのはすごくうれしいですね~。
作品賞候補の中では、私はまだ『her』を観ていないのですよ。。カレン・Oにはすでにやられているのですが^^
この時期、いい新作映画たくさん観られてうれしいよね~。
私も、この映画かなりお気に入りです。
う~ん、『サイドウェイ』も『ファミリー・ツリー』もこれもかなり好きなので、私は甲乙つけがたいかな。
あと、アカデミー賞の候補にこれが入っているっていうのはすごくうれしいですね~。
作品賞候補の中では、私はまだ『her』を観ていないのですよ。。カレン・Oにはすでにやられているのですが^^
この時期、いい新作映画たくさん観られてうれしいよね~。
真紅さーん、なんだかちょっと久しぶりです^^
ここんところ、見る映画が、重なってなかったみたい。
これ、凄く評判良いよねー真紅さんも、とってもお気に入りみたいだから、それほどノレなかった私は、ちょっぴり淋しい気持ち。
まだこの映画を楽しめるほど、私は心が成熟してないというか、寛容さを身につけてないみたい・・・とほほ。
ここんところ、見る映画が、重なってなかったみたい。
これ、凄く評判良いよねー真紅さんも、とってもお気に入りみたいだから、それほどノレなかった私は、ちょっぴり淋しい気持ち。
まだこの映画を楽しめるほど、私は心が成熟してないというか、寛容さを身につけてないみたい・・・とほほ。
2015-03-19 17:24 :
latifa URL :
編集
latifaさん、こんばんは~。コメント&TBありがとうございます。
ほんと、お久しぶり^^
レスが遅くなってごめんなさいね、忙しくて夜PC開く時間がなくて・・・。
で、この映画だけど大好きだったよ。
でもね、おうち鑑賞だとどうだろう?
いい映画に画面の大きさなんて関係ないとも言えるけど、劇場鑑賞だからこその感慨、みたいなのもあるよね。
ふむふむ、イマイチだったんだね・・・。
後ほど伺いますね!
ほんと、お久しぶり^^
レスが遅くなってごめんなさいね、忙しくて夜PC開く時間がなくて・・・。
で、この映画だけど大好きだったよ。
でもね、おうち鑑賞だとどうだろう?
いい映画に画面の大きさなんて関係ないとも言えるけど、劇場鑑賞だからこその感慨、みたいなのもあるよね。
ふむふむ、イマイチだったんだね・・・。
後ほど伺いますね!