命に区切りをつけること~『母の身終い』
母の身終い







 Quelques heures de printemps



 トラックの運転手だったアラン(ヴァンサン・ランドン)は、出来心で犯してしま
った麻薬運搬の罪で、18ヶ月間服役する。出所したが失業した彼は、夫に先
立たれ独居している母(イレーヌ・ヴァンサン)の家に身を寄せる。

 公開前、監督のインタビューを新聞で読んだ。

 「観客が映画を見て涙を流すとすれば、それはスクリーンの中に観客自身の
  人生を映し出しているからです。監督が余計なことをする必要はない。
  どんな感情を抱くかは観客自身が決めることです」


 こんな風に考えて映画を撮る監督の作品は、是非観たいと思った。ヴァンサ
ン・ランドン
も大好きだし、私自身も、映画を観て、どんな感情、感想を持つのも、
観る者の自由だと思っている
から。
 共同で脚本も書いているステファヌ・ブリゼ監督には、小さな宝石のような作
品 愛されるために、ここにいる がある。

母の身終い2

 邦題が思い切りネタバレしているので、ストーリー展開の予想はついていた。
私自身、一人息子の(ダメな)母なので、大いに身につまされてしまう作品だっ
た。

 やっと迎えた穏やかなはずの晩年に、たとえ親子とはいえ一つ屋根の下、気
の合わない相手と暮らすキツさ
。想像に難くないだろう。新しいコーヒーメーカ
ーを 「アランのために」 買うやさしさはあるのに、向かい合うとつい小言ばか
り。中年になってもなお自立できない息子に対するいら立ちを、この母は隠すこ
とができない
のだ。

 どうしてやさしい母になれないのだろう? それは多分、彼女自身がやさし
くされたことがないから
「気難しい」 夫と、45年間も連れ添った 「大変な」 
日々
。心のやわらかい部分がカチカチに固まってしまって、もう自分では、ほ
ぐすこともできない
のだと思う。

 不治の病を得たとき、自らの命を絶つこと。それを 「尊厳死」 と呼ぶこと
に、私自身は少し、抵抗がある自分を失っても生き続けることは、確かに
恐怖以外の何物でもない。家族に迷惑をかけるのも耐え難い。しかし、この
母のように、自殺幇助が罪でない国で自らの最期を迎えることは、私にはで
きない。特に、彼女が毒薬を飲むのを見届けて 「さようなら、○○さん」 と
去ってゆく、施設の女性に対する違和感たるや・・・! この長回しのシーン、
息もできない


母の身終い3

 かと言って、この映画はシリアス一辺倒なわけではない。愛犬 「キャリー」
を巡る親子の意地の張り合いなど、ユーモラスと言ってもいい。キャリーのか
わいさが半端ではないため、殺鼠剤のシーンでは思わず声(と涙)が出てしま
った・・・。結局、この親子が最後に穏やかな日々を過ごせたのは、このお茶目
な愛
犬のおかげ、と言っても過言ではないだろう。

 冒頭に上げた監督の言葉通り、この映画はある親子のありようと別れ淡々
と見つめ、感情に深入りすることはない。だからこそ、余白を持って重く問いか
けてくる。命に限りのあることを、忘れないで生きていますか? と。

 ( 『母の身終い』 監督・共同脚本:ステファヌ・ブリゼ
           主演:ヴァンサン・ランドン、イレーヌ・ヴァンサン/2012・仏)
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テーマ:考えさせられた映画 - ジャンル:映画

【2014/01/28 20:16】 | 映画 | トラックバック(9) | コメント(2)
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コメント
親としての願いとは何だろう?とか、よく考えることがあります。
子には自立して一本立ちしてもらって、自分の人生を歩いて行ってほしい、そして子どもとよい関係を築くことかな。私の場合ですが。
でもそれって本当に難しいことです。なかなかその通りにしたくても上手くは行かない。どうしても親側は「こうあるべき」というものがあり、それが子どもとかみ合わないこともある。こればかりは自分だけで進むこともできない訳です。
子どもも齢を取るほどに頑固にもなっていきますし自分も身体が動かない。そういうジレンマがこの年齢まで続くのはさぞかししんどいと思います。

万策尽きたという感じでもあり、また自分の人生の選択を自分でしたいという、母の誇り高さを思いました。ですが切ない話です。私ならできないだろうな。
【2014/01/29 09:03】 URL | rose_chocolat #ZBcm6ONk[ 編集]
rose_chocolatさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
私も、親として望むのは子どもの自立ですね。
あと、幸せになってほしいかな。漠然としてますけど。。。
息子が48歳で、刑務所入って無職だったら、そりゃ嫌ですよね。
私も、そんなやさしい言葉かけられないだろうな、と思いますよ。

>どうしても親側は「こうあるべき」というものがあり、
そうなんですよね、親は自分が来た道だから、こうすればああなる、ってのがわかるんだけど、子どもにしたら余計なお世話、ですもんね。。
ホント、自分が生きてくだけでもやっとなのに、子育て荷が重いです。
特に、ウチは今いわゆる「難しい年頃」だからなー。。

と、自分の愚痴になってしまいましたが(笑)。
このお母さん、自分の人生を誰のせいにもせず、自分一人で背負って、去って逝かれたように思いました。
立派だと思う反面、私も自分にはできないと思います。
もっと混乱して、ジタバタしそう。
うーん、でも、死ぬときやっぱり息子には傍にいて欲しいかな。
この親子は「愛してる」って言ってましたけども、、、自分は「ごめんね」って言うだろうな、とか思いながら観ていました。
【2014/01/29 21:15】 URL | 真紅 #V5.g6cOI[ 編集]
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「母の身終い」
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原題: Quelques heures de printemps  監督: ステファヌ・ブリゼ 出演: ヴァンサン・ランドン 、エレーヌ・ヴァンサン 、エマニュエル・セニエ 映画『母の身終い』 公式サイトはこちら。(2013年秋 公開) フランス映画祭2013『母の身終い』 ページはこ... Nice One!! @goo【2014/01/29 08:57】
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'13.11.22 『母の身終い』(試写会)@ニッショーホール 東京Walkerで当選! 久々に試写会当たったーヽ(・∀・)ノ ありがとうございました! 重そうだと思いつつ、とっても見たかったのでうれしい。よろこんで行ってきたー♪ ネタバレありです! 「長距離トラックの運転手だったアランは、麻薬の密輸に手を出し逮捕され18ヶ月服役していた。母親の家に身を寄せつつ、仕事を探す日々。彼の焦... ・*・ etoile ・*・【2014/01/30 01:48】
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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