優しさの力~『傘の自由化は可能か』

大崎善生氏が、新聞や雑誌に書いてきたエッセイをまとめた一冊。大崎氏の小説
同様、短いエッセイの中にも氏のやさしさや思慮深さを感じ取ることができる。
美しい言葉で綴られる文章、淡々とした静かな筆致の中にも、高い志や強い信念が
感じられて清々しい。
大崎氏の小説からは村上春樹の影響を感じることがあったのだけれど、この本の
中ではっきりと「村上春樹は特別な小説家である」と書かれている。『風の歌を聴け』
は彼にとって「恒常的な光の存在」なのだそうだ。人生の節目に、折に触れて読み
返す本の存在が、どれほど人生を照らし勇気づけてくれるか。私にもそれはよくわ
かる。
寄せ集めのエッセイ集ゆえ、同じテーマについて書かれた文章も多いし、小説や
ノンフィクションで既に語られたエピソードも多い。しかしそれらは私のような愛
読者にとっては作品の背景を知る喜びでもあり、充分読み応えがある。
「優しさとは性格ではなく、人間の行為のことだと思っている」
「愛を少なめに、優しさを多めに」
大崎善生という文章家を語るキーワードはやはり「優しさ」なのだと再認識させて
くれた一冊だった。
(『傘の自由化は可能か』・大崎善生著・角川書店・2006)
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