昭和六十三年の夏~『共喰い』

17歳の誕生日を迎えた遠馬(菅田将暉)は、父・円(光石研)とその若い愛人・
琴子(篠原友希子)との三人暮らし。母・仁子(田中裕子)は、川向こうで一人、
魚屋を営んでいた。
作家・田中慎弥の、芥川賞を受賞した同名小説の映画化。初日に鑑賞。青山
真治監督らしい、良作だとは思う。でもちょっと、期待し過ぎたかな。
キャストは皆、素晴らしい。主演の菅田将暉は、ちょっと垢抜けない雰囲気が、
田舎の少年っぽくて。ぎこちないが一生懸命さが伝わってきて、よく頑張ったね、
と母目線。木下美咲(遠馬の幼馴染の千種)、篠原友希子ともに若い女優さん
がちゃんと脱いでいて、こちらも感心。そして圧巻は、やはり田中裕子と光石研
でしょう。
田中裕子は、今やこの日本で母親役を演じたら、正に向かうところ敵なし状態。
この物語の 「肝」 とも言える父親役の光石研は、青山組の常連、と言ってもい
いかな? ナレーションも務めていて、監督の信頼の厚さが伺える。私自身も、忘
れもしない 『ハッシュ!』 を観たときから、光石研は凄い、と思っている。
超一般人から、『ヒミズ』 や本作のような究極のはみ出し者まで、彼のように
何でもこなせ、かつ違和感がない役者は、そうはいないと思う。青山監督の作品
には珍しく、セリフが聞き取り易かったのも好印象。

満足できなかった理由は三点ほどある。一つは、夏ではあっても、もう少し曇
天を撮って欲しかった。夏の光が眩し過ぎて、泥の川の匂いや、雨の湿気が今
ひとつ伝わらなかった気がした。もう一つは、円の最期の姿。バンザイしながら
海に、っていうのは、ちょっと・・・。ゾンビみたいで納得いかない。そして一番の
違和感は、仁子さんの 「あの人」 発言。私の中では、仁子さんはああいうこと
を口に出す人ではない。
原作者も発言しているように、原作と映画は別物。しかし 「読み先」 での鑑
賞は、やはり難しい。改めてそう感じてしまった作品だった。

( 『共喰い』 監督:青山真治/2013・日本/主演:菅田将暉、田中裕子、光石研)
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第146回芥川賞を受賞し会見時のコメントがとってもお茶目な毒舌ぶりでした田中慎弥さんの同名小説を『サッド ヴァケイション』の青山真治監督が映画化した作品です。短い予告編の中 ...
2013-09-16 17:05 :
カノンな日々
公式サイト。田中慎弥原作、青山真治監督。菅田将暉、木下美咲、篠原友希子、光石研、田中裕子。1988年。昭和が終わろうとしている時代の下関。父の円(まどか)(光石研)にしても、母 ...
2013-09-16 17:05 :
佐藤秀の徒然幻視録
□作品オフィシャルサイト 「共喰い」□監督 青山真治 □脚本 荒井晴彦□原作 田中慎弥 □キャスト 菅田将暉、光石 研、田中裕子、木下美咲、篠原友希子■鑑賞日 9月8日(日...
2013-09-17 08:22 :
京の昼寝〜♪
----“共喰い”?
それって仲間同士で食い合うことだよね。
人間のお話じゃニャいの?
「(笑)まさかそれはないよ。
これは第146回芥川賞を受賞した田中慎弥の原作を青山真治監督が映画...
2013-09-17 23:11 :
ラムの大通り
いかにも「文学作品」の映画化ってかんじ。
すっきりしない感がいいんだな。
田舎の町ならではの自由も閉塞感や、
ジメジメした夏の湿気や、
「それ」しか考えられない男や
流された...
2013-09-18 07:45 :
きんちゃんの観劇記(ネタバレだよ)
舞台は昭和63年の夏、山口県下関市。17歳のまー君は、父親 円とその愛人 琴子さんとの3人暮らし。実の母親 仁子さんは、まー君を産んですぐに家を出て魚屋を営んでいます。彼女は左手首を戦争で失い、結婚も上手くいかなかったところ、年下の円と知り合い結婚するの...
2013-09-18 23:13 :
はるみのひとり言
『共喰い』を新宿ピカデリーで見ました。
(1)本作は、田中慎弥氏の芥川賞受賞作の映画化であり、それも『東京公園』などの青山真治監督が手がけた作品だというので、映画館に行ってみました。
舞台は、山口県下関市の川辺という地域。
映画の冒頭で、下関行きのバ...
2013-09-19 07:09 :
映画的・絵画的・音楽的
田中慎弥著の話題の同名小説を青山真治監督が映画化した人間ドラマです。 原作は未読ですけど、この物語をどのように映像化するのだろうと気になっていました。 宿命のような父子のつながりと、彼らを取り巻く女性たちの強さに圧倒されるような作品でした。
2013-09-28 11:46 :
とりあえず、コメントです
これ程までに、登場人物全員が、理性と知性がない設定の作品も珍しい。だが、そこがまた役者の良さを引き出しているとも言える。田中裕子と光石研は圧巻。
冒頭、定点撮影で川の水の様子を写しているが、川が段々と満ちていき満ちた状態でストップする所が、結局、当時はそれとは気づかなくとも、その冒頭の頃が日常生活の最高水位であったのを表しているかのようだ。
イマドキ(と敢えて言うが、25年前の時代な...
2013-09-30 13:03 :
ここなつ映画レビュー
小説家・田中慎弥による人間の暴力と性を描いた芥川賞受賞作を、『サッド ヴァケイション』『東京公園』などの青山真治が映画化した人間ドラマ。昭和の終わりの田舎町を舞台に、乱暴なセックスにふける父への嫌悪感と自分がその息子であることに恐怖する男子高校生の葛藤...
2013-11-15 12:21 :
パピとママ映画のblog
共喰い
'13:日本
◆監督:青山真治「EUREKA」「東京公園」
◆主演:菅田将暉、木下美咲、篠原友希子、光石研、田中裕子、宍倉暁子、岸部一徳、淵上泰史
◆STORY◆昭和63年。高校生の遠馬(菅田将暉)は、父(光石研)と父の愛人・琴子(篠原友希子)と暮らしている。実...
2014-01-16 22:15 :
C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜
☆芥川賞か直木賞か分からないけど、その受賞の際、やや奇矯な発言をしていた人が原作者なので、ちょっと斜に構えて見た。
山口県の港街を舞台にした、父と子と母と彼女と、その父の愛人の物語で、町の娼婦も出てくるでよ! てな感じの、性が絡む話。
性が中心に立つ...
2014-02-18 01:11 :
『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭
共喰い
父親の暴力性向は息子に引き継がれるのか
疑心暗鬼の息子の葛藤する姿を描く
【個人評価:★★★ (3.0P)】 (自宅鑑賞)
原作:田中慎弥 第146回芥川賞受賞作品
2014-10-05 11:41 :
cinema-days 映画な日々
☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・青山真治
ネタバレあり
2014-10-07 15:22 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
こんにちは。
確かに・・・期待しすぎたのはありました。
原作も読んだことなかったから、
あーーーこんな話だったんだって思いました。
>そして圧巻は、やはり田中裕子と光石研
でしょう。
本当にすごかった!!その中でも田中さんはすごいって思いました。
確かに・・・期待しすぎたのはありました。
原作も読んだことなかったから、
あーーーこんな話だったんだって思いました。
>そして圧巻は、やはり田中裕子と光石研
でしょう。
本当にすごかった!!その中でも田中さんはすごいって思いました。
Nakajiさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
これね、結構原作の印象が強烈で。。
やはり読んでから観る、というのはダメなパターンだと再認識しましたです。
私は光石研さんファンなのです。田中裕子さんは、、もう、、なんと言うか。。
役を超越して存在している感じですね。ホント凄い女優さんです。
あと、主人公がもう少し自分の好みのタイプだったら、大絶賛してるかもしれません(爆)。
これね、結構原作の印象が強烈で。。
やはり読んでから観る、というのはダメなパターンだと再認識しましたです。
私は光石研さんファンなのです。田中裕子さんは、、もう、、なんと言うか。。
役を超越して存在している感じですね。ホント凄い女優さんです。
あと、主人公がもう少し自分の好みのタイプだったら、大絶賛してるかもしれません(爆)。