憐憫~『夏の終り』

「好きな人ができました」 夫と幼い娘を捨て、女一人、東京で生きていた相澤
(満島ひかり)は、酒場で出逢った売れない作家・小杉慎吾(小林薫)と半同居生
活を続けていた。妻子と別れる気のない小杉と暮らす家に、かつての恋人・涼太
(綾野剛)が訪れる。
作家・瀬戸内寂聴が50年前に発表した、同名私小説の映画化。熊切和嘉監督
の映画は初だが、画面の隅々にまで自らの美意識を反映させた確かな 「画作り」、
陰影深いショットの数々に感心する。主演の三人はさすがの演技ではあったが、
決定的に残念な部分もある作品。

劇中、『カルメン故郷に帰る』 の広告が映し出されることから、時代設定は
1959年頃か。昭和30年代、「タバコを飲む」 とか 「憐憫よ」 とか、しゃべり
言葉としての日本語の変化を感じる。服装にしても、まだまだ男女ともに着物で
過ごすことが多かったのだろうか。
夫と子を捨て、若い男と出奔。よくある話である。ステディな関係の相手がい
るのに、つい、昔の男と関係が再燃してしまう。これもよくある話である。枯れ
た 「ダメ男」 を演じさせたら右に出る者はいない小林薫、素晴らしい演技で
ある。大ブレイク中の綾野剛も、文句なしの「切なさ」全開演技。若手演技派女
優ナンバーワン、満島ひかりも素晴らしいとは思う。あの顔の小ささ、身体の細
さ、とても自分と同じ人間とは思えない。
しかし、映像や役者の演技が素晴らしければ素晴らしいほど、どうしても満島
ひかりの 「若さ」 に、引っ掛るものを感じてしまう。ただでさえ、小顔過ぎて実
年齢よりも若く見える彼女は、綾野剛より年上には全く見えない。4、5歳の娘
がいた頃から8年以上が過ぎていると計算すると、どう考えても相澤は30過ぎ。
しかし、見た目は20代半ばの娘である。小林薫と義理親子の関係を演じるテレ
ビドラマ 『Woman』 が、絶賛放映中なのも痛い。良質な作品だけに、これは
非常に残念。

相澤の描く日本画に、女の情念や業が込められているようだった。藍の暖簾や
風呂敷といった小道具が素晴らしく上質で、目に焼き付く。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ところで、熊切和嘉監督の次回作は 『私の男』 だそうで・・・。ギョギョ
主演は、浅野忠信と二階堂ふみ(汗)。二階堂ふみって、末恐ろしい女優さんだ
と思いますよ。戦々恐々、楽しみに待ちましょう。
( 『夏の終り』 監督:熊切和嘉/主演:満島ひかり、綾野剛、小林薫/2012・日本)
- 関連記事
-
- 底なし沼~『ペーパーボーイ 真夏の引力』 (2013/09/12)
- 憐憫~『夏の終り』 (2013/09/09)
- 王家衛 Special~『楽園の瑕 終極版』 『ブエノスアイレス』 (2013/09/04)
スポンサーサイト
trackback
監督: 熊切和嘉
原作: 瀬戸内寂聴
脚本: 宇治田隆史
出演: 満島ひかり 、綾野剛 、小林薫
映画『夏の終り』 公式サイトはこちら。
昭和30年代の暮れ。染色家の相澤知子(満島
2013-09-09 07:52 :
Nice One!! @goo
□作品オフィシャルサイト 「夏の終り」 □監督 熊切和嘉□脚本 宇治田隆史□原作 瀬戸内寂聴□キャスト 満島ひかり、綾野 剛、小林 薫、赤沼夢羅、安部聡子■鑑賞日 8月12...
2013-09-09 08:25 :
京の昼寝〜♪
瀬戸内寂聴さんの自伝的小説を『海炭市叙景』の熊切和嘉監督が若手実力派の女優・満島ひかりさんを主演に映画化した作品です。原作は読んだことはありませんが、そのお話の基にな ...
2013-09-09 09:15 :
カノンな日々
映像の明暗で人生の季節感が漂う
公式サイト。原作は瀬戸内晴美(現・瀬戸内寂聴)の1963年の女流文学賞受賞作の同名小説。つまり50周年記念映画化ということになる。熊切和嘉監督。満 ...
2013-09-09 10:05 :
佐藤秀の徒然幻視録
----えっ、これって
この前観たばかりだよね。
フォーンも横でこっそり観ていたけど、
そんなに気に入っているようには見えなかったけど…?
「うん。
でもね、あの冒頭から
おおっ、
2013-09-09 16:26 :
ラムの大通り
『夏の終り』をヒューマントラストシネマ渋谷で見てきました。
(1)本作は、瀬戸内寂聴の原作(新潮文庫)を映画化したもので(注1)、満島ひかりが出演するというので関心を持ちま...
2013-09-10 06:59 :
映画的・絵画的・音楽的
これ・・・めちゃ色っぽよね(笑)
2013-09-10 07:49 :
極私的映画論+α
作家の瀬戸内寂聴が出家前の瀬戸内晴美時代に発表した小説で、自身の経験をもとに年上の男と年下の男との三角関係に苦悩する女性の姿を描いた「夏の終り」を、鬼才・熊切和嘉監督が映画化。妻子ある年上の作家・慎吾と長年一緒に暮らしている知子。慎吾は妻と知子との間を...
2013-09-20 21:26 :
パピとママ映画のblog
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・熊切和嘉
ネタバレあり
2015-09-08 10:04 :
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
コメントの投稿
知子は映画の中では38歳の設定なんですよね。
昔の38歳と今の38歳じゃ齢の取り方が全く違うような気がします。昔の方がみんな早く大人になったので、それこそ38歳なら「年増女」だと思うんだけど、その雰囲気は残念ながら難しかったかもしれませんね。
ただしこれ、原作の雰囲気を再現するという意味ではパーフェクトを目指しているんじゃないかと思います。ご興味ありましたら原作お読みになってみて下さい。
熊切監督の映像の雰囲気が好きなので、次回作でもこの路線は崩さないでほしいなと思いますね。
昔の38歳と今の38歳じゃ齢の取り方が全く違うような気がします。昔の方がみんな早く大人になったので、それこそ38歳なら「年増女」だと思うんだけど、その雰囲気は残念ながら難しかったかもしれませんね。
ただしこれ、原作の雰囲気を再現するという意味ではパーフェクトを目指しているんじゃないかと思います。ご興味ありましたら原作お読みになってみて下さい。
熊切監督の映像の雰囲気が好きなので、次回作でもこの路線は崩さないでほしいなと思いますね。
rose_chocolat さん、こんにちは。コメント&TBありがとうございます。
現代って、この映画で描かれた時代より10歳くらい精神年齢が若い感じですよね。
(外見も若くなってるし)
ちょっとキャスティングが難しいですよね。。
私は瀬戸内寂聴さんの御本は読んだことがないんです。
今、90歳を超えられても凄いパワフルで・・・。
常人には計り知れないエネルギーなんでしょうね。
『海炭市叙景』って観逃してしまった作品なんですけど、是非機会を作って観たいと思います。
もちろん、次回作にも期待しながら・・・。
現代って、この映画で描かれた時代より10歳くらい精神年齢が若い感じですよね。
(外見も若くなってるし)
ちょっとキャスティングが難しいですよね。。
私は瀬戸内寂聴さんの御本は読んだことがないんです。
今、90歳を超えられても凄いパワフルで・・・。
常人には計り知れないエネルギーなんでしょうね。
『海炭市叙景』って観逃してしまった作品なんですけど、是非機会を作って観たいと思います。
もちろん、次回作にも期待しながら・・・。