母の懐~『嘆きのピエタ』
嘆きのピエタ






 PIETA


 町工場経営者からの借金取り立てを生業とするイ・ガンド(イ・ジョンジン)は、
天涯孤独な青年。30年間独りで生きてきた彼のもとに、ある日突然 「母」 を
名乗る女(チョ・ミンス)
がやってくる。

 人は皆、女から生まれ、子を産んだ女は母となる。母のない子はいない。血
肉を分けた母と子が、求め合うのは当然のこと
。しかし我らがギドクが描くのは、
甘美で、感動的なだけの母子関係ではない。ギドク爆弾が炸裂する、ヴェネチ
ア国際映画祭金獅子賞受賞作
キム・ギドク完全復活! 私はうれしい(嬉泣)。

嘆きのピエタ2

 『悪い男』 に衝撃を受け、貪るように観続けたギドク作品。 まではほと
んど心酔し、熱狂状態だった。しかし 絶対の愛 で小さな疑問符が浮かび、
徐々にギドクの撮る作品に距離を感じるようになる。そして、3年のブランクを経
て発表された 『アリラン』 は観ていない。ギドクも苦しんでいたのだろう、その
苦しみに寄り添えなかった自分は 「ギドク好き」 ではあっても、ギドクマニア
とは言えないのかもしれない。

 ギドクの映画は、観る者に緊張を強いる。一筋縄ではいかない登場人物たち、
血と暴力、痛み、あっ、と思わず息を呑むエンディング少ないセリフ絵画的
な映像
の中に、隠された寓意。その映像体験は、スリリングと言っても過言で
はない。本作は、久々にその緊張感がラストまで持続した秀作、だと思う。

嘆きのピエタ3

 息子の肉片を喰う母受取人不明 で示された、この「究極」の愛情表現
再現されている。債務者たちから 「悪魔」 と罵られるガンド。彼の魂を迷わせ
たのは彼を捨てた母であり、「母」 を乞うことで彼は束の間 「人間」 になる。

 残忍な行為を繰り返すガンドを見つめながら、「可哀想」 だと思う私がいた。
私が被害者の母であるなら、彼を鬼畜と怨むだろう。しかし、そんな彼にも母が
いるのだ
と思い至ったとき、憐憫の情を禁じ得ない。母としてガンドを憎み、「母」
としてガンドを憐れむ女
。チョ・ミンス演じる母性の激情は、安易な感情移入や、
救済を拒んでいる
。そんな彼女と、深いところで繋がる自分を感じる。

 ( 『嘆きのピエタ』 監督・脚本:キム・ギドク/2012・韓国/
            主演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン、カン・ウンジン
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テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画

[2013/07/13 21:24] | 映画 | トラックバック(17) | コメント(6) |
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コメント
真紅さん、

ぼくもこの作品でキム・ギドクの完全復活を感じました。しかもこれまで以上に「痛み」が描かれた作品だったと思います。カネとは何か?金銭をめぐる復讐劇を描きながら、失われた母への愛情がクローズアップされてしまう。みていて辛い作品でもありました。
[2013/07/13 23:42] URL | Ken-U #- [ 編集 ]
Ken-Uさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
『アリラン』は観ていない私ですが、ギドク復活うれしいですね。
私はどうしても母親目線で観てしまうのですが、男性はほぼガンド目線ですよね。
「母」の本当の「息子」から手編みのセーターを奪って、隣に横たわる・・・。
母恋、母乞いの物語として、目に焼き付いた象徴的なシーンでした。
あ~、次回作も期待してしまいます。
[2013/07/15 13:55] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
ギドク作品・・・覚悟しながら観ました。
…久しぶり。
彼の作品は「悪い男」が一番好きなのですが
この作品もかなり好きになりました。
正視に耐えない場面もありますがそれでも美しい作品だと思いました。
ギドクさんは若いころは神学校に行ったこともあるそうで
だからやはりどんな内容でも私は「神の視点」を感じてしまいます。
あの一見背徳的な「悪い男」でさえラストシーンのBGMはゴスペル讃美歌でした。
この「ピエタ」のラストシーンも悲しくて美しいです。
母性の不思議,底知れぬ力,そして罪・・・さまざまなことが心に残りました。
ガンドがあのセーターを着て穴の中でミソンに抱きついているシーン忘れられません。
[2013/08/24 19:50] URL | なな #- [ 編集 ]
ななさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございます。
>彼の作品は「悪い男」が一番好き

同感です。私は「初ギドク」が『悪い男』だったので、もう価値観を根底からひっくり返されたような気分になりました。
観終わったときの混乱した気分が忘れられません。
なんとも凄い映画を撮る、天才だと確信した自分がいました。

>美しい作品
これも同感ですね。

ギドクは、一時期神職に就いていたと聞いたことがあるような・・・。
「神の視点」そうですね。この世の中が綺麗ごとだけではない、っていうの、一番わかってはるのは神様なんですよね。

>この作品もかなり好きになりました
私も、今年のベスト作の一本かもしれないです。
[2013/08/24 20:51] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
真紅さーん!
見たよーん。
今日レンタル開始だったんだー。
劇場まで行かない私は、ギドクファンでは無いかもしれないけど、ファンだよー^^
私も嬉しかった。完全復活だよね。
久しぶりにギドクらしい、ガツンと来る作品だったー。

で、あれって、肉片なんだ?
凄く気になっていたんだ。ありがとう。

私も真紅さんと同じ目線だったよ。
ギドク監督は、母性というか、凄く永遠の母なる愛情を欲しがる人だよね・・・
[2014/01/08 14:27] URL | latifa #SFo5/nok [ 編集 ]
latifaさん、こちらにもコメント&TBありがとう^^
これ、よかったよね? 久々にギドク節全開で。
レンタル開始日に走るlatifaさん、やっぱギドクファンだわ~。

あの、「食べる」っていうの、なんなんだろうね?
愛情が過剰になり過ぎたら、向かう一つの方向性なんだろうか。。
私には永遠の謎な気がする・・・。

男の人はみんな母親の愛情を欲しがると思うけど、ギドクってどんな環境で育ったんだろうね。
彼のお母さん、どんな人なんだろう。。気になる^^
[2014/01/10 09:14] URL | 真紅 #V5.g6cOI [ 編集 ]
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